世界史を変えた異常気象 田家康著 2011年8月日本経済出版社刊

(目次)

はじめに

第1章 征服者を導いた「神の子」

第2章 イースター島の先住民はどこから来たのか

第3章 アジアの大飢饉と新しい植民地支配

第4章 ナチス・ドイツを翻弄したテレコネクション

第5章 世界食糧危機(1972年~1973年)

エピローグ エルニーニョは今後も人類に問いかけ続ける

 

 ペルーの海岸や沖合の島々には、棲息するペリカンシロカツオドリ等の海鳥=グアノバードの糞が数千年かけて積もり堆積物の厚さは30メートル以上もあった。グアノGuanoとは、ペルーのケチュア語のファノHuanuを語源としており、「糞」をペルーの農民によって6世紀ころから長年、肥料として用いられてきた。

 日本列島の太平洋沿岸を流れる黒潮は、北緯40度付近まで北上したした後、北米大陸のカリフォルニア付近に向かって北太平洋海流として東進する。北米大陸西側の沿岸まで来ると、右に曲がってカリフォルニア海流として赤道方向に南進し、さらに北緯10度付近で西へと向きを変え、北赤道海流となってフィリピン沖にたどり着く。フィリピン沖に至ると北向きに転換し、黒潮として日本近海に戻ってくる。(亜熱帯循環系)

 南半球では、反時計回りで、フィジー諸島の東海上で南下し、二―ジーランド北島の沿岸=南緯45度付近で東に向かう。南米大陸東方に着くと左に曲がって方向を北に変え、ペルー海流として南米大陸沿岸を進み熱帯へと向かう。北上した海流は赤道南側のコロンビアやエクアドルの沖合で西へと向きを変え、南緯10度付近を貿易風に沿って西進することになる。

 北半球で時計回り、南半球で反時計回りの海流は、地球の自転による。地球は球体故、自転速度が赤道で最も速く、高緯度で遅くなり、北極と南極ではゼロになる。そのため、海流は、北半球では北半球では北上、南下する際に右へと引っ張られるので時計回りに循環することになる。

 1531年1月20日フランシスコ・ピサロは、パナマ港を出港し、13日間でエクアドル北部海岸のサン・マテオ湾に到着した。第1回目の遠征では70日で現在のエクアドル領に到着、第2回目の遠征ではサン・マテオ湾に到着するのに2年間を要したのに、第3回目はわずか13日でペルー沿岸を南下できたのは、このときは北上する強力なペルー海流が、この時に限って弱かったためである。1531年は強いエルニーニョの年だった。

 太平洋の東側の赤道付近の温かい海面付近の海水は、貿易風の影響を受けて西の方向に流れる。また、亜熱帯高気圧の半と桂馬わにの循環によって、南米大陸西岸を北上する風は、沿岸から沖合へと、海面近くの海水を押し出す効果がある。(エクマン輸送)

 こうして熱帯域の海水面は西へと運ばれ、移流を補うように、南米大陸の西側ではペルー海流により高緯度からの冷たい海水が流れ込んでいる。

 さらに、海洋下層からも、冷たい海水が海面近くまで湧き上がっている。沿岸海水は岸から沖に向かう流れがもたらすものであり、赤道湧水は赤道付近を吹く貿易風によって西に運ばれる海面水を補うように海洋中層から海面近くに海水が昇ってくるものである。

 沿岸湧昇による下層からの冷たい海水は栄養塩を豊富に含んでいるためプランクトンの生長が促進され、このプランクトンを求めて多くの魚が集まってくる。ペルー沖やカリフォルニア沖は、沿岸湧昇の効果による豊かな漁場となっている。

 海水は、海面付近で最も水温が高く、低層に向かうほど低くなる。垂直方向への温度変化は海面近くの上層(水温躍層)では深度とともに下がっていくが、それより下層ではほとんど変わらなくなる。水温躍層の厚さは、太平洋西側の赤道付近の海域では、貿易風によって温かい上層の海水が流入するため150~200メートルと厚いが、太平洋東側の南米大陸沿岸では20~80メートルと薄い。このようにペルー沖の海では、南極方向から冷たい寒流が流れ込むだけでなく、海面に近い浅い深度まで下層の冷たい海水が湧き上がっている。

 通常の年では、ペルー沿岸の11月の平均の海面水温は17℃~18℃であるのに対し、2年~7年に一度の間隔で発生するエルニーニョの時には20℃近くになる。

 エルニーニョ現象のメカニズムは次のとおり。

①太平洋の東西での気圧の偏差が弱まることで貿易風が弱くなる

A②太平洋の東側の海洋上層の温かい海水の西方向へと移流する動きが不活発となる

A③ー1南米大陸西岸での沿岸湧昇が弱くなる

A③ー2赤道に沿って貿易風が吹く海域での赤道湧昇が抑えられる

A④太平洋東側の熱帯域での水温躍層が100~150mと厚くなる(平年は50m)

A⑤南太平洋東部で海面水温が平年値比2~3℃上昇し、この状況が1年~1年半続く

B②貿易風が弱まることで、海面水位の高低差が小さくなる

B③東へと海面水の流れ込む動きが出てくる(赤道反流)

B④ペルー海流の勢いを抑える

B⑤沿岸に温かい海水が居座る

B⑥大気下層が海面水温の高い海水によって温められ、大気が不安定になる

B⑦積雲対流が活発化し、海岸砂漠があった地に集中豪雨を発生させる