絶望を希望に変える経済学 アビジット・バナジー、エステル・デュフロ著

2020年4月日本経済新聞出版社

 

(目次)

序文

Chapter1 経済学が信頼を取り戻すために

Chapter2 鮫の口から逃げて

Chapter3 自由貿易はいいことか?

Chapter4 好きなもの・欲しいもの・必要なもの

Chapter5 成長の終焉?

Chapter6 気温が2度上がったら

Chapter7 不平等はなぜ拡大したか

Chapter8 政府には何ができるか

Chapter9 救済と尊厳のはざまで

結論 よい経済学と悪い経済学

 

 富裕国が直面している問題は、発展途上国で私たちが研究してきた問題と気味が悪いほど似ている。経済成長から取り残された人々、拡大する不平等、政府に対する不信、分裂する社会という問題である。

 国家間、地域間の賃金格差は、人々が移民になる決意をするかどうかとは、ほとんど関係ない。低技能移民が、かなり大量に流入した場合でも、受入国住民の生活水準を押し下げるという信頼に足る証拠はない。

 何か悲惨なことが起きて、やむなく故郷を捨てる必要に迫られない限り、貧しい人々の大半は故郷にとどまることを選ぶ。

 白人たちの自己像は、自分たちの置かれた社会的状況が、移民や黒人より上だという優越感と結びついている。技術革新や貿易等諸々の要因で失業した人々の尊厳を取り戻すことが必要である。

 他人に対する反応は、自らの尊厳やプライドと深くかかわっている。人としての尊厳を重んじる社会政策でなければ、平均的な市民の心を開き、寛容な姿勢を生み出すことはできない。

 差別や偏見と闘う最も効果的な方法は、差別そのものに直接取り組むことではない。他の政策課題に目を向けるほうが有意義だと市民に考えさせることだ。