冒険の書 孫泰藏著 2023年2月日経BP刊

(目次)

はじめに

父からの手紙

第1章 解き放とう 学校ってなんだ?

第2章 秘密を解き明かそう なんで学校に行くんだっけ?

第3章 考えを口に出そう なぜ大人は勉強しろっていうの?

第4章 探究しよう 好きなことだけしてなぜいけないの?

第5章 学びほぐそう じゃあ、これからどうすればいいの?

おわりに 新しい冒険へ

 

※期待外れだった。第1章を読んだところで読む気が失せてしまった。著者の主張に異存はない。ただ、興味がわかない。それぞれのエピソードは知らないことだらけだ。でもどうでもいい。根幹の主張らしき部分については、当然のことすぎて感動がない。第2章以下を読めば、魅力的な部分が出てくるのかもしれないが、正直、うんざりした。なので、これ以上読むのをやめる。

がんに効く生活 ダヴィド・S・シュレベール著 2009年2月日本放送出版会刊

(目次)

本書について

はじめに

マイストーリー1 突然の死の宣告

Ⅰ 統計や数字ではわからない、本当の「余命」

マイストーリー2 告知と新たな人生のスタート

Ⅱ がんの弱点を知る

 1 体の見張り番「免疫細胞」とがん

 2 炎症がもたらすふたつの顔

 3 がんの栄養源を断つ

マイストーリー3 がんを打ち明ける

Ⅲ がんに効く生活~環境を知る

 1 がんは流行病?

 2 がんを育てる食物~精白糖、精白小麦粉、植物油

 3 地球が病んでいては健康に暮らせない

マイストーリー4 再発の絶望の中で

Ⅳ がんに効く生活~効果のある食物

 1 抗がん効果のある食物~緑茶、大豆、ターメリックほか

 2 なぜ、食事療法が治療に取り入れられないのか?

 付録 抗がん効果のある食物リスト

Ⅴ がんに効く生活~心の力

 1 心と体の深い関係~がんになりやすい性格?

 2 過去の傷を癒す

 3 生命力との絆を結び直す

マイストーリー5 恐怖を克服する

Ⅵ がんに効く生活~運動

マイストーリー6 成功の鍵は、昨日までの自分を「変える」こと

Ⅶ まとめ~作らない、育てない、あきらめない

謝辞

監訳者ことば

訳者あとがき

 

【本書について】

 本書は、がんの進行を予防し、従来の西洋医学による治療法(外科治療、放射線治療、化学療法)の効果を促進するような、人間の体が本来持っている自然治癒力について述べたものである(P3)

 

【はじめに】

 私たちは誰でも、体内にがん細胞の芽をもっているだけでなく、体自体がその芽ががんに育つプロセスを妨げるようにつくられている。それを活用するかしないかは、本人次第である(P13)

 がんになる一番の原因は遺伝子ではなく生活習慣である。遺伝子が関係しているのは、がんの死亡率の15%以下にすぎない。今日、がんを治すことができる代替療法はひとつもない。外科手術、化学療法、放射線治療、免疫療法、近い将来は遺伝子治療といった西洋医学によって開発された技術に頼らずして、がんを治療することは考えられない(P14~15)

 

【マイストーリー1】

 被験者の一人が突然約束をキャンセルしたため、著者が代わりにMRI検査を受けたところ、脳腫瘍が見つかった(P22~25)

 

【Ⅰ】

 1982年7月、スティーブン・ジェイ・グールド(ハーバード大動物学教授)は40歳で腹膜中皮腫アスベスト吸入が原因とされる珍しいがん。不治の病)と診断された。この病気の診断が下された患者の余命の中央値は8カ月だった。しかし、多様性こそが自然の本質である。自然界において、中央値は抽象的であり、人間が個々のケースの多様さに対して無理に当てはめている「法則」にすぎない。グールドという個体にとって、中央値から多様な広がりを見せる可能性の中で、自分がどのあたりに位置しているのかが問題だった。余命グラフはでは、患者の半数がグラフの左半分=余命0~8カ月の部分に集中している。右半分は長いしっぽ(ロングテール)の形をしている。実際に、少数だが、この病気にかかりながら何年も生きている人がいる。20年後、グールドは、別の病気で亡くなった(P28~31)

 統計は情報にすぎず宣告ではない。がんにかかったとき目標とすべきは、グラフの曲線の尻尾の先端に達するために、自分にできる限りのチャンスを与えることだ(P31)

 

【マイストーリー2】

 私たちはみな自分が誰かの役に立っていると感じることを必要としている。それは心の栄養素ともいえよう。この栄養素が不足すると、死が近づけば近づくほど、心の痛みは耐え難いものになる。死の恐怖と呼ばれるものの大半が、自分の人生には意味がなかったのではないかという不安、自分は無駄に生きたのではないかという不安、自分の存在を誰も気にかけてくれないのではないかという不安からきている(P48)

 

【Ⅱ】

 ナチュラルキラー細胞(NK細胞)は、がん細胞のような異物の存在を探知すると、その周りに集まってきて、自分の細胞膜をがん細胞に接触させ、分泌物がつまった小胞をがん細胞に向けて発射する。その分泌物の一つパーフォリン分子はがん細胞に穴を開け、グランザイムはがん細胞にプログラミングされた自己破壊のメカニズムを活性化させる。結果、がん細胞の核が砕け、細胞の構造全体が崩壊する。それをマクロファージが消化する(P62~63)

 乳がんと診断された女性から採取された腫瘍の断片が患者本人のNK細胞とともに培養された。12年後、NK細胞が反応しなかった47%の患者が亡くなっていた。顕微鏡で免疫システムの活発な動きがみられた患者の95%は生きていた(P63~64)

 食生活が健康的で、環境が清潔であり、全身を使った運動をしていれば、白血球は活動レベルが高くなる。喜びや人間関係からくる感情にも敏感である。地中海料理やインド料理、アジア料理は炎症を抑える。加えて心の平穏、家族、友人からのサポート、自身の価値と過去の受け入れ、定期的な運動が重要である(P68~69)

 腫瘍は、免疫細胞に炎症をつくり出すように後押しすることで、自分の成長と周囲の組織の侵略に必要な燃料を体内に製造させる。血中の炎症マーカーの測定による炎症レベルが低い患者は、その後生きられる確率が2倍高い(P76~77)

C反応性タンパクが10mg/ℓ未満 かつ アルブミン35g/ℓ以上:最小限のリスク

             以上 または        未満:中程度のリスク

             以上 かつ         未満:高いリスク

 抗炎症剤(アドヴィル、ヌプロフェン、イブプロフェン)を定期的に服用している患者は、服用していない患者に比べてがんになりにくい。しかし、これらの薬には副作用(胃潰瘍、胃炎)がある。ヴィオックスやセレブレックスはCOX-2(炎症促進物質の生産を促すために腫瘍によってつくられた酵素)の阻害剤であり、がんから身を守る効果が認められたが、心血管疾患の危険性が大きい(P77)

 NFカッパB(炎症性サイトカイン)の生成を阻害するだけで、がん細胞の大半を死に追いやることができる。カテキンレスベラトロールのほか同じ働きをする多くの分子が食物の中に含まれている(P78~79)

 精神的ストレス(怒る、パニック)で体内に大量のノルアドレナリンコルチゾールが分泌され、ともに炎症性因子を刺激する(P79)

(血管新生仮説):ジュダー・フォークマン(米海軍医官)(P86~87)

1 微小腫瘍は、栄養を得るための新しい血管網をつくらない限り、危険ながんへと進行することはない

2 がん細胞は、血管新生因子を放出して、新しい分枝血管をつくる

3 転移した腫瘍の細胞は、その細胞自身が新しい血管を呼び寄せる力がない限り危険ではない

4 メインの腫瘍は、転移を引き起こすが、転移した細胞の血管新生を妨げる化学物質を放出する。なので、メインの腫瘍が手術で取り除かれると、ときには転移した腫瘍が急激に成長することがある

 フォークマンは、血管新生抑制因子を投与することで、マウスに移植された3種類のヒトのがんをはじめ数種類のがんの成長を止めることを証明した。血管新生抑制因子は急激に成長する血管にしか作用せず、もともとある血管には影響を及ぼさない(P89~90)

 現在、血管新生抑制因子に類似した多くの薬剤(アバスチンなど)が開発されているが、単独で服用しても大した効果はなく、副作用もある(P90~91)

 自然の抗血管新生食品として、食用キノコ、緑茶、いくつかのスパイス、食用ハーブがある(P91)

 

【マイストーリー3】

 私たちは、具体的な成果ばかりを求める西洋的な価値観を信奉するあまり、危険や不安に直面したときに、誰かにそばにいてもらいたいという本能的欲求を忘れてしまっていることが多い。信頼のおけるやさしい人がいつもそばにいてくれる。身近な人々が私たちのために行うことの中で、これほど美しい行為はないのだが、その価値に気づいている人は少ない(P94)

 私は、まず、3人の弟に一人ずつ会って、自分ががんになった話してみた。幸いなことに弟たちの反応は、シンプルで、しかも的を射たものだった。言葉を選びながら、苦しい胸の内を吐露し、私が長生きしてくれることがどれだけうれしいことか、またこんな辛い試練の中にいる私をどれほど支えていきたいか、を語ってくれた。それこそ、私に必要な言葉だった(P97)

 

【Ⅲ】

 先進国では、全体的に、1940年以来がんの発症率が上昇傾向にある。近年のがんの増加は高齢化だけでは説明できない。1970年代以降、小児がんと青少年のがんが劇的に増加している(P103~104)

 乳がん前立腺がん、結腸がんは先進国、とりわけ欧米諸国の病気だ、欧米諸国におけるこれらのがんの発症率は、中国、韓国の9倍、日本の4倍に達している。しかしこれは遺伝子の問題ではない。サンフランシスコやハワイに棲んでいる中国人や日本人の発症率は欧米人とほとんど変わらない(P107~108)

第二次世界大戦後に欧米諸国の環境で急変したこと)(P110)

①食事における大量の精製糖の使用

②農業・畜産業の変化による食物の変化

③様々な化学物質による汚染

(精製糖の使用)(P111)

・精白糖などの精製糖

・精白小麦粉(精白パン、精白パスタ等)、精白米

・植物油(大豆油、ひまわり油、トウモロコシ油、トランス脂肪酸) 

 精白糖や精白小麦粉を食べると、血糖値が急速に上昇し、そのブドウ糖を細胞に吸収させるためインスリンが分泌される。それとともにIGFインスリン様成長因子)が分泌される。IGFは、細胞の成長を促進する。またインスリンIGFは、炎症性因子刺激する。炎症性因子も腫瘍の成長を促す作用がある(P113)

 オーストラリアで、欧米の青少年を対象に3カ月間、砂糖と精白小麦粉を制限した食事を摂らせたところ、数週間後には、インスリンIGF血中濃度が減少し、ニキビも消えた(P115)

 乳がんの腫瘍を植え付けたネズミにさまざまなGI値の食物を与えたところ、2か月後、高GI値餌群の20匹のネズミのうち2/3が死んだ。低GI値群では1匹が死んだ。糖尿病患者はがんになる確率が高い(P115~116)

 アガベシロップはリュウゼツランの樹液から抽出した甘味料だが、GI値はハチミツの1/4~1/5である(P117)

(低GI値食品群)(P118) ⇔は高GI値

アガベシロップ、キシリトール、カカオ分70%以上のチョコレート

・全粒穀物のパン、玄米、キノア、燕麦、そば

・サツマイモ、ヤマイモ、レンズ豆、エンドウ豆、インゲン豆⇔ジャガイモ

オートミールオールブラン

・自然の果物、ブルーベリー⇔ジャム、シロップ漬け果物

・レモン水、緑茶、赤ワイン⇔ジュース、炭酸飲料、アルコール

・ニンニク、タマネギ、エシャロット

 乳幼児の肥満は、1950年以降、ミルクの質が変わったことによる(ジェラール・アイヨーによる仮説)その質の変化が、脂肪組織及びがん細胞の成長に影響を与えている(著者の主張)(P121)

 春の草はオメガ3脂肪酸が多く含まれているので、牧草で育てられた牛の乳にはオメガ3脂肪酸が濃縮されている。バター、クリーム、ヨーグルト、チーズも同様。1950年代から、バタリー飼育(牛舎などでの飼育)が一般的になると、家畜の飼料はトウモロコシ、大豆、小麦が主流になった。これらの飼料には、オメガ6を豊富に含んでいる。オメガ6は、脂肪を蓄え、細胞を硬くし、血液を凝固させ、外部からの攻撃に対し、炎症性の反応を引き起こす。オメガ6の引き起こす炎症性の反応が、発がんや体内のがん成長に関わる。トウモロコシで育った鶏が産んだ卵は、オメガ6をオメガ3の20倍含んでいる(アルテミス・シモポーロス米国立衛生研究所長)(P121~123)

 環境汚染物質の多くは内分泌作用攪乱物質(環境ホルモン)である。その構造が人間のホルモンの構造に似ているので、細胞の錠前を開け、細胞を以上に活性化させることができる。エストロゲンに似ているものが多い(外因性エストロゲン)これらは、一部の除草剤や殺虫剤を通して家畜の脂肪に溶け込み、蓄積される。またプラスティック、化粧品等に含まれていることがある。野菜は、動物性食品の1/100しか発がん物質を含まない(P139~141)

デトックス対象食品)(P149)

①精製糖、精白小麦粉:インスリンIGF分泌促進により炎症、細胞の成長を刺激

②動物性脂肪、マーガリン等トランス脂肪酸:オメガ6の過剰摂取→炎症性体質

③動物性脂肪に含まれた環境ホルモン:細胞の異常活性化

 

【マイストーリー4】

 最初の手術の数か月後に再発。それまでの食事は、チリコンカルネ(ひき肉、豆、をチリソースで煮たもの)、ベーグル、コカ・コーラ(P158)

 再手術の後、1年間、化学療法を受けることにし、自分の体質改善に努めることにした(P163)

 

【Ⅳ】

 エピガロカテキンカテキンガレード(EGCG)は、がん細胞が隣接組織へ侵入したり、新たな血管を形成する働きを抑制する。EGCGは、茶葉を発酵させると破壊されるので、紅茶には含まれないが、緑茶には豊富に含まれる。ECGCは、がん細胞の侵入に関する受容体や新生血管のスイッチを塞ぐ。EGCGががん細胞の成長を抑制するとする研究がある(リシャール・ペリヴォー(生化学者、カナダのがん生物学専門の分子医学研究所長)の研究チーム)(P179)

 大豆の植物エストロゲンは、エストロゲンによる過剰刺激を大幅に抑え、その結果エストロゲン依存性の腫瘍の成長を抑える(P181)

 クルクミンは、発ガン性化学物質による様々な腫瘍の出現を防ぐ。ターメリック(ウコン)の抗炎症作用を引き起こす主成分はクルクミンである。2005年タキソール(抗がん剤)が効かない人の乳がん腫瘍をマウスに移植した実験では、クルクミンの摂取量を増やすと転移の進行が抑えられた(P184)

 ターメリックは単独摂取では吸収率が悪く効果を得にくいが、黒コショウを混ぜると吸収率が2千倍高まる(P185)

 マイタケ、シイタケ、ヒラタケ、エノキタケに含まれるレンチンやその他多糖類が免疫系を活性化する(P187)

 悪性の発ガン物資を投与したマウスにラズベリーやイチゴを投与すると、そこに含まれるエラグ酸が腫瘍の成長を著しく遅らせる。エラグ酸クルミにも含まれる)は、血管内皮増殖因子(VEGF)と血小板由来増殖因子(PDGF)に対して効果がある(P189)

 ミント、タイム、マジョラム、オレガノ、バジル、ローズマリーは、エッセンシャルオイルの中にテルペン類を豊富に含み、テルペン類は多くの腫瘍に作用し、がん細胞の増殖を抑制、もしくは死滅させる。カルノソール(テルペン類の一種)は、がん細胞が隣接組織を侵食するのを抑制する(P191~192)

 アピゲニン(パセリ、セロリに含まれる)は、血管新生抑制に効果がある(P192)

 雌のマウスにDMBA(ジメチルベンゾアントラセン:発がん物質)に慢性的に触れさせておくと数週間後には100%乳がんを発症する。しかし、セレン、マグネシウム、ビタミンC、ビタミンAのうち1種類を餌に混ぜておくと、がんを発症するマウスは半減した。同時に2種類与えると1/3に、3種類では1/5、4種類すべてを与えると1/10に減った(P194~195)

①セレン:有機栽培の野菜、穀物、魚、甲殻類

マグネシウム:ホウレンソウ、クルミ、ヘーゼルナッツ、アーモンド、全粒穀物

③ビタミンC:大半の果物、野菜、特に柑橘類、緑色野菜、キャベツ、イチゴ

④ビタミンA:鮮やかな色の野菜、果物、卵

 遺伝的な欠陥から免疫系に欠損があり、毛がない裸のマウス(ヌードマウス)の皮下にヒトの肺がん細胞を注入すると、数日後には巨大な腫瘍に成長する。このマウスに特殊なスープを与えると、腫瘍が現れるまでに長い時間がかかり、腫瘍の成長はゆっくりだった(P196~197)

(スープの中身)

芽キャベツブロッコリー、ニンニク、青ネギ、ターメリック、黒コショウ、クランベリー、グレープフルーツ、緑茶

 「食物でがんの再発を防ぐことができると考えられるような研究成果はほとんどない」の意味は、「二重盲検試験により人体に治療効果が証明された」研究成果がないことを指している。疫学やマウスに関する研究では足りない。しかし、「食物」には特許が与えられないため、これらの食物を対象とする二重盲検試験に巨額の費用をかけることはできない。よって、「食物の抗がん効果の有効性に関する」研究成果は存在しえない(P201~203)

(抗がん効果のある食物)(P209~P228)

緑茶、ターメリック(ウコン)、ショウガ、アブラナ科野菜(キャベツ、芽キャベツ、チンゲン菜、白菜、ブロッコリー、カリフラワー)、ネギ類(ニンニク、タマネギ、リーキ、エシャロット、チャイブ)、カロチノイドを豊富に含む野菜、果物(ニンジン、ヤマノイモ、サツマイモ、スカッシュ、カボチャ、栗カボチャ、トマト、カキ、アンズ、ビー)、トマト、大豆、キノコ、ハーブ(ローズマリー、タイム、オレガノ、バジル、ミント)、海藻、小魚(オメガ3脂肪酸)、プロバイオティクス、ベリー類、柑橘類、ザクロ、赤ワイン、ブラックチョコレート(カカオ分70%以上。1日20g以内)

 

【Ⅴ】

 ストレスそれ自体ががんの成長を促すわけではない。無力感を継続的に感じることが、がんに対する体の反応に悪影響を及ぼす(P241~242)

 親しい人に囲まれ、支えられていると感じ、気力を保っている患者は、無力感や孤独を感じている患者に比べて、より闘志にあふれたNK細胞を持っていた(P251)

 EMDR療法:Eye Movement Desensitization 眼球運動を使うPTSD治療法(P263)

 シャーマンもEMDR療法も、がんを治すことはできない。だがときには、無力感を解消し、生きようという生命の炎を燃え上がらせることはできる(P269)

 乳がん前立腺がんの治療を受けながら、マインドフルネス瞑想法を実勢している患者は、白血球(NK細胞を含む)が正常に戻った(P285~286)

 

【マイストーリー5】(略)

 

【Ⅵ】

 1980年代に、未熟児を蘇生させるための保育器に入れられた赤ん坊の生命力を引き出すには、その体に触れることが重要であることが明らかになった。ラットをっ使った実験では、生まれてすぐ母親から引き離されたラットの体内では、成長に必要な酵素をつくり出す遺伝子が不活性化し、体全体を一種の冬眠状態にしていた。反対に、母親ラットが体をたっぷり舐めてやるのをまねて、濡らした筆でラットの赤ん坊の背をなでると、すぐに酵素がつくられ、赤ん坊の体が成長し始めた。心からの愛情や好意をもって行うマッサージのように、心のこもった物理的な触れ合いは、大人でも、細胞の中心で生命力を刺激することができる(P316~317)

 乳がんの患者に週に3回30分ずつマッサージを行うと、ストレスホルモンの分泌が抑えられ、NK細胞の数値が上昇した(ティファニー・フィールド博士とソール・シャンバーグ博士の共同研究)(P317)

 乳がんの研究によると、週に6回、普通の速さで30分間歩けば、再発を防ぐ大きな効果がある(P328)

 

【マイストーリー6】(略)

 

【Ⅶ】

 病状が急変したときは、適切な処置や薬で治療を行う西洋医療が効果を発揮する。しかし慢性疾患では西洋医学の限界が明らかになる。それには体質を変える必要がある。その手段として、食生活の見直し、精神状態の改善、運動による体の強化があげられる。がんは慢性病の代表であり、ここでも体質を根本的に改善することが必要となる(P346~348)

 

「協力」の生命全史 ニコラ・ライハニ著 2023年7月東洋経済新報社刊

(目次)

はじめに

第1部 「自己」と「他者」ができるまで

 第1章 協力を推し進めるもの

 第2章 個体の出現

 第3章 体のなかの裏切り者

第2部 家族のかたち

 第4章 育児をするのは父親か母親か

 第5章 働き者の親と怠け者の親

 第6章 人類の家族のあり方

 第7章 助け合い、教え合う動物たち

 第8章 長生きの理由

 第9章 家族内の争い

第3部 利他主義の謎

 第10章 協力の社会的ジレンマ

 第11章 罰と協力

 第12章 見栄の張り合い

 第13章 評判をめぐる綱渡り

第4部 協力に依存するサル

 第14章 他人と比較することへの執着

 第15章 連携と反乱

 第16章 パラノイア陰謀論

 第17章 平等主義と独裁制

 第18章 協力がもたらす代償

 

【はじめに】

 協力は、ヒトが備えた強大な能力であり、ヒトが地球上で生き延びるだけでなく、ほぼあらゆる環境で反映してきた理由でもある(P3)

 あらゆる生命体は、ゲノム(全遺伝情報)のなかで協力し合っている遺伝子で成り立っている。そこから一段階上がると、生物の進化の痕跡を見つけられる。複数の細胞が力を合わせて個体を形成している。大部分の種では、協力関係はそこで終わるが、例外はいくつかあり、そうした生物は地球上で最も繁栄した種でもある。ヒトもその1つだ(P3~4)

 

【第1部】

 フォレリウス・プシルスというブラジルのアリは、日中は地上で食物をあさるが、日が落ちると安全な地下の巣に引き込もるが、数匹の働きアリは外にとどまって、仲間の帰還を見届けてから、巣の入り口をふさぐ。そのアリたちは、一晩生き延びることができないし、巣の近くで息絶えれば天敵に巣の場所を見つけられる恐れがあるため、働きアリたちは夜の闇に向かって歩いていくことで、最後まで忠実に巣を守る(P4)

 遺伝子は、体のなかに隠れている。次の世代に受け継がれるために、遺伝子は最も外側の人形(繁殖のための乗り物)とともに移動しなければならない。しかし、あなたを構成している基本単位は、少なくとも原理上は、単体での繁殖が可能だ。遺伝子は必ずしも細胞の中に入っている必要はなく、細胞は体内になくても繁殖することができる。遺伝子から細胞、生物、そして集団へと複雑性の段階をあげていくためには、低い段に位置する基本単位が利己的な振る舞いを抑制して、協力し合わなければならない(P10~11)

 単独で複製できる遺伝物質の鎖から正真正銘の細胞への移行は、地球の歴史全体の中で一度しか起きていない。これまで生きてきたあらゆる生物のすべての細胞は、この原型に由来している。その後最初の真核細胞が出現した。これは植物、菌類、動物などあらゆる複雑な生命体に含まれる高度な細胞で、この移行も一度しか起きていない。その後、多細胞生物が登場した。進化の歴史では、大きな移行が起きているが、共通するのは、小さな基本単位がより大きなものの内部に取り込まれるという出来事だ。単独行動をとる者同士がチームを結成し、共通の目標に向かって力を合わせる歴史であり、生命の歴史は協力の歴史である(P11~12)

 地球上で最大の共同体は、アルゼンチンアリのスーパーコロニーであり、イタリアとニュージーランドのコロニーは、スーパーコロニーの一部である。様々な国や大陸に及ぶ何百万もの巣は、1つの女王アリ群の系統を引いている(P12~13)

 

【第1章】

 「目について熟考したダーウィンがぞっとしたのはなぜか」という問いは、自然界に見られる複雑なデザインの外観を説明するうえでの難題の核心をついている。ダーウィニズムの考え方では、複雑な適応は生物の身体能力や強みをわずかに向上させる段階を少しずつ踏みながら発達するものとされるのに、目は実際に物が見えて初めて機能するものだとすれば、中途半端にしかできていない目にはどんな使い道があるのか?今では複雑な目は段階的に進化したことがわかっている。光感受性を持つ細胞の単純な層として毎日の周期を調整していたことから始まり、その持ち主に有利になる特徴が段階的に加わっていった(P15~16)

 進化とは経年変化だ。生物学的には、1つの個体群で様々な遺伝子変異が現れては消えていく現象を示している。自然淘汰による作用により遺伝子がその持ち主に与える効果に応じて遺伝子頻度が変化する。形質に変化があり、その変化が子に受け継がれる場合、有益な形質をコードする遺伝子変異がその個体群に蓄積される傾向がある。ごくわずかな強みでもあれば、この変化の原動力が十分に働く(P17~18)

 遺伝子が利己的であるということは、その後の世代に自分が受け継がれるようにすることを指す。その観点では、「協力」など、個体の繁殖成功率や生存率を低くする継続可能な性質及びその土台となる遺伝子変異は、個体群から除外されることになりそうだ一見、これに反するかのようなP4のアリの行動はを理解するうえで肝要なのは、同じコロニーの仲間が極めて近縁であるという点を認識することだ。遺伝子の側からすれば、受け継がれる先が私自身の子どもであろうと、私の甥や姪であろうと関係ない。代償を伴う援助行動は、血縁者にもたらされる恩恵が、援助する側の個体にふりかかる代償に十分見合う場合に淘汰で残ることができる(包括適応度理論)(P18~20)

 個体同士が助け合う理由を考えるうえで血縁度は重要な要素であり、利己という概念をこのように拡大することによって、不可解だった行動をダーウィン進化論と結びつけることができたが、利益と代償の比較も重要だ。利益と代償は協力が選ばれる状況を決定する生物学的なパラメータであり、協力の選択を後押しするには、他者の援助に関連する代償を減らすことが1つの方法だ(P21)

 エナガ(群居性の鳥)は、たいていつがいだけで繁殖しようとし、精巧な巣をつくる。しかし、巣の大半が捕食者に見つかるため、ひなを無事に育て終えるつがいは5組中1組もない。繁殖期が終わろうとする頃に巣がダメになった場合、その不運なつがいは、たいてい近くの禁煙車を見つけ、その巣の子育てを手伝う。この事例では、援助に伴う代償は非常に小さい(P21~22)

 

【第2章】

 個体とは、すべての部分が共通の目標に向かって力を合わせる統一された連邦である(ルドルフ・フィルヒョウ)(P26)

 進化は、いくつもの構成要素を1つにまとめることによって、新たな個体を生み出した。遺伝子やゲノムが次世代に受け継がれるルートは、個体しかない。この状態が、遺伝子たちの共通の関心を1つの方向に向かわせる。互いに争うのではなく、力を合わせる刺激となる。彼らの共通の使命は、できるだけ優秀な個体をつくることだ(P26~27)

 進化は、適応度の低い変異を個体群から除外する。私たちは、設計上の特徴がどれぐらい一貫し、同じ方向を向いているかを見ることで個体であると確認できる。自然淘汰は、遺伝子そのものに直接作用するのではなく、その遺伝子を持っている個体の設計上の特徴に作用することによって、集団内の遺伝子変異をふるいにかける(P27~28)

 このように類推すると、社会性が極めて高い昆虫(アリ、シロアリ)のコロニー自体を個体、または超個体として考えることに説得力がでてくる。社会性昆虫のコロニーの構成部分となる昆虫の設計上の特徴や行動を理解するためには、生物の階層のさらに上、つまりコロニー全体に注目しなければならない。生殖可能な1匹の女王アリは多細胞生物の卵巣であり、働きアリは体の部位をつくり、体の働きを円滑に保つために必要な保守・修理の大部分を担う体細胞に相当する。生殖能力のない昆虫は、コロニーにいなければ進化上の失敗だが、コロニーにいれば進化上の奇跡となる(P29)

 ヒトの集団は親族以外に援助の手を差し伸べ、その相手から何の見返りも期待せずにいられる。しかし、ヒトの集団は超個体との主張には同意できない。個体の集まりが統合して新たな種類の個体を形成するためには、それらの関心がほぼ完全かつ永久にそろわなければならない。ヒトの集団では、2つのチームが互いに競争しているとき、チーム内の全員が共通の目的をもってチームの勝利に貢献しようとする。しかし、こうした集団ではメンバー間の争いが一時的に収まっているだけであり、結束して争う相手がいなくなると、参加者が競争で生き残れるかどうかはチームメイトを出し抜けるかどうかにかかってくる(P31~33)

 マイクロバイオーム(微生物叢)は、宿主に利益をもたらすこともあるが、害になることもあるから、大切なパートナーではあるが、あなた自身、つまり個体の一部ではない(P37)

 ミトコンドリアは、あなたの体を構成する1つ1つの細胞で内臓電池の役目を果たしており、個体の一部であるとみなしてよい。ミトコンドリアの獲得は、真核細胞の形成における重要なイノベーションだった。これは地球の生命史の中で一度だけ起きた出来事であり、これによって生命の系統樹に多細胞生物に至る分枝が加わった。ミトコンドリアからエネルギーを供給されるおかげで、真核細胞は原核細胞よりはるかに大きく(平均15000倍)成長できるようになった。エネルギーが増えたことで、真核細胞は代謝をあげることができた。より多くの活動が可能となり、たんぱく質の合成速度を上げることができるようになり、細胞は大きさも複雑性も増し、細胞内に多様な器官を生成して、それぞれに異なる機能を割り当てることができる(P37~38)

 1つのまとまった存在をつくるためには、それを構成している部品同士の争いを、ほぼ完全に抑え込まなければならない(P39)

 

【第3章】

 ミトコンドリアに含まれる少数の遺伝子は母親からしか受け継がれない。したがって、ミトコンドリアのゲノムに含まれている遺伝子は女性を好む。ゲノム内にこうした偏った嗜好性があるために、男女の間に明確な違いが生じることがある(母の呪い)。ミトコンドリアのゲノムの中に男性に極めて有害な結果をもたらす遺伝子があっても、それが女性に有利な形質を与えれば、ゲノム内の保持されることがある。主に思春期の男性が発症するレーベル遺伝性視神経症は、視神経が委縮し、最終的に両方の目が見えなくなる。カナダででは、すべての男性患者の祖先にある1人の女性がいた。この女性は、17世紀後半に「リトル・フランス」に移住させられ、1966年にケベック州で結婚し、5人の娘と21人のひ孫娘をもうけた。彼女たち全員が有害なDNAをもっており、その名残は今でも男性の子孫に残っている(P41~42)

 ゲノム内のせめぎあいは、マイオティック・ドライブ(減数分裂における分離化のひずみ)によって引き起こされることもある。一部の遺伝子は、分離の前に自分自身をこっそり複製して、受精した生殖細胞に必ず含まれるようにしている。このほか、自分が含まれていない生殖細胞を見つけて抹消する、沈黙の刺客のような遺伝子もある。人間のカップルの7人に1人が不妊に悩んでいるが、これはマイオティック・ドライブのように、利己的な遺伝子変異によって引き起こされていることが多いと考えるのが妥当と思う(P42~43)

 ある腫瘍ががんになるためには、①自らの増殖シグナル、②血管生成、③リソースの独占、④不死化、⑤転移能力等が必要だ。がん性腫瘍は多様な細胞からなり、それらが同調して機能することで、これらの特徴を獲得した可能性が高い。がん性腫瘍は、利己的なクローンではなく、協力的な群衆と考えたほうが理解しやすい。腫瘍は、多様なサブクローンで構成されているとの仮説は1970年代に提唱されていたが、30年近く無視されていた。(P45~46)

 ほとんどのがんは不均一性を持っている。腫瘍は多様な群衆であり、異なる種類の細胞同士が助け合っている。Aタイプのサブクローンの細胞が増殖因子を分泌し、それをBタイプのサブクローンの細胞が利用する。お返しに、タイプBは増殖抑制因子への反応を抑える分子を生成し、それをタイプAも利用するといった具合だ。最も進行が早く浸潤性が高い種類のがんは、こうした多様かつ相互共生的な群衆によって形成されている。よって転移性がんに対しては、細胞同士の共生関係を壊すことによって治療効果をあげられる可能性がある。腫瘍全体を攻撃するのではなく、腫瘍内のある細胞にとって欠かせない種類の細胞を狙うといったやり方だ(P46~47)

 ヒトを含めた大部分の多細胞生物はがんにならないようにするための非常に優れた能力を持っているのに、ヒトの半数はがんになる。生物が順調に生き延びて子を残している限り、淘汰は遺伝子の性質に対してそれほど強くは働かない(P48~49)

 

【第2部】

 集団をつくることで、個体は周囲の環境から受ける困難を緩和することができ、代償を上回る利益を得られる。集団生活には捕食者から身を守るという利点もある。群れの大きさNとして、自分がライオンにつかまる確率は1/Nとなり、Nが大きくなるほど捕まる確率は小さくなる(希釈効果)。捕食を避けられるという利点が、自由に動き回る単細胞から多細胞生物に移行した太古の進化を促していた可能性が見えてくる。単細胞の藻類が入った試験管に捕食者を加えると、単細胞同士が合体して8個の細胞の群れを形成する。このサイズには集団形成の代償と利益が現れている。個々の細胞が液体培地に含まれる栄養分を利用できるぐらいに小さく、かつ捕食者からの攻撃を避けられるぐらいに大きい。ただし、この種の集団は長続きせず、一定しない。群れの規模は捕食の脅威の大きさに応じて変わる(P52~54)

 安定した社会集団は、実際には特別なものである。共同生活の代償と利益が、進化を通じて慎重に評価された結果として生まれてきたものだ。人間は安定した家族集団でも暮らしているという点で大型類人猿とも異なり独特で、母親は出産のときに他者の助けを借りる。父親、兄弟、祖父母を含めたヒトの家族の進化は、ヒトが超協力的な種への道のりを歩むうえで重要な第一歩となった(P54)

 

【第4章】

 子育てはどのような種類であっても、もともと繁殖コストが高いものであり、種類によっては代償がさらに高くなる一方、リソースは限られている。リソースを使えば、その分将来ほかのことに使えるリソースが減る。親がリソースを使うのは、労力をかけても、その分子が生存上及び繁殖上の利益を受けられる場合だ(P57)

 見た目で雌雄を区別できない場合でも、子育てをしている者に注目することによって、性別の特定を試みることができる(P58)

 哺乳類の雌にとって妊娠は負担が大きいが、中でもヒトの女性はとりわけ大きな代償を払っている。新生児の脳の成長は遅く、脳の大部分は出生後に成長する。人間の妊娠期間の終わりを決めているのはエネルギー上の制限である。妊娠期間が終わりに近づくと、妊婦の基礎代謝は妊娠していない女性の2倍を超え、、許容できないほどの高さになる(P59~60)

 出産後も母親は父親より多くの労力を子どもに注ぐ傾向にある。哺乳類の場合、種の90%以上で子育ての役割を雌がすべて担っている。どの人間社会でも、母親の存在は父親の存在よりも子どもの長期的な成長と生存に重要な影響を及ぼしている(P60)

 ヒトの場合も通常、父親は育児に力を注ぐことによって、ほかに子づくりをする相手を見つけないですむようになる。その分エネルギーを減らすことができる。動物実験の多くのケースでテストステロンを投与された雄は、子づくりへの関心が高まり、育児への関心が低くなった。子どもが生まれたとき、父親の体内に循環するテストステロンの濃度が下がる(P61)

 雄は原理上、育児をする形質を獲得するよう進化することができたにもかかわらず、そうした負担の大きな役割(抱卵、妊娠、授乳)を雌が担うようになった。雌は自分がこの子の母親であることに確信を得やすいが、雄は確信しにくい。自分の子でない子の育児に労力を注ぐのは、進化の上では大きな代償を伴う失敗になりやすい。また雌はもともと存在する生殖上の限界に直面するのに対し、雄にはこのような限界がない。雌は大きな卵子をわずかな個数だけつくるが、雄は微小な精子を大量につくる。卵子は受精卵の成長を助けるための栄養分を含んでいるのに対し、精子は遺伝物質の断片を供給するに過ぎない。ほとんどの卵子はパートナーとなる精子を見つけられるが、精子の大部分は卵子を受精させることができない。雄の繁殖成功率は、どれだけ卵子を受精させることができるかに左右されるが、雌は生態環境でどれだけに時間とリソースが得られるかという厳しい現実に左右される(P64~65)

 こうした繁殖上の制限は、雄と雌が祖先から受け継いだ遺伝子を確実に次世代に受け渡すために使う手法に大きな影響を及ぼす。概して、雄の繁殖戦略は量を重視するのに対し、雌は誰と交尾するかにこだわり、繁殖のための貴重なエネルギーを優れた雄だけに使おうとするはずだ。しかし、自然界での観察例は、雄が一夫多妻と一夫一妻のいずれを選択するかは、新しい雌のパートナーの見つけやすさに左右される。この要素の1つが性比、雄の数:雌の数の比だ(P65)

 雌と一緒にいる雄は、新たな交尾相手を探しに行くのではなく、育児にある程度のエネルギーを注ぐことによって利益を上げられることがある。このことは雄が雌のそばにいて、ほかのオスとの交尾を阻止するようになった結果として、父親の育児行動が進化しうることを示す。2500種を超える哺乳類の交尾様式と育児行動の進化史を構築した結果を見ると、まず一夫一妻が出現し、その後に雄の育児行動が発達したという順序は全体的な傾向であると考えられる(P66)

 多くの研究結果から、男性の数が女性より多い場合、全体的には、男性は身を落ち着けて結婚したいという気持ちが強くなり、夫婦関係の安定性は高まる(P68)

 

【第5章】

 両親による子育ては、争いが起きやすい状況である。どちらの親も育児に注ぐ労力を少なくしたい誘惑にかられる。一方の親が少しだけ手を抜いた場合、もう一方の親は自分の仕事量を増やすが、すべて補われるわけではない。働き者が不足分をすべて補うと怠け者には手伝おうとする進化上の動機が生まれない。ほかの交尾相手を探しに行ったほうがよい。不足分を完全には補わなかった場合、怠け者は一緒に子育てを助けようという動機をより強くする。多くの研究で親鳥はこうした進化モデルの予測に合致することがわかった(P70~71)

 誰が子育てをすべきかという問題をめぐる争いは、雄と雌が現在の繁殖機会の間だけ一緒にいる状況で顕著になる。雌との繁殖機会が一度しかないと予測される場合、その雄は雌の将来の繁殖能力には全く関心がない。雄は雌がこの繁殖機会ですべてのエネルギーを自分の子に注いでほしいと思っている。一方、雄と雌がもっと長く一緒にいると予測される場合、争いは起きにくくなる。雄はパートナーである雌の将来の生殖能力により強く適応上の関心を持つ(P71)

 雌が乱婚である場合、雄は体の大きさに対して大きな精巣を持つ傾向がある。精巣が大きいほど、多くの精子がつくられるので、その持ち主たる雄は交尾の競争で効率的に戦うことができる。ゴリラの場合、1つの集団にいるすべての雌が支配的な雄と交尾する。ゴリラの精巣は体の大きさに比し小さい。チンパンジーは、雌は乱婚傾向が強く、発情期の多くの雄と交尾する。チンパンジーの大きな精巣は、ゴリラの200倍の精子をつくることができる(P73)

 ヒトの祖先の男性は、ゴリラのような習性をもたず、主に一夫一婦制をとる種に近い。精巣の大きさは、ゴリラとチンパンジーの中間に位置するが、ゴリラに近く、ヒトの女性は一生のうちに複数の男性と性関係を持っていただろうと推定できる。ヒトの祖先は一夫一婦制をとっていたが、連続単婚だった考えるのが妥当だろう(P74)

 妊娠糖尿病は、女性が血糖値を自分で調整できなくなる病気であり、その結果、赤ちゃんが異常に大きく成長し、場合によっては命に係わる。原因としては、成長する胎児の体内で母親と父親の遺伝子が争っていることだ。胎児の細胞には、母親由来の遺伝子と父親由来の遺伝子が含まれており、どちらの親に由来するかを伝えるマーカーが含まれている刷り込み遺伝子は、遺伝子発現を制御して、ある特定の遺伝子の効果をどれくらい出すかを決めることができる。胎児の中で、父親由来の遺伝子は、母親由来の遺伝子が供給したい量より多くの栄養分を求める。父親由来の遺伝子は、母親が将来産む子どもに関心がないので、母親の状態より現在の胎児のことを気にかけ、母親への要求を強めるように選択され、胎盤内の栄養分の伝達に関わる領域を選択的に発現させる。ヒトなど霊長類の血絨毛性胎盤は、子宮内膜にだけでなく母親の血管にも入り込む。胎盤の細胞は胎児に起源をもつため、胎児の都合によって働く。ヒトの場合、胎盤の細胞は母親の血液にじかに漬かっており、母親は胎児が受け取る栄養分を制御できない(P75~78)

 栄養芽層(母体の子宮に侵入した胎盤の細胞)には、転移性のがん細胞に似た特徴が数多くあり、急速に増殖し、組織内に侵入し、プログラム細胞死を実行する命令を無視する傾向がある。胎児がつくるヒト絨毛性ゴナドトロピンは腫瘍細胞によっても生成されることがあり、ヒトのがんの最大30%に存在する。浸潤性のある栄養芽層は、ときどき母体の誤った組織を乗っ取ってしまい、それが子宮外妊娠につながることがある(P79)

 貪欲な胎児にできるだけ多くの栄養を与えるためには浸潤性の胎盤が必要だが、そのため、がん細胞を含めたあらゆる種類の浸潤性の細胞から身を守る生来の能力を弱めてしまった(P80)

 日常的に授乳している女性は妊娠しにくくなる。夜間のよく目を覚ます赤ちゃんは、平均して、母親から絶え間なく世話をしてもらえる期間が長くなる。ヒトの赤ちゃんは頻繁に夜泣きして授乳をせがむことにより、将来の兄弟に対抗している(仮説)(P81)

 15番染色体のゲノムの一部欠失による遺伝子疾患に、プラダ―・ウィリ症候群とアンジェルマン症候群がある。前者では欠失した遺伝子は父親由来であり、母親由来の遺伝子のみが発現している。それらの子どもは母乳をあまり飲まず、泣き声が弱く、よく眠る。後者では母親由来の遺伝子が欠失しており、あまり眠らず、夜中に起きて母乳を求める(P81~82)

 

薬を減らして酢(クエン酸)を飲もう 長田正松著 1991年6月健友館刊

(目次)

第1章 酢の働き

第2章 酢で病気を治す

第3章 酢はなぜ疲れを消すか

第4章 どんな酢をどのくらい飲むべきか

第5章 何をどれだけ食べるべきか

第6章 薬は少なくすべきだ

第7章 その他のこと

付録

1 署名簿意見録

2 愛飲者よりの便り

3 クエン酸の飲み方その他

4 いわゆる便秘について

5 クエン酸に毒性があるか

6 お楽しみの頁

7 参考 新聞記事

あとがき

 

【第1章】

 この本で「酢」と書くものは、酢酸とクエン酸を指す(P17)

 クエン酸は、無色又は白色の粉末で、酸としての強さは酢酸の1/3である。これらの酢を多く飲むと①~③の効果があり、外用にも役立つ(P17~21)

①疲れを消し体液を弱アルカリ性に傾ける

②生きる力の元のエネルギーをスムーズに引き出す

③胃液不足を解消し、消化、吸収を完全にする。Ca、鉄、ビタミンB1、Cを吸収

④皮膚その他体表の病気を防ぐ

⑤旨味の元、その他

 

【第2章】

 酢を多くとり続けると、大概の病気は治る。その根拠は、「医者が普通に相手にしている症例の90%は、特に悪化させるような損傷を与えなければ、程度の差はあっても遅かれ早かれ自然に治ってしまう」(米医学者アンドル・ワイル著「人はなぜ治るのか」P38)と記載されていること(P24~25)

 安静にしていると、ウッド・ワークマン反応が働きだし、2つの道により、焦性ブドウ酸(ピルビン酸)がクエン酸回路を回す鍵のオキザロ酢酸になる。酢を飲まなくても安静にしているなら、体内で酢がつくられて、疲れが消え、体液が弱アルカリ性になって、自然治癒力が働きだす。酢を多く飲むことは、安静にしているのと同じ効果がある(P26)

※以下、各個別の病気にクエン酸が効くとの記述があるが、そもそも、「大概の病気は治る」ことが「クエン酸が病気に効く」ことの根拠だとされているので、それぞれを取り上げる価値がない。よって省略

 

【第3章】

 オキザロ酢酸は、焦性ブドウ酸(ピルビン酸)と結びついてクエン酸となる。しかし、オキザロ酢酸そのものはすぐ変化するので薬として用いることはできない。体内にはオキザロ酢酸を必要とする代謝がが多いので、(オキザロ酢酸の不足により)焦性ブドウ酸がたまりやすく、それが疲れの乳酸となる(P79)

※P78の「嫌気的分解」と「好気的分解」の図から次の①~③を読み取れる。

①炭水化物とタンパク質は、嫌気的分解において焦性ブドウ酸(ピルビン酸)になり、次の工程で乳酸を生成する。この乳酸が疲れの原因となる

②好気的分解では、嫌気的分解で生成された焦性ブドウ酸がアスパラギン酸(タンパク質から生成)や脂肪酸(油脂から生成)から生成されたオキザロ酢酸と結合することでクエン酸を生成し、以後クエン酸回路を経ることで、再びオキザロ酢酸を生成する。この再生されたオキザロ酢酸が、次の焦性ブドウ酸と結合することで次のクエン酸回路を動かす。結果嫌気的分解における焦性ブドウ酸から乳酸への工程を妨げることで乳酸の生成を妨げる

クエン酸を追加的に摂取することは、クエン酸回路にクエン酸を追加的に投入することにつながるので、クエン酸回路で生成するオキザロ酢酸を追加的に生成することにつながる。よって、焦性ブドウ酸を追加的に処理することができる。よってクエン酸の摂取により乳酸の生成を防ぎ、疲れをとる。

③ー2ただし、この種のことすべてについて言えることだが、摂取したものがそのままの形で各細胞に供給されることはない。胃で分解され、小腸で吸収されるときに、クエン酸として摂取されたものがそのままクエン酸として吸収される保証はない。クエン酸が分解されても、材料はあるのだから、体内でクエン酸が合成されやすいだろう、程度のことは言えるかもしれないが、それは何ら証明されていない。

 

【第4章】 

 コーヒーさじ山盛り1杯はクエン酸5gを食後に1杯ずつ、1日3回水などに溶かして飲む。(食酢1日1合に相当)(P106)

 酢やクエン酸は、飲んで2時間後に熱(ATP)、炭酸ガス、水’(尿、汗)となり、後に何も残らないもので、副作用皆無(P110)

 

【第5章】~【第7章】(略)

【付録】

④体のあちこちが痒い

 クエン酸液を浸した布でふく(P225)

BLUE ZONES 2ND EDITION 世界の百歳老人に学ぶ健康と長寿のルール ダン・ビュイトナー著 2022年11月祥伝社刊

(目次)

監修者の言葉

はじめに

第1章 長寿の真実とは?

第2章 イタリア・サルデーニャ島

第3章 日本・沖縄

第4章 アメリカ・ロマリンダ

第5章 中米コスタリカ・ニコジャ半島

第6章 ギリシャイカリア半島

第7章 世界の百歳人に学ぶ健康と長寿の9つのルール

[ルール1]適度な運動を続ける

[ルール2]腹八分で摂取カロリーを抑える

[ルール3]植物性食品を食べる

[ルール4]適度に赤ワインを飲む

[ルール5]はっきりした目的意識を持つ

[ルール6]人生をスローダウンする

[ルール7]信仰心を持つ

[ルール8]家族を最優先にする

[ルール9]人とつながる

おわりに どのような人生を選ぶか、選択はあなた次第

ブルーゾーンから学んだことを振り返って

 

【監修者の言葉】

 日本人の平均寿命は84.3歳で長寿世界一の座を守り続けている。しかし平均寿命と健康寿命の差は9.3年で世界131か国中60位(P6)

 ブルーゾーンという言葉を最初に作ったのは、ジャンニ・ぺス(医師、サルデーニャ)(P8)

 

【はじめに】

 デンマークの双子の研究から、長寿要因のうち遺伝子に左右されるのは25%で、75%はライフスタイルや日常生活で選択する習慣に関わっている(P14)

 

【第1章】

 DHEA(ヒト成長ホルモン)やメラトニンにはかなり問題があるので勧められない。ヒト成長ホルモンを投与すると、肥大化しすぎる。心臓を肥大させ、分泌物の異常停滞を招き、他の支障も招く。ヒト成長ホルモンの過剰摂取は末端肥大症を誘発する(ロバート・バトラー、マウント・サイナイ医学センター老人学教授)(P36)

 たいていのビタミンは、1日に6~9種類の果物と野菜をとれば十分だと言われている。年配者は、鉄分を含んだサプリは避けたほうが賢明。鉄分は心臓周辺に蓄積されやすく、血鉄素症の誘因になりかねない。市販のビタミン系サプリ、特に男性用では鉄分を含んでいないものはない(ロバート・N・バトラー)(P36~37)

 

【第2章】

※P62まで読んでみたが、何とも知れない文章が延々と続いており、読むに堪えない。各章末に「○○に学ぶ、健康と長寿のルール」なるものが書かれているが、その中で共通するのが、第7章の9つのルールなのだろう。だったら、共通しないルールは読んでも仕方がないし、9つのルールだけで十分だ。

 

【第7章】

・9つのルールのうち取り組みやすいものから始める

・9つのルールのうち4つ以上は取り組まない

・家族又は友人と一緒に取り組む

・自分へのご褒美を忘れない

 

 アメリカ人の多くが満腹感を得るまで食べ続けるのに対し、沖縄の人たちは、空腹感がなくなった時点で食べることをやめる(P290)

 19歳以上の人に必要なタンパク質は体重1㎏あたり80g。タンパク質は貯蔵できず、余ったタンパク質は脂肪になる(P298)

 1日に50gのナッツを食べることは、心臓疾患の危険性を下げる可能性がある(P300)

 ベストなナッツは、アーモンド、ピーナッツ、ピーカンナッツ、ピスタチオ、ハシバミ、クルミ、松の実。しかし、ブラジル・ナッツ、カシューナッツ、マカダミア・ナッツには飽和脂肪酸が多いので、それほど勧められない(P301)

 ナッツは、一袋に60gかそれ以下で詰めておく。油が酸化しないよう、冷蔵庫に保存するのもいい(P303) 

がんは裏切る細胞である アシーナ・アクティピス著 2021年12月みすず書房刊

(目次)

1 はじめに がん、それは形を得た進化そのもの

2 がんはなぜ進化するのか

3 細胞同士の協力を裏切る

4 がんは胎内から墓場まで

5 がんはあらゆる多細胞生物に

6 がん細胞の知られざる生活

7 がんをいかにコントロールするか

 

【1】

 多細胞生物の体内にある細胞は、分業体制で生活している。細胞同士が協力し、連携しながら、生きるうえで必要な体のあらゆる機能を分担している。単細胞生物(細菌、酵母、原生生物)は、1個の細胞で生命の維持に関わるすべての仕事をこなしている。単細胞生物が支配した20億年間、世界にはがんはなかった。多細胞生物の登場が、地球という舞台に新しい「演者」を招き入れた。それががんである(P1~2)

 がんは私たちの一部である。生命がまだ肉眼では見えなかった頃にまで、がんの誕生はさかのぼる。がんを多細胞生物である以上避けて通れない現象として受け止める必要がある(P2)

 がんは、人体をつくる細胞同士の協力体制を裏切り、多細胞生物として生きるうえで最も基本的なゲームのルールに従わない(P3)

 進化生物学の切り口から考えると、私たちは「協力し合う細胞共同体」となるよう進化してきた。私たちの細胞は、この細胞共同体全体のの生存と生殖に役立つふるまいをするに至った。しかし、細胞の協力体制がうまくいかなくなるとき、進化と生態系に関わるプロセスが体内で始動し、最終的に細胞による究極の裏切り行為へとつながる場合がある。それががんだ。がんとは、細胞が全体のために協力・連携するのをやめたときに生じるものである(P7)

 がん細胞は資源を濫用し、共有のものであるはずの環境を破壊して、無秩序に数を増やし始める。それは自らの属する体の健康を損ない、体が生き延びる見込みを減じかねない。にもかかわらず、体内ではこうした掟破りの細胞のほうが、生存と繁殖において正常な細胞より有利になる(P7)

 私たちの本質は、個々の細胞が集合した存在にすぎない。体をつくり上げる細胞は膨大な数に上るため、体内では自ずと進化のプロセスが起きる。年齢とともに細胞の集団は進化を遂げ、ともすると私たちをがんのリスクにさらす方向へと向かっていく(P8)

 がん細胞も地球上のすべての生物と同じく、自分の置かれた生態系の状況に呼応して進化している。それがときに、自らを含む系全体に害を与える方向に進むというだけのことにすぎない。その結果、一見矛盾する2つの進化シナリオが立ち現れる。

①生き残るうえでは、がんをうまく抑制できる体が有利だということ

②体の内側では、がんのような特徴(増殖速度の速さ、代謝の高さ)をもつ細胞が生存と繁殖において有利になること(P8)

 生物は長く生きて多くの子を残すために、長い時間をかけてがんを抑制する方法を発達させてきた。しかし、このがん抑制メカニズムは完璧ではない。進化の見地からすると、がん化の恐れのある細胞を100%制御するのは不可能だからである(P11)

 生物ががんを完全に抑え込む進化をしてこなかった理由は多岐にわたる。

①子孫を残すうえで有利になる別の形質とトレードオフになっている

②過去の環境と現在の環境のミスマッチ

③私たちの体をどれだけ大きくするかを巡って、父親からの遺伝子と母親からの遺伝子が胎内で攻防を繰り広げている 

 細胞が体細胞進化を通じて体内で進化しているにもかかわらず、体のほうはその体細胞進化のプロセスを完全に抑制する進化を遂げることができない。がんが存在するのは、この2つのレベルで進行する2つの進化のプロセスがうまく噛み合わないところに原因がある(P12)

 一個の腫瘍の周囲にある環境を「腫瘍微小環境」と呼ぶ。これはその腫瘍にとっての生態系に等しい。微小環境が破壊されるとがん細胞には移動を促す選択圧がかかる。それに呼応してその場を離れ、体内のよりよい環境に移ることのできる細胞が生き残り、多くの子孫細胞を残す。こうして、がん細胞が浸潤性と転移性を獲得する方向に進化の拍車がかかる(P12~13)

 がんは一般的な意味での「敵」とは違う。よく組織された同質な細胞の軍団が、宿主を破壊すべく一致団結しているわけではない。むしろ統制の取れていない雑多な細胞の集まりが、私たちの治療に激しく反応している。私たちは、実際には人間の手では如何ともしがたい進化というプロセスと闘っている。それを遅らせたり、道筋を変えたりすることはできるかもしれない。しかし進化自体を止めることは不可能である(P14)

 

【2】

 1個のがん細胞の世代時間(1個の細胞が分裂して2個になるまでの時間)は非常に短く、たいて1日ほどにすぎない。しかも数十億個という単位の巨大集団であるため、進化は極めて速いスピードで進む。1人の人間の一生の間に繰り広げられる細胞の進化の数は、人類の進化の歴史全体を通して生じたものより多い(P20~21)

 進化の果てに滅びる生物がいるように、がん細胞の集団も体内で進化した挙句に、進化の袋小路に入り込む。(進化的自殺)もっとも、がん細胞が必ず進化の行き止まりに突き当たるわけではない。がんは個体から個体へと移って集団全体に広がる場合もある(感染性がん)(P21)

 がん細胞の集団が自然選択によって進化するためには、①多様性、②遺伝可能性、③適応度の差が必要である。ヒトはたった1個の細胞から出発し、分裂を繰り返して30兆個の細胞が体をつくりあげる(P22)

 多様性は、①複製プロセスでのエラーや、②紫外線や化学物質による遺伝子変異、③エピジェネティクス(遺伝子のオン・オフの制御を行うメカニズム)の多様性に由来する。個々の細胞内で、DNAはヒストン(微小球状タンパク質)に巻き付いており、DNAのどこか1か所でこの巻き付きが緩むと、そこから遺伝子の情報を読み取ってタンパク質をつくれるようになる。別の箇所で巻き付きがきつくなると読み取り作業が行われずタンパク質も製造されない。こうしたエピジェネティクス的な差異があるからこそ、細胞のふるまい方が異なってきて、役割の違いが生まれる(P23)

 遺伝子の多様性とエピジェネティクスの多様性は、遺伝可能である。適応度の差とは、特定の形質を持つ個体が、それをもたない個体より多くの子を残すという概念を表す(P24)

 DNAの塩基配列のうち、分裂の時期を決定する領域に変異が起きて、分裂回数を多くするような遺伝子変異が生じると、その細胞は集団の中で数を増やし、その子孫細胞も過剰増殖の遺産を受け継いでいく。進化生物学では生物の生存や繁殖を助ける形質のことを「適応」という。がん細胞の場合は、①資源の消費速度が速い、②免疫系による捕食を回避する、③体内で急速に増殖する、といった性質が適応となり得る(P24~26)

 1個のがん細胞にとって、私たちの体は、自由に消費できる原材料であり、自らの複製をできるだけ多くつくるために使用していい物質である。免疫細胞は避けるべき捕食者、さまざまな組織や臓器は、新たなコロニーを築くための新世界だ。がん細胞は、宿主を滅ぼさないように自分たちの振る舞いを連携させるすべをもたず、試行錯誤を繰り返しながら一から進化を始める。その結果として適応(増殖速度、代謝の高さ等)を獲得し、それが宿主の生命を脅かす恐れを生む(P28)

 生物は遺伝子を次世代に伝えるために自然選択によってつくられ「乗り物」にすぎない。(リチャード・ドーキンス)自分たちの乗り物の生存能力を高める遺伝子が、次世代で数を増やす。自然選択は「利他的な」遺伝子も好む。利他的な遺伝子には、その同じ利他的な遺伝子を持つほかの乗り物の生存を助ける役割がある。ヒトの場合、利己的な個人だけでなく、自分の血縁者の世話をする個人も自然選択において有利になる得る。がん細胞の場合も、利己的な細胞だけでなく、仲間の細胞に利益を与える細胞が選択される可能性がある(P31)

 利己的な遺伝子という見方には、①それによって利己的な乗り物がつくられるという意味と、②協力的な乗り物がつくられるという2つの側面がある。がんが体内でどう進化するかを明らかにするうえで、この2つの視点が助けになる。がんは本質的に多細胞間の協力を裏切る細胞である。しかし、裏切りが進行している最中に何が起きているかを理解するには、がん細胞同士が協力的なふるまいを進化させていることも重要である(P31~32)

 

【3】

 がんの定義は、多種多様である。がん生物学者、病理医、臨床医、比較腫瘍学者などそれぞれが、がんの異なる要素に着目する。裏切り者の細胞としてがんを眺めると、がんに対する多種多様な見方をまとめ上げることができる。しかも、多細胞生物の進化と協力体制の進化に矛盾が内在することが、がんの性質と関わることが浮き彫りになる。(P36~37)

(がんのホールマークと細胞の裏切りの関係性)(P39)

多細胞間協力原則 裏切りのタイプ   がんのホールマーク

①増殖の抑制   無秩序な増殖    無制限な複製による不死化

                   増殖抑制の回避

                   増殖シグナルの維持

アポトーシス  不適切な細胞生存  細胞死への抵抗

                   免疫攻撃の回避

③細胞外環境   環境の悪化     浸潤能の活性化

④分業      分化の調節不全   (分化の調節不全)

⑤資源の配分   資源の独占     血管新生の誘導

                   細胞エネルギー代謝の異常

【協力理論】

 個体同士が相互作用を繰り返す状況であれば、協力と裏切りの持つ見返りの大きさが変わり、全体として協力のほうが優れた選択肢となる(互恵性)(P41)

 遺伝的な近縁性は、裏切りという問題を解決する助けになる。原初の池の中で生産者同士が集まり、自分たちの中だけでやり取りするような状況下では、その利益はほかの生産者のみに渡る。同様に、細胞集団内の細胞がすべて遺伝的に同一なクローンだったならば、細胞間の協力を司る遺伝子は、血縁選択を通じて、次の世代に広まっていく。細胞のクラスター(小集団)を構成する細胞同士が遺伝的に近いことが協力の進化を容易にし、多細胞生物が誕生するお膳立てを整えた。(P41~43)

 一部の細胞が新しい戦略を試み、分裂しても2つの細胞に分かれずに結合した。やがて、その細胞の塊は個々の細胞が持つゲノムを調節し、仕事を分担する能力を獲得した。こうした分業を通じて、多細胞生物は単細胞生物より格段に効率的な暮らしを送れるようになった。多細胞化は、①捕食を避けられる、②資源の共有・貯蔵によるリスク分散等のメリットもある。ともあれ、自分たちの振る舞いを連携させて集合体として生きることのできた細胞が、生き延びて繁栄した(P44)

 多細胞化は、それを搾取しようとする存在から狙われやすくなる。しかし、私たちの体は1個の受精卵から出発して、概ね遺伝的に同一な細胞で構成されている。だから細胞間の協力をコードする遺伝子と裏切りを抑制する仕組みをコードする遺伝子が存続できる(P45)

【多細胞生物として生きるためのルール】(P47~48) 

①無秩序に分裂してはならない

②集団への脅威となったら自らを破壊せよ

③資源を共有し、輸送せよ

④与えられた仕事をせよ

⑤環境の世話をせよ:老廃物の除去

 慢性骨髄性白血病では、転座(1つの染色体の一部分が別の染色体上に位置を変えること)により、BCR-ABLという融合遺伝子が誕生する。この融合遺伝子はBCR遺伝子のプロモーター部分(遺伝子の転写開始を告げる遺伝子領域)にABL遺伝子が結合している。ABL遺伝子からは、増殖に関わるシグナル伝達に重要なタンパク質がつくられる。このため細胞がこの融合遺伝子の配列を読み取ると、「増殖を続けろ」という指令を受取る。結果的に、この細胞は正常細胞なら増殖しないときでも増殖を続ける(P49)

 TP53は、細胞のDNAが修復不可能なまでに変異したときに細胞死を起こさせる。しかしTP53遺伝子自体に変異が起きてしまえば、DNAに重大な損傷を生じても細胞は生き続けて増殖する。TP53は、がん抑制遺伝子である(P50)

 細胞外環境の維持の関係では、代謝の副産物として乳酸をつくり出す。がん細胞はこの乳酸を細胞外に放出する。すると細胞外基質が分解されて組織構造が破壊され、周囲の組織にがん細胞が浸潤しやすい環境がつくられる(P50~51)

 自然選択は2つのレベルで進行しており、それぞれの起きる空間と時間軸が異なる。①体内の細胞レベルでは、生物の一生という比較的短い時間で自然選択が生じる。②自然界の生物レベルでは、非常に長い時間をかけて自然選択が進む。がんは胎内で進化する。一方、がんを抑制する能力の高い体のほうが生存率が高く子孫を多く残す(P51)

 100人が10のグループに分かれている公共財ゲームに、自然選択による進化の要素を加味すると、個々のグループ内では裏切者が協力者をしのぎ、次世代で数を増やすが、10のグループ全体では協力者の多いグループが拡大し、裏切者の多いグループは縮小する。結局、生物のレベルで見た場合に自然選択で有利になるのは、多細胞間のルールを良く守り、内部の裏切者を見つけて抑制する能力の高い細胞で構成された個体ということになる。より優れたがん抑制メカニズムを持つ個体が選択されて生き残る(P52~54)

 がん抑制遺伝子TP53は、遺伝子ネットワークの中心的な中継点であり、特定の細胞が生物の生存能力を脅かすかどうかを判断している。p53タンパク質を製造することにより、細胞機能の様々な側面から情報を集め、細胞の裏切り(代謝の異常、ゲノムの不安定化、不適切な移動など)の兆候が確認されたら、細胞周期を停止させたり、DNAを修復したり、必要であればアポトーシス(細胞の自死)を誘導したりする(P57)

 第2の防衛線は、周囲からの監視である。細胞は、隣接細胞の遺伝子の発現状況を感知して、異常が起きた形跡がないかを確認している。細胞同士は、「生存せよ」というシグナルを絶えず交し合っており、近くのいずれかの細胞から「気に食わない」とされたら、自死のプログラムを開始することができる(P58~59)

 第3の防衛線は免疫系だ。免疫細胞は、体内を巡回しながら、全身のあらゆる領域に目を配り、異常な遺伝子発現がないかを探している。免疫細胞が標的にするのは「腫瘍抗原」(がん細胞が遺伝子を発現したときに生じるタンパク質)である。腫瘍抗原タンパク質は、正常な細胞周期の乱れ、隣接する細胞との結合が断たれたり、細胞のストレス応答が起きたときにも分泌される(P59)

 がん抑制メカニズムは、がん抑制遺伝子による細胞固有、周囲からの監視、免疫系による監視の三重になっていて、それらが連携してがん細胞予備軍の発見と制御にあたっている(P60)

 私たちの体は、細胞シグナル伝達系という広大な情報処理ネットワークをもち、それを使って多細胞の体の治安を維持している。細胞の内部にもTP53などの遺伝子ネットワークが存在している(P61)

 私たちの細胞は、一種の集合的知性を持っている。体内の細胞は、体温や接触行動を調節しているが、個々の細胞はどれも生物の目標を知っているわけではない。私たちの細胞は、集合的知性を用いて、日々驚異的なレベルの協力を成し遂げ、同時に災いの芽を摘んでいる(P6)

 

【4】

 一見健康そうな細胞でも、100万塩基対あたり2~6個の変異が発見された。これは様々ながんで確認されている変異率に近い(P69~70)

 私たちを生かし続け、健康に成長させ、子どもをつくれるようにしている形質=生殖能力、治癒能力、感染症と闘う能力等と私たちががんにかかりやすいことにはつながりがある(P70)

 胚の発達において細胞の自由度が大きくなりすぎると増殖と浸潤を繰り返す無秩序な細胞の塊となり果てる。逆に細胞の振る舞いが抑制されすぎると、体は神経系も生殖器系もない小さな球のままで終わる。がんの根源となるのはこの細胞の自由度だ。私たちのがん抑制メカニズムは、細胞の振る舞いを制御するのを助け、体細胞進化に待ったをかける(P72~73)

 TP53遺伝子のようながん抑制メカニズムを通して、細胞の自由度を抑え込む力を強くしすぎると、私たちの健康や生存能力が損なわれるおそれがある。健康に生きることを助けてくれる重要な仕組みの多くは、細胞に、がんのようにふるまうことを求める。切り傷の傷を治すには、細胞が増殖し、移動して傷を塞がなければならない(P72)

 発達中の胚は、自然選択が起きる3つの条件(多様性、遺伝可能性、適応度の差)をすべて満たしており、細胞分裂開始から、細胞間には進化のプロセスが始動する。一部の細胞は死に、一部は生き残り、一部は他より多くの子孫細胞を生み出す。それにつれて細胞の集団は変化していく。私たちが正常な発達を遂げられるのは、がん抑制メカニズムが体内で働き始めるからである(P73~74)

 1個の細胞から数十兆個の細胞を持つ成体へと発達を遂げる間、体内ではあなたの生物学上の母親と父親があらゆる細胞の中で静かな闘いを繰り広げている。母親由来の遺伝子の一部は成長の抑制につながる因子(タンパク質)をつくり、父親由来の遺伝子の一部は成長に拍車をかける因子を生み出す。染色体上の遺伝子には、自らが母親と父親のどちらから来たのかを覚えているように見えるものが少なくない(ゲノム刷り込み)この刷り込みはエピジェネティクスを通じて行われる。エピジェネティクスとは、ある種の分子がDNAに結合したり離れたりすることによって、特定の遺伝子の発現を可能にしたり、抑制したりする仕組み。刷り込みのある遺伝子では、母親由来か父親由来かのどちらかの遺伝子からしかタンパク質がつくられない(P78~79)

 親の投資理論では、あなたの生物学的な父親と母親は別個の存在であり、遺伝子の面では全くつながりがない。よって、個を残すうえでの利害は完全には一致しない。ヒトは進化生物学的な見地からすると完全な一夫一婦制ではない。これは母親の資源を巡る対立である。母親からすると、子どもたちが節度をもって公平に分け合ってくれるのが最良である。対して、子どもたちは、他の兄弟が死なない程度にとどめはするものの、自分の取り分をなるべく多く増やしたい。子どもたちが少しでも多くを欲するのは、子孫を残すうえでの父親の利害が働いた結果である(P79~82)

 哺乳類には胎盤がある。胎児が母親の資源を引き出すためだけに用いる使い捨ての器官である。それが母親の子宮内膜に食い込み、成長中の胎児が資源を吸い上げる。遺伝子の面で見ると胎盤は胎児の一部である(P83)

 マウス胚のエピジェネティクスを操作して、父親由来の刷り込み遺伝子のスイッチを切ると、生まれてくるマウスの体は非常に小さくなる。逆に母親由来の刷り込み遺伝子を無効にすると、巨大な胎盤がつくられる(P85)

 父親由来の刷り込み遺伝子が、概して成長を促進する性質をもつということは、その遺伝子が発現するとがんが発生しやすい状況が体内でつくられることを意味するし、後の人生でがんにかかりやすくなることにつながる。胎盤内で増殖と浸潤を促す遺伝子は、後年にはスイッチが切れた状態でいなければならないが、がん細胞の中では再びスイッチがオンになっていることが多い。急速な成長と浸潤性は、細胞レベルで現れるがん特有の表現型である(P85~86)

 発達がすべて完了して成体サイズに到達すると、私たちの組織はメンテナンス・モードに入り、体を維持することだけに注力する。これにより急速な成長に伴うリスクはある程度低減するが、完全には消えない。組織を良好に保つためには細胞増殖の継続が必要だ。細胞は絶えず死滅しているし、傷を治すにも細胞増殖は欠かせない(P89~90)

 未分化だった幹細胞がひとたび特定の種類の細胞に分化し始めると、以後は決まった回数しか細胞分裂を行うことができない。分裂できる回数に制約を設けていることががん抑制メカニズムの重要な一翼を担っている。回数制限は細胞分裂の度にテロメアが短くなることで起きる。テロメラーゼを過剰に生成するマウスは、がんを発症するリスクが高いが、がんで死ななければ通常より長く生きる。テロメアが短いと組織の再生に支障をきたし、老化のスピードが速くなる。代わりにがんのリスクは小さくなる(P92)

 体が「傷を閉じろ」というシグナルを発したら、細胞はこれに呼応してすぐに増殖・移動しなければならない。これはがん細胞が成長して体内の新しい場所にコロニーをつくるときに用いる能力と変わらない。しかもがん細胞は、傷を生じていないのに傷の治癒を促す偽のシグナルをつくり出す(P94~95)

 小児白血病で一番多いのが急性リンパ芽球性白血病(ALL)で、胎児の発達のごく初期段階で、未分化の免疫細胞(未成熟前駆細胞)が増殖しすぎたときに発生しやすい。新生児全体の1%に転座のある前白血病細胞が認められるにもかかわらず、後に実際にALLを発症するのは、そのうちのごくわずかでしかなく、他の要因が関係している。そうした要因の1つが、感染症にかかるタイミングが遅れることだ。ごく幼い時期に感染症を経験しないまま感染力の強い病原体にさらされると、子どもが急性リンパ芽球性白血病(ALL)を発症するリスクが高まる(P97~98)

 私たちががんにかかりやすいのは、成長、組織の維持、傷の治癒、感染症の予防、などの機能や生殖能力とがんが結びついているからである。BRCA1(17番染色体)とBRCA2(13番染色体)の2つの遺伝子は、DNA修復タンパク質をつくるだけでなく、卵母細胞の形成や胚の発達に関わっている。生殖細胞系列(始原生殖細胞卵子精子に至るまでの生殖細胞の総称)の段階でBRCA遺伝子に変異が生じていると、その細胞から生まれる子は生涯の間に乳がん卵巣がんにかかるリスクが高い。ただし、変異の種類によってがんの発症リスクが変わってくるので、臨床の現場での対応は難しい判断が求められるP99~100)

 キスぺプチンはKISS1遺伝子がつくるタンパク質だが、これは胎盤の浸潤を制御するとともに、思春期の開始に重要な役割を果たしている。栄養膜が子宮内膜に浸潤するのを抑制するとともに、血管の新生(胎児に資源を与えるための血液供給を生み出す)を阻害する。一方、乳がんとメラノーマの転移を抑える(P107)

 進化の観点に立ち、できるだけ多く子孫を残すという点からすれば、がんへの防御の最適なレベルは思うほど高くないかもしれない。勝者が配偶相手を独り占めをする状況に近い場合、がんを防ぐ度合いが極端に低い進化を遂げるとの予想をコンピュータモデル弾き出した。がんを防御することが利益につながったのは、外因による死亡率が低く、競争の勝敗が繁殖の成功にほとんど影響しな場合に限られた(P108)

 私たちの体はがんに似た腫瘍を生じるが、それが局所にとどまっている分には、がん抑制メカニズムのおかげで、体の厳重な監視下に置かれている。しかし、腫瘍が抑制を振り切って周囲の組織に浸潤し、体の別の場所に転移するようになると、命に係わる恐れがある(P111)

 がんとは、体内で起きる体細胞進化のプロセスだが、体は体細胞進化や遺伝子変異を相当程度まで許容でき、それを抑え込みながら正常な機能を維持できる(P111)

 私たちは、現代社会の便利さのおかげでカロリー摂取量が多く、座りがちな生活を送っている。かつ発ガン性の化学物質に取り巻かれ、昔より生殖ホルモン値が高い。睡眠も乱れやすい。こうした環境の変化があまりにも短時間で起きたために、ヒトはまだがん抑制メカニズムを改良できていない。がん自体は太古の昔から存在する病だが、現代的な生活習慣のせいで遺伝子の変異率は上昇している(P113~114)

 生物にとって、最適ながんリスクのレベルはゼロではない。がんを完全に封じ込めてしまったら、私たちは子孫を残すうえで手痛い代償を負う羽目になる(P115)

 

【5】

 体が大きいと、そのサイズを達成して維持するためにより多くの細胞分裂が必要になり、その分発がんリスクが上昇するが、生物全体として見たときは体の大きさと発ガンリスクに相関関係が見られない(ピートのパラドックス)(P117)

 生活史(生物個体が生まれてから死ぬまでにたどる経過)理論の枠組みでは、がん抑制メカニズムにどれくらい投資するかが生物の種類によって異なる(P118)

 生物の集団が何世代もかけて進化を遂げていく過程では、外因死亡率(捕食等の外的要因によって命を落とす確率)の高さ、性選択圧(異性を引きつける能力、同性と競う能力によって生殖の成否が大きく左右される状況)の強さ等も抑制と自由のバランスに影響する。この生活史トレードオフによって、生涯における様々な目標(成長、繁殖、生存等)への投資の仕方が変わる(P130~131)

 短期間で成長してできるだけ早い時期に多くの子をつくる生物は速い生活史戦略を採用し、時間をかけて成長して繁殖時期も遅らせる生物は、遅い生活史戦略を採用している。後者は子の数が少ない。戦略自体に優劣はない。何が最適の戦略かは、どんな脅威と機械に直面しているかによる(P131)

 ゾウは、がん抑制遺伝子TP53のコピーを余分にもっており、そのことががん発生率の低さにつながっている。ヒトは両親から1つずつ受け継いだ2つしかない。リー・フラウメニ症候群の子どもは、TP53遺伝子を1つしかもたない。そのせいで、生涯の間にがんを発症する確率は100%近く、複数のがんにかかるケースも多い。患者の細胞に放射線を浴びせると、アポトーシスが起こらず重大な損傷を抱えた細胞が生き続ける。結果、がんのリスクが高まる(P134)

 細胞自由の方向にバランスを傾ける(細胞増殖を促す)遺伝子は、もっとも古くから存在する遺伝子であり、生命が単細胞生物だった頃に生まれた。細胞抑制の方向にバランスをシフトさせる遺伝子は、生命が多細胞へと移行した際に新たに登場した。後者の多くは「ケアテイカー遺伝子(世話人遺伝子)」とも言われ、多細胞生物を健康に成長させるために細胞間の協力を推し進める働きをもつ。これとは別に、「ゲートキーパー遺伝子(門番遺伝子)」は、前二者の中間的存在であり、その役割はシステム全体のバランスを維持することであり、様々な変化に敏感に反応しながら必要に応じて両方の側にシグナルを送っている。この遺伝子は進化の歴史において最も最近登場した(P138)

 感染性がんは、誕生間もない多細胞生物にとって、大きな厄介の種だった。その頃、一部の細胞は自らの細胞集団を構築・維持するのではなく、ほかの細胞集団に侵入して、その協力体制を利用することに特化した。中には、多細胞生物の生殖細胞系列に入り込むのを専門とするものもあった。(生殖細胞寄生)さらに、幹細胞ニッチを侵し、細胞の再生システムを横取りして自らの複製をつくる道を選ぶものもあった(幹細胞寄生)多細胞生物が健康に生存していくためには、こうした侵入者を寄せつけない方法として獲得した適応の中で最も重要なのが自己と非自己を区別する免疫系である。皮膚も免疫系の一翼を担っている(P139~140)

 皮膚のバリアが破られたり、免疫細胞の複製メカニズムが乗っ取られたり、脅威を識別する能力が妨害されたりすると、免疫系に問題が生じる(P140)

 集団の遺伝的な多様性が低ければ低いほど、免疫系の面で非常に近いので、感染性がん細胞の移動が容易になる。加えて、DFTD(タスマニアデビルに発症するデビル顔面腫瘍性疾患)の細胞は、自らのMHC(主要組織適合遺伝子複合体)の発現を減らす。MHCは糖タンパク分子であり、細胞膜を貫通する形で細胞表面に存在し、細胞内で使用されるタンパク質の断片を表面に提示する働きをもつ。この仕組みがあるから、免疫系は自己と非自己を区別できる。DFTD細胞は、MHCをあまりつくらないことで免疫応答を誘発しにくくする(P146)

 ヒトからヒトへの感染性がんの感染は稀である。病気や免疫抑制剤の投与等により宿主の免疫系の機能が低下しているときに、例外的に生じる(P153)

 有性生殖という仕組みも感染性がんのリスクを下げるものだった(仮説)。親の遺伝子と子の遺伝子が同一でないようにすれば、子が親からの細菌やウイルスに感染するリスクが減少する(P154)

 

【6】

 がん細胞は複雑な生態系の中で生き、進化する。生態系(腫瘍微小環境)の要素は4つある。①物理的な組織構造(細胞外基質をつくるコラーゲンや酵素を含む)と、②ほかの細胞(がん性細胞と正常細胞)、③資源(血液由来とほかの細胞由来)、④脅威(免疫細胞等)だ。腫瘍微小環境の状態により、がん細胞の進化や振る舞いの道筋は左右される。がんが悪性度を増すにつれ、がん細胞は資源を使い尽くし、血管の新生を促し、近くの組織内の正常な支持細胞(間質細胞など)を勝手に利用するようになる(P157~158)

 前がん性細胞の集団全体の進化は、環境によって方向づけられ、往々にしてがんに近いふるまいをする細胞のほうが選択されやすい。微小環境によって細胞の遺伝子発現も違ってくる。低酸素環境にある細胞は、低酸素誘導因子(低酸素状態で誘導されるタンパク質)の発現量を増やす。結果的に、細胞はふるまい方を変え、運動性を高めたり、血管の新生を促すシグナル送ったり、自らの代謝を変化させたりする(P158)
 正常な細胞と同じ環境に置かれていれば、がん細胞も正常な細胞のようにふるまえる。正常な微小環境の中では、周囲の細胞からのシグナルによって、正常なふるまいができるような遺伝子発現の状態に保たれる。1個の細胞は、遺伝子変異だけが原因でがん化するわけではない。その細胞を取り巻く環境が鍵を握っている。がんを食い止めるうえで腫瘍微小環境が重要だとする考え方をがんの「組織形成場の理論」と呼ぶ。がんが進展していく間ずっと、遺伝子変異と腫瘍微小環境は互いに影響を及ぼし合い、がんを抑制する方向にも促進する方向にも進む(P158~159)

 前がん性細胞が体内に足がかりを築くのは、たいてい腫瘍の成長に都合のいい微小環境(腫瘍促進微小環境)に取り巻かれているときだ(腫瘍促進微小環境)。当初がん細胞は、腫瘍微小環境内の資源を利用するだけだが、やがて進化を遂げて、新しい能力を獲得し、新しい血管の形成を促して腫瘍の場所まで誘導できるようになる。しかもがん細胞は、周囲の間質細胞を味方にして、成長因子や生存因子を分泌させる(P159~160)

 どんな腫瘍微小環境にも共通するのが慢性炎症だ。がん細胞は進化すると、創傷治癒反応を起こすためのシグナル伝達システムを勝手に使用できるようになる。免疫細胞にシグナルを送り、自分のために増殖因子や生存因子、血管新生因子を産生させる。制御性T細胞は脅威が排除された後で免疫応答を停止させる働きをするが、これを呼び寄せることで、免疫系に殺されないようにする(P160)

 がん細胞は、血流を通して届けられる酸素やグルコース、窒素、リンを必要とするほか、周囲の細胞からの増殖因子と生存因子を必要としている。がん細胞が進化すると、自らの環境内にある正常な支持細胞(線維芽細胞)に対して「傷を治癒する」というシグナルを発する。すると支持細胞は、増殖因子と生存因子を送り返してくれる(P161)

 がん細胞には、急速な成長と細胞分裂を優先するものもあれば、生存に重点を置くものもある。あまり進展していない段階では、がん細胞は資源不足を回避するための戦略を発達させる。初期段階のがん細胞は多量の資源を入手できるのが普通なので、トレードオフ(増殖と生存)の問題に煩わされない。資源の不足に直面したとき、増殖と生存のトレードオフが大きな意味を帯びてくる(P164~165)

 生活史トレードオフは、がんを治療する過程でも重要になるケースが多い。がんの治療は、腫瘍の生態系を変え、がん細胞にトレードオフを迫る環境を生んでしまう。化学療法により周囲の環境に抗がん剤が充満していると、細胞は薬剤排出ポンプを使って毒素を外に排出する。その際細胞のもつエネルギーの半分を費消するので、細胞分裂に当てるエネルギーが減少する(P165)

 胎児では、血管内皮細胞が体中の組織に侵入し、資源を輸送・分配するための血管網を築く。血管は、周囲の細胞が発するシグナルに応じて、成長と変化を繰り返している。傷の治癒が必要というシグナルが伝えられれば、血管内を流れる血流量が増え、新しい血管の形成へとつながる場合もある(P168)

 がん細胞は、血管透過性(血管壁の内外で物質が出入りする性質)を亢進させるシグナルを送ることで、自分のところに流れてくる栄養を増やし、下流の細胞が受け取る量を減らす。がん細胞は協力し合って血管を誘導するシグナルを出し、自分たちのための新しい血管を形成することがある。ただし、がん細胞の協力関係は短命に終わることが多い(P169~170)

 自然界の生態系では、生物が局所的な環境を搾取してしまうと、分散を促す選択圧がかかり(分散仮説)、移動によって新しい環境を見つけて住みつける個体が選択される。がん細胞が浸潤を起こし、とりわけ転移した後では治療は格段に難しくなる。著者のコンピュータモデルでは、かつて考えられていたよりかなり早い段階で細胞が移動性を獲得している可能性が示唆された。進展の初期段階に腫瘍を離れるがん細胞ほど転移に成功しやすい(早期播種)。細胞が運動性を得た結果が明らかになるのは、浸潤や転移の後だとしても、運動性の進化自体は初期段階で起きているかもしれない(P171~172)

 遺伝的に近縁ながん細胞同士が協力することは、がんが進化するうえで重要な役割を果たしている。(著者仮説)(P179)

 がん非幹細胞(有限の分裂能力しか持たないがん細胞)は、腫瘍内細胞の75.99%~99.999%を占める。この種の細胞が遺伝的に近縁な細胞の適応度を高める能力を持っていれば、著者のコンピュータモデルでは細胞集団内で維持される(P179~180)

 社会的昆虫の世界では、繁殖を行うのは一部の個体に限られる。社会的昆虫の社会は厳しい環境に強い。がんが進展していく過程でも、がん細胞は協力なしでは生存できない様々な環境に直面する。(P180~181)

 がん細胞は、しばしばクラスター(小集団)をつくって転移し、その集団が大きいほど転移の成功率が高い。がん進展の後期にはがん細胞のクラスターが血流に乗って循環し、そのクラスターの大きさは血液サンプルを調べて測定できる。患者がどの程度生き延びられるかを、このクラスターサイズが左右し得る。モデルマウスの乳腺腫瘍を使った研究によれば、単独の腫瘍細胞対比でクラスターが転移巣形成に成功する割合が23~50倍だった。(P181~182)

 転移の過程で何が起きているかのモデルは2つある。線形モデルは、腫瘍の進化の後期で転移が生じるとする。並行モデルは、あらゆる転移巣が原発腫瘍に由来することを前提とするが、その時期にはずれがあるとする。しかし、どちらのモデルも最新のデータと一致していない。転移カスケードでは、原発腫瘍から多数の転移巣が生じるが、そこからさらなる転移巣を生むことができるのはその一部にすぎない(P186~187)

 腫瘍の再播種とは、転移巣の細胞が原発巣に戻ってくることであり、いずれのモデルとも合致しない。腫瘍の再播種も転移カスケードの実際の過程も、がん細胞コロニー内で協力が進化していることをうかがわせる(P188)

 大きな原発腫瘍を取り除くと、ごく小さかった複数の転移巣が急激に成長することがある。これは原発腫瘍が栄養を独占することがなくなり、増殖抑制因子を分泌することもなくなるからだ。原発腫瘍が転移巣の増殖を抑える現象は随伴性腫瘍抵抗性と呼ばれ、動物実験でも人間の患者でも広く観察されている(P190)

(運動性と転移の進化論的力学:著者等の論文の主張)(P191~192)

 転移プロセスは一つの選択圧となっており、次の2つの形質を備えたがん細胞コロニーに有利に働いている可能性がある。

①成長と繁殖の段階が明確に分かれた生活史が存在すること

②生活史戦略をもつこと

 コロニーを形成して二次的な転移巣をまき散らす能力の最も高い転移巣が、ほかのがん細胞コロニー(及び単独の細胞)よりも優位に立つ。結果、短期間で新しい環境にコロニーを築いて新たな転移巣を生み出せる集団が生存するうえで有利になる(P192)

 転移した細胞がコロニー単位で独自に進化している可能性がある。がんの進展につれて、コロニーレベルでの転移能力のますます高いものが選択されている可能性もある。協力的な細胞コロニーを有利にするマルチレベル選択ががん進展の過程で働いているのなら、がんが進展するほど治療が難しくなるのはそこに原因があるのかもしれない。コロニー内での協力の結果として転移が起こるのであれば、転移を司る遺伝子が1つも見つかっていないことも、転移に関わる遺伝子経路が発見されていないことも、それで説明がつく(P195)

 転移コロニー間に自然選択が作用することでがんが進展していくのなら、原発腫瘍を切除しても転移カスケードを止めることはできない。がん細胞同士の協力に転移の原動力があるのなら、治療においては転移時の協力的なふるまいや細胞同士の連携を妨げることに注力し、それ以上の増殖や転移を防ぐのが賢明なやり方ではないか(P195~196)

 以上は、コロニー内のがん細胞に協力的なふるまいが見られるのは、細胞同士の協力が自然選択されるからではないかという仮説による。しかし、可能性はほかにもある。①がん細胞の何らかの振る舞いの副産物として協力が生じている(仮説2)

②協力に思えるものは単なる偶然にすぎない(仮説3)(P196)

 微生物叢(マイクロバイオーム)とは、細菌、酵母、ウイルスなど私たちの体内及び体表面にすむ微生物の全体を指す。微生物は腫瘍の内部や周囲でも発見されており、がんを助けるものもあれば、がんを防ぐのに役立つものもある。ヒトのがんの10~20%程度は、特定の微生物叢と関連がある(P199~200)

 プロバイオティクス(腸内微生物叢のバランスを改善するために摂取する宿主にとって有益な微生物)とプレバイオティクス(有益な微生物の増殖を助けたり有害な微生物の増殖を抑制したりする食品成分)を用いることでがんの予防効果が認められると指摘する研究がある(P203)

 NOTCHI遺伝子の変異は、食道がん組織全体の10%だったのに対し、正常な非がん性組織では30~80%に及んでいた。NOTCHI遺伝子の変異をもつクローン増殖は、食道がんから組織を守る働きをしている可能性がある。NOTCHI遺伝子変異のクローン増殖は、組織内で場所をとることによって、TP53変異のクローン増殖が大きくなりにくい状況をつくっているのかもしれない。クローン増殖はすべて悪ではないし、がんの内部で確認される遺伝子変異が必ずがんにつながるという思い込みも禁物である(P204~205)

 クローン増殖ががんを防ぐ場合もあるのなら、予防やリスク分類、治療において、新しいアプローチが開ける。非がん性のクローン増殖をつくり出して、がんの予防、治療後の再発防止に役立てることである(P206)

 遺伝子変異のホットスポットとは細胞にストレスがかかったときにDNAが損傷しやすく、真っ先に変異する傾向があるゲノム領域を指す。多細胞の体は、いくつかのホットスポットをもつ進化を遂げ、それを使ってクローン増殖をつくり出せるようになったのかもしれない。そのクローン増殖が場所を塞ぐことで、もっと危険性の高い遺伝子変異が増殖の足がかりを築けないようにするためだ(P206~207)

 

【7】

 がん治療における最大の問題は、がんが抵抗性を獲得することである。ロバート・ゲイトンビー(アリゾナ大:放射線腫瘍学者)等が開発したがん治療法(適応療法)の狙いは、腫瘍の一掃ではなく、長期にわたる腫瘍のコントロールである。腫瘍負荷(患者体内にある腫瘍組織の総量)を限度以下に抑えつつ、治療に対するがん細胞の感受性を維持することである。結果、同じ薬剤をいつまでも使い続けることができるし、環境(患者の体)へのダメージを拡大させない。(P216~217)

 適応療法では、最初に、腫瘍を小さくするために比較的高用量の抗がん剤を投与する。次に腫瘍を定期的にモニターしながら、その振る舞いに応じた抗がん剤治療を行う。腫瘍サイズに変化がなければ用量も変えない。腫瘍が成長したら、最大用量を超えない範囲で用量を増やし、大きくならなければ用量を減らす。腫瘍のサイズが所定の下限値を下回ったら、再びその一線を超えるまで投薬を停止する。または同用量を維持しつつ、腫瘍が半分サイズになったら投薬を中断する(P217~218)

 ヒトの卵巣がんを移植されたマウスを①標準的抗がん剤治療、②適応療法、③治療なしの3グループに分けた。①標準治療のマウスでは初め腫瘍が縮んだが、数週間で元に戻った。②適応療法では、実験を通して安定していた。(2009年発表のゲイントビー等の研究)ヒトの乳がん細胞を移植したマウスを使った実験でも時間の経過とともに、用量を減らしても腫瘍をコントロールできた。適応療法で治療している腫瘍は、壊死が少なく、血液供給が安定していた。腫瘍細胞の生態環境中の資源と危険度を適応療法が安定させている可能性がうかがわれる。環境が安定しているほど、より遅い生活史戦略をとる細胞が選択されやすい。攻撃性の低い細胞のほうが生存と繁殖において有利になり、がん細胞の協力を促す選択圧も減少しやすい(P218~219)

 ヒトを対象とした研究で、低用量アスピリン1日1錠飲むという形で、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を摂取させたところ、遺伝子変異率が大幅に下がった。他の研究でも、食道がんなどの様々ながんの進展NSAIDsが遅くすることが示されている。これは、NSAIDs細胞が変化率にじかに影響しているのかもしれないし、炎症が減るためにがん抑制メカニズムが効果を発揮しやすくなるからかもしれない(P229)

 がんの多剤抵抗性を逆手にとって、がん細胞に、おとりの薬(代用薬。毒性がない、又は最小限の毒性の物質)を与えて、がん細胞に薬剤放出ポンプを稼働させてエネルギーを使わせることで、がん細胞の拡大を防ぐ方法もあり得る(P230)

 ゲイントビーは、マウスを使って、炭酸水素ナトリウム(重曹)を経口摂取させた。すると腫瘍微小環境の酸性度が低下し、肺、腸、横隔膜への転移巣の数と大きさが大幅に減少した(P231)

 腫瘍に安定した低レベルの資源を与えてやれば、腫瘍はその場にとどまったまま成長を続けてくれる可能性がある。浸潤と転移を促すより好ましい(P233)

 循環中のがん細胞の接着を防いで、クラスターをつくらせないようにできれば、転移の確率を下げられるかもしれない。この種の腫瘍細胞クラスターは、プラコグロビン(接着分子)を用いて固まっており、プラコグロビン値が高いほど、患者の予後が思わしくないという関連性が指摘されている(P239~241)

 

 

 

 

 

自然治癒力が上がる食事 小峰一雄著 2018年11月ユサブル刊

(目次)

はじめに

第1章 最新医学が証明した歯と全身の関係

第2章 抜歯・抜髄が招く恐ろしい全身の病気

第3章 抜髄した歯と病気になる内臓は決まっている

第4章 虫歯を削らずに治す方法

第5章 歯周病は食事療法で治る

第6章 虫歯・歯周病の食事療法が生活習慣病を治す

第7章 合わない入れ歯が病気をつくる

第8章 予防が認められない日本の保険診療の問題

 

【第1章】

(歯の構造及び象牙質内の液体移送システム Dentinal Fluid Transport)

 歯の表面は硬いエナメル層で覆われており、無数の穴(エナメル小柱間)が空いている。その内側には、象牙質(エナメル層より柔らかい)があり、境目は象牙細管エナメル象牙境と呼ばれる(P16)

 ラルフ・スタイマン博士とジョン・レオノーラ博士(米ロマリンダ大)がネズミの腹腔に「放射性同位元素」を注射したところ、6分でエナメル象牙境に達し、1時間未満でエナメル小柱間から歯の表面に出てきた(DFT現象)(P16)

 歯の内側から外側へと常に液体が染み出ていることから、歯は石のような塊ではなく、隅々まで栄養が行き届く機能を備えた臓器だということがわかる(P16~18)

 万一、歯茎の中に歯周病菌が入り込んだときも、DFTの液体に含まれる免疫細胞が菌を退治し、歯周病が発症するのを予防してくれる(P19)

 DFTは、あるスイッチが入ると逆流し始める。すると口内の無数の細菌が歯の中に入り込み、虫歯をつくり、ついには体内に入り込んで全身の病気を引き起こす(P19)

 一般に、虫歯は歯の表面から進むと言われる。ミュータンス菌とラクバチルス菌が糖分を餌として酸をつくり、この酸が歯の表面のエナメル質を溶かし、奥へ奥へと進行していく。この説は間違いではない。しかし歯の表面がきれいでも、内部が溶けている症例も数多くみられ、これだけでは説明できない。よって、虫歯は内側から進むこともある。このような虫歯をつくるのはDFTの逆流である(P20)

 スタイマン博士らは、DFTの逆流を引き起こすスイッチとして次の5つをあげている。

①砂糖の摂取、②ストレス、③運動不足、④ビタミン・ミネラル不足、⑤薬剤の服用(P22~)

※スタイマン博士らが放射性同位元素の注入の実験を通じてDFT現象を発見したことについては記載されているが、「DFTの逆流」という現象が存在することやその原因についてスタイマン博士が主張したことやその根拠についてはは格別の記載がない。その意味で、ここから先の記述については、真実と認められたものというよりは、著者の主張(仮説)レベルの話と位置付けるしかない。(あくまでも、「DFTの逆流」の原因としての①~⑤についてのことであり、①~⑤が「避けるべきもの」であることについては異議はない。)

 

(糖反射)

 人間は砂糖を摂ると胃と十二指腸の働きが一時的にストップしてしまう。食前に砂糖を摂取すると、胃腸が十分に働かないまま食べものが送り込まれることになる。するとビタミンやミネラルなど必要な栄養素が摂取できず、消化不良を起こす(P33)

※ヒトの胃は1分間に約3回ほどのペースで動いている。胃に糖が入ると胃の動きが止まると言われている。被験者に砂糖水を飲ませると、数十秒間胃腸の動きが完全に静止し、逆に塩水を飲ませると、胃腸の動きが急に活性化した。量的には角砂糖の1/4-1/5個くらいで起こる。糖分は唾液、胃液、腸液で5.4%等張液として消化吸収され、大量の糖分を摂取すれば1時間以上に亘って停滞が起こるとされる。糖は細胞に対して絶縁物質として作用し、神経信号の伝達を阻害するのではないかと考えられている。糖分は静脈の弛緩をもたらすとともに血液粘度を上げ、血流の遅滞が起こり、組織や静脈に老廃物が蓄積することで様々な病気が発症することがある(wikipedia ただし根拠の記載がないとの注釈がついている)

 

 スコット・テイラー博士(米:歯科医師)は、血糖値をゆっくり上昇させることがDFTの停止や逆流を防ぎ、結果として虫歯の予防が可能としている。テイラー博士が提唱する血糖値をゆっくり上昇させる方法は、次のとおり

①ホールフーズを食べる

GI値の高い食物を避ける

脂溶性ビタミンを摂取する。(P35~38)

(著者推奨の他の方法)

①炭水化物を摂る前に食物繊維を摂取する

②1日の食事回数を減らす。

 食べる回数が多ければ多いほど、血糖値が上がる回数が増え、それに比例してインシュリンの分泌も活発になる。反対に食事回数を減らしたり、血糖値をゆっくり上げるような食事をすると、インシュリンがコントロールされて分泌するため、空腹も感じにくくなる(P41)

③断食する

④よく噛んでゆっくり食べる。最低でも1時間、できれば2時間かける

※②の記述には賛同できない。1日に食べる量が同じで、それを1回で食べるか、3回に分けて食べるかということであれば、前者のほうが血糖値の上昇度合いは大きくなるし、インシュリンも大量に分泌されるはずである。

 

【第2章】

 痛みをとるには神経をとってしまえばいいという対症療法であって原因療法ではない。歯髄の痛みの原因、歯髄炎は、自然に治ることが多い(P50)

※歯髄炎に関する一般的な説明は次のとおりであり、「歯髄炎は、自然に治ることが多い」のではなく、「急性で軽い場合は、冷たい飲み物や食べ物、冷たい空気などのちょっとした刺激で痛みを感じることがありますが、こういった場合は一過性ですぐに痛みが治まってしまう場合が」ある。つまり、「自然に治った」のではなく、痛みが治まっただけと考えるべきだろう。

※無論、神経を抜くのは最後の手段であって、できるだけ温存する治療法が望ましいことは言うまでもないが、「歯髄炎が自然に治る」との主張のもとに、抜髄を一切認めないというのは無理がある。

「歯髄炎とはどんな病気か
C1、C2の軽度の虫歯から引き続いて起こる病気で、歯髄(歯の中心部にある神経や血管の通っている部位)に細菌が入り込み、感染して炎症をおこしたものです。

症状
急性で軽い場合は、冷たい飲み物や食べ物、冷たい空気などのちょっとした刺激で痛みを感じることがありますが、こういった場合は一過性ですぐに痛みが治まってしまう場合があります。症状が中度に進行してくると、温かい飲み物を飲んでもズキズキと耐えがたい痛みが定期的に繰り返し起こり、さらに症状が悪化してくると常時痛みが続くようになります。なかには、普段は激痛がなくて、虫歯の孔に食べ物が入ってきた時に痛む慢性の歯髄炎もあります。慢性になると、痛んでは自然に治まることをくり返すようになります。

原因
一番多いとされる原因は、虫歯を治療せず放置してしまったため、エナメル質に孔があき、その下の象牙質が崩壊して歯髄にまで達する孔があいてしまい、歯髄が虫歯の細菌に感染して炎症をおこすものです。

激痛がおこるのは、歯髄が炎症をおこし、歯髄のなかに通っている血管が拡張し、充血して血液量が増えるからです。歯髄は硬い象牙質で囲まれているため、血液量が増加すると、歯髄内の内圧が高まり、神経線維が血管に強く圧迫されて痛みがおこります。  深く孔のあいた虫歯や虫歯を治療した歯が、冷たい飲み物などに敏感に反応して痛んだり、就寝時に痛んだりする時は、歯髄炎と考え、出来るだけ早急に歯科医院での治療を受けましょう。

治療
痛みのある患部に局所麻酔をして、歯髄を取り除き(抜髄)ます。歯髄が通っていた患部に薬剤を詰めて塞ぎ(根管充填)、孔のあいた歯にインレー(詰め物)やクラウン(被せ物)などの終末処置をおこない咬めるように機能回復の治療をします。患部の症状や状態にもよりますが、治療が完全に終了するまでは少なくても5~6回の通院が必要となります。」(以上、中川歯科クリニックのHPから引用)

 

 歯の神経を抜くと歯周病になります。血流が途絶えて死んでしまうため、体が異物反応を起こして、歯を押し出そうとするからです。神経が生きていれば、DFTの働きにより、歯の象牙質やエナメル質の隅々にまで栄養や水分が運ばれます。そして虫歯の発症を防いだり、歯の中にできた小さなヒビなどを自然に修復してくれる(P51~52)

 歯と全身はDFTによってつながっています。ですから抜髄や抜歯は、全身の病気を引き起こすこともあり得るのです。それが、歯性病巣感染。ボーンキャビティ、菌血症です。歯性病巣感染とは、神経を抜いた歯の中に細菌が繁殖し、体中に感染することです(P54~56)

※「病巣感染とは、体の中のある場所に病気の原因となる病巣ができ、そこの細菌が血流にのって全身に運ばれることにより、他の臓器に感染し、病気が引き起こされることです。その病巣が「歯」にあるとき、それにより体の病気につながる場合に歯性病巣感染と言います。」(かさい歯科クリニックのHPから引用)

※要するに「神経を抜いた」の部分は余計で、「歯の中に細菌が繁殖し、体中に感染すること」を「歯性病巣感染」という。そこでの病巣としては、歯周病、虫歯がイメージされているが、実は「抜髄後」が最もリスクがあるとしている歯科医院もあるので、あながち的外れでもないのかもしれない。

 

 歯の根は、歯茎との間にある歯根膜と呼ばれる繊維でくっついている。この歯根膜は抜歯をしても歯茎の骨の中に残ってしまう場合があり、その周囲を強力な繊維で包み、空洞をつくる。この空洞をボーンキャビティといい、その内側は細菌の温床となり、病巣感染同様、全身の臓器に細菌や毒素を送る(P56~57)

 ボーンキャビティの治療は、「ストリークレーザー」を使ったレーザー治療で行っている。手術は菌血症を起こす恐れがあるほか、麻酔効果の高い血管収縮剤入りの麻酔を使いたくないからです(P59~60)

 歯原性菌血症とは、抜歯をした傷や出血した歯茎から口の中に棲む細菌が血液中に入り込み、全身を巡る症状です(P60)

 歯性病巣感染、ボーンキャビティが、神経を抜いてDFTが正常に流れなくなったことに起因するのに対し、歯原性菌血症は血管に細菌が入り込むという点で原理は異なります(P60)

※歯性病巣感染と歯原性菌血症との違いについての著者の説明には納得感がない。病巣感染の定義(かさい歯科クリニックのHP)からすると、歯性病巣感染の病原菌が血流にのって他の臓器に感染を起こすのが前者で、後者は、口の中の常在菌が血液に入って、他の臓器で悪さをするということを指しているように思える。(もう少し他の本に当たる必要がある)

 

【第3章】(主張の根拠となるデータが示されていないので何とも言えない)

 

【第4章】

(小峰式完全予防歯科プログラム)(P74~)

①唾液のpH測定+全身の健康状態把握(低体温、自律神経の乱れがないか)

②口腔内の視診

 ・虫歯になりにくい歯かなりやすい歯か

 ・歯周病になりにくい歯茎かなりやすい歯茎か

 ・噛み締めの有無、顎関節の状態

 ・歯茎での重金属の貯留の有無

 ・血流状態、歯石・歯垢の有無、その他

③虫歯レーザー診断

④虫歯があれば、その葉の神経状態(炎症の有無)の確認

歯周病の検査

⑥食事指導 

 

(唾液の量が必要)

・唾液には抗菌作用がある

・酸を中和する

・唾液はアルカリ性であることが必要(pH6.2以下のヒトのほとんどはがんに罹患)

(唾液分泌量減少の原因)

 ・薬剤

 ・塩と砂糖

 ・ストレス

 ・水分不足

  コーヒーや紅茶は、利尿効果が高く、いくら摂っても尿として排泄される

※コーヒーや紅茶の利尿効果と水分不足を結ぶつける根拠は乏しいと思われる。水分摂取から尿としての排泄までの時間が短いのは事実だが、水分不足を主張するのであれば「摂取した水分量<排出した水分量」であることを検証しなければならないが、そのような実験結果は見当たらない。

※なお、「コーヒーの約98%が水分でできています。これにより、コーヒーは実質的には水とほとんど変わりない、優れた水分補給源となります。利尿作用があるとされていますが、摂取した水分が体内に十分留まります。これにより、コーヒーは水分補給に十分適していると言えます。」との見解もある。

 

 歯髄炎になると、砂糖を含む甘い食べ物を摂取したときに冷たいものが染みるようになるが、この段階ではシュガーカットで痛みを抑えることが可能です。歯髄炎はDFTが逆流したとき、口の中の細菌が歯に入り込んで起こります。その逆流を引き起こすスイッチとなるのが砂糖ですから、痛みを抑えるには砂糖を摂らないことが大前提になります(P84)

 冷たいものより暖かいもののほうが染みるようになった段階では、神経はほとんど機能しておらず、内側が炎症を起こしているので自然治癒は難しい(P85)

 

(ドックベスト療法):保険適用外=自由診療

 ドックベストセメントはCooly&Cooly社(米ヒューストン)が開発。殺菌作用のある銅2%、鉄1%、複数のミネラル含有

①ドックベストセメントを虫歯の穴に詰める

②仮のセメントで封鎖し、1~2年間経過観察 ~ 再石灰化

③虫歯が治ったことを確認し、最終仕上げ

 

(小峰式治療法)(P91~92)

①患部に超高濃度麻酔液を塗り、レーザーで歯に小さな穴をあけて内圧を開放し、痛みをとる。痛みの原因は、密閉された歯の中に白血球が流れ込んで内圧が上がっているから

②炎症を起こしている神経を特殊ストリークレーザーで焼き切る

③歯髄診断機で歯の神経の状態を確認

 

 多くの歯科クリニックで使用されている麻酔薬は、その効果が患部に留まって長く続くよう、血流を止める血管収縮剤が含まれている。しかし、歯茎の血流が1~2時間止まると、その間に細菌感染したり、最悪の場合組織が死ぬことがある。なので、当院では血管収縮剤が入っていない麻酔薬を使っている(P92~93)

 

(ローレベル・レーザー治療:LLLT(Low Level Lazar Therapy))(P94~96)

①レーザービームを歯の神経に照射し、歯の神経内の血流を数倍速くして白血球を増やすことで自然治癒促進(間接療法)

  ~痛みが治まらないとき~

②麻酔なしで炎症を起こした神経部分のみレーザーで除去(直接療法)

③健康な神経のみ残して、ドックベストセメントで封鎖

 

(歯の根の治療)(P96~98)

①歯茎からのアプローチ法

 ・血管収縮剤未配合の麻酔を実施

 ・歯茎から膿が出ている穴から高周波チップを差し込み、根の先を200~300℃で照射

 ・(又は)ストリークレーザーで炎症部位に1万分の1秒、2700℃の熱を照射

②歯からのアプローチ法

 ・歯の表面側から根の先まで削って穴を開け、薬や器具が届くようにする

 (一般的に行われている方法だが、成功率が低いのであまり使っていない)

 

【第5章】

 日本では歯周病は細菌感染症であるとされているが、原因菌とされるAA菌とPG菌は多くの人の口の中に存在するが、発症する人としない人がいる。  

 AA菌:アクチノバチルス・アクチノマイセテムコミタンス菌

 PG菌:プロフィロモナス・ジンジバリス菌

 アメリカの歯周病学会では「歯周病になるかならないかは、歯周組織の細胞環境に関係がある」としており、①炭水化物の過剰摂取、②カルシウムの摂りすぎ、③マグネシウム不足としている(P100~102)

 日本の歯周病対策は、歯周病菌の原因となる歯垢をブラッシング等で取り除き、それでも治らない場合は抗生剤療法がおこなわれる。しかし、抗生剤は、腸内細菌まで死滅させるので、服用後しばらくすると全身の免疫力が著しく低下し、さまざまな病気を発症させる恐れがある(P101)

※抗生剤に関する部分に賛成。抗生剤は使わないに越したことはない。

 血液中の一定濃度以上の余分なカルシウムは別の場所に運ばれ、組織や臓器で石のように固まる(異所性石灰化)(P104)

 脳細胞で石灰化するとアルツハイマーに、目の水晶体に入れば白内障を起こす。沖縄より北海道で白内障患者が多いことから、白内障は、紫外線が原因ではなく、乳製品に含まれるカルシウムが原因と考える(P104)

※異所性石灰化の一般論はともかくとして、アルツハイマー白内障に関する著者の意見はずいぶん乱暴であり、にわかには賛同し難い。

 

 骨粗鬆症の原因は、カルシウム不足ではなく、運動不足であり、高齢者が圧迫骨折を起こすのは、骨の周囲の筋肉の衰えが原因(P105)

※運動不足も骨粗鬆症の一因だし、筋肉の衰えも一つの要素ではあるが、骨を作っているのはコラーゲンであり、コラーゲンの劣化が骨粗鬆症の主因だろう。

 

 歯周病の原因として、ほかに④オメガ3不飽和脂肪酸の摂取不足、⑤塩分の過剰摂取がある(P105~107) 

 

【第6章】

 虫歯の食事療法は、以下の病気も治癒あるいは改善する。①糖尿病、②うつ病、③アレルギー、④認知症、⑤抗老化(アンチエイジング)(P113~118)

 糖尿病の原因は、単に糖質の過剰摂取だけの問題ではなく、肉や卵、乳製品などの動物性たんぱく質に含まれる脂肪が筋肉や肝細胞に蓄積し、その飽和脂肪酸インシュリンの働きを悪くしてしまう(P123~124)

※過剰な脂肪細胞がインシュリンの働きを悪くするのは事実だが、その原因を飽和脂肪酸のみであるかのような記述には違和感がある。

 

 過去に行われた糖尿病の大規模研究では、薬剤等で無理やり血糖値を下げると予後が悪いとの論文が多数ある(P127)

※厳格な血糖値コントロールの予後が悪いことは周知の事実である。なので、現在は「緩やかな」血糖値コントロールが行われている。「厳格な」コントロールが否定されているだけで、「投薬」が否定されているわけではないことに注意が必要。食事療法だけでコントロールが可能であれば、それに越したことはないが、できないときどうするかという問題だろう。

※以下、各種がんについての記述があるが、所詮専門医でもなく、自らの「食事方法」に引き寄せた記述なので省略

 

【第7章】

 歯を抜くと歯茎の骨が溶け始め、瘦せ細ってくるため、口に合わせてつくった入れ歯が徐々に合わなくなってくる。さらに歯を抜くと時間経過とともに、上あごは歯茎の山が内側に移動してアーチが狭くなり、下あごは外側に移動してアーチが広くなる。その結果、噛み合わせの軸がずれ始め、上手に噛めなくなる(P144)

 入れ歯が口に合っていないと安定してうまく噛めないので、緩衝材が必要になる。その役割を果たすのが唾液である。よって入れ歯の快適さは、唾液の量で決まる(P147)

 人工歯(入れ歯、インプラント)は患者が違和感を覚えないようにするために噛み合わせを低めに設定するが、その場合、次のような問題が起こる。①口内炎、②見た目、③難聴など(P148~151)

 入れ歯のピンク色の歯茎部分はスポンジのように小さな空洞が空いていて、これが水分を吸収することで、乾燥しにくく、口への吸着が安定するようになっている。しかし、空洞の中に細菌が棲み着くリスクがある。入れ歯を洗浄するときは、できるだけ薬剤を使わず、超音波洗浄機を使うほうがよい。入れ歯は消耗品である(P152~155)

 

【第8章】

 保険診療は点数で表現し、患者1人あたりの1か月の平均点(平均の請求金額)が高いクリニックは個別指導を受ける。その指導を避けるため、医療機関は、患者1人当たりの平均請求金額を下げようとして、1回の治療を少なくして、治療回数を増やす(P162)

 現在、歯の被せ物として使用している金属は、世界基準では、一定期間のみ認められる金属で、永久使用は認められていない(P163)

 

※総じて、予防医療に関する記述に異論はない。