ステージ4の緩和ケア医が実践するがんを悪化させない試み 山崎章郎著 2022年6月新潮社刊

(目次)

はじめに

第1章 やはりその日はやって来た

第2章 ステージ4の固形がんに対する標準治療の現実

第3章 「がん共存療法」の着想

第4章 DE糖質制限ケトン食

第5章 次なる戦略

第6章 「がん共存療法」の見直し

第7章 臨床試験に臨みたい

 

【第1章】

(経過)(P16~31)

2018年6月、下腹部を中心に腹鳴が頻回になり、大腸がんを確信

2018年9月半ば、検査

2018年11月初旬、手術

2018年11月下旬、摘出標本の病理検査結果。切除したリンパ節に転移があり、ステージ3の大腸がんであることが判明。ステージ3の標準治療である再発予防目的の経口抗がん剤ゼローダ服用勧奨。服用により5年生存率が上昇(70%⇒80%)

2018年12月初、ゼローダ服用開始。2クール目から副作用出現(食欲低下、嘔気、手足症候群)4クール終了時点でギブアップ(手足症候群悪化)1カ月休み、ゼローダ再開(減薬)

2019年5月下旬、8クール予定時の外来で、両側の肺に多発転移(1センチ前後)を告知⇒ステージ4に移行。次の段階の抗がん剤治療が標準治療。鎖骨下静脈からの点滴で抗がん剤投与を告知

2019年6月下旬、「免疫療法」を受けるクリニックを受診。従来の免疫療法に免疫チェックポイント阻害剤を併用。保険適用外のため高額(P51)

2019年8月半ば、「免疫療法」を中止決定(P52)

2019年9月初め、CT検査で転移病巣は縮小傾向であり、治療効果が認められると説明があったが、治療終了を申出(P53)

2019年9月中旬、EPAたっぷり糖質制限ケトン食を開始。糖質30g/日以下、MCTオイル40g/日を目標(P89,95)

2019年10月初、主治医診察。ビタミンD強化EPAたっぷり糖質制限ケトン食(=DE糖質制限ケトン食)に進化(P90,P106~107)

2019年12月中旬、CT検査。肺の多発転移病巣はほぼ消失。残っている転移病巣も縮小(P108~109)

2020年4月初、CT検査。残存していた転移病巣中最大のものが増大傾向。他の転移病巣はそのまま(P111~112)

2020年4月末、DE糖質制限ケトン食をベースにクエン酸療法を開始(P121)

2020年7月初、CT検査。4月に増大していた転移病巣が縮小。他の小さな転移病巣は不変(P122)

2020年9月半ば、CT検査。縮小していた転移病巣がやや増大(P124)

2020年10月初、クエン酸摂取を夕食後に変更(P125)

2020年12月初旬、CT検査。全体として前回CTと同じ(SD=安定している状態)(P130)

2021年2月、丸山ワクチンの有償治験に参加(P135)

2021年4月初、CT検査。転移病巣の一部が増大(P139)

2021年4月中旬、メトホルミンの服用を夕食前(従前は夕食後)に変更、昼食前にも服用(追加)(P145)

2021年5月半ば、少量抗がん剤治療開始(イリノテカン10mg=標準治療の1/15)(P154)

2021年7月初め、CT検査。一部縮小傾向(P155)

2021年8月31日、夕刻から腹痛。9月1日深夜から右下腹部中心の痛みに変化。急性虫垂炎の悪化に伴う腹膜炎との診断(大腸がん手術以降2回、急性虫垂炎の症状があり経口抗生物質服用で抑え込んでいた)(P173)

2021年10月下旬、虫垂切除手術のため入院。繰り返された虫垂炎のため腹腔内の癒着が酷かったため、腹腔鏡手術から開腹手術に変更(P175)

2022年1月半ば、CT検査。SD(P188)

2022年4月半ば、CT検査。縮小状態維持(P188)

 

【第2章】

 奏効率が20%前後で、その抗がん剤は有効とされる(P39)

 奏効率=著効率+有効率

 著効:がんが消失

 有効:がんが半分以下に縮小

 オプジーポ(免疫チェックポイント阻害剤)の奏効率は従来の抗がん剤と同等。生存期間の延長効果は2.8カ月。期間限定の延命チャンスが出現したということ(P40)

 私(著者)の17年間の在宅緩和ケアの経験では、通院が困難になるほど病状が悪化し、抗がん剤治療は終了と言われて、在宅療養を開始した患者さんの約1/4は2週間以内に、半数は1か月以内に最期を迎えている。残り半数の中には稀ではなく在宅医療開始後、だんだん元気になる人がいる。抗がん剤治療を中止したことで、副作用が軽減した(P42~43)

 ステージ4の固形がんについては、エビデンスに基づいた抗がん剤治療が最善とされる。それは治療を提供する医師から見た「最善」であり、限られた時間を生きる患者にとっては最善とは限らない(P54~55)

 

【第3章】(略)

【第4章】

(参考図書)(P79)

宗田哲男著:ケトン体が人類を救う~糖質制限でなぜ健康になるのか

古川健司著:ケトン食ががんを消す

福田一典著:ブドウ糖を絶てばがん細胞は死滅する~今あるがんが消えていく「中鎖脂    

      肪ケトン食」

古川健司著:ビタミンDとケトン食 最強のがん治療(P105)

福田一典著:クエン酸ががんを消す~代謝をターゲットにしたがん治療の効力(P115)

高橋豊著:個々の適量による化学療法~がん休眠療法「緩和ケア」誌2019年6月増刊号  (P146)

三好立著:少量抗がん剤治療~”がんを生きる”ための、もう一つの抗がん剤治療(P149)

 

 妊娠初期には絨毛から、中期~後期には胎盤となる器官から高濃度のケトン体が検出される。胎児には、絨毛や胎盤から臍帯を通してケトン体が送られている。胎盤の組織内や臍帯血の血糖値は低値である。新生児も胎児同様、血中ケトン体濃度は高値で、血糖値は低値である(宗田医師の発見)(P80~81)

 胎児や新生児は糖質よりもケトン体で成長しており、糖質に変わり得る安全・安心なエネルギー源である(宗田医師の主張)(P81)

 糖尿病性ケトアシドーシスは、意識障害を伴う生命に危険な病態とされるが、その時のケトン体濃度は高くないこと、本当の理由は急激で過剰な糖質摂取を制御できないインスリンの分泌不能が病気の本質である。ケトン体には毒性がなく強い酸でもない(宗田医師の主張)(P79~81)

糖質制限ケトン食の根拠)(P83~85)

①がん細胞はブドウ糖を主な栄養源としている。糖質の多い食事はブドウ糖の重要な供給源となる

②糖質の摂取により追加的なインスリンが分泌される

インスリンには細胞の増殖と代謝を促進する作用があるため、インスリンはがん細胞の増殖も促進する

IGFー1(インスリン様成長因子ー1insulin-like growth factor-1)は、がん細胞の増殖を促進する。インスリンIGF-1の活性を高める

インスリンの追加分泌により、インスリンIGF-1の両者により、がん細胞の増殖が促進される

⑥正常細胞は、ケトン体をエネルギー源にできる。赤血球と肝臓はケトン体を利用できないが糖新生により供給可能

⑦ケトン体には抗がん効果があり、その抗がん効果は、血中ケトン体値が1000μm/l(=1.0mmol/l)(基準値28~120μm/l)を超えるとがんが縮小or消滅or腫瘍マーカー値が下がる(米アルバート・アインシュタイン医科大学の臨床研究結果)

抗がん剤はがん幹細胞への効果は低いが、糖質制限は攻略の手段になり得る

EPAの抗がん効果)(古川医師の主張)(P87) 

①血管新生を抑制、がん細胞の転移を抑制、がん細胞のアポトーシスを誘導する

②炎症反応を抑えることでがんの進行を抑制する

③がん細胞の細胞膜を柔らかくし、がんの悪性度を軽減する(抗がん剤を聞きやすくするの意?)

 古川医師は、EPAを4g/日以上接種を提唱している。イワシ、サバの水煮缶には3~5g含まれる(P87)

 MCTオイルは「日清MCTオイル100%」を利用。、摂取目安料2g/日とされているが、がん治療目的のため40g摂取。短時間で大量摂取により腹痛を生じる(P95)

 血糖値測定のため「FreeStyleリブレ・センサー」「FreeStyleリブレ・リーダー」を使用。センサーは24時間連続して血糖値変動をモニター、14日間稼働。リーダーは充電式、手のひらサイズ、軽量。ネット通販で各5000~7500円。食事のたびに、食直前1回、食後30分間隔で4回、計測(P98~99)

 ケトン体は、アセトン(呼気中に排出)、アセト酢酸(尿中に排出)、β-ヒドロキシ酪酸(アセト酢酸に変化して尿中に排出)の総称。β-ヒドロキシ酪酸血中濃度は、「FreeStyleリブレ・リーダー」で計測可能。著者の場合、2.0~3.0mmol/lの数字が示されたが、古川医師が、「がん細胞が縮小・消失する目安として示した1000μm/l」を超えている(P100~101)

◎β-ヒドロキシ酪酸(BHB)には抗がん効果がある旨の研究成果がある。BHBを含んだ培養液においたがん細胞の塊が有意に小さくなっていた。通常食を与えると同時にBHBを飲ませたところ、ケトン食を与えたマウスと同様に腫瘍の数が減っていた。つまりBHBの単独投与でがん抑制効果がある。ヒトの細胞でも試験管レベルでは、BHBのがん抑制効果が認められた。もしかしたらBHBをサプリメントで摂ることで、がん治療をサポートできるようになるかもしれない(佐藤典宏外科医:がん情報チャンネル)

 尿中ケトン体測定は、「ウリエース-Db」(スティック状の検査用紙)。これを尿中に1秒つけて20秒後に判定。ケトン体がマイナス0から高濃度の3までの4段階で表示。毎回3と判定された(P102)

 終末期がんを含め、多くのがん患者の血中ビタミンD濃度が正常値(30~100ng/ml)よりかなり低いことを踏まえ、がん治療のためには適切なビタミンD濃度とケトン食の両方が必要(古川医師提唱の「免疫栄養ケトン食」には限界があったとしてビタミンDの追加を提案)(P105)

(ビタミンD(60ng/ml)の抗がん効果)(古川医師の主張)(P106)

①がん細胞の増殖抑制

②がん細胞のアポトーシスの促進

③がん細胞の血管新生の抑制

 著者の血中ビタミンD濃度は33ng/mlで正常値下限でがん治療には不足だったので、サプリメント(60錠600円)のビタミンDを5錠/日服用で70ng/mlを超えるようになった(P106)

 

【第5章】

クエン酸療法)(福田医師の主張)(P116~118)

①経口摂取したクエン酸も細胞内に取り込まれるため、細胞内のクエン酸濃度が過剰になる⇒細胞がエネルギー産生を抑制⇒エネルギー源であるブドウ糖の細胞内への取り込みを抑制⇒がん細胞によるブドウ糖の取り込みが抑制される⇒がん細胞を弱らせる

②がん細胞の無制限の増殖、周囲組織への浸潤、遠隔臓器への転移を抑制

③T細胞の動員と活性化を促進

IGF-1受容体の活性化を阻害

⑤がん細胞が増殖する際の、DNAの遺伝情報の伝達を抑制

 福田医師の推奨方法は、10~15g/日のクエン酸を500mlの水に溶かして3回に分けて毎食後飲む(P118)

クエン酸療法の注意点)(P119~120)

クエン酸は、がん細胞の細胞膜を構成する脂肪酸合成の原料となるので、クエン酸からの脂肪酸合成を阻害するメトホルミンの併用が必要

クエン酸は、がん細胞増殖に必要なコレステロールの原料になる。高コレステロール血症治療薬シンバスタチンはコレステロール産生を抑制するので、併用が必要

③がん細胞は、コレステロール増加酵素の産生を増やすので、δ-トコトリエノール(ビタミンEの一種)の併用が必要

④シンバスタチンとδ-トコトリエノールの服用により体内生産が阻害されるコエンザイムQ10をサプリで補う

 丸山ワクチンは、結核に罹患しているがん患者はがんの進行が遅いことに着目して開発、使用され始めたワクチン。エビデンスはない。有償治験として、1クール20回分、(1日おきの注射で40日分)で9000円負担。皮下注射が難点(P134)

 泌尿器系のがんで、肝臓、肺への多発転移のある患者(ステージ4:60歳代、余命半年)は、痛みは鎮痛剤でコントロールされていたが、在宅治療後4カ月時点で体調良好CT検査で大元のがんをはじめ、肝臓、肺の転移病巣のいずれも退縮していた。糖尿病治療薬スーグラが抗がん効果を発揮した可能性がある(元主治医の見解)

 

【第6章】

 メトホルミンの服用時間帯を食事前に変更した理由は、食前に服用することで、より確実に食後血糖値の上昇を抑え、インスリンの追加分泌を抑えることを企図したため。糖質制限しても体に必要なブドウ糖は、たんぱく質、脂肪を材料として、糖新生という形で肝臓で産生されており、がん細胞が必要とするブドウ糖は、いつでも一定量は供給されているため、糖質制限が、がん細胞が必要とするブドウ糖をストップするという目的であれば、その目的は果たせないことが明らかになったから(P144~145)

 メトホルミンは、インスリンの追加分泌の抑制及び、クエン酸療法によるがんの脂肪酸合成の阻害の2つの役割で、がんの増殖を抑制することになる(P145)

◎メトホルミンは、「膵β細胞のインスリン分泌を介することなく血糖降下作用を示す。血糖降下作用の主な機序として、(1)肝での糖新生抑制、(2)末梢での糖利用促進、(3)腸管からのグルコース吸収抑制」(医療用医薬品情報)とされている。

 がん休眠療法(高橋医師)とは、できる限り副作用が軽度で済むように、個々人に合う適量を求め、それを継続的に使用することで「無憎悪生存期間」の延長を目指す治療法。標準治療では、最大耐用量(新薬承認の第Ⅰ相臨床試験で明らかにされている量)より一段階少ない量が、一律に(体表面積応じて)投与されている。(P146~149)

 少量抗がん剤治療(三好立医師:銀座並木通りクリニック)とは、がん休眠療法と同様のコンセプトに基づく治療法。標準治療に使用される抗がん剤の1/5~1/20を処方するので自費診療となる。がん休眠療法では、適応通りの抗がん剤のみを使用しているので公的医療保険の対象になっている(P152~153)

 抗がん剤の毒性を調べる第Ⅰ相臨床試験では、その最大耐用量に達する前に、治療効果の出る患者が少なからずいる。同試験の目的は最大耐用量を調べることであるため、副作用が出ない程度の量で効果があったとしても、そこに注意が払われなかった(P150)

 「Ⅳ期がんに対する少量抗がん剤治療の検討」(第54回日本癌治療学会学術集会のシンポジウム(2016年開催)で三好医師が発表)において、固形がんの治療効果を表すSD(安定している状態)が2か月以上続いた患者は、308名中148名(48%)、がんが消えた患者2名、縮小した患者27名だったとの報告がある(P150~151)

 

【第7章】(略)