サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい

三戸政和著 2018年4月講談社刊 講談社α+新書

(目次)

序  章 「人生100年時代」は資本家になりなさい

第1章 だから起業はやめておきなさい

第2章 飲食店経営に手を出したら「地獄」が待っている

第3章 中小企業を個人買収せよ

第4章 100万の中小企業が後継社長を探している

第5章 「大廃業時代」はサラリーマンの大チャンス

(概要)

 サラリーマンの生涯年収は従来3億円~2億円とされている。これに対し、従業員300人以下の中小企業の社長の年収は3000万円程度である。中小企業の大廃業時代は、これから10年間がピークになる。

 起業とは事業を作ることであって、会社を作ることではない。世にないサービスや商品を創造し、市場に浸透させていくベンチャービジネスを軌道に乗せるのは並大抵のことではない。千三つの世界であり、ゼロ一起業に成功できるのは、選ばれた一握りの人だけである。

 飲食業は、基本的には勝てないビジネスモデルであり、手を出してはいけない。外食は、毎年数多くのプレーヤーが新規参入し、競争の破れて退出するレッドオーシャンである。

 日本では、起業して5年後に残っている会社は42%、10年後には23%である。これに対し、創業から5年を過ぎると、各年の生存率は90%を超える。よって、過酷な10年を生き残った企業のオーナーになるべきである。大企業や業界大手の中間管理職は、実務経験に加え、所属企業で受けていた教育というアドバンテージが、企業経営を行う際にプラスとなる。

 50代で中小企業を買収し、70歳まで社長をしてから引退するというライフプランをイメージできる。現在、中小企業の半数以上が何らかの理由で黒字廃業している。2013年~15年に休廃業、解散した企業8万3555社のうち、売上高経常利益率が判明した6405社のうち、50.5%が黒字で廃業している。中小企業の価値=純資産+営業利益×3~5年 である。

 純資産がほとんどない中小企業は珍しくない。建物、設備は買ってから時間が経っているので、帳簿上の資産評価より低く評価されるし、不良在庫などもある。銀行から設備投資や運転資金の借入れをしていると、純資産はゼロまたはマイナスということもある。このような、純資産ゼロで、売上高1億円、営業利益100万円の企業は300万円~500万円で買える。このレベルの会社で、役員報酬1000万円+ある程度自由に使える経費が500万円あれば、買いだろう。

 準備は、40~50代にスタートすべきであり、60~65歳で定年退職してからでは遅すぎる。M&A仲介会社は、日本M&Aセンター、M&Aキャピタルパートナーズ、ストライクであり、いずれも東証1部上場会社である。

 会社の売却情報は、「M&A案件」で検索すると、「START」のサイトがヒットする。ストライク社が運営している。また、経済産業省が各都道府県の商工会議所等に運営委託している事業引継支援センターのサイトは、「県名+事業引継」でヒットする。TRANBIは、年商数百万円程度の事業の売買を仲介している。

(意見等)

 「創業から5年を過ぎると、各年の生存率は90%を超える」とされているのは、誤りだろう。文脈からすると、「創業10年を過ぎると」だろうし、5年~10年が各年90%以上生き残るのなら、5年目で42%なら10年目は24%生き残っているはずである。

 「現在、中小企業の半数以上が何らかの理由で黒字廃業している」というのはミスリードだろう。休廃業した中小企業のうち黒字廃業したのは、6405社×50.5%÷83555社=3.8%にすぎない。

 純資産ゼロで営業利益100万円の会社は、300万円で買えるかもしれない。しかし、著者がモデルとして説明している会社は、設備投資をしていないようだ。ということは、業界での競争力はないし、競争力をつけるため設備投資をすれば、一挙に赤字転落となる。そういう会社を買収して、何年持つのだろうか?それでも300万円投資して1000万円の役員報酬を得ることができるのであれば、買収後1年で廃業しても元は取れるだろう。問題は、そんな会社が300万円で買えるのかということである。そういう会社は、役員報酬300万円で、むしろ社長からの借入金が多額に上っている可能性すらある。

 この本で価値があるのは、事業承継のサイトの紹介である。ただし、商工会議所の事業承継実績は、私が住んでいる県では3件のみで、買収したのはすべて企業である。また、TRANBIのサイトに掲載されているのは、売値が5000万円クラスが多く、調剤薬局が多いようだ。

 300万円で買える会社はあるだろうし、中には掘り出し物もあるだろう。しかし、当たりくじを引くのは容易ではない。

 もうひとつ、「中小企業の大廃業時代は、これから10年間がピークになる」とされる。であれば、仲介企業は有望だ。3社ともPERは低くない。その中で、比較的PERが低いのは、6080M&Aキャピタルパートナーズである。PER31.39、18年9月期が減収減益だったためだろう。17年9月期の大型案件剥落分を埋めきれなかったのだろう。