免疫力を高める生活 西原克成著 2006年8月サンマーク出版刊

(目次)

はじめに

プロローグ 病気は根本から治そう

第1章 現代人はわざわざやっかいな病気をつくっている

第2章 ほどんどの慢性病は免疫病である

第3章 免疫力を高める7つの生活習慣

第4章 生活習慣を正すだけで健康になる

第5章 ミトコンドリアが免疫力の鍵を握る

おわりに

 

 のどや腸が冷えると、扁桃のM細胞というところから、白血球内に大量の常在菌やウイルスが取り込まれます。この白血球が運び屋となってバイ菌やウイルスをばらまきます。すると、まずは中のどが痛くなり(略)。これがかぜ発症のメカニズムです。(P3)

◎「白血球が運び屋となってバイ菌やウイルスをばらまき」という部分には違和感があるが、詳細はP29 以下に記述されているので、そこで検討する。

 

 この本では、新陳代謝を「リモデリング」と呼び、みずから新しくつくり変わっていく、生き物の最大の特徴と意味づけます。(P18)

 新陳代謝は、細胞の中でミトコンドリアが酸素を使って行う呼吸、つまりミトコンドリアの呼吸なのです。(P18)

◎前文はそのとおり。新陳代謝の例として、骨が一見、一定の状態に保たれているように見える場合において、実際には骨芽細胞と破骨細胞が常時働いて、作り替えられていることをイメージするとよい。

◎後文は、やや言葉足らずの印象。P20に詳細な解説があるが、ここでもニュアンスの違いを感じる。

 

 (ミトコンドリアの)内側の膜の上には酵素が含まれていて、ここで酸素を利用して栄養素を分解しながら、アデノシン三リン酸(ATP)という化学エネルギーをつくり出しています。(P20)

 このミトコンドリアが産出しているATPという化学物質のもつエネルギーが、熱や電流に変換されて体温を維持したり、筋肉の収縮、神経活動、物質の合成や分解などに使われて利しているのです。(P20)

◎新陳代謝を行うに際しては、エネルギーが必要であり、そのエネルギーのもとは食物であり、これに酸素を加えて最終的にエネルギーに変えるのがミトコンドリアという器官ということだろう。

◎なので、ミトコンドリアは新陳代謝において重要な働きをしていることは間違いないが、「新陳代謝は、細胞の中でミトコンドリアが酸素を使って行う呼吸、つまりミトコンドリアの呼吸」なのだ、と言われてしまうと、それはちょっと違うかな?

 

 「免疫力」とは、まさにこの細胞のもつ生命力のことであり、その重要な鍵を握っているいるのが、ミトコンドリアなのです。(P22)

 そのミトコンドリアを元気にするには、鼻呼吸や、食べ物からとる良質な栄養のエネルギー源、太陽光線と温和なエネルギー、そして重力からの解放を意味する「骨休め」が必須です。(P22)

 これらは、人間が健康に生きるうえで、自然の摂理に従った生活が何より大事であることを示しています。(P22)

◎第2文は著者の「主張」であって、科学的な裏付けはない。特に「良質な栄養の」エネルギー源、「温和な」エネルギーの意味は明らかではないし、「重力からの解放」も物理学的・化学的な裏付けはない。

◎第2文と第3文は、第2文の論理的帰結として第3文が導かれるという体裁をとっているが、それはまやかしである。むしろ、著者が第3文のような思想を持っているがゆえに第2文が前に置かれている、と理解するほうが、おそらく正しい。

 

 本来は呼吸器官でない口で空気を吸うと、冷えて乾燥した空気が、いきなりのどの扁桃組織の温度を下げます。すると、のどに巣くう酸素を好む好気性菌が、扁桃のM細胞というところから白血球に取り込まれて体じゅうにばらまかれ、さまざまな器官や組織の細胞を汚染して細胞内感染症を発症します。その結果、感染した細胞内のミトコンドリアが働かなくなって生命力の低下を招くのです。こうして起きるのが免疫病です。(P29)

◎白血球は異物と認識した細菌やウイルスを取り込んで食べるんのが本来の機能だが、温度低下により機能が不十分な状態に置かれる、というところまでは、それほど違和感はない。しかし、闘いに敗れた「白血球が細菌やウイルスを体内にばらまく」との記述はどうなんだろう?

 

 現在の医学界では、口呼吸の危険性にも、ミトコンドリアを活性化すれば、たいていの病気は治るという事実に誰一人として気づいていません。(P30)

◎「ミトコンドリアを活性化すれば、たいていの病気は治る」ということが「事実」であることを前提として記述されているが、そもそも、それが事実であることを示すことこそ、著者がなすべきことだろう。それは、どこに書いてある?

◎目次を見る限り、書いてありそうな気配はない。データを示すことなしに、「それが事実だ」と主張する者は信用に値しない。この時点で、この本は「読むに値しない」との評価を下すところだが、今回は、もう少し先を読んでみよう。

◎もちろん、著者ひとりが「事実」を摘示したところで、(ないよりはましだが)それで十分というわけではない。第三者が、著者が示すのと同種のことを示して初めて、その「事実」は客観性を帯び、価値があるかどうかの判断の対象になる。

 

 鼻詰まりのある人は、体温と同じくらいの温かさ、濃度が0.6パーセントの生理食塩水で鼻を洗浄して通します。(P37)

◎「1 Lの精製水に対して、9 gの塩化ナトリウムを溶解させて作った食塩水を、生理食塩水と言う  。(Wikipedia)」とされているので、「濃度が0.6パーセント」というのは誤りかも?

 

 人間が免疫病になる主な要因には、口呼吸と冷たい飲食物による体温の低下のほかに、「骨休め不足」があります。(P38)

 骨休め不足は重力の負荷が大きくかかりすぎることが原因で、働きすぎのほか、(略)単なる寝不足によっても起こります。(P38)

◎「骨休め不足」は著者独自の概念のようだ。「睡眠不足」が体調の不調をもたらすことがありうることは周知の事実である。あえて「骨休め不足」というような概念を持ち出すまでもない。

 

 私たちの体は、立っているときや座っているとき、つまり骨が体重を支えている間は、心臓はもとより骨格筋がせっせと働いているのです。そのために酸素とエネルギーが使われて、骨髄内では血液が造られないということ。(略)横になって骨休めをしている間しか骨髄内では造血できないのです。

◎「横になっている間しか骨髄内では造血できない」というのは、どうやって測定したんだろう?Wikipediaには、それらしき記述はない。どうやって測定したのかの説明は必要だし、データも示すべきだ。まさかとは思うが、著者の信念=骨休め不足仮説に基づく思い込みに基づいて書いてるんじゃないよね?

◎以上のとおり、著者の主張については、事実やデータが提示・説明されていない。よって、この著者は信用できない。

 

 私は、長年ミトコンドリアの呼吸をさえぎる要因は何かを研究してきましたが、その過程で、「抗生物質ミトコンドリアの遺伝子の機能を止める」ということを明らかにしました。(P61)

 主に真菌類が賛成する有機化学物質で、一部合成されたものもある抗生物質は、感染症の原因となる微生物(バイ菌)に対して作用し、その発育を阻止し、または死滅させてしまうのです。(P61)

 もともとミトコンドリアは、18億年前に真核生物に寄生した細菌の一種ですから、たんぱく質合成系も細菌と同じです。言うまでもなく、抗生物質が働いてしまいます。(P61)

 抗生物質が体内に入ると、ミトコンドリアのタンパク質合成系のシステムがエラーを起こして、ミトコンドリアが働くなってしまうのです。(P61)

◎「ミトコンドリアは、18億年前に真核生物に寄生した細菌の一種」という箇所は、細菌同志の共生なのか、あるいは貪食された(飲み込まれた)後消化されずに生き永らえたものか等の微妙な問題は残るとしてもそれほど違和感はない。

◎しかし、細胞膜に守られている細胞内小器官であるミトコンドリアが直接抗生物質の影響を受けるというのは我田引水が過ぎるのではないか?むしろ、抗生物質の長期服用により腸内細菌に悪影響が及び体調不良を招く恐れがあるというのが正しい理解と思われる。

◎なお、抗生物質は細菌には効くが、ウイルスには効かない。風邪は、多くが、ウイルスによるものなので、抗生物質を服用しても風邪はよくならない。それでも抗生物質を投与する医者がいるのは、一つはウイルスにより抵抗力が弱化した患者に、細菌が感染して別の病気を発症することを防ぐためとされている。もう一つの理由は、過去の日本の薬漬けの医療制度・薬価制度の名残りと思われる。要するに、薬を出せば儲かる仕組みだったということ。それを改善するために、医薬分離、調剤薬局制度が整備されたということ。

 

 免疫病は、ウイルスや本来は無害の腸内細菌による、体じゅうにあるさまざまな器官や臓器、構造や組織の細胞内の感染症です。

 そのメカニズムは、リンパ管から白血球が細菌を取り込み、腸管のパイエル板(腸扁桃)のM細胞からリンパ管を経由して静脈に入るとすぐに心臓を経て肺をめぐり、再び心臓に戻ってから大動脈に流れ、白血球がバイ菌の運び屋となって全身にばらまかれるというものです。(P69)

◎免疫病が何か、そのメカニズムについては何も知らない。ただし、腸内細菌が腸の内壁をすり抜けて、本来接触するはずのない他の臓器等に感染するメカニズムについては、別の本で読んだことがある。たぶんこれ↓(良書だがかなりしんどい)

「アランナ・コリン著、矢野真千子訳『あなたの体は9割が細菌』(2016年8月30日、河出書房新社

◎それによると、下痢をすると、腸内の内壁が緩むので、本来は通り抜けられないはずの内壁を腸内細菌がすり抜けることができるようになり、血管(リンパ腺だったかな?)の流れに乗って全身の臓器等に感染し、発症することがあるとされていたように思う。つまり、下痢を侮ってはいけないということ。(なので、腹巻をすることで、おなかを温めるて下痢を防ぐのは正しい)

 

 腸細胞内でこの神経伝達物質を合成するのがミトコンドリアです。(P76)

 セロトニンやアドレナリンなども、脳と腸の両方のミトコンドリアが合成し、脳のニューロンにも腸の神経細胞内にも存在しています。(P77)

◎「ミトコンドリア神経伝達物質を合成する」なんて話は聞いたことがないけど、ホントですか?

◎アドレナリン(adrenaline、英名)は、副腎髄質より分泌されるホルモンであり、薬物である。また、神経節や脳神経系における神経伝達物質でもある。(Wikipedia

◎つまり、副腎皮質という組織でつくられる物質であって、ミトコンドリアで合成できるはずがない。何でもかんでもミトコンドリアに引き寄せようとする著者の姿勢が招いたチョンボだと思う。

 

 歯周病菌も全身を駆け巡る(P80見出し)

◎これはそのとおり。だから歯周病の治療は、ある意味、虫歯の治療より大事。

 

 次ページに掲げる右の写真は、患者がクーラーのきいた室内で、冷たいペットボトル飲料を何本も飲んだあとに採った血液がドロドロの状態であることを示しています。(P122)

 反対に、写真左は、研究所に到着後に温かいハーブティーを飲み、呼吸体操の指導を受けたあとに採った血液がサラサラになったことを示したものです。(P123)

◎「著者は、科学者でも研究者でもない」と感じてしまう文章である。この2つの写真の違いは分かるとしても、2つの写真には、飲み物の温度、飲み物の種類、呼吸体操のの有無等、異なる要素が多すぎて、本当に効果があるのは、そのうちのどれなのかが分からない。科学者ないし研究者であれば、そのあたりの分析をしたいと思うはずだ。

 

 笑いはとてもポジティブなエネルギーの交流で、笑いによって免疫力が高まることが最近の研究によっても明らかになっています。(P135)

◎そのとおり

 

 私が本章でお伝えしたいのは、進化はダーウィンが唱えたように突然変異によって起きたのではなく「重力に対する生体の力学的反応、すなわち体の使い方によって同じ遺伝的形質のまま形だけが変化して起きた」ということです。私はこれを「重力進化学」と呼び、(略)(P153)

 進化ですら力学的作用によって起こるのであれば、重力を無視して生活したり、日常生活で体の使い方を誤ったりすれば、病気になるのは当たり前です。(P153)

◎あらあら、墓穴を掘ったというのはこういうことを言う。著者の言う「重力進化学」が根拠のない荒唐無稽のものであれば、その論理的帰結として第2文の根拠もなくなるわけだ。

 

 進化には、ネオダーウィニズム(新ダーウィン主義)の学者たちが唱える遺伝子の突然変異はほとんど関与していません。突然変異も関与していますが、ほんのわずかにです。(P157)

◎進化のベースには、DNAの複製能力がある。DNAの複製能力はほぼ完ぺきだが、それでもごくわずかな頻度で複製誤りを生じる。それが突然変異である。DNAはアミノ酸の配列を決めているので、DNAに変異を生じたときはアミノ酸配列が変化する可能性があり、そのときはそれまでとは違ったタンパク質が合成される可能性がある。

◎変異がもたらすたんぱく質の変化は、多くの場合、その生命体が生き残るには不利な場合が多いので、ほとんどの突然変異を生じた細胞~生命体は淘汰される。

◎しかし、稀に、それまでより有利なタンパク質を合成できるDNAへの変異が生じることがある。特に、生命体を取り巻く環境が激変した場合には、その可能性が高くなる。

◎有利な突然変異の集積が、いわゆる進化である。