命の食事 南雲吉則著 2016年12月主婦の友社刊

(目次)

プロローグ

総論 がん予防の真実 「治療」だけでは変わらない

1章 がんが喜ぶ狂った食事 だからあなたは、がんになる

2章 がんを育てる狂った生活 自らがんを招いてしまっていた

3章 がんから救う命の食事 食べ物を変えてがんを防ぐ

4章 がんを寄せつけない命の生活 若返りながらがんも予防

Drナグモの命の食事レシピ

Drナグモのヘルシーライフのすすめ

Part1 良質の「オメガ3」を生活にとり入れよう

Part2 命を守る やさしい筋力トレーニン

 

◎目次を見る限り著者の主張の根拠となる事実や論理が十分には書かれていない風なので、そもそも「読むに値しない本」という位置づけになるのだが、ユーチューブ動画ではもう少し根拠らしきものも発せられていたように思うので、全体的な評価は保留する。

【総論】

 この半世紀の間に大きく減少しているのは、胃がんと子宮がんです。肝臓がんも1995年以降減少に転じています。これらに共通しているのは感染症です。ピロリ菌、ヒトパロマ―ウイルス、肝炎ウイルスが原因で、衛生状態の改善やピロリ菌の除菌、ワクチンの接種、輸血や予防接種時の感染予防によって減少しています。(P14)

 死亡率が増えているのは、前立腺がん、乳がん卵巣がん、子宮体がんです。これらは食生活の変化による肥満が原因です。肥満になると血中のコレステロールが増えますが、コレステロールは性ホルモンの材料になるので、乳房、前立腺、女性器のがんが増えます。(P14~P15)

◎第1文はそのとおりだとしても、第2文はどうか?何ら根拠は示されていない。

 

 子どもはテロメアが長いので死ぬ細胞よりも生まれる細胞のほうが多く、体は成長します。テロメアが短くなると成長が止まります。テロメアがさらに短くなると老化し、テロメアがなくなると死を迎えます。人間の場合、120年までテロメアの長さが用意してあるのです。(P18)

テロメア細胞分裂の回数を制限しているので「細胞の死」とテロメアは直結する。しかし「細胞の死」と「生命体の死」とは異なるので、少なくとも最後の1文「人間の場合、120年までテロメアの長さが用意してある」という部分は誤りではないかな?

 

 食事やタバコや感染によって傷ついた粘膜を修復するために現れたのががん細胞です。(P21)

◎どうかな?「食事やタバコや感染によって傷ついた粘膜を修復するために」細胞分裂をして修復するのだが、細胞分裂の回数に応じてDNAの複製エラーも発生するのでがん細胞が発生し、その多くは免疫細胞によって除かれるが、ごくわずかに生き残ったがん細胞が最終的にがんとなるという理解をしているのだが‥

 

 乳房は女性ホルモンで成長しますから、乳がんも女性ホルモンで成長します。現代女性は、未婚、晩婚、少子化のために、妊娠、授乳によって月経が止まっている期間が短くなりました。そのため分泌される女性ホルモンの量が多くなって、乳がんが急激に増えました。(P23)

 コレステロールは性ホルモンの原料ですので、副腎のアンドロゲンが増えます。アンドロゲンが転換酵素によって女性ホルモンに変わるため、肥満の多い欧米では閉経後の乳がん患者が5倍多いのです。同様に、性ホルモンで成長する前立腺がんも5倍になっています。(P24)

◎血中コレステロール濃度と乳がん前立腺がんの発生頻度に相関関係があれば、一応「仮説」としては認められるが、そのあたりの記述がないので何とも言えない。

【1章】

 糖を点滴してからPETで検査すると、がんの部分だけが真っ赤に染まるのです。これは、がん細胞が通常の細胞よりも糖質を大量に取り込む性質を利用したものです。つまり精製した糖質をとるとがんが成長します。低糖質の食事をすると成長できなくなります。(P29)

◎第1文と第2文はそのとおりだろう。第3文と第4文はもしかしたらそうかもしれないが、所詮仮説の域を出ていない。せめて、がん患者が低糖質の食事をしたときに、死亡率が下がったとかいうような疫学的調査でもあれば、蓋然性は高くなるが、それはどうなのか?

 

 サラダ油とされているのは、菜種、紅花、ひまわり、とうもろこし、大豆、コメ、綿実、グレープシード、ごまです。問題の1つ目は、サラダ油は抽出油で、植物から油を搾る段階で、ヘキサンを一緒にミキサーにかけた上で、高温にして油分を抽出します。さらに、ミネラル、ビタミン、ポリフェノールなどを排除して、腐敗しない精製度の高い長期保存できる油に作り替えられるのです。高温で抽出することで、トランス脂肪酸に変質していることもあるのです。(P34~P35)

 サラダ油はオメガ6の不飽和脂肪酸であり、オメガ6の油には炎症作用と血液を固める凝固作用があります。炎症反応はアレルギーや糖尿病やがんを、凝固作用は心筋梗塞脳梗塞を引き起こす。(P35)

◎このあたりは、まあそうかもしれない。

【2章】(略)

【3章】

 「1日1個のリンゴは医者いらず」と言いますが、それはリンゴを皮つきのまま食べた場合です。皮ごと食べるのは無理と言う人は、果物を食べないでください。皮をむいた果物や根菜は糖質のかたまりですから、がんを成長させます。(P50~P51)

◎趣旨は分かるとしても、若干言いすぎかもね?

【4章】

 空腹を我慢する必要はありませんが、3回グーっとなるまで待ってください。1グーのときに、成長ホルモンが分泌され、肌や粘膜を再生してくれるので、がんの芽が落ちます。2グーのときに、サーチュイン遺伝子が活性化して、全身の細胞内の傷ついた遺伝子を修復してくれます。3グーのときは、アディポネクチン脂肪細胞から分泌され、血管が若返ります。(P64~P65)

◎空腹時にこれらの作用が生じるであろうことには異論はない。

 

 がん細胞は活性酸素を無毒化する酵素を持っていないので。酸素によって成長が遅れることがわかっています。酸素を十分に取り込むには有酸素運動です。(P72)

 ミトコンドリアは、さまざまな栄養素をATPに変えます。そのとき活性酸素が発生します。細胞内のミトコンドリア量が少ないと活性酸素が大量発生します。ミトコンドリアが増える条件は3つで、空腹、寒さ、有酸素運動です。(P74~P75)

◎この2つの文章が、がん細胞、ミトコンドリア活性酸素の関係をどのように位置づけているのか、その意図するところは分かりにくい。

ミトコンドリアの活動により副次的に発生する活性酸素は、ミトコンドリアそのものを傷つける。一方、がん細胞に直接ダメージを与えるのは免疫細胞が発する活性酸素だろう。だから同じ量のATPを発生させるときに、1つの細胞のミトコンドリア量が少ないと細胞当たりの活性酸素が多くなるので、ミトコンドリア量が多いほど細胞が傷つく確率は低いという仮説は成り立つ。しかし、そのこととがん細胞を攻撃する活性酸素という文脈とは関係がない。これらのことを著者がどのように整理しているのかがわからない。

 

【がんと原核生物の類似点】(P80)

①嫌気性

②嫌気性解糖

③永遠に細胞分裂する

◎がん細胞と原核生物の類似点は事実である。問題は、嫌気性解糖をするがん細胞、あるいは酸素を嫌うがん細胞という特徴から糖質制限有酸素運動ミトコンドリア活性酸素といったキーワードをどのように関係づけていったか、そしてその関係を裏付ける事実が認められるかということだろう。そのあたりがこの本では明確な形では記述されていない。