八王子物語上巻 江戸以前編 佐藤孝太郎著 昭和40年4月多摩文化研究会刊

(目次)

序文 色川大吉

序文 大石俊一

序文にかえて 著者

多麻の横山~旧幕臣の動き

あとがき

年表

題字 有松秀宥

 

 赤駒を山野に放しとりかねて 多麻の横山かしゆかやらん

 赤毛色の駒(馬)を山野に放してしまった。とらえることができないので、吾が夫を歩かせてしまった。今頃は多麻の横山ありにお出でだろうか

万葉集 758年 宇遅部の黒女作 夫は豊島郡上丁(かみつよぼろ)椋椅部(くらはしべ)荒虫 丁(よぼろ)は使役される人民(防人として応召)(P1~2)

 横山は、高尾山小佛嶺より聳へ出て、東の方へ横山庄によこたわり、南は相原、小山を限り杉山峠へ亘りて由木郷に続き、都築の岡へ連なり、玉川辺に至るまで、凡そ7、8里も横山庄より亘り出でたる土山あり、則横山なるべし(植田孟縉:八王子千人同心組頭。「武蔵名勝図会」の著者)(P2)

 宣化天皇武蔵国造謹為国家奉置、横渟(よこぬ)、橘花、多氷、倉樔、四所屯倉云々、笠原直使主(あたひおみ)と云人、蔵国造に任じられ、朝恩を報じ奉らんと右の

四所に裸穀を貯え、今云饗など云うものにて置穀をいたし、国家の為に奉しなるべし、此地名の横渟と云ば、後来唱し横野にてもあるべしとなり(日本記伝)

 横渟の名が史上に出たのは525年。それは武蔵国において最初に記録された家族戦争であり、その戦争の結果として屯倉が生まれ、多麻地方が、多氷(たひ)、横渟(よこぬ)、橘花(たちばな)、倉樔(くらき)の4か所設置によって、初めて天皇族との結びつきが生じ、この頃から八王子地方へ新文化が移植された。この525年を境にして、大和地方に勢力を張った倭王国が東国の武蔵国の南部に勢力を伸ばしてきた(P3~5)

※横渟屯倉(よこぬのみやけ)は、古墳時代の无邪志国(无邪志国造が支配した国)にあった屯倉。位置はのちの律令制における武蔵国横見郡(現在の埼玉県比企郡吉見町)と推測(Wikipedia

※『日本書紀』によれば、笠原使主が同族の小杵と武蔵国造の地位を争った安閑天皇元年(534年)閏12月の武蔵国造の乱において、大和朝廷と結び武蔵国造と認められた使主は、上毛野小熊と組んだ同族の小杵に勝利した。使主はその後に代償として朝廷に当屯倉橘花屯倉、多氷屯倉、倉樔屯倉を献上(Wikipedia

武蔵国造の乱(むさしのくにのみやつこのらん/むさしこくぞうのらん)は、古墳時代後期の安閑天皇元年(534年?)に起きたとされる戦い。武蔵国造の笠原氏の内紛とされる。記事に現れる屯倉とは大和朝廷の直轄領であり、この時期には武蔵国造の乱の記事に限らず地方豪族から贖罪としての貢進の記載がある[3]。『日本書紀安閑天皇2年5月条には多数の屯倉設置の記事があることから、この時期は大和朝廷が各地の豪族の政争に関与しながら各地に屯倉を設けていったと解され、記事の4屯倉大和朝廷の東国支配の拠点をなしたと考えられている[4]。記事内にある4ヶ所の屯倉の比定地は次の通り。

・横渟屯倉(よこぬのみやけ) - 武蔵国横見郡、現在の埼玉県比企郡吉見町か。
橘花屯倉(たちばなのみやけ) - 武蔵国橘樹郡御宅郷、現在の神奈川県川崎市幸区北加瀬から横浜市港北区日吉付近か。
・多氷屯倉(おおいのみやけ、歴史的仮名遣:おほひのみやけ) - 「多氷」を「多末」(たま)の誤記として、武蔵国多磨郡(たまぐん:のち多摩郡)、現在の東京都あきる野市か。
・倉樔屯倉(くらすのみやけ) - 「倉樔」を「倉樹」(くらき)の誤記として、武蔵国久良郡(くらきぐん:のち久良岐郡)、現在の神奈川県横浜市(特に南東部)か。(Wikipedia

 525年の武蔵国造戦争も、語部の記憶を材料にして日本書紀が記録したもので、多麻を多氷としたのもミスだった(P4)

 大谷古墳は、八王子市大谷(おおや)町の前大谷にある。大谷古墳は、奈良朝後期の築造といわれ、古墳時代晩期最後期に近いと推定。大谷古墳の東北には石川七ツ塚、更にその東には日野東光寺の七ツ塚古墳、西には中野町、楢原が連なる(P6~7)

 

 

エブリシングバブル 終わりと始まり エミン・ユルマズ著 2024年6月プレジデント社刊

(目次)

プロローグ 世界経済の未来を「ストーリー」で読む

PART1 2つの大国が抱える苦悩

PART2 世界の地政学リスクを読み解く

PART3 新冷戦の中で日本が生き残るための活路を考える

 

【プロローグ】

 私(著者)は、過去の著作を通じてエブリシング・バブルが崩壊すると提唱してきた。これは米国のあらゆるアセットクラス(資産種別)でバブルが発生し、弾けていくというもの。バブルの7~8割は2023年までにすでに弾けている(P12)

◎2022年の相場下落をバブル崩壊と読み誤ったもの

 残った大きなバブルがAIバブルだ。私は巨大テック系銘柄(GAFAMNT)が今後も成長するという意見を疑問視している。例えばTSMCの2023年4~6月期の業績は、約4年ぶりの減収減益となった。TSMCのようなファウンドリー(半導体チップの製造を専門に行う企業・サービスの総称)の業績が悪いのに、米半導体株のパフォーマンスはいい。これがバブルの末期症状だ。遠からず、AIバブルは弾ける(P13~14)

◎これも大外しだ。AIバブルは、始まったばかり。いつかは崩壊するだろうが、それまでの間、何度も大きな下落を起こしながら、次の上昇に向かっていく。短命ではない。

 これまでの世界を支配していた常識が転換するターニングポイントを迎えた今、世界経済に影響を及ぼしている最大の要因、地政学を見て行動しなければならない(P15)

 米中新冷戦が一層激しさを増している。中国からグローバル資本だけでなく、サプライチェーンが逃げ出している。それが向かう国は日本しかない。TSMCの熊本工場はその一環だ。今後、台湾の半導体生産拠点の半分以上を日本に疎開させても不思議ではない(P17~19)

 自動化は始まったばかりだ。このトランスメーションが終わったときに最も困るのは人口が多い国だ。作業効率化が進むことで、長期的には人間が携わる仕事がなくなり、人口が多い国では人があぶれていく。全自動化技術が完成したときには、日本は人口がかなり減っている。人口増加刻よりダメージが少ない。その分人間のリソースをよりクリエイティブな分野に集中し、未来に高い価値を生む労働を発明していけばいい。自動化時代において人口減少は追い風だ(P21~22)

◎優秀な人材の比率は、民族間で、さほどの違いはないとすると、人口減少は優秀な人材の絶対数が少ないことを意味する。全自動化技術が完成する前に、日本はこの流れに置いてきぼりを食らう可能性がある。

 日本人の賃金が上がらないのは、日本の多くの経営者が、インフレがずっと続くと思っていないからだ。大手企業もボーナスは出すがベースアップはしたがらない。しかしこれは時間の問題。日本政府が円安を放置しているので、日本人の購買力が落ちている。このまま放置すれば、日本経済がガタガタになる。したがって、どこかで政策転換に追い込まれる。金利のある世界が戻ってくる(P27~28)

◎為替レートを目的に金利を上下させるのは邪道。円安で国内経済は潤っているはずだし、税収も増加している。それを国民に吐き出さないから消費が増えない。減税が必要だろう。利上げはその後だ。

 

【PART1】

 中国バブルが崩壊したとき、確実に起こるのはコモディティ原油、鉄、銅、リチウム)のデフレだ。一方、消費者物価は、インフレ気味に推移する。最大の要因は、中国が西側諸国のサプライチェーンから外されていくこと。長期的には中国以外のアジア諸国に生産拠点を移し、新しいサプライチェーンを構築して、再び安い製造コストで製品を造るには時間がかかる。欧米諸国は、中国の教訓を生かして、戦略的な技術を独裁国家、政治が不安定な国に持ち込まない可能性もある(P54~57)

 

【PART2】

 社会主義が発展し世の中が豊かになると、階級が完全になくなり、人々が共同で財産を管理する社会になるというのが共産主義の考え方だ。つまり共産主義社会主義の最終形態となるのだが、共産主義国家においては宗教も否定される。イスラム教の国々にとって、社会主義国家はいずれ敵になるから、米国と組むべきだというロジックで、米国はイスラム教の国々に近づいて行った(P95)

 しかし、1991年末に旧ソ連から複数の共和国が離脱し、中央集権体制が崩壊、実質的にソビエト連邦が消滅したことにより、米国とイスラム諸国との間に不協和音が生じた。米国は、世界の社会主義化を極力防ぐためにイスラム諸国と手を組んできたが、旧ソ連の崩壊、冷戦構造の消滅により、その必要性が薄らいだ(P96)

 米国が中国と新冷戦を戦う上では、イスラム世界を味方につける必要がある(P101)

 現在、ベトナムMSCIのレーティングでフロンティア市場に位置付けられているが、今、国を挙げて、格付けをエマージング市場にしようと頑張っている。格上げされれば、ベトナムの株式市場に、凄い勢いでグローバルマネーが殺到する。米国がデカップリング政策により本格的に中国を切り離せば、次の注目国はベトナムだ(P115~117)

 ベトナムの問題点は、根本的には社会主義国家であり、社会主義国家全般に言えることだが、汚職の問題が大きい(P116)

 中国が本気で海洋進出を行うとしたら、方法は2つ。①第1列島線を突破、②沿海州をロシアから取り戻す(沿海州1860年、北京条約でロシアの領土とされた)中国との国境付近には、ロシアの少数民族が大勢おり、中国が支援して民族の蜂起を促し、そのいざこざの渦中に領土奪還を実行することも考えられる(P128~130)

 モディ首相が唱えるヒンドゥーナショナリズムは、下手をするとナチズムに発展しかねず、その流れが強くなると、グローバル資本の流入は止まるだろう(P138)

 

【PART3】(略)

 

 

投資で一番大切な20の教え ハワード・マークス著 2012年10月日本経済新聞出版社刊

(目次)

はじめに

1 二次的思考をめぐらす

2 市場の効率性(とその限界)を理解する

3 バリュー投資を行う

4 価格と価値の関係性に目を向ける

5 リスクを理解する

6 リスクを認識する

7 リスクをコントロールする

8 サイクルに注意を向ける

9 振り子を意識する

10 心理的要因の悪影響をかわす

11 逆張りをする

12 掘り出し物を見つける

13 我慢強くチャンスを待つ

14 無知を知る

15 今どこにいるのかを感じとる

16 運の影響力を認識する

17 ディフェンシブに投資する

18 落とし穴を避ける

19 付加価値を生み出す

20 すべての極意をまとめて実践する

訳者あとがき

 

【1】

 科学は、管理された環境で実験が行われ、過去の経験が信頼性をもって再現され、因果関係が確立されうる。経済学を科学と呼ぶことはふさわしくない(P16~17)

 成功する投資の定義は、市場と他の投資家を上回るパフォーマンスを上げることだ。必要なのは、より鋭敏な思考(二次的思考)だ(P17)

(二次的思考)(P19~20)

・これは良い企業だ。しかし、この株は過大評価されて割高だから売ろう

 ⇔これは良い企業だから株を買おう

・景気見通しは悪いが、他の投資家はみなパニック売りをしている今が買い時だ

 ⇔経済成長率は低下し、インフレ率は上昇する見通しだから、持株を売ろう

・この企業の減益幅は、周りが予想しているよりも小さい。予想より良い業績が発表されて株価は上昇するだろうから買いだ

 ⇔この企業は減益になるだろうから売りだ

(二次的思考で考慮すべきこと)(P20)

・今後、どのような範囲の出来事が起こりうるか?

・その中で、実際に起きると思うのはどれか?

・その予想が当たる確率はどれぐらいか?

・コンセンサスの予想はどうか?

・自分の予想はコンセンサスとどう違うのか?

・その資産の価格は、コンセンサスor自分が考える先行き見通しに見合っているか?

・価格に織り込まれているコンセンサスの心理は強気すぎたり弱気すぎたりしないか?

・コンセンサスor自分の予想が的中した場合、その資産の価格はどうなるか?

◎こんなことができれば、この本を読むまでもないって感じか?そんな能力はない。

 

【2】

(効率的市場仮説と限界)(P26~35)

・市場には数多くの参加者がおり、参加者は関連するあらゆる情報を概ね同程度に入手できる

・市場参加者の力が結集することで、情報は完全かつ即座に資産の市場価格に反映され、資産価格は、絶対的にも、他の資産との相対比較で見ても公正な水準になる

・市場価格は、資産の本質的価値の正確な推計値であり、参加者は、不公正な価格を認識したり、そこから利益を得たりすることはできない

・合理的で計算能力の高い数千人が、ある資産について情報を集め、入念かつ客観的に評価したら、その資産の価格は本質的価値から大幅に乖離するはずがない。ミススプライシング(価格の誤り)は日常的に起きるものではない

・ほとんどの人は、強欲、恐怖、嫉妬などの感情に動かされて客観性を失い、重大な過ちを犯す傾向がある

・非効率的な市場は、スキルに応じて勝ち組と負け組を生み出しうる材料(ミスプライシング)を提供する。どのゲームにもカモがいる。4~5分経っても誰かわからなければ自分がカモだ

 

【3】

 投資で確実に成功するには、本質的価値を正確に推計することが必要だ(P40)

(ファンダメンタルズを重視した2つの手法)(P43)

バリュー投資:証券の現在の本質的価値を推計し、価格がこれを下回ったときに買う

       実物資産、CFを重視

グロース投資:将来、価値が急増する証券を見つけ出す

 企業の現在の本質的価値を推計するには、その将来性に関する見解が必要であり、そのためにはマクロ経済情勢、競争環境、技術進歩などの見通しを考慮せざるを得ない(P46)

◎企業の本質的価値は、将来のCFの総和だが、その推計は容易ではない。

 

【4】

 本質的価値を算定する際のカギは高度な財務分析にあるが、価格と本質的価値の関係性(とその見通し)を理解する上でのカギは、主に他の投資家の心理を読むことだ。投資の世界で最も重要な学問は心理学だ。将来の価格変動は、投資したいと考える人が、この先増えるか減るかで決まる。最も安全で高い収益性が見込まれる投資は、誰も欲しがらないものを買うことだ(P57~58)

(バブル)(P59~60)

 すべてのバブルの始まりには、一抹の真理がある。

・チューリップは美しく(17Cのオランダでは)希少価値があった

・インターネットは世界を超える

・不動産はインフレに強い資産で、住宅であれば住み続けることができる

①一握りの投資家がこうした心理を見出し(or予見し)その資産に投資して利益を上げ始める

②他の者がそのアイデアに飛びつき、同じように買って価格を吊り上げる

③価格が上昇するにつれ、投資家は簡単に金儲けができる可能性に一層欲を燃やし、価格の公正さを考えなくなる

④最後に貧乏くじを引いた者が報いを受ける

⑤ある銘柄、グループ、市場のピークは、最後まで抵抗していた者が、ついに買い手となったときに訪れる。そのタイミングは、ファンダメンタルズの変化とは無関係な場合が多い

 

【5】

 よりリスクの高い資産は、資本を惹きつけるためにより高いリターンの見込みorより高い公約リターンor高い期待リターンを提示しなければならない。しかし、こうした高リターンの見通しが実現する必然性はない。リスクの高い投資とは、先行きがより不確かな投資だ⇒リターンの確率分布の幅が広い。学者によれば、リスクとはボラティリティだ(P68~69)

 投資家が目標価格や予想リターンを設定する際に、ボラティリティをリスクとして織り込んでいるとは考えられない。資金を失ったり、リターンが許容できないほど低くなることを懸念して投資を控える。リスクとは、死菌を失う可能性を指す(P71~72)

 多くの場合、リスクは楽観的過ぎる心理と、それにともなう行き過ぎた価格となって現れる。人々の熱狂によって持ち上げられた資産は、低いリターンor損失をもたらす可能性を生み出す(P76)

 有能な投資家は、①本質的価値の安定性と信頼性、②価格と本質的価値の関係性をもとにリスクを感知する(P78)

 損失の確率を数値化することが難しい点を考慮すると、客観的な指標を求める投資家にできるのは、シャープレシオに注目することだ。シャープレシオは、損失の可能性をはっきり示すものではないが、ファンダメンタルズ面でのリスクが高い証券は低い証券より価格の変動が激しく、こうした要素がシャープレシオに反映される

ポートフォリオの超過リターン/ポートフォリオ収益率の標準偏差 (P79)

 リスクは、未来にのみ存在し、未来がどうなっているかを正確に知ることは不可能だ。終わった過去に曖昧さはない。過去のあらゆる状況で起こりえたことは多々あったはずだ。実際には1つのことしか起きなかったために、様々な展開がありえたという点がなおざるにされる(P87)

 

【6】

 リスクを許容することは、成功する投資の対極にある。リスクを恐れない者は、その見返り(リスク・プレミアム)を求めることなしにリスクを受け入れる。必要とされないプレミアムはやがて消えていく(P92)

 リスクがなくなったという神話は、特に危険なリスクの根源であり、あらゆるバブルの主因だ(P95)

 市場が適正なリスク・プレミアムを提供するのは、投資家が十分にリスク回避的な時に限られる。懸念が薄ければ、リスクの高い借り手or問題含みの商品にも資金が回り、金融システムは不安定化する(P96)

 

【7】

 慎重にリスクをコントロールする者は、自分が未来について知らないということをわきまえている。極端にボラティリティが高まったり、巨額の損失が発生することは稀にしか起きない。こうした事態が生じない時期が続くと、そのようなことは二度と起きないorリスクに関する過程が保守的過ぎるという風潮が強くなる。多くの場合、人々は、リスクが顕在化する一歩手前で行動を起こしてしまう(P116)

 

【8】

(サイクル)(P123)

①ほとんどの物事にはサイクルがある

②利益や損失を生み出す大きな機会は、周りの者が①を忘れたときに生じる

 我々の世界にサイクルが存在している根本的な原因は、人が関わっていることにある。人は冷静な生き物ではなく、感情的で一貫性のない生き物だからだ。10年に1度くらいの間隔で、人々はサイクルがなくなったと思い込む。よい時期が絶え間なく続くor悪い流れに歯止めがかからないと考え、好循環or悪循環という言葉をよく使うようになる(P128~129)

 サイクルがなくなったという思い込みは、今回は違うという危険な前提に基づく考え方の典型例だ。相場が過去最高の水準にあるときに、過去に一度も実現していない都合の良い理屈に飛びつくのは危険だ(P131)

 

【9】

 投資の世界で、市場は、①陶酔感と賃貸間の間、②好材料への歓喜と悪材料に対する脅迫観念の間、③過大評価と過小評価の間を振り子のように動いている。投資家の心理は、振り子の幸せな中心点よりも、両端に長く位置するように見える(P133)

◎このあたり、ほとんど同じ言葉の繰り返しだ。

 

【10】

 投資家は、常にリスクなしで金持ちになるための切符を欲している。しかしリスクを負わずに高い収益率を達成できる戦略などない。万能な者もいない(P148)

 同調圧力と金銭欲の組み合わせは、幾度となく人々の主体性と懐疑主義を奪い、生来のリスク回避志向をねじ伏せ、筋の通らないことを信じ込ませてきた。投資家の行動を左右するのは嫉妬だ。人々を駆り立て続ける強欲の負の力は、他人と自分を見比べることで、さらに強大になる。降伏は、サイクルの最後に現れる投資家行動だ。投資家は、可能な限り自分の信念を貫き続けるが、経済的、心理的圧力が抗しがたいほどに高まると、降伏し、多数派に仲間入りする(P150~152)

(勝率を高めるための武器)(P159)

①本質的価値を強く意識する

②価格が本質的価値から乖離した場合に採るべき行動にこだわる

③過去のサイクルに関する知識を深め、行き過ぎた相場が最終的に報われず、手痛い打撃を受けることを心得る

 

【11】

 市場はサイクルの中で上下動しているのだから、最終的に成功を収めるにはコンセンサスと逆方向に動くことがカギとなる(P161~162)

 振り子がどこまで振れるのか、動きがいつ反転するのか、反転後にどれだけ振れるのかは絶対に分からない(P165)

 たいていの場合、逆張りするのにふさわしいほど行き過ぎた状態は市場には存在しない。相場が割高or割安でも、数年にわたってその状態を維持したり、その度合いを強めたりする可能性がある。なぜ群衆が間違っているのか根拠と分析に基づいて理解したうえで逆張りを行うべき(P165~166)

(素晴らしい投資成果を上げるために重要な要素)(P169~170)

①ほかの者が気づいていないor評価していない(価格に織り込まれていない)資産の値打ちに目を向ける

②実際にその値打ちのあることが判明する 

 逆張り投資家として、用心深さとスキルを携えてナイフを掴みに行く。本質的価値という概念が非常に需要(P175)

 

【12】【13】(略)

【14】

 投資家は、今現在、サイクルのどこの位置にいるのかを見出す努力をすべき(P205)

 

【15】

 カネは誰が持っているものであっても、質的に全く変わらない。カネはコモディティだ。カネの価値を下げる方法の一つは、貸出金利の引き下げだ。その場合、想定リターンの低下を受け入れる羽目になる(P225)

 

【16】

 多くの人は、未来が不確実で覆われていることを認めているが、少なくとも過去は既知で不動だ感じている。しかし、実際に起こったことは、起きる可能性があったことの小さな集まりにすぎない(P237~238)

 

【17】

 

人類の起源 篠田謙一著 2022年2月中央公論新社刊 中公新書2683

(目次)

はじめに

第1章 人類の登場~ホモ・サピエンス前史

 1 人類の起源をどう考えるか

 2 人類の進化史

 コラム1 脳容積の変化と社会構造 

第2章 私たちの「隠れた祖先」~ネアンデルタール人とデニソワ人

 1 ゲノムが明らかにした人類の「親戚関係」

 2 ネアンデルタール人のDNA

 3 謎多きデニソワ人の正体

 4 ホモ・サピエンス誕生のシナリオ

 コラム2 DNA・遺伝子・ゲノム

第3章 「人類揺籃の地」アフリカ~初期サピエンス集団の形成と拡散

 1 「最初のホモ・サピエンス」から出アフリカまで

 2 アフリカ内部での人類移動

 3 農耕民と牧畜民の起源

第4章 ヨーロッパへの進出~「ユーラシア基層集団」の東西分枝

 1 出アフリカ後の展開

 2 ユーラシア大陸

 3 ヨーロッパ集団の出現

 4 農耕・牧畜はいかに広がったか

 5 現代に続くヨーロッパ人の遺伝子変異

 コラム3 最古のイギリス人の肖像

第5章 アジア集団の成立~極東への「グレート・ジャーニー」

 1 「アジア集団」とは何か

 2 南・東南アジア集団の多様性

 3 南太平洋・オセアニア

 4 東アジア集団の成立

第6章 日本列島集団の起源~本土・琉球列島・北海道

 1 日本人のルーツ

 2 琉球列島集団

 3 北海道集団

 コラム4 倭国大乱を示す人骨の証拠

第7章 「新大陸」アメリカへ~人類最後の旅

 1 「最初のアメリカ人」論争

 2 アメリカ先住民の祖先集団

 コラム5 ヴァンパイアのDNA

終章 我々はどこから来たのか、我々は何者か、我々はどこへ行くのか

  ~古代ゲノミ研究の意義

おわりに

 

【はじめに】

 ホモ・サピエンス(現生人類)は、DNA解析によると、最も近縁な人類であるネアンデルタール人の祖先と別れたのは、60万年前だった。分岐の後も、両者は交雑を繰り返していた。他の絶滅人種とも交雑していた(Pⅰ~ⅱ)

 民族集団は、DNAから見ると、全く性質の違う集団の集まりだというケースがある。世界各地に展開している人類集団は、ある地域における、これまでのヒトの移動の総和だ。よって、特定の遺伝子分布の地域差は、集団の成立を解明する有力な手がかりになる(Pⅲ~ⅳ)

 

【第1章】

 属は、ある程度近縁関係にある種をまとめたカテゴリー。ホモ属で現在生存しているのはサピエンス種だけ。人種は、さらに下位の区分(P5)

(人類の起源:年代)(P5~6)

・700万年前:チンパンジーの祖先と人類の祖先が分岐

・250万~200万年前:ホモ属(人類)と認められる種が登場

・30万~20万年前:ホモ・サピエンス(現生人類)が登場

・数万年前までは、同時に、数種類の人類が地球上で暮らしていた

 チンパンジーとの共通祖先から人類の系統が分岐したのは、人類の祖先が樹上生活から地上に降り、直立二足歩行を始めたことを契機にしている。直立二足歩行がヒト化の最大の要因(P12)

(人類の進化)(P11~

①初期猿人⇒ ②猿人⇒ ③原人⇒ ④旧人⇒ ⑤新人

①-1サヘラントロプス・チャデンシス(700万年前:チャド)

①-2オロリン・トゥゲネンシス(600万年前:ケニア

①-3アルディピテクス・カダッパ(580~520万年前:エチオピア

①-4アルディピテクス・ラミダス(440万年前:エチオピア

②-1アウストラロピテクス属(華奢型猿人):肉食傾向

 ・アウストラロピテクス・アナメンシス(420~370万年前:ケニア

 ・アウストラロピテクス・アファレンシス(370~300万年前:エチオピア

 ・アウストラロピテクス・アフリカヌス(南アフリカ

 ・アウストラロピテクス・ガルヒ(250万年前:エチオピア

②-2パラントロプス属(頑丈型猿人):植物食(サバンナ)で他の属と共存

 260万年前出現⇒130万年前絶滅

②-3ホモ・ハビリス(200万年前:東アフリカ:初期ホモ属)

②-4ホモ・ルドルフェンシス(同上)

 ⇔アウストラロピテクス・セディバ(195万年前:南アフリカ)一部ホモ属の特徴

③-1ホモ・エレクトス:200万年前にアフリカで誕生⇒出アフリカ⇒世界に拡散(北京原人ジャワ原人)身長140~180㎝ 体重41~55㎏ 脳容積550~1250ml

③-2ホモ・フロレシエンシス(エレクトスから進化~6万年前絶滅:フローレス島(インドネシア)身長100㎝ 脳容積400ml⇒狭い島の中で長期生存⇒島嶼化:体が小型化

③-3ホモ・ナレディ:30万年前:ヨハネスブルグ近郊ライジングスター洞窟

 身長146㎝ 体重39~55㎏ 脳容積460~610ml ②-1と③-1の特徴を併せ持つ

④-1ホモ・ハイデルベルゲンシス(60~30万年前:ユーラシア・アフリカ)

 身長180㎝ 体重70㎏ 脳容積800~1300ml 旧人への移行段階の種? 

④-2ネアンデルタール人

 ネアンデルタール人の脳の容積の平均は1450mlだが、発達しているのは主として視覚に関わる後頭葉の部分で、日照の少ない高緯度地方の生活に適応した結果かも(P24)

 脳はエネルギーを大量に消費するので、脳容積の増加は生物に大きな負担を強いる。必要なエネルギーを賄うために、行動、食性、社会構造を変えざるを得なかった。複雑な社会をつくることが、効率的にエネルギーを摂取することが可能にした。共同体の規模が、大脳の新皮質に比例すると考えると、猿人の社会は50人(チンパンジーと同程度)原人100人、ホモ・サピエンス150人程度(ダンパー数)150名は、社会を構成する基本となる数字(P24~25)

 ホモ・サピエンスの歴史は、基本的にはダンパー数程度の理解力しかないハードウェアを使って、複雑な社会を形成するために生み出されたのが、言語、文字、物語、宗教、歌、音楽等の文化要素。これらは人々が時間と空間を超えて、概念、考えを共有する手助けをする(P25)

 

【第2章】

 シマ・デ・ロス・ウエソス洞窟(スペイン)出土の人骨は、DNA分析の結果、43万年前とされ、ネアンデルタール人(30万年前出現)の直接の祖先で、デニソワ人のDNAを含んでいた(P28~29)

 ネアンデルタール人(ホモ・ネアンデルタレンシス:14~13万年前)の推定身長150~175㎝、体重64~82㎏、脳容積1200~1750ml、頭骨が前後に長い(P30~31)

 年代の測定は、放射性炭素が5730年で半分になる性質を利用するが、5万年前より古い時代の測定が困難。50万~100万年前の年代測定は、熱ルミネッセンス法、ウラン系列年代測定法を用いるが、精度が落ちる(P31)

 1997年、ネアンデルタール人ミトコンドリアDNAの一部領域の配列決定により、彼らが70万~50万年前に分岐したグループであるとの結論を得た(P32)

 2010年、次世代シークエンサによる核ゲノムの解析により、サハラ以南のアフリカ人を除くアジア人とヨーロッパ人には2.5%程度ネアンデルタール人のDNAが混入していることが判明⇒出アフリカの後、初期拡散の過程(5万年以上前)でネアンデルタール人と交雑した。ネアンデルタール人のDNA:東アジア人>ヨーロッパ人⇒ホモ・サピエンスは、複数の集団に分かれており、その中の1つがネアンデルタール人と交雑して世界に拡散vsコーカサス、レバント(中東)、北イランには交雑しない集団が存在⇒この集団が現ヨーロッパ人の形成に関与⇒相対的にヨーロッパ人の持つネアンデルタール人のDNAが少ない(P33~34)

 次世代シークエンサはDNA配列の読み取り精度が低いので、正確な配列を決定するためには、同一部位を数十回読んで確認し、コンセンサスをとることが必要⇒大量のDNA断片の解読が必要⇒高精度のゲノムデータの取得には、DNA残量の豊富なサンプルが必要⇒十分な重複配列が読めたとき=高深度のゲノムデータが得られたvs数回程度しか読めなかった=低深度データ(P35)

 チャギルスカヤ洞窟は、デニソワ洞窟から100㎞離れており、出土した人骨は3万年程離れているが、ゲノムはチャギルスカヤ洞窟のネアンデルタール人は、ヨーロッパのヴィンデジャ洞窟のネアンデルタール人に近い⇒チャギルスカヤ洞窟のネアンデルタール人は、11万~8万年前のどこかの時点で、西ヨーロッパ人から東へ移動したネアンデルタール人の子孫(P36~37)

 チャギルスカヤ洞窟とその近傍オクラドニコフ洞窟のネアンデルタール人は、先に解析されたチャギルスカヤ洞窟と同様、ヨーロッパの集団と似ており、互いの血縁関係が強く示唆され、同一集団内の婚姻が続いていた。一方、ミトコンドリアDNAの多様性が高いことから、ネアンデルタール人は女性が生まれた集団を離れて、異なる集団の中に入っていく婚姻形態をとっていたことが示唆される(P37~38)

◎つまり、一般にネアンデルタール人女性は、異なる集団の中に入って婚姻をしていたが、チャギルスカヤ洞窟周辺では(周辺に異なる集団がなかったので)同一集団間で婚姻がなされていたということ?

 ネアンデルタール人の共通祖先から、デニソワ洞窟のネアンデルタール人が分離し、次にチャギルスカヤ洞窟の系統が東に移動した。ヨーロッパに残った系統の中からヴァンデジャや他の西ヨーロッパのネアンデルタール人が誕生した:byゲノム解析(P38)

 2017年、洞窟の堆積物からネアンデルタール人ミトコンドリアDNAを抽出することに成功(P39)

 核ゲノムの解析によると、約77万~54万年前にデニソワ人とネアンデルタール人の祖先が、ホモ・サピエンスの系統と分岐し、約43万年前以前にネアンデルタール人とデニソワ人が分岐した(P43)

 シマ・デ・ロス・ウエソス洞窟の人骨のミトコンドリアDNAは、デニソワ人に似ており、核ゲノムはネアンデルタール人類似していた。デニソワ人のミトコンドリアDNAは、未知の原人に由来するものではなく、元々ネアンデルタール人と共通のものだったのだが、ネアンデルタール人ミトコンドリアのほうが、ホモ・サピエンスのものと置き換わった。ネアンデルタール人は、ホモ・サピエンスにDNAを伝えているが、ネアンデルタール人も、いずれかの時点でミトコンドリアDNAとY染色体のDNAをホモ・サピエンスから交雑によって受け継いでいる(P43~44)

 デニソワ人は、破片になっている生物種のコラーゲンのアミノ酸配列を、質量分析計で同定していく研究(ZooMS:ズーマス)手法により、デニソワ洞窟で発見された13万5000個以上の骨片から見つかった(P48)

 古代のDNAでは、長い年月をかけてDNAが分断し、変性していくときに、メチル化を受けている部分と受けていない部分で編成の仕方が変わっていく。この性質を利用して、デニソワ人のDNAメチル化地図が復元された。それをホモ・サピエンスのメチル化地図と比較して、細胞内のDNAの働きの違いが推定できる。2019年に、このメチル化データからデニソワ人の骨格に関する32の特徴を抽出し、彼らの骨格を再現した。デニソワ人は狭い頭、がっしりした顎等でネアンデルタール人に類似していたが、頭の幅はネアンデルタール人ホモ・サピエンスより広かったと推測された(P53~54)

 ホモ・アンテセソール(シマ・デ・ロス・ウエソス洞窟近くのグラン・ドリーナから発掘:85万年以上前の人骨)は、ホモ・エレクトスに属する種だが、その生息した年代、地域から考えると、ホモ・サピエンスネアンデルタール人、デニソワ人の共通祖先の候補となる(P58)

 ホモ・サピエンスの化石証拠は、発祥の地とされるアフリカ大陸では30万~20万年前までしか遡ることができない。ホモ・サピエンスの系統と、ネアンデルタール人とデニソワ人の共通祖先との分岐は64万年前と考えられるので、分岐してからの30万年間の進化の道筋が化石証拠からは分かっていない。この分岐がアフリカで起こったという証拠もなく、ユーラシア大陸で起こった可能性もある(P60)

 ホモ・サピエンス集団の中で、ネアンデルタール人由来のゲノム領域は世代を経るごとに断片化されていく⇒祖先の持つネアンデルタール人ゲノム断片長>子孫の断片長⇒断片の長さからホモ・サピエンスネアンデルタール人の交雑の時期を計算できる⇒解析の結果、ウスチ・イシム人が生きた時代(4万5000年前)より300世代(=1万3000~7000年)前=6万~5万年前に交雑が起こった(P66~67)

 ペシュテラ・ク・ワセ洞窟から発見されたオセア1号(4万2000年~3万7000年前のホモ・サピエンス)は、6~9%のネアンデルタール人由来のDNAを保持⇒交雑は一度だけではない(P67)

 ホモ・サピエンスネアンデルタール人、デニソワ人は、60万年程前に共通祖先から分岐したので、その時点では同じゲノムを持っていたはずだ。その後60万年間で獲得したホモ・サピエンス独自のDNAは、全体の1.5~7%程度だ(P68)

ホモ・サピエンス独自のDNAが1.5~7%で、ネアンデルタール人由来が2.5%、デニソワ人由来?%とすると、大部分はホモ属共通のDNAということになるのだろうか?

 

【第3章】

 ホモ・サピエンスがアフリカで誕生したということは定説になっているが、ユーラシアにいた原人の集団の中からホモ・サピエンスネアンデルタール人、デニソワ人が生まれ、30万年以降にアフリカ大陸に移動したホモ・サピエンスのグループが、後に世界に広がることとなるアフリカのホモ・サピエンスとなり、ユーラシアに残ったグループは、ネアンデルタール人と交雑した後に絶滅したというシナリオも考えられる(P80)

 個々の化石を見ていくと、30万~10万年前のアフリカでは、ホモ・サピエンスの特徴とそれ以前の化石人骨の特徴が、モザイクのように散らばっている⇒時間の経過とともに、徐々に現代型のホモ・サピエンスとして完成していくように見える⇒こうした現象は、1つのホモ・サピエンスの系統が単独で進化したのではなく、広い地域の様々な交流の中から、現代型ホモ・サピエンスが形づくられたと考えるほうが理解しやすくなる(P82~83)

 

 

糖質制限はやらなくていい 萩谷圭祐著 2023年2月ダイヤモンド社刊

(目次)

はじめに 糖質のとり方を含めた食事のあり方を考えてみませんか

第1章 糖質制限が必要な人、必要ない人のちがい

第2章 食事から健康常識を考え直す

第3章 老けない体、健康長寿のカギ、ケトン体とは

第4章 長生きしたければ食事を変えなさい ケトン食の凄い効果

第5章 健康長寿につながる食事と習慣

おわりに

 

【はじめに】

 ケトン食とは、糖質を控えて脂質を増やすことで、肝臓でつくられるケトン体の産生を誘導する食事。世間で言われる糖質制限よりはるかに厳しい糖質の管理を行って、脂肪(脂質)をとる食事(P4)

 ケトン体は、脂肪酸とタンパク質を材料に肝臓内でつくられ、血管を通して筋肉や脳に運ばれ、細胞内のミトコンドリアによってエネルギーに変換され、様々な組織で使われる。ケトン体は、空腹時、夜間に働く(P8,P48~49)

 

【第1章】

 糖尿病の治療において、SLGT2阻害薬は、腎臓で再吸収されるグルコースブドウ糖)を尿中に排出させる。SLGT阻害薬は、心血管疾患による死亡、心血管イベント、全死亡の発症率を低下させ、糖尿病による腎障害も抑制する。SLGT阻害薬が1日に排出する糖質は80g程度。SLGT阻害薬は、血糖値の正常化に合わせて、夜間のケトン体の誘導を正常化していた(P23,P235~236)

 糖新生は、筋肉からタンパク質のアミノ酸を分解し、グルコースをつくり出す働き。グルカゴンは、肝臓に貯蔵されているグリコーゲン(グルコースが多数結合した多糖類)を分解する(P27~28)

 総エネルギー消費量=基礎代謝量60%+消化吸収10%+身体活動量+30%(P35~36)

(空腹時血糖が100g/dl超の理由)(P36~37)

①筋肉量減少⇒筋肉のグリコーゲン蓄積減弱⇒血液中のグルコース取り込み減少

②糖質の過剰摂取

③老化に伴う軽度の炎症⇒インスリン抵抗性

 がんケトン食療法を実践した患者の予後=空腹時血糖値90g/dl未満:良好⇒体に炎症がないことで、インスリンの働きが維持され、栄養状態が良ければ筋肉量が維持される⇒筋肉に糖質がグリコーゲンとして取り込まれる(P38~39)

 握力の高い群は、最も低い群比で死亡率が低下する(久山町研究:2527人の男女を握力の強さで3群に分類)⇒男性40kg未満、女性2540kg未満⇒人間の寿命を決定するのは、筋力と筋肉量⇒健康のためには体を鍛えて筋力、筋肉量を増やすべき(P40~41)

 牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)は、老化促進モデルマウスの筋萎縮を劇的に予防し、グリコーゲン蓄積を改善、サイトカイン(TNF-α)低下させる⇒人間のサルコペニア改善効果が期待できる(P42~43)

 空腹感は、グレリン(消化管ペプチドホルモン:胃で分泌)が迷走神経を介して、脳の食欲中枢に働いて生じる(P44)

 GLP-1(グルカゴン様ペプチド1:小腸で分泌)は、膵臓に働きかけてインスリンの分泌を促進(P45)

 

【第2章】

 短鎖脂肪酸は、酢酸、プロピオン酸、酪酸等の総称。食欲の低下を防ぐ、インスリン分泌を補助、脂肪の蓄積を抑制等の機能がある。短鎖脂肪酸は、食物繊維を原料に、腸内細菌が産生する(P66)

 京丹後市(長寿地域)の高齢者の腸内細菌は、酪酸産生菌が京都都市部の住民より多かった。イモ類、海藻類、根菜類(ごぼう等)、納豆、板わかめのだし汁等を多く摂取したからではないかと推測(内藤裕二教授グループの調査:京都府立医科大)。酪酸産生菌を育てるには、日本人の場合、米飯、醤油、味噌、漬物等の発酵食品の摂取が最適であることがデータで示されつつある(P66~67)

 3歳までに、個人の腸内細菌叢が形成される。基本的には、母親の腸内細菌叢を譲り受けるが、その後、家族、所属集団の腸内細菌叢を共有していく。腸内細菌叢は、民族差、個人差が大きく、親子兄弟でも菌叢が似ていない場合がある。腸内細菌叢は、その後多少の変化はあるとしても、3歳くらいで基本的に決定される(P68~70)

 ケトン体が腸内で酪酸産生菌を増やしていく可能性が報告されている(P71)

 老化細胞が分泌するSASP(細胞老化随伴分泌形質)因子(炎症性サイトカイン)が炎症を起こし、がんを促進する。炎症が起きると、インスリン抵抗性を生じ、代謝が悪化する。糖尿病患者は、インスリンの効きが悪くなって、インスリンの分泌が増える。インスリンの分泌は、血中C-ペプチドの測定でわかる。血中C-ペプチドが高い人はがん発症リスクが通常人の1.2倍。炎症の度合いを示す血中CRP(C-リアクティブ・プロテイン)濃度が上昇すると、がん罹患リスクは1.28倍。血中CRPの上限値0.2mg/dl。軽い感染症1~2mg/dl。肺炎10mg/dl超。(P84~87,P89)

 老化を示すモデルマウスにGLS-1(グルタミンをグルタミン酸に変換する酵素)阻害剤を投与すると、老化細胞が除去され肥満性糖尿病、動脈硬化、NASH(非アルコール性肝障害)の症状が緩和。老化細胞にPD-L1(細胞表面に存在するたんぱく質)が発現し、老化マウスにPD-L1の働きを止める抗体投与で、老化細胞が1/3に減少、握力が1.5倍になった(東大医科学研究所中西真教授のグループの研究)。PD-L1に対する抗体は、オプジーポとして実用化済み(P87~88)

 

【第3章】

 ケトン食は、2016年4月から特別加算食の対象として難治性てんかん患者の治療食となった。MCT(中鎖脂肪酸)オイルは、ケトン体に変換されやすい。純粋なMCTオイルは、胃酸で加水分解され、胃粘膜が刺激されて腹痛をもたらす。特に空腹時は要注意。ケトンフォーミュラ(がん治療用に開発)は、空腹時摂取でも胃腸への刺激が少ない(P101~103)

 ケトン体とは、βヒドロキシ酪酸、アセト酢酸、アセトン。アセトンは呼吸で排出されるので、体の中で働くのは前二者。ケトン体は、脂肪酸たんぱく質から肝臓内のミトコンドリアで合成(P107)

(βヒドロキシ酪酸の効果)(P108)

・大腸がん抑制

・糖尿病による腎障害に効果

・転換の発作軽減

・抗炎症効果

・サーカディアン(概日)リズムを改善

 βヒドロキシ酪酸(1~10mM濃度)は、マウスの骨髄由来のマクロファージからのIL-1β(炎症性サイトカイン)の産生を抑制。腫瘍関連マクロファージ(TAM)が、がん細胞周辺に集積し、がん細胞が生存しやすい環境をつくる。TAMは、がんの転移、抗がん剤、免疫療法による治療抵抗性と関連するが、ケトン体との関係は不明(P114~115)

 

【第4章】

 ケトン食は、糖質制限食+高脂肪食。主食のパン、米を完全に抜いても、1日の糖質摂取量は50g以上になる⇔ケトン食療法では、最初の1週間10/日。その後30g/日以下。脂質摂取量120g/日以上。βヒドロキシ酪酸を患者に経口投与しても臨床効果なし(P126~128)

 血液中の総ケトン体の目標値は、2000μmol/L~4000μmol/L。維持療法時でも1000μmol/L以上(P129)

(がんケトン食療法のケトン食のケトン比)(P129)

・最初1週間:ケトン比2:1⇒糖質10g 脂質140g タンパク質60g

・2週間~3カ月:   1.5:1    20g  120~140g      70g

(ケトン食糧法の効果)(P149)

・がんの臨床病期Ⅳ期      50人

・うち3カ月以上の食療法実施 37人:平均年齢54.8±12.6歳 男性15例、女性22例

 肺がん6例、大腸がん8例、乳がん5例、すい臓がん4例、他のがん14例

・3年生存率44.5%

・1年後の臨床評価:完全寛解3例、部分寛解7例、最長期生存80.2か月

(がんケトン食ABCスコア)(P152~153)

 患者の血清データで、ケトン食治療3か月後のアルブミン(栄養状態)、血糖値、血中CRP値(炎症状態)を用いて、長期予後の予測が可能⇒栄養状態が良くて、炎症がなければ、がん患者は長期生存可能

 基本的にケトン食だけでは、がん細胞の増殖を抑える作用は強くない。抗がん剤放射線治療と併用すると、効果を発揮する。(マウスではうまくいくが)ヒトではうまくいかない(P159)

 

【第5章】

 プチケトン食は、糖質50~100/日、脂質をしっかり摂取。夕食に脂肪を大量摂取で、夜間にケトン体が大量につくられる(P177)

 ケトン体を活性化させるには、適度な運動が効果的(P211)

 

糖質制限食のうち、糖質のカロリー制限を脂肪で補う方法は、長期死亡率が悪いとの研究があるはずだ。その点を無視した持論の展開には賛同し難い。

地球に月が2つあったころ エリック・アスフォーグ著 2021年1月柏書房刊

(目次)

主な惑星と衛星のリスト

イントロダクション

第1章 朽ち果てた建物

第2章 流れの中の岩

第3章 システムの中のシステム

第4章 奇妙な場所と小さなもの

第5章 ぺブルと巨大衝突

第6章 勝ち残ったもの

第7章 10億の地球

結びとして

エピローグ

 

【イントロダクション】

 本書のテーマは、惑星の多様性の起源だ。かつて太陽系内に存在した惑星や衛星のほぼすべてが、それより大きな天体に飲み込まれて、それがこの世界のあらゆる違いをもたらした。大半の惑星は、今は巨大ガス惑星(木星土星)か太陽の内部にある(P49~50)

 基本的な知覚のスケールは、両目の平均的な間隔である約6㎝だ。この目は、左右にずらして配置したカメラに等しく、その後方では網膜が左脳と右脳に立体視用の映像を送っている。脳は、その能力の半分を、視覚野内で左右の映像を合体させて、三次元の現実を作り出している(仮説)(P33)

 よって、人間にとって特に優先度が高い宇宙探査データは、約7度のずれのある位置で、同じ光の条件下で取得された2枚の画像だ。立体視メガネをかければ、宇宙の画像データを立体的に見ることができる(P33)

 私たちは、酸素と窒素を中心に、アルゴン、二酸化炭素等の気体を吸ったり吐いたりして、呼吸という最も重要な生物学的機能により、その酸素分子の一部を二酸化炭素分子に交換している。しかし、地球にある酸素のほぼすべては岩石の中にある。植物が光合成によって酸素を放出しなかったら、大気から酸素はなくなる(P34~35)

 地球のケイ酸塩部(金属コアより上の部分)の質量の半分は酸素であり、その酸素は橄欖石((Mg,Fe)₂SiO₄)のような鉱物に含まれている(P35)

 酸素同位体(酸素16:最多、酸素17、酸素18)は。化学的性質がほぼ同じなので、互いに入れ替え可能だ。酸素17,18は重いので化学反応は起こりにくい。質量は異なるので、自然界では質量により振り分けられる。酸素18で作られた水分子は、わずかに蒸発しにくい。氷河期には海から蒸発した水が、雪として広い氷床に堆積することで陸地に移動する。結果、陸には軽い酸素同位体が蓄積され、海には重い酸素同位体が増える。氷河期に、海の底に細かな沈殿物や炭酸塩が降り積もると、生じる岩にも重い酸素同位体が多くなる(P35~36)

 陸、海、大気で起こった変化の記録は、将来の岩石に保存される。これが形成当初の火星の堆積岩のサンプルを採取する理論的根拠だ(P36)

 私たちが火星に行って堆積岩を採取する必要があるのは、そこにある生命(化石を含む)を発見するためだけでなく、生命が惑星系から別の惑星系へ、銀河から銀河へと移動するというパンスペルミア(胚種広布)説という概念を完全に理解するためでもある(P38)

 月と地球の岩石は、酸素その他の元素の同位体存在比では、百万分立のレベルでもそっくりだ。実際、月全体の組成は、地球の無水マントルと宇宙科学的にかなり一致する。この観測結果は、巨大衝突によって月が形成されたとする説をひっくり返した。(この説に従った場合の)標準的モデルでは、月の大部分は、衝突した惑星テイアの破片から形づくられており、火星のように地球とは化学的組成が異なっているはずだからだ。月は、地球の太平洋海盆に相当する部分がちぎれて生まれたという19世紀の仮説が生き返っている(P38~39)

 原始太陽系星雲は、ガスが主成分だった。星雲内は低圧力だったので、水は個体として結晶化できる領域以外では、水蒸気として存在していた。太陽からの距離が2~3天文単位AU)より外側の領域では、水は氷として固定化でき、その氷が種となって氷が集積し、微彗星(彗星の遠い祖先)になった。それより太陽に近い領域では、温度が高く、ケイ素の凝縮物が優勢で、岩の多い微惑星(⇒地球型惑星)が形成された(スノーラインの概念)

 液体の水が大量に存在できるようになったのは、微惑星が十分に成長して重力が強くなり、水が凝結するための大気や地表を保つようになってからだった。水は、岩石に含まれる細かな鉱物の分子も溶かして、堆積岩を分解して輸送する。液体による固体の分解と輸送から始まる化学的・物理的プロセスは、水の働きによって可能になり、反応が促進される(P40)

 太陽系では地球だけが、水の三重点(水蒸気、水、氷が共存する温度、圧力)に近い地表環境を整えている。水の三重点に近いことを生命が存在するための必須条件と考えたとしても、エウロバ(木星の衛星)は除外されない。氷の下に気体が集まった部分があればいい。ただし、惑星上で生物が進化して、高いレベルの意識、知恵(sapience)を持つには、星空、太陽、月、遠くの山脈のような、自らの存在をはるかに超越する者への理解が求められる。よってスモッグで覆われた惑星、氷殻のはるか下に続く暗い海などの惑星は候補から外れる(P41)

 

【第1章】

 ヨハネス・ケプラーは、惑星が太陽の周りを楕円を描いて公転しているなら、そして太陽に近い軌道上では速く動いているなら、惑星の位置に一定の誤差(視差)が解消されることを証明した。ケプラーが考案した惑星運動の方程式(ケプラーの法則)は、アイザック・ニュートンによって重力と運動量の形で物理的な枠組みに組み込まれ、そこから物理学が誕生した(P53~54)

 マリ・キュリーは、放射性元素が崩壊系列をたどって崩壊を続け、最終的に安定な娘元素になることを示した。ウランの同位体のうち、存在比の大きいウラン235ウラン238は、数十億年というタイムスケールで崩壊して鉛同位体(206pb,207pb)になる。ウランは岩石中に比較的多く存在するので、ウランの崩壊によって鉱物結晶内の鉛同位体比に偏りが生じ、時間とともに変化する。⇒岩石の年代を精密に測定(P55~56)

 1920年代に、エドウィン・ハッブル(米天文学者)は、私たちの銀河系が、宇宙全体に存在する数多くの銀河の1つであるという見方にたどり着いた。さらに銀河があらゆる方向に遠ざかりつつあること、遠くの銀河ほど高速で遠ざかっていることを明らかにした。宇宙は、等方的に膨張しており、銀河は、膨らませている最中の風船の表面に描かれた点のようなものだ。どの点をとっても、風船はその点を中心にして膨張しているように見えるが、実際には中心となる特別な点は存在しない(P56~57)

 ハッブルは、時間と空間が始まった理論上の臨界点(風船が膨らんでいない時点)をスタート地点として、すべての銀河が現在の距離に到達するのにかかった時間を計算することで、宇宙の年齢を数十億年というタイムスケールになると推定した(P57~58)

 17世紀半ば生まれのニュートンは、ケプラーの方程式を一般化して、質量、時間、空間の関係式表した。2個の物体は、それぞれの質量に比例し、距離の2乗に反比例する形で互いに引き合う(重力の逆二乗則)を考え出した。(完全に正しくはない)(P58)

 1916年にアルベルト・アインシュタインが発表した一般相対性理論は、ニュートンの法則に時空の湾曲(幾何学的基礎)という概念を与える。重力は力ではなく、ポテンシャル場の勾配だ(P59)

 ニュートンは、惑星や衛星の質量とサイズから密度を求め、それをもとに惑星や衛星を組成する物質の特徴を明らかにした。ガリレオ衛星の公転は、タイタン(土星の衛星)の公転より高速なため、木星土星の1.5倍の密度があり、重い物質でできているか又は圧縮されていると推定できた。地球の密度は木星の3.5倍で、岩石と金属でできている可能性が最も高い⇒惑星の組成が多様であることが明らかになった(P61~62)

 1920年代、ウランの放射性崩壊で生成される鉛の分析結果から、堆積岩の年齢が数十億年と見積もられた。1950年代には、クレア・パターソン(カリフォルニア工科大地球科学者)の実験は、地球の岩石内で鉛に変化する崩壊系列が、始原的隕石のものと重なることを示した⇒地球の年齢は隕石の年齢とほぼ同じ(45億5千万年)⇔最古の地球起源の岩石:44億年前vs最古の隕石:45億6720万年前(P64~65)

(宇宙の生成過程)(P72)

宇宙がそれ自身を飲み込み始めたとき、その最初の数分間にクォークと電子が融合して最初の原子になり、物質が優勢になって認識可能な形をとる時代が始まった

⇒数百万年間で宇宙の夜明けが進み、ランダムに生じる不確実性によって、周囲より密度の高い領域が生まれた

⇒その領域の重力がローカルスケールでは、膨脹エネルギーとは反対向きに作用して、荒れ狂い泡立つ海のような初期銀河を何兆個も作り出した

⇒膨張の経過の中、銀河が発展し、宇宙は穏やかになった

⇒現在、約1000億個の銀河が存在

 重力は不安定だ。いつ、どの程度不安定かが、銀河、恒星、惑星、彗星、小惑星の構造や分布、質量を決める。重力が重すぎたら(=質量が大きすぎたら)、宇宙は収縮を初めて、特異点に戻っていただろうvs重力が不十分なら、ビッグバンによる膨張はどこまでも続き、物質の凝集は起こらなかった。実際の宇宙(私たちの宇宙)が生まれたときの重力は、局所的に密度が高い領域が収縮していき、その領域の大きさは宇宙の張力でさまざまに決まるような均衡状態にあった(P72)

(惑星の生成)(P72~73)

無限に大きい仮説上の分子雲があり、水素分子、ヘリウム分子を成分とする

⇒分子雲は、重力によって収縮しようとする⇔温度、圧力が阻止する

⇒小さな摂動領域(他よりわずかに密度が高い領域)は質量大⇒重力大

⇒分子雲の温度低下⇒あるサイズの塊に分かれ、さらに収縮して恒星になる

 初代星は生まれながらに巨大で、そのコアは核融合プロセスを通して、重い元素を身ごもっていた。恒星での核融合は、途方もない圧力と熱を常に加えられることによって起こり、温度は数千万度に達する(P73)

 太陽内部の核融合では、毎秒6億トンの水素がヘリウムに変換され、400万トンの水素が消えている=エネルギーに変換されている(アインシュタイン等価原理(E=mc²:m:質量、c:光速)。太陽に似た恒星では核融合反応が約1千億年継続するので、私たちにはあと50億年ほど時間がある(P73~74)

 太陽より巨大な第一世代の恒星は、何百倍も高温で、速く燃焼し、燃料が尽きるとコアが収縮し、恒星全体が爆発し、放射線を激しく放出(超新星爆発)⇒その過程で、C,N,O,Si,Mg,P,Feを合成し、そこから岩、氷、惑星、海、人間がつくられた(P74)

 恒星になる前の塊は、収縮するときにランダムな固有の運動をする⇒塊は自転を開始⇒収縮するにつれ、角運動量(全質量✖回転速度)が大きくなる=中心に近い物質ほど速く回転⇒塊は平らになって、原始惑星系円盤(水、ダスト豊富)⇒円盤中心部のガスが凝縮して、自転運動をする原始惑星生成⇒核融合を起こして燃焼開始(P74)

 惑星への物質の集積は、角運動量によって物体が遠くに飛ばされる一方で、重力が物体をその場にとどめるような平衡点から始まる。惑星形成は、角運動量が、ガスが、衛星が解き放たれるプロセスだ(P75)

 原始太陽系星雲の存在下で、初期の微惑星が凝集し、ガスが消散する⇒微惑星が合体して、惑星胚、原始惑星になる⇒巨大衝突期末期に原始惑星の衝突開始⇒惑星(P77)

 1908年、ヘンリエッタ・リービット(米天文学者)が、数か月間周期で明るさが変わるセファイド変光星が、1週間周期で変動するものより明るいことを発見し、グラフに表した⇒セファイド変光星の変光周期を測定すれば、その星の固有の明るさが分かる⇒地球からの距離を正確に測定可能=標準光源の発見(P77~78)

 エドウィン・ハッブル、リービットの研究&巨大望遠鏡を利用して、星雲内の個々の星を解像して、距離が大きくなるほど、その中の恒星が赤くなることを発見した⇒ハッブルは、宇宙が膨張し、すべてのものが互いに遠ざかっていて、遠くの天体ほど速く遠ざかり、より大きく赤方偏移するという考えを提案した⇒宇宙全体が膨張しているので、光の波が引き延ばされて、より長く、赤色寄りの波長に変化する(P78~79)

ハッブル定数=距離に伴う膨張速度の増加率=約70㎞/s/Mpc(メガパーセク

1パーセク=3.26光年 1光年=9億5千万㎞ 宇宙が一様に膨張しているとすれば、ハッブル定数の逆数が宇宙の年齢になる⇒140億年(P79)

 近傍の恒星にも原始惑星系円盤があるが、存在する期間は短く、氷、ダスト、低温のガスでできているため、恒星の光を反射しないと目に見えないし、真横から見るとわかりにくい。惑星形成は太陽に似た恒星の周囲で、数百万年~数十億年以内に終了し、その形成プロセス自体は珍しくないが、急激に起こるので発見するのは難しい。原始惑星系円盤は、その惑星系の中心で燃える恒星によって加熱されており、高温になる可能性がある。そのドーナツの内側の境界は恒星に面しているので、赤外光(放射熱)を放射する⇒赤外線スペクトロメーターで数十光年先から届く光が見える(P79~80)

 赤外線観測は、地球では容易ではない⇔地球の大気、水、CO²による赤外線の吸収

⇒宇宙空間での赤外線観測:ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡:2021年打上(P81)

 1995年、ペガサス座51番星(60光年の恒星)の周囲を4日周期で公転する惑星を発見現在、系外惑星数は4000個:うちハピタブルゾーン(大気組成次第では、液体の水が地表に存在可能、他条件も整えば生命も繫栄できる可能性ある領域)にある惑星数十個(P84~85)

 惑星をつくるには、適切な分子を作るには元素の正しい比率が重要⇔適切な元素の存在だけでは不十分:H73.9%、He24.7%、他1.4%(P88)

 岩石惑星の原材料は、Si,Mg,Fe,O。これにC,H,O,Nに他の元素を少しずつ加えると、生命が居住可能な惑星になる。OとCは、恒星内部での熱核融合反応の基本的生成物で、CNOサイクル反応で生じる。この存在比の下で、巨大ガス雲が冷却したときに、H₂,CO,ができ、さらにCO₂,CH₄,NH₃,HCN(シアン化窒素)など様々なCHON化合物が生まれ、最終的に凝縮して氷になった⇒反応完了でCが使い尽くされ、遊離酸素が大量に余った⇒酸化物は、地球型惑星の原材料:H₂O&地球型惑星の地殻、マントルの構成物(SiO₂(石英),(Mg,Fe)₂SiO₂(橄欖石))(P89)

(太陽の今後)(P94)

 太陽は、50億年~70億年頃、最終破壊が起こり、惑星が碇を解かれる

赤色巨星となった太陽は、数百万年かけて膨張し、主系列を離れ、水星、金星(、地球)を飲み込む

⇒やがて収縮し、質量の半分が宇宙空間に失われる

⇒ガスの球殻構造が広がる(新星として見える)

⇒太陽の質量の残り半分は、収縮して白色矮星になる

 

【第2章】

(地球は丸い)(P104~105)

紀元前6世紀初:アナクシマンドロス:地球は宇宙に浮かんでいる

紀元前6世紀末:ピタゴラス:地球は球体であって、表面上のあらゆる点は下を指している

紀元前350年:アリストテレス:地球が丸いという説の根拠を書き示した

 エラトステネスは、シェネ(エジプト南部の都市)とアレクサンドリアの間に人を走らせて時間を測定することで、2都市間の距離が5000スタディオン(900km)で、丸い地球の円弧に沿って7度離れていると推計した。

 360°/7°✖900km=地球の円周=46,285=円周率π✖直径=3.14✖直径

 地球の直径=46,285/3.14=14,740km≒12,700km(実際)

 しかし、当時の文化では、数百キロ北にあるオリンポス山には神々が暮らし、太陽はヘリオスの二輪戦車で空を進んでいるという考えが主流であり、地球や太陽をめぐる発見は脇へ追いやられた(P108~109)

 アルキメデスは、世界にある砂粒の数が無限ではないことの証明をした。地球がどれだけ大きくても、宇宙の内側に収まらなければならない。宇宙の大きさは、恒星までの距離を約100億スタディオンと推計した。これで砂の数の上限を決めることができたが、これほど大きな数を数える表記法がなかった。(当時の最大の数は1万だった)そこで、彼は指数表記を発明した(10¹~10²~10³~)。指数表記がなければ、近代的な量子科学は実現できなかった(P109~110)

 顕微鏡は望遠鏡をさかさまにしたものだ。アルキメデスは大きな数の数え方を逆転させて、極めて小さな数について考え、ゼノンのパラドックスを解決した。1つの正方形をより小さな正方形に分割することで、1/2+1/4+1/8+…1/2n+…=1であることを証明した(幾何学を使用)。こうした近似値は、工学、測量、科学の世界で役に立っており、啓蒙時代になって、微積分学が生まれた。微積分学は近代物理学にとって、古代ギリシャにおける幾何学に相当する(P111)(~P132)

 

AIvs.教科書が読めない子どもたち 新井紀子著 2018年2月東洋経済新報社刊

(目次)

はじめに

第1章 MARCHに合格~AIはライバル

第2章 桜散る~シンギュラリティはSF

第3章 教科書が読めない~全国読解力調査

第4章 最悪のシナリオ

おわりに

 

【第1章】

 ディープラーニングなどの統計的手法の延長では、人工知能は実現できない。統計という数学の方法論に限界があるため(P14)

 AI技術とは、AIを実現するために開発されている様々な技術(音声認識技術、自然言語処理技術、画像処理技術)VS AI=真の意味でのAI(P14~16)

 シンギュラリティは、真の意味でのAIが、自律的に(=人間の力を全く借りずに)自分自身より能力の高い真の意味でのAIをつくり出せるようになった地点(P17)

◎著者は、真の意味でのAIの定義を明示しないまま叙述しているが、上記からすると、人間の力を全く借りずに動くAIをイメージしているように見える。最初に定義を明示しないまま議論を進めようとする著者の在り方には不信感を感じる。

 デジタルの世界では、画像も、どの位置に、どの色が、どの輝度で写っているかを0,1で表現する

⇒膨大な0,1の列ができる(ピクセル値行列)

⇒その上下左右関係から、どんな要素が写っているかを把握する

⇒イチゴの画像では、種、実の色、輝度のコントラスト、種からできる影など、できる限りの特徴を検出し、それがイチゴであると判断する上でどれほど重要な要素かを、イチゴが写っているデータとそうでないデータから数値化する

機械学習では、CPが繰り返し学習することで、データ中のパターン、経験則、重要度を自律的に認識する

⇒画像は、部品である特徴量の足し算で表現できる

⇒特徴量の総和が大きいほど、イチゴらしさ度が高まり、ある基準超でイチゴと判断

⇒特徴量の設計が重要(P31~32)

 ディープラーニングでは、どの特徴に目を付けるべきかを機械(AI)に検討させる

⇒特徴量を組み合わせて、丸い、放射状等の概念を表し、それがどのように画像に含まれているかを何段階かで判断⇔単純な創和ではない

⇒特徴量の設計が自動で最適化できる(P33~34)

 ディープラーニングは、一定の枠組み(フレーム)の中で、十分な量の教師データを準備すると、AIがデータに基づき調整する⇔機械学習より低コストで正解率に達しやすい⇔大量のデータを与えればAIが自律的に学習して答えを出す仕組みではない(P34)

 目的、目標、制約条件が記述できる課題では、強化学習による最適化がうまくいくことがある(P35)

 AIやロボットは、人間社会で役立つように作られる必要がある

⇒役に立つとは何かを知っているのは人間だけ

⇒人間が何らかの方法で正解をAIに教えなければならない(P36)

 

【第2章】

 AIは意味を理解しているわけではなく、入力に応じて計算し、答えを出力しているに過ぎない。計算機なので、できることは四則演算だけ。AIは、足し算、掛け算の式に翻訳できないことは処理できない(P107~108)

 数学は、長い歴史を通して、論理、確率、統計という言葉を獲得した。これが科学が使える言葉のすべてであり、CPが使える言葉のすべてだ。AIは計算機なので、数字の言葉(数式)に置き換えることのできないことは計算できない。人の知能の営みの中には論理、確率、統計で置き換えることのできないものがある。数学には、意味を記述する方法がない(P115~118)

 音楽再生や画像生成では、ロマン主義風のピアノ曲とかゴッホ風の絵のような生成するものの特徴の分布と実際のロマン主義ピアノ曲ゴッホの絵の分布の差が最小になることを目標にする(⇒微分)ただし、これで生成された曲は、長く聞くには耐えられない。曲がどこに向かっていくのかが分からないから(P135~136)

 脳が、どのような方法で私たちが認識していることを、0,1の世界に還元しているのか、それを解明して数式に翻訳しない限り、真の意味でのAIが登場したり、シンギュラリティは到来することはない(P165)

◎因果は逆かもしれない。ニューロンの0,1の点滅から、どのような方法で、脳が認識に構成しているのかを解明することが課題だろう。

 

【第3章】

 日本の中高生の読解力は危機的な状況にある。その多くは中学校の教科書の記述を正確に読み取ることができない。今の中高生が前の世代の人々と比べ突出して能力が劣るとは考えられず、多くの日本人の読解力も危機的な状況にある。(P172~173)

 基礎的読解力を調査するためのリーディングスキルテスト(RST)を開発した。RSTは、係り受け、照応、同義文判定、推論、イメージ同定、具体例同定(辞書、数学)の6分野で構成した(P185~187)

(例題)(P190~194)

係り受け

天の川の中心には、太陽の400万倍程度の質量をもつブラックホールがあると推定されている

⇒天の川の中心にあると推定されているのは(1天の川、2銀河、③ブラックホール、4太陽)である

(照応)

火星には、生命が存在する可能性がある。かつて大量の水があった証拠が見つかっており、現在も地下には水がある可能性がある

⇒かつて大量の水があった証拠が見つかっているのは(①火星、2可能性、3地下、4生命)である

(同義文判定)

義経平氏を追いつめ、ついに壇ノ浦でほろぼした

平氏義経に追いつめられ、ついに壇ノ浦でほろぼされた(①同じ、2異なる)

(推論)

エベレストは世界で最も高い山である

エルブルス山はエベレストより低い(①正、2誤、3判断できない)

(イメージ同定)

四角形の中に黒で塗りつぶされた円がある⇒4つの図を提示

(具体例同定)

2で割り切れる数を偶数という。そうでない数を奇数という。偶数をすべて選べ
⇒1:65、②8、③0、④110