LIFE SPAN デビッド・A・シンクレア、マシュー・D・ラブラント著 2020年9月東洋経済新報社刊

(目次)

はじめに

第1部 私たちは何を知っているのか(過去)

 第1章 老化の唯一の原因~原初のサバイバル回路

 第2章 弾き方を忘れたピアニスト

 第3章 万人を蝕む見えざる病気

第2部 私たちは何を学びつつあるのか(現在)

 第4章 あなたの長寿遺伝子を今すぐ働かせる方法

 第5章 老化を治療する薬

 第6章 若く健康な未来への躍進

 第7章 医療におけるイノベーション

第3部 私たちはどこへ行くのか(未来)

 第8章 未来の世界はこうなる

 第9章 私たちが築くべき未来

おわりに

 

 老化とはエピゲノム情報の喪失である。

 生体内の情報は、DNA(デジタル情報)とエピゲノム(アナログ情報)として保持されている。分裂したばかりの細胞に、どんな細胞になるかをエピゲノムは教え、指示し続ける。これにより、生体内の組織、臓器はその機能を維持できる。

 細胞内のDNAは、ヒストン(小さな球状のたんぱく質)に巻き付いた状態で存在し、数珠を通したひものような姿になり、さらに自ら何重ものループ状になり、さらに折りたたまれて染色体として存在する。

 細胞分裂(=DNAの複製過程)における複製誤りや、フリーラジカル等のストレス等により、DNAは傷つく。よって、DNAの修復が必要である。

 環境が生息に適しているとき、DNAは細胞分裂を進める。一方、環境が厳しいとき(細胞がストレスにさらされたとき)は、サーチュイン(脱アセチル化酵素)がヒストンからアセチル基を外す。これによりDNAのヒストンへの巻き付きを強める。その結果DNAは分裂を停止し、その間にDNAの修復が行われる。(サバイバル回路)

 進化の過程で、サーチュインは、NAD(ニコチンアミドヌクレオチド)分子を用いて仕事をするようになったが、加齢とともにNADが失われ、その結果サーチュインの働きが衰えることで、加齢に特有の病気を発症する。

 メトホルミン(糖尿病治療薬)は、NAD濃度を上昇させる機能があり、68歳~81歳のメトホルミン服用者4.1万人を9年間追跡調査した結果、次の数値の低減が見られた。認知症(▲4%)、心血管系疾患(▲19%)、がん(▲4%)、虚弱(▲24%)、うつ病(▲16%)

 レスベラトロールポリフェノール)は、さまざまな植物がストレス時に生み出す天然の分子であり赤ワインにも含まれるが、マウスの寿命を20%延ばした。ただし、赤ワインで同量のレスベラトールを摂取するためには750杯~1000杯/日必要であり、現実的ではない。

 NR(ニコチンアミドリボシド。ビタミンB3 の一形態)はNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)の前駆体であり、NRやNMNを摂取することによりNAD濃度を回復させることで、高齢マウスの2型糖尿病のいくつかの症状を治療できた。

 著者の父は、境界型糖尿病の治療のためメトホルミンを服用し始め、翌年、NMN少量を摂るようになったが、半年後、疲れを感じにくくなり、頭がはっきりしてきた。

 老化した細胞は、サイトカインを放出することで、炎症を起こし、マクロファージを引き寄せる。そのマクロファージが周囲の健全な細胞も攻撃することにより多発性硬化症、炎症性腸疾患、乾癬、心臓病、糖尿病、認知症等の引き金になる。

 セノリティクスは、老化細胞除去効果のある2種類の分子を短期間投与するが、これによりマウスの寿命が30%延びた。2つの分子とは、ケルセチン(ケール、タマネギに含有)とダサチニブ(白血病の標準的化学療法剤)である。

 変形性関節症の関節や緑内障の眼球にセノリティクスを注入する臨床試験は、2018年に開始されたが、効果を確認するまでに数年を要する。

 著者は、毎朝、NMN1g、レスベラトロール1g(ヨーグルトに混ぜる)、メトホルミン1gを摂取している。サプリメントは、評判のいい大手メーカーのできるだけ純度の高い分子(98%以上)で、ラベルにGMPFDAの優良製造規則に則した商品のマーク)が記載されたものを使っている。

 ほかに、ビタミンD及びK2の1日推奨量を摂取し、アスピリン83mgを服用しており、適度な運動等を実践している。