ウイルスはささやく 武村政春著 2021年3月春秋社刊

(目次)

はじめに

第1章 ウイルス論 ウイルスとはなにか

第2章 ミミウイルス論 ウイルスの戦略

第3章 マルセイユウイルス論 小さいウイルスたちの生き様

第4章 パンドラウイルス論 ウイルスはどれだけ大きくなるか

第5章 メドゥーサウイルス論 ウイルスは進化し、進化させる

おわりに

 

 

 ヴァイロセル仮説:通常イメージされているウイルス粒子はウイルスが増殖するために作り出した生殖細胞に相当するのであって、ほどんどすべての機能をウイルスに乗っ取られた状態の細胞(ウイルス性の細胞=ヴァイロセル)こそがウイルスの本当の姿

 核細胞質性ウイルス門のウイルスは、内側から核酸脂質二重層、カプシドという並びで構成された粒子を持っており、これはバクテリア核酸脂質二重層(細胞膜)、細胞壁という並びとそっくりである。

 細胞がない時代のウイルスは、周囲のリボソーム粒子を使って、(酵素がないので)触媒により、ゆっくりとタンパク質の合成と核酸の合成を行い、ゆっくりと新たな粒子を作り出していた。

 その祖先ウイルスのうち何らかの形で粒子内にカプシドを呼び込んだものが、そのタンパク質合成能力を最大限発揮させ、カプシドを大きくして細胞壁に、インナー・メンブレンを細胞膜へと進化させる原動力を得て、細胞へ進化した。

 著者は、その他のウイルスは、細胞の中にあったプラスミド(DNA、RNA)のような自己複製因子が細胞から飛び出して、カプシドを身にまとい、ウイルスになったとする自己複製因子仮説を採用する。

 しかし、いきなり核細胞質性ウイルス門のウイルスのような祖先ウイルスが出現できるはずがない。最初は、カプシドのみを備えたノンエンベロープウイルスが出現し、その後エンベロープウイルスが続き、複製因子もRNAからDNAへと変化したと考えるのが自然なはずだが、何故、著者は、このような折衷説を採用するのだろうか、不可解である。