大人のための地学の教室 鎌田浩毅著 2025年2月ダイヤモンド社刊

(目次)

はじめに

1章 地球は変化し続けている

2章 地球内部のマントル

3章 プレート・テクトニクスとはなにか

4章 マグマのしくみ

5章 巨大噴火のリスク

6章 今後必ず起きる超巨大地震

7章 これからを生きるために大切な「長尺の目」

おわりに

 

【1章】

 鉱物中のウラン238が減って鉛に置き換わる。放射性物質が半分になるまでの時間を半減期で、ウラン238では45億年(P35)

 地球が誕生する少し前に月ができたのは、地球に超巨大な星が衝突してかけらが飛び出して月になった(P37)

◎地球がほぼ形作られた頃、火星ほどの巨大な星が衝突してかけらが飛び出し、それが集まって月ができた。「ジャイアント・インパクト説(巨大衝突説)」における正しい時系列は以下の通り。①原始の地球(プロトアース)が形成される(or形成の最終段階)

②そこへ火星サイズほどの巨大な天体(テイア)が衝突する。③飛び散った破片やガスが地球の周りにリング状に広がり、それが集まって月ができる byGemini

 太陽系の寿命は約100億年。太陽が誕生したのは50億年前。地球は46億年前。40億年前までは隕石がぶつかることが多く、熱が加わった(P37~38)

 隕石は岩石と氷。衝突した隕石の岩石部分はマグマになり、氷は水蒸気になって水が供給された(P39)

 太陽系の惑星のコアが大きかったので、宇宙空間の塵を大量に引き寄せた結果、塵が少なくなり、隕石が減り、地球表面が保たれるようになった。結果地球が冷えて、水蒸気が冷やされ雨になり、海が誕生した(P40)

 地球表面が冷えて、厚い皮ができ、水平方向に動き出し(プレート・テクトニクス)て大陸ができた(P40)

(地球の構造)(P42~43)

①地殻:地球の表面

 ・プレート:地殻+上部マントルの一部

②マントル:地殻の内側:橄欖石(主成分はケイ酸塩)

 ・上部マントル:低密度

 ・下部マントル:高密度

③核(コア):地球の中心:金属

 ・外核

 ・内核

 地球の安定した気候は月が作っている。月がなければ地球の自転はもっと速くなる。地球の地軸が傾いているのは月の影響(P46~47,82,84)

(生命の定義:3要素)(P51)

①入れ物がある

②代謝を行う

③子孫を残す 

 マグマの熱で地中の地下水が熱水に変わり地中の金属を溶かして鉱脈をつくる(P57)

 世界中でCO₂が増えたからここ30年地球の温暖化が進んだのは事実だが、これがずっと続くかどうかはわからない。大規模噴火が起こると、それが全部吹き飛ぶ。火山がカルデラを作るような大噴火があると、火山灰が拡散して大気中を漂い、太陽の光を反射して、太陽光が地上に届かなくなる。その期間が数十年続く可能性がある(P68~69)

 インドネシア・タンポラ火山噴火(1815年)で夏がなかった。20世紀後半は火山の噴火が特異的に少ない(P69~70)

 巨大な物質循環の前に熱の移動がある(P78~79)

 

【2章】

 地球は誕生以来、40億年以上にわたり冷えている(宇宙空間に放出している)。固体の内核の熱が液体の外核に与えられ、外核は対流し、熱が上に向かいその熱がマントルに与えられ(10TWテラワット⁼10¹²W)、マントルは岩石で固い物質だが長期間(何億年)では対流する(P86~87)

 マントルは多成分の岩石でできていて、ウラン、ラジウムを含む。40億年経過する中で、岩石自体が熱(13TW)を出す(放射崩壊熱)地格は7TWの崩壊熱(P88~89)

 地殻は冷えて固くなっているので対流は起きず、プレートとして横方向に移動し、最後は斜め下に沈み込む(P91)

 マントルが溶けて部分的に液体状になったのがマグマ(800~1300度)でプレートの原料。マグマが地下から噴き出すところが中央海嶺。マグマが海水と触れて冷え固まり海洋プレートが生産される(P92)

 海洋プレートはマントルの対流に乗る形で横へと水平運動で進む。冷えて重くなり、大陸プレートにぶつかって斜め下に沈み込む(P92~93)

 海洋プレートが沈み込み上部マントル(軽い)と下部マントル(重い)の境界付近(地中670㎞)で止まる⇒圧力⇒構成している岩石の物質が変わる(高密度化、結晶構造が変化:相転移)⇒重くなって下へ降下し外核に到達(コールドプルーム)⇒外核から熱をもらい物性変化、低密度化⇒軽くなって上昇開始(ホットプルーム)(P95~96)

 液体は揺れているので、振動(地震波)が減衰する。地球内部の構造を明らかにするために地震の揺れを利用する(地震トモグラフィ)。周りの様々な方向から多数の観測データを取得し、画像化する技術(tomogrphy)(P101)

 ミューオン(muon)によって地球の内部を可視化する(P102)

 地球の歴史は熱の放出の歴史。①伝導、②対流、③火山の噴火(P103)

 海洋プレートが大陸プレートに沈み込み、ある深さに達したとき中に含まれる水分がきっかけとなり、マントルを溶かしてマグマを生成する。マグマが地表に噴き出すと火山が生まれる(P104)

 プレートを貫く巨大なマントルの湧き上がり口(ホットスポット)があり(ハワイ、アイスランド、コンゴ)、位置が変わらない(P105~106)

 

【3章】

 大陸移動説(アルフレート・ウェゲナー:大陸と海洋の起源2020年ブルーバックスで復刊)がプレート・テクトニクス理論に結実(P116~117)

 超大陸の分裂と集合は繰り返す。4~5億年周期。一番最近のものがパンゲア。海洋プレートが沈み込む際に堆積物が剥ぎ取られて大陸プレートに付加されたものが付加体。日本列島は大量の付加体でできている(P123~124)

 大西洋の中央海嶺(海の山脈)の海底が左右に割れていて、マグマが下から上がってくる。そのマグマが海水に冷やされて、海洋プレートに付加されプレートを横に押し出す(P130~131)

 海洋プレート(玄武岩:重い)は移動する間に種々付加され、水分も含みさらに重くなる。海洋プレート同士がぶつかると、重い方が潜り込む(沈み込み帯)。大陸プレート(安山岩、花崗岩:軽い)同士がぶつかると、どちらも沈み込まず、地面が隆起する(ヒマラヤ山脈)(P136~137)

 大陸プレートは、プレート内部の大規模火山活動で急激に成長することがある(27億年前、19億年前、8~5億年前)(P137)

 日本列島は、元々大陸の一部だったが、大陸東縁が割れ、東北日本と西南日本は扇のように開いて、日本海ができた⇒それらが再度くっついた。その真ん中がフォッサマグナ(フィリピン海プレートが南東から北西に沈み込んでいる⇒変動の中心(P137~138)

 プレートは冷やされて重くなるので、沈み込みのところでは厚くて重いのでプレート全体を下に引っ張る⇒プレートは中央海嶺で押す力より沈み込み帯で下に引っ張る力が強い(P140)

 関東大震災時の犠牲者の9割は火災で死亡した。火災旋風(炎を伴う大きな竜巻)が生じた⇒火事を出さないことが大事(P146)

 カルデラは火山の巨大噴火跡(直径2㎞以上⇔以下は火口)。北海道3(屈斜路、支笏、洞爺)、東北1(十和田)、九州4(阿蘇、姶良、阿多、鬼界)(P150~151)

 西之島新島は安山岩。重い玄武岩の上に軽い安山岩、流紋岩、花崗岩が積みあがって、成長して大陸になる(P153)

 プレートが沈み込むと、大陸プレートと海洋プレートの間のところで開く。沈み込んだところに熱いものが上がってきて、そこが軽くなって開く。力学の問題。それが日本海ができた経過(P166)

 

【4章】

(マグマの生成)(P181~183)

①マントルが対流⇒高音のまま上昇⇒周りの圧力低下⇒マントルが溶けてマグマ生産

②沈み込む海洋プレートには、含水鉱物(内部に水を含む)が多く含まれる

 ⇒プレートが100~150㎞まで沈むと含水鉱物から水が絞り出され、水が上昇

 ⇒70~80㎞のところで最初のマグマが生産される⇒火山の噴火(日本列島)

 ダイアピル(マントル中のマグマが散らばった状態の塊:軽い)が上昇

⇒周りの圧力低下⇒部分融解(液体部分=マグマが増加)⇒さらに軽くなりさらに上昇

⇒近くの底で上昇停止⇒近く底の岩石を自身の熱で溶かす⇒新しいマグマ生産

⇒新マグマが地殻中を上昇⇒浅い場所にとどまる(マグマだまり)(P184)

(噴火のきっかけ)(P186~187)

①マグマだまりに圧力が加わって液体のマグマが絞り出される

②マグマだまりの下から新たなマグマが供給されて押し出される

③マグマに溶けている水が水蒸気になり、マグマ全体が泡立ち上方にあふれ出る

(溶岩流・火砕流・火山灰)(P188)

①溶岩流:マグマが液体として火口から横に流れる⇒冷えて溶岩

②火砕流:四方八方にマグマをまき散らす現象:600~800度の高温。時速100㎞

 ⇒周りの空気、水分の影響で粉体流になる

③火山灰:マグマが空中に飛び出して、冷えて固まりバラバラになって降ってくる

④火山弾:火山灰より粒が大きい

⑤噴石:火口近くの古い岩石を飛ばす現象

⑥火山ガス:硫黄、フッ素、塩素を含み有害

 適度に火山が古い(100~200万年)と温泉が湧く⇔富士山の周りは少ない(P218)

 地熱発電は、地下3000~4000m掘って、上記を出して発電

⇒①生産井(熱を生産)、②還元井(熱水を還元:有害物質を含む⇒川に流せない)

⇔100~500mでも熱水が出るが温泉地になっている(P219~220)

 タービンを回すには250度の熱水が必要

⇔地中熱の利用:百数十度の熱水で可能(ヒートポンプ)(P223)

 

【5章】

 富士山は、大昔は50~100年の頻度で噴火していたが、最近は200~300年休んでいる

⇒前回の噴火から300年休んでおり、前回の噴火は200年休んでいた

⇒マグマをため込んでいるので噴火すると大量に出るので危険(P239)

(噴火の規模)(P240~245)

 噴出量が基準(VEI:Volcanic Explosivity Index)

①VEI1:雲仙普賢岳(1991):0.00001㎦(⇐誤り 上限値は0.0001㎦ byGemini)

②VEI2:御嶽山(2014)、有珠山(2000):0.001㎦

③VEI3:伊豆大島(1986)、三宅島(2000):0.01㎦

④VEI4:浅間山(1783)、富士山(1707):0.1㎦

⑤VEI5:富士山(864~866)、ラキ火山(1783):1㎦

⑥VEI6:箱根カルデラ(6万年前)    :10㎦

⑦VEI7:阿蘇山(9万年前)、姶良カルデラ:100㎦

⑧VEI8:イエローストーンカルデラ(64万年前):1000㎦

 カルデラは、マグマだまりが空になって陥没してできたもの。噴出するのは2/3程度でその後も火山活動が続く(後カルデラ火山活動:桜島、阿蘇山)(P249~250)

 世界最大のカルデラはトバ火山(インドネシア・スマトラ島)。7万4千年前、噴火で広範囲の寒冷化。気温10度低下。人類の9割が死亡。4000人が生き残り(P256~257)

 1815年、タンボラ火山(インドネシア・スンバワ島)の噴火で、翌年から地球全体で寒冷化。アメリカのトウモロコシ畑が全滅し、アメリカ東部の農民が西部へ移住するきっかけとなった(P257~258)

 桜島が大噴火すると関東でも10~20㎝積もる。東北でも数㎝で、海外への非難を考えることが必要。このような巨大噴火は90万年前と7300年前に起きている(P260)

 1991年、ピナトゥボ火山(フィリピン)の噴火(VEI6)で、0.4度下がり、日本国内コメ収穫量が4割減でタイ米輸入(P262)

 エアロゾル(硫酸エアロゾル、硫酸ミスト)は、二酸化硫黄の細粒で猛毒(P262)

 1783年、ラキ火山(ラカギガル火山・アイスランド)の噴火で、ヨーロッパに夏が来なかった。日本でも天明の飢饉発生(P264)

 有珠山は、2000年に噴火した。20~30年おきに噴火しているので、もうそろそろ噴火しそう。デイサイト(粘り気の強い溶岩)でゆっくり上がってきて、山を膨らませ、2000年のときは地割れもたくさんできたので、予知しやすい(P268~269)

 2011年東日本大震災の地震は、日本列島を東西方向に引っ張った。火山の地下にあるマグマだまりが不安定になった。マグマには5%の水を含んでいて、大きく揺すられると水蒸気になることがある⇒噴火の呼び水(P270~271)

 火山の噴火は火山灰が積もってからが大変。火山の噴火はすぐに終わらず、4~5年続いたりする。富士山も宝永噴火では噴火が2週間続き、1か月火山灰が舞った(P274~275)

最新科学が覆す体にいいのはどっち? 山田悠史著 2026年1月サンクチュアリ出版刊

(目次)

はじめに

CHAPTER1 体にいい「健康診断・医療」はどっち?

CHAPTER2 体にいい「食事」はどっち?

CHAPTER3 体にいい「運動」はどっち?

CHAPTER4 体にいい「睡眠」はどっち?

CHAPTER5 体にいい「健康法」はどっち?

 

◎QA方式の記述だが、Q自体がつまらない。書き残したい部分がほとんどない

重力のからくり 山田克哉著 2023年8月講談社刊 ブルーバックスB-2123

(目次)

はじめに

第1章 「質量」と「重さ」のからくり 「㎏=重さの単位」ではなかった!

第2章 「万有引力」のからくり アリと地球が引き合う力はどちらが強い?

第3章 「質量保存の法則」とエネルギーのからくり 

     掟破りを許す”曲者”物理法則とは?

第4章 「見えない力」のからくり 物理学者も驚いた”万有斥力”の正体

第5章 「見えない質量」のからくり 宇宙初期から存在する「第二の重力源」

第6章 重力のからくり 相対論と量子論はなぜ「相容れない」のか

 

◎平易な言葉で書いてある分、密度が薄くて、キーセンテンスが疎らに感じて読み進める気がなくなってしまった。わずか3年前に発行されたにしては、手が痒くなる。というわけで早々に撤退

ドル覇権が終わるとき ケネス・ロゴフ著 2025年11月日経BP刊

(目次)

日本語版への序文 ドル覇権に挑んだ円の失速と「トーキョーコンセンサス」

はじめに

 第1章 序論 基軸通貨の誕生

第1部 ドル覇権への過去の挑戦者たち

 第2章 ソビエトという強敵

 第3章 日本と円

 第4章 欧州単一通貨

第2部 現在の挑戦者、中国

 第5章 今回は違う

 第6章 朱鎔基の予測

 第7章 中国人民銀行

 第8章 危機の予兆

 第9章 高度成長の終わり

 第10章 人民元とドルのデカップリング

第3部 アメリカ以外の国の問題

 第11章 固定相場制の魔力

 第12章 ハイパーインフレ

 第13章 固定相場制はいつ賞味期限切れになるか

 第14章 レバノンとアルゼンチン

 第15章 トーキョー・コンセンサス

 第16章 帰ってきた固定相場制

第4部 代替通貨

 第17章 グローバル通貨

 第18章 暗号資産と貨幣の未来

 第19章 中央銀行デジタル通貨

第5部 基軸通貨の優位性と不利益

 第20章 基軸通貨の優位性

 第21章 法外な特権、または代表なくして課税あり?

 第22章 ドル覇権に対処する世界の国々とアメリカの少しばかりの協力

 第23章 基軸通貨の不利益

第6部 衰退に転じるドル覇権

 第24章 中央銀行の独立性

 第25章 債務大国 アメリカのアキレス腱

 第26章 永遠に続く低金利という誘惑

 第27章 ドルによる平和の終焉?

 

【日本語版への序文】

 日本の成長が急減速した原因は、人口減、中国の台頭、インフラ投資のリターン低下など数多く挙げられるが、1985年のプラザ合意で円高誘導を迫られたことも重要な要因だ。このとき日本は金融自由化を制度的に受け入れる準備が整っていなかったのに、金融市場の規制緩和をハイペースで進めるよう圧力をかけられた(P4)

 アジアの国々が反映したのは、ブレトンウッズ体制下のヨーロッパをお手本にしたからではない。模範にしたのは、日本の輸出主導型成長戦略だ(P5)

 アメリカには競争相手国がうまくやることを許すが、やりすぎることは許さないという長い伝統がある。その好例が日本だ。トランプの関税戦争も同じ例だ(P5)

 中国とヨーロッパは、貿易や国際金融をうまく切り回すための独自の方法を開発したり、新しい技術を活用するようになった。今後5年以内に実を結ぶだろう(P5)

 アメリカの政治システムは、政府債務はフリーランチだと信じ込んでいる。彼らの理論は、実質金利は恒久的に下がるという疑わしい予想に基づいている(P5~6)

 

【はじめに】

 今日、グローバルな金融システムは重大な転換点を迎えている。アメリカはドル兌換を保証せず、代わりに低インフレを維持し、ドルの購買力を保つことを約束している。問題は、アメリカが自国ファーストを唱え国益を最優先すると、約束を守ることが困難になることだ(P10~11)

 今後10年のうちに、金利もインフレ率も政策当局の想定以上に上がり、ドルの特権的な借入能力は大幅に低下する。ドルが安定した通貨だった時代はピークを過ぎた。債務危機、インフレ危機、金融危機、通貨危機の発生頻度と深刻度は上昇しかねない(P11)

 

【第1章】

 ひとたび基軸通貨となったら、1世紀か2世紀は続くのが標準的だ。新たな基軸通貨への移行期には、新旧両通貨が共存することが多い。ドル基軸通貨時代は1世紀続いたので、今は壮年期の終わりだ。新旧交代は戦争が重要な要因となるがイノベーションがその役割を果たすこともある(P21)

 他の国々から見て現在の通貨体制が好ましくない点は、各国がアメリカのデフォルトがないことを信頼しているのに対し、アメリカはインフレを利用して自国債務の実質的な価値を減らす裁量があることだ。インフレの急上昇は部分的デフォルトだ(P22)

 ドルがポンドと同じ運命をたどるとしても、かなり先のことでいくつかの波乱は乗り越えるだろう(P34)

 現在の体制は唯一可能な終着点だったという思考に囚われてはいけない。過去には、事態が全く違う方向に進みかねなかった瞬間が何度もあった(P34)

 

【第1部】

【第1章】

 旧ソ連の計画経済では、ほぼすべてが命令と統制によって行われた。国家計画委員会は反復的なプロセスを経て、企業や産業に資源を割り当てる。前年度に必要だった量に基づいて割り当て、フィードバックが上がってくるとアンバランスを是正し、再度割り当てを行う。数回このプロセスを繰り返して最終的な割り当てが決まる。ソ連圏で消費財の種類が少なかったのは、画一的にすれば計画プロセスが容易になるからだ(P42~43)

 ソ連の財とアメリカの財では希少なもの(CPはソ連で高価格。鉄鋼は低価格)と豊富なものが違う。アメリカの価格水準を使うとソ連のGDPを過大評価してしまう(P44)

 1970年代前半、ソ連政府は技術面の立ち遅れを回避するためにはアメリカの技術を盗むほかないと決意し、大量の産業情報を入手した。1980年代前半、フランスの情報部がソ連のエージェントの1人を転向させることに成功し、アメリカが偽情報をソ連に渡す好機となった(P46~47)

 

【第3章】

 不胎化介入は、中央銀行がマネーサプライを変化させずに外国為替市場に介入する方法で、自国通貨建国債を発行して、同額の外国通貨建債券を購入する仕組みだ(P66)

 プラザ合意後2週間で円は10%以上高騰した。いったん円高に振れ始めると、大蔵省も日銀も止めようがなくなった。1985年9月時点で1ドル=244円だった円ドル相場は、1年後156円、2年後121円になった(P67)

 急激な円高で日本の資金力はドル換算で大きく膨張した。日本は古典的な資産バブルの渦中にあった。資産バブルは金融危機の前触れだ(P68~71)

(日本経済が1980年代~90年代に急減速した原因)(P74~76)

①出生率の低下

②投資の収穫逓減:長期的なGDPの伸びは基調的な生産性+労働力人口の伸び

③アジア新興工業国の勃興:日本の輸出主導成長モデルを採用

④円高

 資産価格の異常な高騰と急減速した成長の組み合わせは、ほぼ確実に金融危機の前兆だ。地価、住宅価格、株価の急落は深刻な銀行危機を引き起こした(P76~77)

 銀行危機は1992年に始まった。この年に銀行が貸し出しの縮小に転じたからだ。信用収縮は金融危機がマクロ経済にもたらす重大な影響の1つだ(P77)

 巨額の公的債務残高を抱える日本の経済は、実質金利上昇に対して極めて脆弱だ。米欧の実質長期金利はすでに大幅に上昇している。世界の資本市場に対して開かれている以上、いつまでも抵抗を続けられるはずがない(P78)

 債務残高が途方もない額に達している状況での金利上昇は、何か問題が起きた場合に政府が財政出動で対処する余地がほとんどないことを意味する(P80)

 

【第4章】

 ユーロは既成事実と化したが、成功したかどうかは議論の余地がある(P84)

 パニックを食い止める最後の貸し手が明確に定められない限り、通貨同盟が銀行危機や金融危機に対処するのは極めて難しい(IMFモーリス・オブストフェルド)(P85)

 2010年代半ばまではヨーロッパの株式市場はアメリカと同等の規模を維持していた。2023年時点で米50兆ドルvsヨーロッパ15兆ドルだ(P87)

 EU加盟27か国間の貿易ではユーロ建てが圧倒的だ。中央銀行の外貨準備でもユーロはドルに次ぐ20%だが、それでも地域通貨にとどまる(P91)

 EU共同債なら米国債と同じ位置づけになるが、現時点では、共同債の国債発行残高に占める割合はが小さい。ユーロ圏全域にわたり支出・徴税権限を持つ欧州財務省のような組織が存在しないため、共同債のこれ以上の積極活用は難しい。より大きな権限の中央政府は、政治統合が深化しない限り維持できない。政治統合は嫌われている。ヨーロッパは合衆国に収斂するのではなく、カナダのような緩い連合の方がうまくいく(P93)

 ヨーロッパはライフスタイル大国と言ってもいいが、生産性ではアメリカの7割だ。せっかくのライフスタイルの維持も困難になりかねない(P96)

 ECBの独立性は1992年のマーストリヒト条約に明確に謳われているのに対し、FRBは議会法だ。左派にも右派にも連邦準備制度を廃止すべきと考える人がいる。その主たる氏名もECBは物価の安定の維持だが、FRBは物価の安定と雇用の最大化だ。FRBはこれを低インフレと完全雇用と解釈しているが、失業抑制とインフレ抑制のどちらに重きを置くべきかについての政治的干渉を受けやすい(P96~97)

 2008年3月初め、ヌリエル・ルービニが危機を予想し的中させた。当時学会でも実業界でも彼の予言は異端視された。ラインハートと私は、2008年初めに金融危機の具体的な数値指標を特定し、アメリカ経済の広い範囲で赤信号が点滅していると指摘した。特に問題なのは、住宅価格と株価の高騰、巨額の貿易赤字、成長率の鈍化だ(P103)

 ドラギは、2012年7月に、ユーロ安定のためなら何でもやると宣言した。メルケルは譲歩していた(P110)

 ヨーロッパの財政面の麻痺状態は、軍事力と技術力に重大な影響を及ぼした。軍事投資と先端技術は共生関係にある(P112)

 

【第2部】

【第5章】

 中国は、そろそろ景気がピークに近づいている。大規模な金融崩壊は、誰も予想していない国で起こることが珍しくない(P117)

 中国が欧米型の金融崩壊に見舞われるとは考えにくい。強力な中央政府は欧米に比べ格段に速いスピードで損失を各所に引き受けさせることができ、議会の反発を受けることなく公的資金を投じて再編を進めることができる(P118)

 しかし、信用サイクルに無縁ではいられない。現れる形が違うだけだ。住宅、土地価格の下落は、銀行、企業、家計のBSを著しく傷つけ、信用活動の減退、消費需要の低迷を引き起こす(P118)

 中国の成長鈍化の原因は、投資リターンの現象、生産性の伸びの鈍化、権力の更なる一極集中、脱グローバル化、人口減少等がある(P119~120)

 経済面ではアメリカに水をあけられているが、軍事面では非常な脅威だ(P121)

 仮に中国人民銀行(中央銀行)が人民元のドル・ペッグを打ち切ったら、ドル・ブロックからかなりの部分が失われる。人民元が変動相場制に移行したら、例えば金利政策が国内物価の安定化を重視する方針に転換したら、アジアのサプライチェーンを形成する他の国々も追随する公算が大きい。ドルの需要に与える潜在的な影響は広範囲に及び、ドル・ブロックの縮小につながるかもしれない(P121~122)

◎人民元が決済通貨に使われると言っている模様   byGemini

 中国が毎年巨額の貿易黒字を出すことは不正な介入を行っている証拠に見えた。しかし、決定的な要因は、一国の貯蓄と投資のバランスだ。為替レートは一因にすぎず、ほかに金利、貯蓄性向、景気循環がある(P124~125)

 中国で急速に生産性が伸びているのに、それに見合った通貨切り上げを行わずにインフレを抑えているのが謎だった。中国政府は国内の地域によって経済成長のペースに格差があることを利用して賃金を抑え込んだ。中国東海岸の都市ではハイペースで工業化が進んだが、農村部は取り残された。政府は雇用機会の乏しい農村部から都市部への大規模移住を推進し、その規模は年1千万~1千5百万人に達した(P127~128)

 中国政府は都市化のペースをコントロールしようとして、戸口(戸籍制度)を農業戸口と都市戸口に厳格に区分した。農業戸口を持つ人が都市に移住するには政府からの許可が必要だ。無許可だと公的医療が受けれず、子どもの学校通学もできない(P128)

 工場での賃金押上げ圧力を抑えられるだけのペースで都市部に労働力が供給されるよう微妙な匙加減に気を配った。この企てはかなり長い期間うまくいった(P129)

 

【第6章】

 性急な自由化は危険だ。特に外国からの短期借入れを一気に容認すると、1990年代後半のアジア危機が起こる。全く自由化をしないと成長を阻害する(ギータ・ゴピナートIMF筆頭専務理事)。金融市場の早すぎる自由化は好ましくない(ジョセフ・スティグリッツ「世界を不幸にしたグローバリズムの正体」)(P135~137)

 2002年10月、朱鎔基は、何より心配なのは社会の安定だと答えた。高度成長が続き自分たちの暮らしはよくなると国民が信じている間は、中国社会の政治面、経済面はうまく嚙み合っている。だが成長が鈍化・停滞すれば、大きな不安が広がり、全体のダイナミズムが失われかねない。中国共産党が抱える根本的なジレンマを朱は率直かつ明確に語った。これは今日の中国の政治経済にとって中心的な課題だ(P139)

 

【第7章】

 浦東幹部学院は中国共産党が運営しており、ここで共産党幹部は新しい知識を身につけると同時に人脈を形成する。幹部が受講するよう呼ばれるのは、昇進が検討されている場合が多い。高い地位につくには何度も学院で学ぶ必要がある(P150)

 2005年夏、浦東幹部学院の講演では、中国のマクロ政策の根幹とも言える為替政策に対して、批判的な質問が連発された。今日の中国は様変わりしている(P151)

 

【第8章】

 経済危機がいつ起きるかを正確に知るのは難しい。借入の急増、資産価格特に住宅価格の急騰は要注意だ。一般的には金融危機の時期より、危機の影響がどう広がるかを予想するほうが易しい(P155)

 システムに圧力がかかる最初の予兆は、中国から大規模な資本の引揚が始まった2015年のチャイナ・ショックの年だ。成長の鈍化と株価の下落は投機化を狼狽させ、資金を引き揚げ始めた。中央銀行が人民元の対ドルでの小幅な切り下げを容認すると、資金流出に拍車がかかった。切下げ幅はわずか1.9%だったが、これは始まりに過ぎないと市場が神経質になった(P156)

 当局は資本規制を大幅に強化する措置で対抗し、最終的に勝利をおさめたが、高くついた。金融自由化計画は大幅に後退した。根本的な問題は解決していない(P157)

 2016年、中国の成長ペースは今後20年間にわたりなお減速する可能性が高いと述べ、理由を示した

①中国の成長モデルが投資に大きく依存しているが、投資リターンはいずれ逓減する

②中国は過去と同じペースで輸出を拡大し続けることはできない

③投資と貿易の鈍化分を国内消費で埋めることができるか、疑わしい

④深刻な人口問題:1980年代導入の一人っ子政策が緩和されたのは2016年1月

⑤技術の最前線に出ており、欧米の技術適応による高度成長が困難

⑥経済政策の中央集権化傾向   (P160~161)

 

【第9章】

 中国の成長率は、公式統計では1980~2012年9.9%、2013~19年7.0%、13~23年6.1%。ペン・ワールド・テーブルの最新版では、1980~2012年7.1%、13~19年3.5%(P163)

 人口規模の大きい発展途上国(メキシコ、ブラジル、インドネシア)は中所得国の罠に陥った。長期間高成長を遂げたが、金融危機により成長軌道から脱落した。罠を逃れた国は小さな島国、半島国で、シンガポール、香港、韓国だ(P164)

 罠に陥る最大の理由は、高度成長により豊かになった国では富の再分配を求める大衆迎合的な圧力が強まり、成長の勢いが削がれることだ。成長ペース鈍化⇒金融自由化⇒外国からの借入増加⇒経済活況⇒余剰資金が収益性の低い投資に流れる⇒成長につながらない⇒積みあがった債務が持続不可能⇒金融市場に圧力⇒銀行の資産内容悪化⇒破綻⇒自国通貨暴落⇒深刻な金融危機だ(P164~165)

 中国の政策当局は社会不安や金融危機のリスクをかなり前から認識しており、様々な措置を講じてきた。重要なのは共産党の地位が揺るがないようにすることだ(P166)

 2020年8月、ユアンチャン・ヤンと私(著者)は「ピークに達した中国の住宅市場」を発表した。論拠は2つ

①直接・間接需要で測定した不動産部門の規模の大きさ(2017年GDP比29%)が高く、危機前のスペイン、アイルランドより高い

②中国の一部の地域はすでに建設過剰になっている。建設過剰問題は三線都市(内陸農村部の都市:人口100万人前後)に集中的に発生している   (P169~173)

 LGFV(地方政府融資平台)の債券発行残高はGDP比50%(2023年末)に達する。実際はもっと高いだろう。不動産価格の暴落によりデフォルトに至る可能性が高い。LGFVの債務は最終的に地方政府が保証するものと考えられているため、デフォルトにより地方政府にのしかかってくる。脆弱なのは地方政府だけでなく、地方の弱小銀行は多額の不動産融資残高を抱えている。シャドーバンキングも状況は同じだ(P177)

 中国には固定資産税を復活させる奥の手があるが、政治的には避けたい。外国投資が制限され、株式投資もいつ規制がされるかわからない状況では、一般市民の最大の資産は持ち家だ(P179)

 解決策の1つは消費需要の刺激策を実行することだ(P180)

 最も効果的なアプローチは、民間部門の強化と国家の役割の縮小だが、近年の傾向は逆の方向に向かっている(P181)

 中国の長期的成長が先進国並みに減速するなら、人民元が今世紀後半に基軸通貨or派遣通貨としてドルと肩を並べ、抜き去るという主張は説得力を失う(P183)

 

【第10章】

 中国が変動相場制を採用し、元がドルに対して自由に変動するようになれば、元建て貿易の比率はさらに上がるはずだ。いずれ中間財の建値通貨として元が重要な役割を果たすようになる。特にアジアのサプライチェーンにおいてはそうだ(P184)

 実際、中国は人民元をドルから切り離す道をかなり進んでいる。2005年、中国は人民元を通貨バスケットに連動させる決定を下したのが始まりだ(P186)

【第3部】~【第5部】(時間切れ未読)

 

【第6部】

【第24章】

 インフレは1960年代半ばから後半にかけてすでに上昇し始めていた。1970年代半ばにインフレが完全に手に負えなくなってから、ようやくカーター大統領は、財務省の高級官僚だったポール・ボルカーをFRB議長に指名した(P398)

 長期金利が上がったのは、ミラー(ボルカー前任FRB議長)が本気でインフレ抑制に取り組んでいるとは誰も思わなかったからだ(P401) 

 政府が国民に現金を配るのは、不況期には悪いアイデアではない。選挙の洗礼を受けていないFRBの理事がお金を誰に分配するかを決める方が馬鹿げている。徴税と分配を決める権限は議会にある(P405)

 2009年10月からFRBは準備預金に金利を払うようになった。このときから準備預金は、FRBから見れば銀行に負う債務となり、銀行から見れば紙幣より短期国債に近づいた(P410)

 AIによるデフレ圧力が短期的に優勢になる可能性は低い。むしろエネルギーとコンピュータへの大型投資が必要になるため、AIの発展に伴いインフレ圧力が高まる(P415)

 中央銀行の独立性にとって最大の脅威は、公的債務が持続不能な増加傾向を示すことによる長期的な圧力だ(P416)

 

【第25章】

 金融抑圧は隠れた税金だ。最終的に中間所得層の預金者に転嫁される(P417)

 2013年、ラリー・サマーズは長期停滞論を披露し、極めて低い実質金利は、総需要が不十分な新しい時代の到来と、高度成長期が終わり当分復活しないとの一般的見方を反映しているとした。バーナンキは、これを否定し、経済活動によりいずれ金利はプラスになるから、長期停滞は続かないとした。私(著者)は、実質金利の急降下は2008年グローバル金融危機の置き土産だと指摘した。金融危機で投資家、消費者、規制当局が委縮したことが原因だ。よって低金利が未来永劫続くことはあり得ない(P424)

 私(著者)は、2012年に、長期停滞論は今後AIが経済に与えるインパクトを過小評価していると述べ、2016年に、アメリカ政府は30年物国債の発行高を増やして長期金利を低水準で固定すべきと訴えた。財務省は低金利を固定してアメリカの納税者の負担を減らすチャンスを逃した。2023年10月、10年物国債の利回りは5%に近い(P426~428)

 

【第26章】

 英米の長期金利の推移は直線的ではない。①全体として数世紀にわたって実質金利は下がっているが、ここ100年は横ばい、逆転し、②実質金利は非常に変動性が大きい。③グローバル金融危機後の長期停滞時はゼロ以下に下がる。サマーズ等が強調した1980年以降の実質金利の低下は数世紀にわたる長期視点では持続性が疑わしい(P436~437)

 高成長率で低金利の国が突如債務問題に直面するケースは多い。実質金利も成長率も変動しやすい。それに金融抑圧が人為的に金利を押し下げている可能性もチェックする必要がある(P438)

 金利と成長率の関係がどうあれ、アメリカは途方もない勢いで赤字を増やしており、今後の経済動向に関わらず苦境に陥る可能性は高い。今後30年間で人口の22%が65歳以上になると予想され、社会保障コスト特にメディケアのコストは膨らみ、同時に労働力人口は縮小する(P439)

 特に、超高齢者(85歳以上)は増加し、その多くは介護や医療を必要とする。これに伴い、年金給付、債務返済コストの膨張が次第に政府歳出の多くを占めるようになる。環境、国防、インフラ整備、教育・訓練等への支出がしわ寄せを受ける(P439~440)

 年金債務を債務全体の中で劣後債務と位置づけるという議論はできるかもしれない。年金や医療費等の社会保障を資産に応じて給付する方式に変更したら、そえうぁ事実上劣後債務の不履行の先例だ。予算が一段と逼迫したら、受給資格そのものを厳格化する可能性もある(P440)

 債務危機は、ほとんどの場合、多核不安定なインフレ率、高い名目金利、中央銀行の信認に対する長期的な打撃を伴うだろう(P440)

 金利が上昇したら、日本の高い債務比率は金融危機、債務危機、高インフレのリスクを引き起こすだろう。そのとき政府には財政政策で対応する余地がほぼない(P441)

 アメリカは基軸通貨の発行国として他国より借入能力が高いが、債務拡大時に使える基本的手段は同じだ。デフォルト、インフレ、金融抑圧だ。どれも好ましいものではなく、痛みを伴う(P440)

 アメリカが度々インフレになるなら、それが10~15年に1度だとしても、米国債に上乗せされるインフレリスク・プレミアムは高くなる(P449~450)

 アメリカ発の危機と欧州債務危機の関連性は明らかだ(第4章)(P452)

 中国政府が2010~11年にとった景気刺激策は不動産とインフラ中心で今日の不均衡の種を蒔いた。不動産市場のエンジンを全開にした後、政府は追加の刺激策を打ち出さざるを得なくなった。一部は中央政府が出したが、残りは規制緩和によって生まれた地方政府融資平台(LGFV)によって行われた。この仕組みは今日悲惨な形で跳ね返ってきている(P452)

 債務のスーパーサイクルが次に発生するのは、10年前は明白に中国だったが、現時点では複数候補がある。金利上昇で多くの国で住宅価格が高騰して危うい状況になっている。現にいくつかの国で下落し始めている。日本は高い政府債務残高が問題で、超低水準だった金利を正常化する課題があり危ない。規模の小さい低所得国と開発途上国全般は悲惨な状況で、半数以上がテクニカルデフォルト(支払い遅延等による一時的デフォルト)or実際のデフォルトに陥っている。金利上昇、インフレ、アメリカ発の気まぐれな政策等により問題が深刻化したら、次の10年は一段と困難になる(P453~454)

 

【第27章】

 パックス・ダフー(ドルによる平和)は最盛期を過ぎた。

①ドルに代わる決済手段を求める機運の高まり(非友好国&友好国)

 ⇒アメリカ当局の監視、詮索から逃れたい

②ドル覇権の最大の脅威はアメリカ内部

 ⇒巨額の債務を減らそうという政治的意思がなくなった(P458~460)

 ドルによる平和は永遠に続くという前提は、今後10年以内に覆される(P461)

教養としての量子コンピュータ 藤井啓佑著 2025年11月ダイヤモンド社刊

(目次)

はじめに

1章 量子力学100年史

2章 量子コンピュータ革命

3章 試行錯誤の連続

4章 実用化をめぐる激戦

5章 世界が変わる、世界を変える

6章 量子コンピュータと私たち

おわりに

巻末作品案内 量子がもっと身近になる「量子図書室」

量子余話 さらに深く量子コンピュータをしりたいあなたへ

 

【1章】

 エネルギー量子は、電磁波の振動数νと物理定数h(プランク定数)を用いて表されるhν⇒電磁波のエネルギーは、hνの整数倍しかとれない。エネルギーを連続体とすると積分だが、離散的なものとすると和になる(P28~29)

 電子は特定の決まった半径=決まったエネルギーの状態しかとらない。原子においてもエネルギーは離散的に変化する(P34)

 特定の色(波長)の光が放出されるということは、電子が離散的な軌道をとり、その2つの軌道の間を移動する際に、差分のエネルギーを電磁波として放出する(P35)

 ボーアの量子仮説は、ド・ブロイの観点では、電子の波長の整数倍が電子の描く軌道の円周の長さに一致するように回転すると読める。電子が波として自分自身とぴったり重なるように回れる軌道しか存在しない(P37)

 運動を予測するための方程式は、位置や速度を表す行列を用いたハイゼンベルク方程式によって表される(P39)

 ミクロな世界では、粒子はある座標の一点に存在するのでなく、空間に広がりを持つ重ね合わせ状態として存在する。重ね合わせ状態を表現するために、粒子の広がりの分布を表す波動関数を用いる。この関数は時間がたつにつれて、シュレーディンガー方程式のルールに従って変化し、粒子は波としての性質を持つようになる(P40~41)

 波動関数は、粒子の存在する可能性を示し、数値が大きい場所ほど、その粒子がそこに見つかる可能性が高い。粒子は観測をするまでは波動として空間に広がりを持って重ね合わせの状態として存在し、観測するとある一点に粒子の位置が定まる(コペンハーゲン解釈)(P41)

 量子力学におけるランダムは、原理的に誰にも予測がつかない、結果が決まっていない状態。(P42~43)

 電子は空間の異なる点に重ね合わせ状態として存在する。電子銃から放出された電子は、どの位置に存在するかが不確定になり、可能性の波として空間を伝わる。ある可能性は左、別の可能性は右のスリットを通過し、その後自分の分身と出会い干渉する。1つの電子が、量子力学世界では重ね合わせ状態として両方のスリットを通過し、その経路の差によって干渉パターンを形成する。スクリーンに到着時点で重ね合わせが解け、ある場所に1つの電子がランダムに現れる(P44)

 電子がどこにいるかを常に観測し続けると、干渉パターンは消える。対象の情報を得るために観測すると、その重ね合わせが解ける(P46)

 2つの水素原子があるとき、そこにいる電子は一方の原子の周りに存在し、同時に重ね合わせ状態として、他方の原子の周りにも存在できる。2つの原子間の距離が近づき、重なりが大きくなると、全体としてのエネルギーは小さくなる。水素原子同士が近くにいる分子を形成した状態が安定する。共有結合は、電子が量子力学的な重ね合わせを持った結果だ(P49~50)

 半導体は、禁止帯の幅が小さくなるように制御された物質で、外部からの電圧等の刺激を与えると、電子が禁止帯を乗り越えて電流が流れる性質を持つ物質だ(P51)

 アト秒レーザーは超高速の現象を観測でき、原子や分子の中を運動する電子をリアルタイムに観測できる(P63)

 量子力学において、位置や運動量等の物理量は、表関数(波動関数の分布を表す)で表され、観測するまで定まらない。観測したときランダムに物理量の値が定まる(P66)

 ベルの不等式は、実験結果を入れて右辺を計算すると、その値は必ず2以下になる。しかし、量子力学を前提として右辺を確認すると2を超えて2√2となり、量子力学が正しい場合個の不等式は破れる。どの実験結果でもベルの不等式は不成立で、アインシュタインは間違っていた(P72~73)

 

【2章】

 量子ビットは、0,1の可能性の大きさ、小ささをアナログ(連続的)に表す。測定したとき、可能性の大きさに従って、ランダムに0,1が決まる(P90~91)

 0,1を同時に表せて、それらの可能性を連続的に変化させることができるという特徴が、量子コンピュータの計算速度を格段に上げる。6桁のビット(6ビット)の計算をするとき、量子コンピュータは1回で64パターンを同時に表せるが、それぞれのパターンの可能性は小さく、そのまま確定するとデタラメな結果となる。干渉を用いて可能性を変化させ、特定のパターンの可能性を強める。結果、圧倒的に少ない手数で答えを出せる(P91)

◎干渉で特定パターンの可能性を高めることで、なぜ正確な答えが出せるのかについてはGeminiに聞いた。ここに書くには難しすぎるので略

 量子ビットは、0,1の両方の可能性を残したまま計算が進んでいく。そのため量子コンピュータでの条件分岐(if文)は0,1を重ね合わせたまま分岐する(P108)

 

【3章】

 量子コンピュータは、様々な要素技術を含む。チップの材質、製造方法、配線方法、ソフトウェア、アルゴリズム等の全てにおいて既存のコンピュータとは異なる(P135)

 量子ビットに制御信号を送るケーブルでは、日本のコアックス社(非上場)の部品が世界で広く使われている(P135)

 量子コンピュータの動作検証では、低雑音増幅器(日本通信機)、低雑音電源(エヌエフ回路設計ブロック:6864エヌエフホールディングス子会社)、磁気シールド(オークマ)を用いている(P135)

 量子コンピュータの性能の要であるマイクロ波の発生や信号処理を行う制御装置は、QuEL(大阪大発スタートアップ)が部品を供給(P135)

(量子コンピュータ5大方式) (P138~152)

①超電導量子ビット方式

②イオントラップ方式:量子ビット数に限界。速度遅い

③冷却中性原子方式:速度遅い

④半導体量子ビット方式:25年当時6ビット程度。計算速度速い。小型冷蔵庫サイズ

⑤光方式:時間をずらして光発生で量子ビット数増加。ザナドゥ社。PsiQuantum社は、エラー訂正機能を持つ大規模な誤り耐性量子コンピュータの開発に照準。GlobalFoundries社と協力して、光量子コンピュータ用チップを開発中(25年当時)

 

【4章】

 量子ビットが周囲の環境と関わると、情報が外に漏れて、量子としての性質(コヒーレンス)が失われる(P171)

 デジタルエラーが発生しているかを観測すれば、アナログなノイズをデジタル化し、訂正可能になる。量子エラー訂正では、量子ビットの重ね合わせ状態を壊さずに、エラーの存在だけを測定することが必要だ(P176~177)

 量子エラー訂正では、多数の量子ビットを使って、1つの論理量子ビットを構成し、情報を冗長に保持する。冗長性を上げることで、論理量子ビットに残るエラーの確率が急激に低くなる(P179)

 

【5章】【6章】(略)

 

知能とはなにか 田口善弘著 2025年1月講談社刊 講談社現代新書2763

(目次)

はじめに

第0章 生成AI狂騒曲

第1章 過去の知能研究

第2章 深層学習から生成AIへ

第3章 脳の機能としての「知能」

第4章 ニューロンの集合体としての脳

第5章 世界のシミュレーターとしての生成AI

第6章 なぜ人間の脳は少ないサンプルで学習できるのか

第7章 古典力学はまがい物?

第8章 知能研究の今後

第9章 非線形非平衡多自由度系と生成AI

第10章 余談:ロボットとAI

あとがき

 

【はじめに】

 チャットGPTに代表される大規模言語モデル(LLM)は、非線形非平衡多自由度系と同じだ。これと逆の線形平衡少数自由度のものは理解が簡単だ。線形は、2つのものが同時に存在すると、その結果は2つのものが別々に存在した場合の重ね合わせで理解できること。電池を2つ直列につなぐと電圧は2倍になるのは線形。1.5倍や3倍になれば非線形。平衡は時間変化がないこと。今見た状態が永遠に続く。非平衡は時々刻々変わる。今の状態を見ても10分後どうなるかわからない。非線形のものが多数集まると自由度が増して何が起きるか見当がつかなくなる(P7~8)

 LLMは、非線形非平衡多自由度系であるシミュレーターの亜種だ。チャットGPT等の生成AIは、膨大なデータを処理、学習することで現実世界をシミュレーションしたものだ。脳も、仕組みは異なるが、現実世界をシミュレーションして、脳が認識可能なものに再構築している。知能は、生成AIも人の知能も、現実世界のシミュレーターであるという点で共通している(P8)

 

【第0章】

 今主流のコンピュータは、基本的に整数の演算しかできない。小数の計算は整数に直して演算し、表示のときに小数に表示し直している。この難問を解決したのがGPUだ。GPUの利点は大きなメモリを保持し、それらに多数の演算ユニット(コア)が繋がっていて同時に計算できたこともある(P24~26)

 

【第1章】

 機能特定のアプローチには根本的な問題がある。実際に観測しているのは知能が作用した結果に過ぎない。オプトジェネティクス(光遺伝学)で場所と機能の関係づけの精緻化はできるが、実際に脳がどのように働いているかの解明にはほど遠い(P33)

 脳波(EEG)は、脳から出てくる電磁気的な活動で、ニューロンが電気化学的な素子であり、ニューロンの活性化が電気的な活動を伴うことから発生する。β波4~30Hz、α波8~13Hz、θ波4~7Hz、σ波0.5~3Hzに分類される(P34)

 非侵襲的な研究も、脳の各部位が活動しているか否かの判定をしているだけで、どんな機能を担っているかは解明できない(P36)

 脳の研究から知能とはなにかが分からなかった以上、人口知能が知能を実現できているか同課の確認も不可能だ(P38~39)

 チューリングテストの裏には、知能を使って発揮されている機能は、知能なしには実現できないはずという暗黙の仮定が含まれている。知能なしにできるのなら、チューリングテストは破綻する(P40)

 人工知能研究で難しいのは、人口知能に常識を持たせることだ。常識は純粋な論理からでは導き出せない(P47)

 我々の常識がうまく機能しているのは、日常的にある程度定型的な生活をしていて、その範囲で有効な命題のセットを自分で作り上げて保存しているからだ。古典的記号処理パラダイムで人口知能に常識を持たせようと思うと、人間がこの命題を明示的に書かねばならない。人間の常識は、自覚的、明示的に命題の形で列挙されているわけではないので難しかった(P48)

 他入力1出力の多数決システムをコンピュータの中で実現したのが、ニューラルネットワークだ。ニューラルネットワークは、脳の仕組みを模したシミュレータだ(P54)

 ニューラルネットワークは、局所解(山を下りるとき盆地を最適解としてしまうこと)に落ち込むことが多かった(P58~59)

 甘利俊一(東大名誉教授)は、深層学習の原型となるニューラルネットワークの研究をヒントンやホップフィールドに先駆けて行っていた。ホップフィールドモデルは、ほぼ同じものをあまりが先駆けて論文を発表していたし、バックプロパゲーション(ニューラルネットワーク学習の重要学修則)の研究も早かった(P60)

 

【第2章】

 ニューラルネットワークは、機械学習の手法の1つであり、ほかにスウォーミング(虫の群知能)、ランダムフォレスト(二分木のボーディング)等がある(P64)

 ニューラルネットワークは、汎化性能(学習していないデータセットに対してどれくらい性能を発揮できるか)で他の機械学習より劣っていた。過学習(与えられているデータセットから、その普遍性を超えて個別性を学習してしまうこと)が原因だ。汎化性能は、答えと関係のある特徴だけをうまく選択して学習する能力で、過学習は答えと関係のない特徴を学習してしまうこと(P65)

 深層学習では、学習データの量が重要だ。不十分な場合(データ数<パラメータ⇒100%の予測可能性を発揮)過学習が避けられない(P68)

 複雑なモデルと単純なモデルが存在した場合、自由にパラメータを変更していいなら、複雑なモデルのほうが説明能力が高く、過学習の原因となる。深層学習は複雑なモデルほど、膨大なデータさえあれば、過学習せず高度な汎用化性能を獲得する(P70~71)

 自然言語処理では、穴埋め問題(既存の文章の一部を隠して当てさせる)と2つの文章が続いているかどうかを判定する問題の2つを大量の文章で学習した後で、個別問題(長文読解等)を学習させると、非常に高い性能が発揮された(P76)

 漠然とした学習を大量に行った大規模なモデルを基盤モデル、追加の個別課題の学習を転移学習という。基盤モデルの成功の裏には、基盤モデルが単語の地図を高精度で作ることに成功したことにある。この地図は似た単語は近く、異なる単語は遠くに配置される。(P76)

 「彼は細い道を通っている」と「道を渡っている彼は細身だ」というときの彼、道、渡る、細いの出現はほぼ同じだが、細いという単語の使われ方が異なっている。基盤モデル作成学習では、前者は道に、後者は彼に関係しているという情報込みで、細いという単語の距離を保存できた。結果、「細い」は別文章「彼女は細い道を渡っている」の細いの近くに配置され、「道を渡っている‥」の「細」からは遠い場所に置かれる地図ができた(P77)

 言語の基盤モデルが明らかにしたことは、人工知能に学ばせるべきだったのは現実の情報ではなく、人間の脳というフィルターを通して言語化された情報だった(P79)

 我々が知的な作業だと思っていたものは知能なしでも実行可能なタスクだった(P81)

 スウォーミングは、最短経路探索等に力を発揮するアルゴリズムだ。この問題は、①多数のアリを放って好きなように回らせる、②最短距離で回ったアリの通ったところは次のアリがやや通りやすくなるようにしておく(フェロモンを置く)(P83)

 二分木はたくさんの条件から何かを判別するルールを作るもの。ランダムフォレストは、二分木をわざとたくさん作って、実際の判別のとき、多数決で結論を出すというシステムだ。過学習は複数の異なった二分木で同時に起こることが少ない(P84)

 

【第3章】

 ヒトの知能を人間の大脳の機能と定義する。脳というハードウェアから切り離された人間の知能は存在せず、パソコンのようにソフトとハードが分離可能という仮定は根拠薄弱だ(P86)

◎知能をこういう形で定義づけるのはどうかと思う。むしろ、人間の知能が映し出しているのは現実世界のシミュレーション結果だと言い切る方が適切ではなかろうか。AIは別の方法でシミュレーションしているし、それを知能かどうかで比較する必要もない。人が生きていく上で、どちらが最適なシミュレーション結果を出せるかを比較するだけでよい

◎このように定義づけした瞬間に、生成AIは知能を実現したのか(P96)という問いかけそのものが無意味になる。だって、脳じゃないものがシミュレートしたものは知能じゃないって定義づけしたんだもの

 設計図は最低限の記した仕様書にすぎず、実際に動作する機械を作るための試行錯誤の幅を限定してくれる手引きのようなものだ(P89)

 チューリングーノイマン系列のコンピュータのプロセスは1個1個順番に進められるので、前のプロセスが終わってからしか次のプロセスは開始されず、お互いに直接関係があるのは前後のプロセスだけだ。したがって、ハードウェアが保証しなくてはいけないのは現在のプロセスがあったとき、次のプロセスが実行されることだけであり、局所的な制限だけだ。対して、自動車は複雑な部品がリアルタイムで相互作用しているため、全ての組み合わせで問題がないことを確認するのは極めて困難だ(P89)

 通常の機械装置とコンピュータは、ハードとソフトの分離可能性という点で大きく異なり、コンピュータのほうが例外的な機械装置だ(P89)

 脳内の神経細胞やシナプスが多大なコストを支払ってまでもランダムな活動を維持し続けるのは、無駄でも不可避でもない。このランダムな活動こそが、我々の学習の実体であり、脳の情報処理の実体だ(寺前順之介)(P90~91)

 脳は、周囲の状況を脳内で再現するシミュレーターという機械装置だ。我々が見ている世界は世界そのものではなく、限られた情報から外界を再構成するための情報処理(フィルター)の帰結だ(P93)

 3次元の世界を網膜に映る2次元の映像で再現することは不可能だ。同じ2次元の映像を作るであろう無限の3次元の配置の中から、もっともありそうなものを選んでいるのが我々の視覚処理だ(P94)

 我々が話している相手に心があると思うのも、脳が世界をシミュレートしているからだ。脳が相手の発する声や表情をそのように解釈するように進化したからだ(P96)

 

【第4章】

 知能は特定の脳領域に依存するものではなく、頭頂前頭ネットワークとして知られる脳全体に分布した複数の領域が協働することで成り立っている。流動性知能(未知のものを理解)は前頭前皮質や頭頂領域、結晶性知能(既知の知識に依存)は側頭葉の皮質構造や厚さに関連し、白質の完全性が処理速度に重要な役割を発揮している(P103)

 脳の構造という観点では、近縁の類人猿と人間の脳は大差なく、構造的な観点から知能を理解することは無理がある(P103)

 知能は遺伝的要因の影響が大きい。双子研究によると知能の個人差の50~80%が遺伝によるものだ(P105)

 知能に関連する数百の遺伝子座や数千の遺伝子が特定されつつあるが、各対立遺伝子の効果は小さく、個々の変異と知能の関係は非常に弱い(P105)

 人間の知能が高いのは大脳皮質が大きいだけでなく、人間のニューロンは樹状突起が長いため、その分密度が低く、それぞれのニューロンが区画化され、1つ1つの計算能力が増している(仮説)(P108)

 ニューラルネットワークの起源はニューロンにあるとしても、ニューロンの集合体としての脳の動作原理は、ニューラルネットワークや深層学習のそれとは別物であり、その延長上にある深層学習や生成AIとは似て非なるものだ(P111)

 BERTは、グーグルが提案し、オープンソースで誰もが利用できる形で公開された。BERTは言語モデルではなく、そのままでは生成機能がなかった。BERTは基盤モデルに特化したソフトで、その後、ファインチューニングして使うものだった。BERTは、文章の途中の穴埋め問題を解いていたので、文章読解に優れていた(P111~112)

 

【第5章】

(拡散モデル:画像生成において現在主流)(P119~120)

①拡散:既存の画像に徐々にノイズを加え、最終的にノイズだけの画像に変換する

②脱ノイズ:プロセスを逆回転させて、徐々にノイズを消し、元の画像を再現する

③トレーニングを積み重ねて、ノイズから画像を作り出すスキルを身につける

④素材となるノイズを、機械学習が勘違いして、リアルな絵をつくる

 短い文章からハイクオリティのCG画像を生成したSoraは、核酸トランスフォーマー技術を使った。拡散モデルとLLMが作用しているトランスフォーマーを結合したハイブリッドモデルだ(P121~122)

 トランスフォーマーは、文章中の単語の関係の理解込みで単語の地図を作る機能を実装するアルゴリズムだ。そのキーとなる技術は、セルファテンションで、文を入力して穴埋め問題を解かせると、文中の単語の関係を理解してしまう(P122)

(非線形非平衡多自由度系)(P124~125)

①非線形とは、1+1が2にならない世界。現実世界では、複数のものが組み合わさった結果その総計以上の力が発揮されることは頻繁にある。ある意味現実世界を想定

②非平衡とは、平衡に達した性的な状態ではないこと。現実に即している

③多自由度系とは、たくさんの要素が集まっていること

 非線形非平衡多自由度系は、一種のダイナミカル(動力学:未来は現在と過去から決まっているという)モデルだ(P125)

 ライフゲームでは、グレーと白の2状態のマスしかない。それぞれのマスが次の状態でどうなるかは、マス自身の状態と周囲のマスの状態だけで決まる。例示のゲームで、第1世代と第5世代で、一部の領域で同じパターンが一致している(位置はずれている)ことから、周期4の周期運動が実現している(P126)

 巨大なパターンになるほど、挙動は複雑になるので、可能な動的パターンは未知のものがたくさんある。マスの状態は2状態しかないのに、実際にどんなパターンが出るかわからないという意味で非線形だし、周期運動があるので非平衡で、多数のマスがあるので多自由度系なのでライフゲームは簡単な非線形非平衡多自由度系だ(P126~127)

 現実を再現できるダイナミカルシステムは無限にあり、多数のダイナミカルモデルが同じ現実を作り出せる。我々の現実は、その多数の中のたまたま選ばれた1個にすぎない(普遍性:ユニバーサリティ)。現実と同じことが起きるには完全に現実と同じである必要はなく、キーとなる要素があれば本質的に同じことが起きるはずだ(P129~130)

 生成AIは、現実と見まごう会話や映像を作り出すが、それは内部に同じ現実を実現しているわけではなく、計算機で扱える程度の、現実をかなり正確に再現できるシミュレーターを作成しているに過ぎない(P131)

 LLMが学んでいるのは人間の言語だけだが、トークンの地図という形で仮想的な世界を構築している。入力された言語に対して適当な応答を作れるダイナミカルモデルだ(P136)

 1000の脳理論(ジェフ・ホーキングが提唱)とは、脳はいろいろなありうる可能性の中から現実を記述するのに適当なものを選んでいるに過ぎないという意味。脳も生成AIも、現実世界のシミュレーターという意味では等価だ(P136)

 分子生物学分野では、アミノ酸配列だけからタンパク質の構造を推定することが重要とされているが、AlphFoldはアミノ酸の配列からタンパク質の構造が理解できるようになれば、いろいろな研究ができる(P140~141)

 薬の多くは化合物で、タンパク質と結合することで薬効を発揮することが多い。疾患によっては原因タンパク質を作る遺伝子が特定されているものがある。この場合、標的タンパク質と結合する化合物を見つけるだけで創薬ができる(P141)

 これはアミノ酸の配列を与えたら、これと結合する化合物を探せという問題になるので、薬である化合物とその化合物が結合するタンパク質の組をたくさん用意すれば、機械学習で創薬につながる化合物を見つけ出すことができる(P141)

 

【第6章】

 大量のデータを要する生成AIに比べて人間の脳ははるかに少ないデータ量で学習できるという問題についての解決はついていない(P145)

①先天的バイアス説:基本的な部分は遺伝的に組み込んである⇔脳の可塑性

②メタ認知説:無意識下のメタ認知(自身の心の状態を認知する能力)が働いている

③制約条件説:脳型人工知能では別途個別の学習を済ませておくと効率が良くなる

④ベイズ統計説:ベイズ統計を脳が使えば少ないデータで簡単に学習可能(P145~153)

⑤人間が持っている世界モデルが生成AIのそれより現実に近いのでより少ない学習量で

世界を把握できるからだ(P175)

 

【第7章】

 古典力学の力=質量×加速度のうち、実際に存在するのは質量だけ。力と加速度は人間の脳が作り出した概念構築的な構成物だ

不確定性原理では運動量(質量×速度)と位置を十分な精度で同時に測定はできない

⇒ある位置でどんな速度を持っているか決してわからない

⇒加速度は定義できない⇒力=の式は成立しない(P160~162)

 現実を十分に正しく記述できる世界シミュレーターを実現したとしても、それが真実とは限らないし、真に正しくはないが現実を十分に正しく記述できる世界シミュレーターは、古典力学という形ですでに生命体の脳の中に実在している(P165~166)

 今の生成AIやLLMを見て、いずれ自我や意識が生まれると騒ぐのは危険だ。自我や意識は人間の世界シミュレーターとしての大脳の機能だ(P167)

 世界シミュレーターとしての知能の可能性は無限にあり、人間の脳と生成AIはそのうちの2つのリアライゼーションに過ぎない(P168)

 

【第8章】

 知能研究の方向性の1つは、脳を培養して知能デバイスを作ることだ(P176~177)

 ある種の生成AIは、密度関数法(物質中の電子の電荷分布を厳密に推定できる)が予測する電荷分布を、同法を経ずに予測できる。この延長上に量子力学をシミュレートできる世界シミュレーターが構築される可能性はゼロではない(P179)

 

【第9章】

 リザーバコンピューティングは、非線形非平衡多自由度系(リザーバ)に入力層と出力層をくっつけた構造をしている。ニューラルネットワークや深層学習とリザーバコンピューティングの差は、リザーバ部分のパラメータは決め打ちされており、学習によって更新しないことだ。入力層は非線形非平衡多自由度系にとっての外力(一種の外乱として作用)として扱われる。出力層はこのリザーバの適当な部分から状態を読み込んで変換し、出力する。実際に学習が行われるのは、リザーバから出力層への結合部分だけだ(P188~189)

 

【第10章】

 生成AIがロボットにもたらしたインパクトは、視覚の取得だ。工業用ロボットはカメラを持つが、それは同じ部品が同じ向きに流れてこなければ部品として認識できなかった。生成AIは、入力された画像データをもとに、特定の物体を選び出したり、的確な3次元配置をロボットに教える(P192~193)

 悪路での走行も同じ。平らな地面は歩けても、砂利、がれき散乱の坂道は歩けなかった(P194)

 

脳・心・人工知能(増補版) 甘利俊一著 2025年5月講談社刊 ブルーバックスB-2296

(目次)

増補版へのまえがき

旧版・はじめに

第1章 脳を宇宙誌からみよう

第2章 脳とはなんだろう

第3章 「理論」脳ではどう考えられてきたのか

第4章 数理で脳を紐解く(1) 神経興奮の力学と情報処理の仕組み

第5章 数理で脳を紐解く(2) 「神経学習」の理論とは

第6章 人工知能の歴史とこれから

第7章 心に迫ろう

第8章 現代AIの基本技術 深層回路網と生成AI

第9章 心と意識 AIは心を持つか

第10章 AI時代の文明と社会

旧版・おわりに

増補版の後書きに代えて

解説 数理脳科学が切り拓いた人口知能への道 合原一幸

 

【第1章】

 生命は自己複製をつくり出す奇妙な物質だ。同じものをつくり出すには、自分の構造を情報として持ち、これに依拠して自己を複製する。これまでの物質とエネルギーを支配する物理の法則に加えて、情報を考えないと生命は理解できない。とくに生命体がランダムな突然変異と適者生存の仕組みによって進化し発展していく様相は、物質に支えられているとはいえ、これ自体を生命特有の新しい法則、情報を利用した進化の法則と捉えることができる。宇宙を支配する物質とエネルギーの法則に、この段階で情報に関わる進化の法則が加わった(P22~23)

 動物は生き抜くため、餌を探すこと、自分が食われないこと、子孫繁栄のためのパートナー探しが重要だ。このため、外界から情報を獲得し、処理して、自分の行動を決める。これには外界の情報を受容する細胞(感覚器官)、外界に働きかける細胞(運動器官)、情報を処理し行動を決定する神経系が必要で、その中に記憶を保持する系も含まれる。動物は進化の法則に導かれて、脳(中枢神経系)を作るに至った(P24)

 人類は、社会生活を送り、生き延びるのに人々の協力を活用とした。共同で仕事をするためには、自分の意図を人に伝えなければならない。このため自分の意図を知る必要がある。こうして意識が生まれ、意図を伝える手段として言葉が発達した。言語は論理的な思考にも重要だ(P27)

 

【第2章】

(脳)(P32~34)

①脳幹:基本的な生命維持装置:呼吸、睡眠と覚醒を制御、情報の中継

②小脳:脳の10%。ニューロン数800億個で脳内最大。知覚と運動制御

③大脳:ニューロン数200億個。大脳基底核(運動計画と調整、動機づけ、強化学習)、海馬(記憶)、扁桃核(情動)、大脳皮質左脳(論理的思考、言語)右脳(知覚、感性)

(ニューロン)(P35~35)

①細胞体:ソーマ

②樹状突起:デンドライト。入力情報を受け取る

③軸索:アクソン。情報を出力

 1つのニューロンからの出力は1度に1個で、1本の軸索が途中で枝分かれし、何千個もの他のニューロンと結合し、同じ情報を伝える。情報は電子パルスの形。ニューロン内部は外部より70mV低電位だが、外部からの信号が電位上昇(興奮性結合)or下落(抑制性結合)に作用し、全体として興奮性情報が強ければ電位が上がる(P36)

 1個のニューロンでは、合計で20mV電位が上がると、ニューロン電位が突如100mV上昇(興奮)し、軸索から100mV、時間幅1ミリ秒の電気パルスが他のニューロンに伝わる(P36~37)

 情報はデジタル情報で担われているかにみえるが、発火率(発火回数/1秒)を用いたアナログ量と見ることもできる(P37)

 数多くのニューロンが協調して動作するから、脳内の情報はどのニューロンが発火しどれが沈黙しているかの発火のパターンとして表現され、このパターンがニューロンの相互作用によって時間とともに変化し発展していく。これが脳の情報処理だ(P37~38)

 脳の情報は、発火時期の微妙な時間差に担わせることもできる。脳では空間に分布した発火パターンのみならず、発火の時間差パターンも役割を担っており、興奮のリズミカルな振動が重要だ(P38)

 1つのパルスが電位をどのくらい上げ下げするか、その強さをシナプス効率orシナプス結合の強度という。脳が柔軟に働くのは、シナプス結合の強度を必要に応じて自動的に変えていく(シナプス可塑性)からだ。これが学習、記憶の基礎にある(P39)

 前のニューロンからシナプスに電気パルスが1つ到着すると、その軸索の末端から化学物質がこぼれだす。これがシナプスに作用して、標的ニューロンの電位を上下させる。この化学物質を受け取る受容体がシナプスに数種類あり、効率を変えたり、数が増減することで、シナプス可塑性が実現する(P39)

 これには受容体を構成する物質が関与するから、最終的にはDNAの遺伝情報を読んでアミノ酸を作り出して定着する。脳は、分子が活躍する分子機械だ(P39~40)

 我々の脳ではニューロン結合の情報(配線図)が遺伝情報よりずっと多いので、遺伝情報は結合の大まかな指示を与えるのみで、後はランダムに枝を伸ばしながら適当につながる。ニューロン数も必要以上に多い。その後自己組織化で、外界の情報や内部の情報を利用しながら、必要な配線を補い、使わない結合を不要として消していく(P40~41)

 脳の基本的な機能は、自己組織化が進んで完成する。脳の発達の過程には臨界期(感受性期)があり、ある時期にある特定の仕組みが発達する。視覚の線分の傾きや左右眼の協調による立体視等は生後4~6週目だ(P41~42)

 生まれたばかりの子は多様な母音に感受性を持っている。本人はしゃべれなくてもある言語環境の中で育つと、その言語に対する感受性が増す。言語の習得にも臨界期がある。第2言語を学習してバイリンガルになるのは、8~9歳までに習得した場合だが、大人になって外国語を習得して達人になった人は多い。脳は可塑性を持っている(P42)

 大脳皮質は、厚さ2~3㎜で6層に分かれ、各層に種々のニューロンが配置され、横方向の層内、厚み方向の層間でニューロンが結合している。シートを0.5㎜角で区切れば、これが厚さ方向に柱状に通ったコラムと呼ぶ単位で、コラムが1つの機能を担い、入力情報を内部で処理し、他の部位へと伝えていく(P43)

 入力情報の分析が進むと、連合野で他の関連情報と統合され、前頭野で総合的な判断や計画が立てられて、この情報が運動野へと運ばれる。ここで大脳基底核や小脳と協力しながら細かい運動計画ができあがり、運動が実行される(P43~44)

 脳は高度に分化し局在化した並列コンピュータに見えるが、多くの階層を情報が上がっていく階層コンピュータでもある。異なる領域の間にも密接な結合があるから、全体が密に働く超並列コンピュータでもある。フィードバックの結合も豊富なので、全体がダイナミックスで支配される動的並列コンピュータだ(P44~45)

 ニューロンは基本的には多数決素子だ。興奮性と抑制性の和をとる。それぞれにシナプスの効率を掛けた重み付きの和だ。これが一定値h(閾値)を超えれば、ニューロンが発火し、出力z=1を出す(P45)

 脳内のニューロン数は1000億(10¹¹)個で、これらが平均1000個の他のニューロンとつながっていれば、シナプス数は10¹⁴個になる(P45)

 本を読んでいて意味が分かると面白いとかつまらないとか感じる。これは大脳皮質が情報を分析して処理した結果出てくるもので、この最中、脳は情報をニューロンの興奮の時空間パターンとして蓄えている(作業記憶)(P47)

 大脳皮質には、知識等情報を理解するのに必要な記憶が収まっている。その意味で記憶は大脳皮質にある(P47)

 短期記憶、特に作業記憶は、脳の興奮の時空間パターンとして保持されるから、ニューロンの興奮を維持するためにエネルギーが必要だ。長く蓄えると脳はオーバーヒートする。短期記憶は活性化した興奮パターンからシナプスの強弱のパターンに変換されて静的に海馬で蓄えられるのでエネルギーは少量で済む(P47~48)

 海馬は空間や事物の関連をシナプス強度の形で記憶する。その後キーとなる目印がくれば、海馬の関連するニューロンがそれを手がかりに発火し、記憶が再生する。この海馬の仕組みはコンピュータ(CP)とは異なる。CPでは、記憶事項は0or1の情報ビットに変換され、あるがままの姿で記憶装置に蓄えられる。人間は、必要な情報を再生する仕掛けを記憶する(P49)

 海馬からの情報の転送は睡眠時に起こり、整理した情報を送り出している。転送時に実時間の倍速で興奮パターンの早回し再生が起こり、大脳皮質に送っている(P51)

 通常の活動時にも海馬と大脳皮質は会話をしている。瞬きは目を潤すためだが、その間に海馬から信号が出て情報転送が行われている。絶え間なく流れてくる視覚情報を途切れさせ、そこで一区切りをつけてまとめて情報の整理を行っている(P51)

 海馬は新しい情報を受け容れ記憶するので、常に新しいニューロンが生まれ、回路に組み込まれている(ニューロンの新生)(P52)

 学習は、神経回路網の動作がよくなるようにシナプスの効率を変化させる。教師あり学習では、ニューロンが動作したときに別のニューロンから信号が入って、こういう動きをすべきだったと教え、シナプス効率の改変が起こる。動作が正しければ何も起こらない。教師信号は、動作を実行している脳の部位とは異なる部位で作られる。自己組織化は教師なし学習で、外界によく現れる信号に対して、これを素早く的確に処理できるようになる(ヘブ学習)(P53~54)

 ニューロンが興奮したとき、これを興奮させるのに寄与したシナプスは増強する。自分が興奮したか否かが教師信号となって学習する。自分が興奮するか否かは、回路網が決定する。回路網が教師信号を作り出している(P54)

 大脳基底核では現段階での予想よりよい方向に局面が進んだ時=期待よりうまくいったとき、ドーパミンを多く出すニューロンがある。期待外れで少ないドーパミンが出る。これを手がかりにシナプスの効率を変える学習が行われる(P56)

 脳波は、安静時10Hzのα波、14Hzβのβ波、活動時50Hzのγ波、遅い6Hzのθ波がある。局所電位が高いときは付近のニューロンは興奮しやすく、低いときは興奮しにくい。多数のニューロンが作る局所電位は、その場所のニューロンの活動に影響を与える(P57)

 局所的な振動は、螺旋の中の位置で位相を表現できる。多次元時間(t,τ)=実時間t、振動の位相τ(タウ)。海馬が記憶を転移するため前頭野と情報交換するときは、両者のθ波が同期(位相がそろう)し、同じリズムの中で効率的に情報交換が進む(P59~60)

 ヒトの脳は安静時にも活動していて、かなりのエネルギーを使っている。瞑想時も同じ。安静時でも領野間で同期して活動する興奮パターンが生じ、それが時間とともに切り替わる。安静時の脳は休んでいるのではなく、次に来る刺激に備えて、脳内でそれに備える準備活動をしている(P60)

(脳の測定方法)(P61~66)

①細胞染色技術:神経解剖学

②微小電極:電気生理学

③化学物質が担う情報:神経化学

④遺伝子操作:分子生物学

⑤オプトジェネティクス:光遺伝学

 ニューロンが発火するにはエネルギー補給が必要であり、これは血流で運ばれる。ニューロンが興奮するときエネルギーを使い、血流中の酸素が消費され、酸化ヘモグロビンが還元ヘモグロビンに変わる。機能的磁気共鳴装置(fMRI)は、血流のヘモグロビンの酸化還元の度合いを見るため、強い回転磁場を外部から当てて、血流中のヘモグロビン分子の状態を探る(P68)

 理解するとはその動作の細部をの詳細を知ることではない。動作の基本原理を知り、何が来れば何が起こるかを予測することだ。それには脳の動作原理を理論的に解明することが必要だ(P72)

 

【第3章】

 私が考えたのと同じ確率的勾配降下法のアイデアが、15年ほど遅れて第2次ニューロブームのときに発表された(ラメルハート:誤差逆伝搬法)(P83)

 ニューロンのような素子を用いて実現できる情報処理の基本原則があり、生命は進化の過程で材料の制約と歴史的な宿命を負う中で、それまでに実現したものの上にかぶせる形で新しいものを作らねばならなかった(P94)

 原理を追究するにはモデルを使う。そこに情報処理の本質に関係した構造が含まれていれば、ここから原理を構築できる。脳が拠って立つ原理は1つではない。脳はミクロからマクロまで種々の階層を持ち、それぞれが順につながり、その機能も多様だ。だから多くの原理を複合して用いているに違いない(P94~95)

 

【第4章】

 多くの場合、脳は個々のニューロンに基礎を置きつつも、集団として情報を処理する。n個のニューロンでi番目のニューロンが時間tで興奮しているか否かをXi(t)で示す。Xi(t)=1ならi番目のニューロンは興奮している。ニューロンiからニューロンjへの結合の重みをWjiとする。すると、次の時間のニューロンkの状態(興奮or非興奮)は、ここへの入力信号の重み付き和で決まる(以後、式略)(P101)

 個々のニューロンの興奮ではなく、n個のニューロンのうち何割が興奮しているかを見る立場では、興奮しているニューロンの割合Xを回路の活動度とする。時間tでの活動度Xは、Xt=の式(略)で、これが次の時間にXt₊₁になっていくかを見る(P102~103)

 結合の重みの平均値をばらつき(分散)で補正した量Wとし、F関数(シグモイド関数)で示す。Sは外部から入る刺激。この式の結果をグラフ化すると、この曲線が45度の直線との交点が平衡状態だ。交点は3か所あり、活動度の低いところから安定~不安定~安定となる。外部入力により回路が活性化すると、不安定から高活動安定に至り、しばらく保持する。活動度が低いと低活動安定に至り安定する(P104~105)

 回路が保持できる安定状態が2つあり、どちらを保持するかは過去の履歴で決まる(双安定)双安定回路は、一度励起して高い活動状態に達すると、外部刺激が消えてもこれを保持できる=過去の刺激を記憶できる(作業記憶)(P105)

 安定に保持できる状態がk個あるとして、静止状態にある回路システムが外部の刺激によって励起されれば、どこか1つの安定の状態に落ち着いて、これを保持する。安定な状態がたくさんあれば、ダイナミックスによって中の1つが選ばれ、これを保持する作業記憶になる。この仕掛けが連想記憶のモデルだ(P109)

 外部からの刺激がトリガーになって興奮性の集団活動度が高まると、これに刺激されて抑制性の集団の活動度も高まる。これが興奮性集団を抑制し活動度を下げる。結果、抑制性集団への興奮入力が小さくなるから活動が弱まる。この繰り返しが起これば、神経集団は一定の周期で高い活動度と低い活動度の間を振動する(発振)(P110)

 神経集団のダイナミックスは多安定と発振だけでなく、時系列を生成し、カオス現象を引き起こすこともできる。状態は方程式に従って決定論的に推移するのに、カオスでは状態の遍歴はランダムに見える。方程式から少し先の将来の予測は易しいが、その先の予測は難しい。状態が少しずれただけで、そのずれが拡大し、将来は全く違った様相を呈するからだ(P111)

 これはランダムではなく、特殊な領域(カオスアトラクター)に収束して、その内部を経巡るが周期振動にはならない。カオスは非線形のダイナミックスによく現れ、脳はこれを活用している。多安定なシステムにカオスダイナミックスの効果を加えると、安定状態をカオスを利用して経巡り、次から次へと探すことができ、ランダムに探すより安定状態の探索を早くできる(P112)

 場の興奮は局在していて、ある場所xの周りに長さaの興奮が起こり、他の場所は興奮しないとする(局所興奮)。場のニューロン間の結合は、距離が小さいときは興奮性で正の結合、離れると抑制性で負だとする。近くのニューロン同士はともに興奮し、離れたニューロンは互いに抑制しようとする(相互抑制結合)(P115~116)

 興奮領域と非興奮領域の境界点は、受け取る刺激の挿話はゼロだ。これが正になれば興奮領域の境界が右に動く。負なら非興奮で境界は左に動く。この境界点が時間とともにどう動くかを調べる。場自体はどこも安定で、局在興奮波がある場所に立つとそれを持続的に保持する。この仕組みは作業記憶に適する(P116)

 外部から刺激が来れば、局在興奮波はこれに惹かれてダイナミックスによって刺激の一番強い場所で向かって動いていく(P117)

 発生は、1個の受精卵から出発して、一様な卵から種々の形態が生ずる。反応拡散系では、興奮と抑制が非線形で作用するとともに、拡散を通じて興奮が近くへ伝わる。神経場は拡散ではなく、神経結合で軸索を伸ばすことで興奮が伝わるため、反応拡散系より豊富な内容のパターン形成のダイナミックスを持っている。軸索が短いときは反応拡散系と同じになる(P117)

 海馬は神経興奮のままで情報を蓄えるのではなく、回路のシナプス結合の強弱に形を変えて蓄える。脳は情報の関連性に着目し、1つの情報要素が他の要素と関連している場合に、情報の結びつきをシナプス結合の形で強化する(P119)

 1つのパターンの中にA,B,Cの図柄があり全体として1つの絵になっている場合、A,B,Cは同一の絵の中に存在していることで互いに関連している。それぞれの情報を表現するニューロン(集団)間のシナプス結合を強くする。結果、Aに対応するニューロンが興奮すれば、B,Cも興奮する。A,B,Cのどれからもダイナミックス相互作用により、A,B,Cの組み合わせが復元できる(P120)

 X₁からX₁₀₀の100個のアイテムがあり、外部の情報はその中の数個の組み合わせだ。要素の組み合わせのパターンは多数あり、それらを記銘する場合、パターンを100次元のベクトルxと考える。このベクトルは2¹⁰⁰個あるが、外界に現れるのはこのうち特殊な組み合わせだけだ。その組み合わせのパターンだけ現れ、記憶する場合、Skだけ外界に現れる(P120~121)

 脳は、パターンの中のアイテム(ベクトルの成分)の関係性に着目する。アイテムはそれぞれがニューロン(集団)に担われている。脳は、各パターンの行列を重ね合わせて(平均値の行列にして)記銘する(P122)

 連想記憶の神経回路網は、初期状態X₀から始めて、想起のダイナミックスの方程式に従って状態Xtが推移していく。回路のダイナミックスが多安定で、想起したいパターンがすべて安定平衡状態にあれば、状態遷移によってどれか1つに落ち着く。どこに落ち着くかは初期状態による。初期状態がうまいヒントを含めば、そこから関連したパターンを想起できる(P122~123)

 たくさんのパターンを重ね合わせた場合、初期状態rに行列Wを掛ければ、2つのベクトルs₁とs₂の線形結合が得られ、2つのパターンが混じり合う。s₁がs₂と直交したベクトルであれば、係数c₂が0になるため、s₁だけが出てくる。直交とは内積0だが、直感的にはs₁とs₂が全然似てなければよい。初期状態rがs₁と似てなければ、s₂が答えとして取り出せる⇒重ね合わせによる混線が防げる(P124~125)

 k個のパターンでも、s₁‥skを混ぜ合わせてWを作る。初期値として与えるパターンrがs₁に関連していて、他のsjと直交していればsiが取り出せる。直交はふつう起こらないから、ダイナミックスで不要な係数cjを小さくし、一歩一歩siに近づけていく(P124)

 覚えたパターンが相互に直交していることは通常ないので、覚えるパターンを符号化して、直交に近いパターンに変換しておく。これにはパターンのランダムな変換が役に立つ。脳は、これを行っているようだ(P124)

 脳は覚えるべきパターンの関係性をシナプスの重みとして覚え、その関係性を重ね合わせる。思い出すときは、重ね合わせを解くが、探索のための初期パターンが覚えたもののどれかに関係していれば、これをヒントに安永平衡状態にダイナミックスでたどり着く。安定平衡状態が覚えたパターンだ(P124~125)

 初期値のヒントから正しいパターンをダイナミックスによって作り出す。脳は記憶を蓄えるのではなく、思い出すためのヒントから復元すべき情報を作り出す(P125)

 海馬は短期の記憶を実現する。大脳皮質から入る情報は、歯状回を介して海馬のCA3に入る。このとき入力パターンの疑似直交化が起こる。CA3ではニューロンが相互に結合し、連想記憶のダイナミックスが行われる。記憶パターン内部の相互の関係は、ここでシナプス荷重の重みとして蓄えられる(P125)

 ホップフィールドは、記憶すべきパターンをランダム化することによって、記憶容量を明らかにした(P127)

 連想記憶は、静的パターンの記憶だけでなく、動的パターンの系列=パターンの時系列を記憶できる(P128)

 

【第5章】

 パーセプトロンは、1950年代末提案のパターン認識を行う学習機械で深層学習(ディープラーニング)に進化した。入力信号を受けて、それがどのカテゴリーに属するかを識別分類する。訓練期間中は教師信号が入り機械が誤るたびに内部を調整する(P134)

 パーセプトロンは、多層の神経回路網のモデルで、情報が一方向に流れる。入力層のニューロンが入力信号を受けると次の中間層のニューロンが計算し答えを出す。答えを次の中間層のニューロンに渡し、最後の出力ニューロンが答えを出す(P134)

 入力信号xが入ったとき、この回路が出す出力yは、xと重みw₁‥wNの関数だ。これが教師信号の示す正解Ýと違ってた時、パーセプトロンの誤り=出力誤差eはyーÝだ。ここでパラメータ(シナプスの重み)の1つwiを少し変えて、これをwi+Δwiに増やすと誤差も少し変わる。これで誤差が減るなら、wiをΔwだけ変える。増えるなら反対方向-Δwiだけ変える(P136)

 具体的には、誤差の二乗を損失関数として、これをwiで微分すれば、どの方向にwiを変えれば誤差が減るかがわかる。この方法で、シナプスの重みを変えていけば、誤差の小さいところに落ち着く(P136)

 関数の勾配(関数をベクトルのパラメータで微分したもの)は、関数の値が増える方向を表すベクトルで、減らすにはパラメータを勾配とは逆の方向へ変えればよい。勾配は入力xに依存し、xはランダムに現れる。1回1回の学習では誤差が減るとは限らないが、全体としては望ましい方向へ変わっていく(確率的勾配降下学習法)(P137)

(多層パーセプトロンの確率的勾配降下学習法:むずいので略)(P138~140

 学習には確率的勾配降下学習法を用い、損失関数が減る方向にパラメータwを少しずつ変えていき、損失(誤差)が最低になるところを目指すが、関数の形が曲がり、周囲より低い谷になるところがいくつもあるとき(局所最適)が生じることがある(P143)

 学習を進めていくと、損失関数が減っていくが、ほとんど減らなくなる箇所がある(プラトー)(P144)

 学習で縮退の効果をなくすには、リーマン空間の立場に戻って、損失関数の勾配をリーマン空間の中で考えればよい(自然勾配学習法)(P147)

 脳の構造は進化してできたのだから、確率的勾配降下学習で実現できる構造を、別の仕方で、進化の過程で見出したのかもしれない(P148)

 今の状態から次の状態へ移って、その価値が予想通りならよいが、そうでなければ変えなければならない。予測の誤差を教師信号として使って、これが減る方向に学習を進めていけばよい(強化学習)(p152~153)

 大脳基底核には、ドーパミンを出すニューロンがある。期待以上によい結果をもらうとドーパミンがたくさん出るが、期待外れだと通常より分泌が減る。学習が進むにつれて、局面(状態)の評価が改善されて、それをもとにドーパミンが出るタイミングが前に移っていく(P154)

 多様な環境の情報構造を脳内に獲得しておくのが自己組織化(教師なし学習)だ。これは環境の情報を脳内にどう表現するかという、情報表現の学習だ。外界によく現れる信号に対して、これを処理しやすい表現を作っておけば、それがその後の教師あり学習に有利に働く(P155)

 脳内で階層が1つ上に進むと、両眼の情報を融合するニューロンが現れる。立体視も左目と右目に映った対応する物体の微妙な視差から、奥行きの知覚を作り上げる(P160)

 自然環境には、木、森、山、川、人、動物がいる。これらは輪郭線があり、まとまった形をなしている。このような環境で、多数のニューロンからなる脳が、外界の信号を受けて、ヘブ方式の自己組織化を行う。このとき感覚情報を受けて処理するニューロンは、よく出る信号の1つに特化し、それが現れたときに興奮し、その特徴のない信号には興奮しないようになる(P161)

 外界の事物は、網膜上は2次元の像で映り、脳の皮質も2次元だ。両者は対応が取れており、網膜と皮質の間には1対1の連続的な写像があって場の2次元トポロジーを保存する(レチノトピー)。レチノトピーも自己組織化で形成される(P162)

 網膜では近くにあるニューロンは同時発火することが多い。受け手のニューロンに入るときに、同時に発火する軸索は網膜上の近くのニューロンからきていることが多い。この情報を使って、同時に発火するニューロンの軸索は、視覚野で近くのニューロンに結合すればよい。神経場の自己組織化はこのように進む(P163)

 外界の情報は多次元(網膜に映った線分の角度等)なので、神経場の2次元では足りない。神経場の自己組織化方程式は、ブロック構造(ブロック状のコラム)に離散化し、離散化した領域が2次元に並んでレチノトピーを保つと同時に、ブロックの内部(厚み)に角度等他の情報を表現するニューロンを並べることができる(P163~164)

 海馬のグリッド細胞は、格子状に離れた位置できれいに並んでおり、グリッド構造というが、これも自己組織化で作られる(P164~165)

 入力信号が各シナプスに入り、その結果起こるニューロンの興奮には少しの時間的遅れがある。そこで入力より少し遅れて興奮したニューロンにシナプスの重みを増加し、入力より早く興奮したニューロンは重みを減らす(時間依存シナプス可塑性)このモデルでは、抑制の効果が自動的に組み込まれる(P165~166)

 ベクトルxがあるときに、その成分がほとんど0であるとき、スパースベクトル(疎ベクトル)といい、0でないものを活性化した成分という。脳には極めて多数のニューロンがあり、ある課題を遂行するのに活動するのは少しのニューロンだけだ。ニューロンの活動(ニューロン間の結合)をベクトルで表せばスパース(疎)となる(P166~167)

 我々が知りたいのはm個の成分を持つ信号であるとき、これをベクトルsで表す。これが要因となって結果xが生じるのだが、我々は結果から要因sを推測た。観測できるのは結果x=要因の線形結合(要因の重み付き和)だ。重みの係数をベクトルで書いてaとする。条件を変えてたくさんの測定を行い、測定ごとに異なる重み係数ベクトルaを用いる。測定数n個をまとめてn次元のベクトルxで表す。このときi番目の測定値xiは、既知の係数ベクトルaiとsの内積になる。結合の係数を並べれば、n行m列の行列Aとなり、要因sと測定値xを結ぶ式は、行列ーベクトルの方程式x=Asとなる(P167)

 測定には誤差が伴うから、式の最後に誤差ベクトルεを足す。xからsを求めるには、方程式を解くが、sがスパースのときはその中で活性化している成分はk個だ。kが小さければ、測定数nがmよりずっと小さいk log m程度でも多くの解が求まる(P168~169)

 

【第6章】

 パーセプトロンは、入力に応じて答えを出すシステムであるから、教師信号ありの教師あり学習をする。その前に、自己組織化学習をしておくのが、深層学習の斬新なアイデアだった(P186)

 画像学習では,1000万枚の入力画像を用意し、それらを神経回路がいち早く抽出し、階層が上がるにつれてこれらを組み合わせながら、高次の特徴である概念のようなものを作り上げておけば、その後の教師あり学習が容易になる(P186~187)

 脳の場合も、幼児期からの自己組織化で特徴を把握する仕組みを作り上げる。進化の過程で獲得した遺伝情報も、回路の形成に関与している。自己組織化学習の基本はヘブ型だが、人工知能はそこにいろいろな工夫を加える自由度がある(P187~188)

 上の層のニューロンの個数を絞って少なくする。結果、無駄を省いて圧縮する。必要な特徴だけが抽出され、概念化したものが現れる(P187)

 深層学習は時間とともに事態が変化していく動的な問題にも対応できる。これにはフィードバック結合を持つ神経回路=リカーレント(再帰)結合のニューラルネットワークを使う。これは、時間が進むにつれて興奮のパターンを次から次へと発展させて計算を進める。

 

【第7章】

 実験によれば、4歳ごろになると他人の心が分かり、相手の立場に立って物事を理解できるようになる(P204)

 心は脳の中で葛藤を経て定まる。神経興奮のダイナミックスが働いて、脳の中で多くの部位が覇権を競い、その結果で自分の心が決まる(P204)

(心の葛藤のゲーム)(P204~209)

①囚人のジレンマ

②究極のゲーム:自分が配分者になるゲーム

③割引ゲーム:割引率の問題

 各ゲームでは脳の多くの部位が関係し、その間での情報交換と競合が起こり、ニューロン集団間の興奮のダイナミックスが始まる。結果、どこが優勢になるかで最終的な決定が下され、心が定まる(P210)

 自分が今何を考え何をしようとしているかを知ることが意識だ。意識は人類が社会で共同作業をする中で発生した。共同で作業するには、自分が何をするつもりかを人に伝えなければならない。それには自分が何をするつもりかを自分が知らなければならない。これが意識の萌芽だ(P212)

 自分の意図を人に伝える手段として言語が発達した。自分の考えを原語で表現できるようになれば、そこに論理的な操作が加えられる。事態がどのように推移していくかを脳内でシミュレーションできる(P212)

 数学的帰納法のように、有限の手段で無限の話ができる。このような仕組みを入れ子構造を持つ再帰的な推論という(P212)

 人の脳は、無意識で膨大な情報を処理している。意識の上るのはほんの一角だ。視覚、聴覚、触角等の感覚器官から情報を受け取り、無用なものは意識の上らせることなく、直ちに処理する。意識に上らない行動を司るものをゾンビシステムという(P213)

 意識は脳の特定の部位が担うものではなく、多くの部位が協働して行う集団行動の結果として生じる(P213)

 脳内の広範囲の情報を統合すると意識が生ずるのであれば、統合の度合いで意識の強さを測ろうとするのが意識の統合情報理論だ(P214)

 人は自分が選んだ行動を後付けで合理化して、後から自分で納得させる。結果、時に因果関係に反して、なかった要因まで存在したかのように錯覚する(P220)

 意識に上る推論のプロセスは、先読みで出した結果を再考できる。この段階で、後付けで合理化して推論を補強もできる。自由意志はあるかという問題は、それ自体面白いが、答えのない問題だ。ミクロの物質レベルの因果律で考えれば、決定論的だ(P221)

 

【第8章】

 P個のパラメータを並べたθ(P次元の空間)をSとし、関数f(x)のすべてがなす空間をFとする。深層回路網が実現する関数f(x,θ)は、特別な形をしたものだけで、無限大の次元を持つFの中ではP次元の部分空間をなす(P238)

 Sの像I(S)は、Fの中で折れ曲がっており、特異点が普遍的に存在し、全体を網の目のように覆っている。これで深層回路網の学習時に生ずる汎化誤差解析ができる(P238~239)

 2つの異なるパラメータθとθ’を持つ深層回路網に対して、もしf(x,θ)=f(x,θ’)がどのxに対しても成立していれば、θとθ’は見かけが違ってもその実現する関数は同じもの(θとθ’は同値)だ。同値のものを1つに(圧縮)すると特異点になる。パラメータ空間Sは、至る所に同値なものがあって、これが部分空間をなしてつながっている(P239~240)

 ランダムに決めた初期値θを多数作って集めると、それらは確率法則に従っているから偏りがある。wijの平均が0だどすると、その1個1個は0からランダムにずれているが、多数のニューロンに対してその平均をとると、大数の法則により0に極めて近くなる。だからランダムに決めたθを沢山集めても、それらはSの中に満遍なく分布しているのではなく、極めて偏った一部分に集まってくる。確率分布を変えれば、2つの異なる分布に従って作ったθの集まりにはほとんど重なりがない(P241~242)

 ランダムに決めた層状回路が役割を果たす(神経接核理論)かってなランダム初期値θを基にして、そのすぐ近くを探せばいくらでもよい近似でf(x)を実現できるθが見つかる。このことがPを大きくしさえすれば言える。これは普遍近似定理より強力だ。ある法則に従うランダムな回路は、Sの極めて偏った部分にしかないからだ(P242)

 我々はパラメータ空間SはP次元の空間と考えていたが、それは特殊構造の網の目に覆われて、同値なものを1つにまとめ至る所がくびれてつながった空間だった(P243)

 深層回路網は、特異点が網の目のように至る所を覆っている、極めて特殊な空間をなしている(P243)

 創発とは、あるシステムが巨大化すると、小さなシステムにはなかった新しい性質が現れることだ。気体の粒子の個数が巨大になると、温度、圧力等の集団的な量が現れ、それらの間の関係が新しく生じる。深層回路網で何が創発したかはわからない。理論が遅れをとっている(P244~245)

 強化学習とは、手順を追って局面を動かして、最後に最適な結果を得る仕組みの学習だ。各手順でアクション(行動)を1つ選び実行する。これで局面が変化する。この手順を繰り返して得られる最後の局面が最良になる方策を学習する。各局面に価値を定め、方策を実行することで価値の高い局面に移行し、最後に最高の価値の局面を得るようにする。このために、各局面の価値を評価する価値観数を、最終結果から深層学習によって作る(P246)

 拡散生成回路網は、自然画像の各画素に雑音を加えて画像をぼかしていく(拡散過程)深層回路網を使って、ぼやけた画像から雑音を少しずつ除去して、元の鮮明な画像を復元する。この過程で元の画像の確率的な構造を利用し、プロンプト(指示)を与えると、それに沿った確率計算を行い、指示通りの画像を生成する(P247~248)

 文章は、時間を追って現れる単語の系列パターンだ。文章中の単語の列を空間的に並んだパターンと見る。各単語を高次元のベクトル空間の一点と見て、各単語に対してベクトル演算をする。男ー女≒王ー女王のはずだから、王ー男+女⇒女王が出てくる。東京ー日本+フランス⇒パリも近似的に成立する(P249~250)

 この単語の列の次に出る単語を類推する。トランスフォーマー(深層回路網)を作り、層が上がるごとにより抽象的な表現をとる構造に変換する。次に来るべき単語の類推には、連想記憶の仕組みを一般化したものを使う。連想すべきパターンを複数個掲げ、それらの信頼性の度合いを計算する(一般化連想システム)(P250)

 抽象空間での表現を使って生成した単語列は、連想記憶により次の単語の候補を獲得する。これを現実の単語に逆変換する深層回路網を使って、元の言葉の列に直す⇒文章の生成(P250~251)

 

【第9章】

 物事の背後にある普遍的な仕組みを見抜いて納得したとき、我々は理解したと感じる。日常会話では、言葉が何気なく次から次へと出てくる。出た後で話した言葉を認識し、ときに間違いがあり、訂正する(ポストディクション)(P258~259)

 

【第10章】

 人間は働くことと遊ぶことが好きだ(P266)

 AIがさらに普及するには、大規模AIだけでなく、ダウンサイズした、小規模ながらも高性能のAIが広がらなければならない(P268)