米国式投資の技法 広瀬隆雄著 2013年12月東洋経済新報社刊

(目次)

まえがき

序章 1990年代のシリコンバレーとMarket Hack流投資術が編み出されるまで

chapter1 Market Hack流投資術

chapter2 ポスト団塊ジュニア時代のネストエッグ戦略

chapter3 デイトレーダーへの道

chapter4 長期投資のコツ

chapter5 2014年の投資機会

 

【序章】(略):読み流していい

【chapter1】(重要)

①営業キャッシュフローのよい会社を買え(P24~)

・営業キャッシュフローは毎年着実に増えていることが望ましい(P24,P26)

・営業キャッシュフローは会計的に一番ごまかしにくい(P25)

・営業キャッシュフローはその年の純利益より大きくなければならない。

 そうでない場合は粉飾のリスクがある(P27)

・営業キャッシュフローが15~30%ある会社を狙え(P27)

・BUY&HOLD戦略は、放っておいてもどんどんキャッシュを生み出すP27 のような企業  

 でこそ意味のある投資戦略(P34)

 BUY&HOLD戦略とは、株式を購入して長期で持ち続ける投資法(P34)

 

◎P36 以下のCOLUMNのうち④⑤は、公表されているデータからこれらを見ることは無理のように思う。⑥のDSO(売掛金の回収に要した日数)に着目することは一理あるが、DSOは売掛金/1日当たりの売上高の比率なので、結局、「売掛金/売上高の比率」に帰着する。

売掛金/売上高と棚卸資産/売上高の比率は、小さい振幅の範囲内で推移するのがふつうである。これらのいずれかの数値が急速に増加している企業は、何か良からぬことが起こっている可能性がある。

売掛金の場合は、回収不能となった売上債権が償却されていないことや架空売上があったこと(不良債権の存在)等が疑われるし、棚卸資産の場合は、売れ残り商品がいつまでも計上されていること(不良資産の存在)等が疑われる。

 

保有銘柄の四半期決算のチェックを怠るな(P45~)

・次の決算発表日くらいは知っておくこと(P44)

・コンセンサス予想(EPSと売上高)を調べる(P45)

・よい決算とはEPS、売上高、ガイダンスの項目すべてでそれぞれのコンセンサスを上回ること(P50)

・上場まもなく決算を2回連続でしくじった会社の株は売れ(P50)

IPOに際して主幹事証券は「上場後初の決算は絶対よい決算にならないといけません。だから業績の見通しは、あらかじめ大幅にサバを読んだ、楽勝に達成できる低い数字で語ってください」と経営者に念を押します。だからのっけから決算でズッコケるというのは、あってはならないことなのです(P50)

◎実のところ、私は、決算発表日や決算の結果は、X(ツイッター)のフォローしている人のツイートで知ることが多く、自分で探す作業は省いている。

◎上場後間もない会社(IPO銘柄)で、上場直後に人気化し大きく上昇した会社の多くは、その後、長期間上場時の株価を下回る結果となっているようだ。IPO銘柄は割高な価格で上場され、その後人気化してさらに割高となっていることが多い。したがって、人気化の波にうまく乗ることで短期間にキャピタルゲインを得ることは可能だが、時間の経過とともに株価下落の可能性も高い。

 

・プロは「この株、どうかな?」と思ったら、まず少し株を買ってみる(打診買い)その理由は、実際にポートフォリオの中にその銘柄を入れたほうが、調査に身が入るし、その企業のことを早く理解できるからです(P53~54)

◎この手法は、(ノンプロの)私も使っています。投資資産全体の1%程度の金額で「打診買い」をしています。理由は著者の言うとおり。失敗したときの「ロスカットに慣れる」という副次的効果もあります。

 

③業績・株価の動きが荒々しい銘柄と、おとなしい銘柄をうまく使い分けろ(P54~)

◎うーん、どうでしょうね?

 

分散投資を心がけろ(P62~)

個人投資家10~16銘柄くらいに抑えたい(P62)

・一般に、銘柄はある程度分散したほうがポートフォリオのリスクと期待されるリターン(収益)のバランスはよくなります。20銘柄を超えたあたりでは、さらにもう1銘柄追加することによる効果はほとんど感じられないほどに小さくなる(P62~63)

◎「分散」は、指数に連動するETFを持つことでも得ることができる。

 

・図表24のグラフは、景気や金利の環境がどういう状況のときに、それぞれの業種が株式市場で人気になるかを示したもの(P63,64)

◎このグラフは、ある時点での景気や金利水準に、現在のポートフォリオがマッチしているかの検証と、今後、どこに投資をするかを検討するときに役立つ。(実のところ、それほどうまく使いこなせているわけではない)

 

・リスクには2つの意味がある。①価格変動(ボラティリティ)②金融リスク(P65)

・金融リスクは3分類される。①流動性リスク②信用リスク③市場リスク(P65)

 

⑤投資スタイルをきちんと使い分けろ(P66~)

・グロース投資とは、その企業が市場平均に比べてより高い収益成長が見込める場合、株価収益率(PER)や株価純資産倍率(PBR)などの水準を気にせずに投資する手法(P68)

◎PERについては、春山昇華氏が丁寧な考察をされているので、それを参照するとよい

 

・グロース株投資で株を買った直後から利が乗り始めないのなら、銘柄選択や買うタイミングを間違った可能性が高い。すぐ処分せよ(P69)

・早めの損切りが断行できない人は、グロース株投資をするべきではない(P70)

◎新たに株を買ったら、損切りする水準を考えて、逆指値売りの注文を出しておきます。後は機械がやってくれるので、人間(自分)の感情を排除できます。

 

・グロース株投資の尺度は、①EPS成長率、②レラティブ・ストレングス、決算のサプライズ(P70~71)

◎①のEPS成長率は、ブレが大きく使いづらいので、売上高成長率を使っています。

 

・バリュー投資とは、株価がその企業の内在化値に比べて割安に取引されている時を見計らって投資するスタイルである。バリュー投資で言うよい会社とはワイド・モート銘柄であり、卓抜した防御力を持ったビジネスを行う会社を指す。(motoは中世の城の堀の意。城池)ライバルの参入を撃退する際、城池になる要素(参入障壁)は、次のとおり(P71~74)

①事業規模がバカでかい

市場占有率が圧倒的である

③構造的競争優位(=多くの場合低コストになる特別な秘密を持っている)

④太刀打ちできない無形資産(ブランド)

ネットワーク効果

⑥ユーザーや顧客にとって乗り換えコストが大きすぎる

・成長株へ投資する際、競争優位の源泉となる新技術や新製品は、ワイド・モートとは無関係だ(P74)

◎参入障壁の重要性は、バリュー投資に限りません。グロース投資では、比較的長期間の成長を前提として企業価値を推し量っているのですから、成長の源泉となっている新技術・新製品等にどの程度の(期間において)競争優位性が認められるかが極めて重要です。つまり参入障壁の高さは、グロース株においてさらに重要です。

 

⑥長期投資と短期投資のルールを守れ(P77~)

・短期投資(トレーディング)なら、買った直後から利が乗らなければ失敗(P77)

・長期投資なら、上場して20年くらい時間が経っている銘柄に投資したい(P78)

・「よい会社」と「よい投資ストーリー」を混同するな。「よい投資ストーリー」とは、証券会社が演出したお伽噺だ(P79)

 

⑦マクロ経済がわかれば、投資家としての洗練度が格段に上がる(P80~)

◎マクロ経済を理解することは重要だが、ここではグローバル・マクロ戦略が紹介されている。しかしこの戦略は「上級編の投資ストラテジーだ」(P82)と記載されているように、初級者がこれを実戦で使うことは無理だと思う。その意味では読み流してよさそうな気がする。

 

⑧市場のセンチメントを軽視する奴は儲けの効率が悪い(P84~)

・通勤電車の中吊り広告に「投資」の文字が踊ったら、買いの手を控えろ(P85)

◎似たような話はほかにもある。例えば、「1929年の大恐慌のときには、靴磨きの少年が株式投資をしていた」という逸話など。要は、日頃、株式投資に縁のなさそうな人たちが「投資」に着目し、話題になってきたら、天井が近く危険な状態にあるから警戒すべきということ(逃げ出す準備をせよということ)

 

⑨安全の糊代をもて(P87~)

・安い仕込み値段だけが投資家にとっての防御だ(P87)

・安易にPERの数値を信用するな(P88)

◎ここに書かれていることは間違いではないが、もうひとつ、投資資金のうちどの程度をキャッシュとして温存しておくかということもあると思う。なお、PERについては、先述のとおり、春山昇華氏の考察を参照するとよい

 

⑩謙虚であれ(投資の勉強に終わりはない)(P89~)

・「最小限の努力で、最大のリターン」を考える奴は、イチコロに死ぬ(P89)

 

【chapter2】(P92~)

・まず、「ボチボチだったな」程度の成果を目指す(P95)

・よく「株をやるなら、長期で持て」と言われます。2つ条件が付きます(P95)

①その長期保有対象がダメな対象でないこと

②リスク分散があること

・ネットで見ると、集中投資の成功者の話が出てくる時がありますが、それは単純に失敗者の話は取り上げられないからにすぎません。一点集中の成功者の陰に、無数の失敗者が存在するのです(P95)

・(S&P500を対象とする)ETFを1つ買うだけで、S&P500と同じ値動きを得られます。だから体感上「500銘柄に分散しているのと同じ」効果を得られます(P99)

・このような株価指数ETFは、個々の企業の業績を追いかける時間的余裕がない投資家たちにとってはありがたい存在であり、かなり利用価値の高い商品です(P100)

 

【chapter3】(P108~)

◎読んでも構わないけど、この程度の解説を読んだだけでデイトレード、CHD取引、先物取引等で勝てるはずもなく、ケガをするだけである。このような取引に手を出さなくても「ボチボチ」程度には勝てる。

 

【chapter4】(P162~)

インデックス投資の弱点は、「マーケットは長期では右肩上がりである」ことを前提としている点です(P164)

・債券の金利と株式とは競争関係にあります。(金利は1980年をピークに2010年まで下がり続けているので)(=P165「米国10年債利回り」のグラフ)、かれこれもう30年も株式にフォローの風が吹く状態が続いてきたということです。これが今後も続く保証はありません(P164~165)

◎この記述は、常識的な内容ですが、極めて重要です。

◎2021年後半から現在まで続いているアメリカ株の不調は、2020年に新型コロナによる経済活動へのだけ気を緩和するために、マネーをばらまいたことで⇒2021年にインフレが顕著となったにもかかわらず、FRBによる金融引き締め(FFレートの引き上げ)が遅れたこと⇒その結果、さらにインフレが亢進したこと⇒FFレート引き上げ時期の遅れに気づいたFRBが急速にFFレートを引き上げたことで、長期債金利(10年債利回り、30年債利回り)も急速に上昇したこと⇒その結果、株価が大きく下落という経過をたどりました。

◎現状、インフレはだいぶ落ち着いてきましたが、コロナ以前の水準まで下がるかどうかは分かりません。したがって、金利水準もどの程度の水準で落ち着くかもわかりません。その意味で「マーケットが今後も右肩上がりで推移する」かどうかは分かりません。1970年代の高インフレ時代には「株式の死」と言葉ができたように、マーケットは約10年間高値を更新できませんでした。今後、似たようなことが起こる可能性はゼロではありません。

 

・成長株投資、10のルール(ウイリアム・オニール)(P168~169)

①株価が上昇中の銘柄を買うこと。株価が安くなるのを待ってはいけない

②買い増しするなら、株価が上がって最初のポジションに利が乗ってから実行すること

ナンピンしてはいけない

④最高値に近い株を買うべきで、底値圏の株には手を出さないこと。特に割安に見える株は駄目

⑤値がさ株を買い、ペニー・ストックのような株価が1桁台の銘柄は避けること

⑥買ってすぐ損になったら、損が小さいうちに早めに処分してしまうこと

⑦PBR、配当利回り、PERは無視すること

⑧利益成長の高い株を買うこと

出来高を伴いながら上がっている株を買うこと

⑩同業他社の中で、利益が一番上がっている銘柄を買うこと

◎②は、「最初のポジションに利が乗る」ことは、最初にとったポジションが正しかったことを市場が証明してくれたのだから、その時初めて買い増ししてよい、ということ。言い換えると、最初のポジションが正しかったかどうかがわからない状態で、ポジションを膨らませると、間違っていた時に損失が大きくなるから避けなさいということです。

◎③のナンピンも趣旨は同じ。「最初のポジションが損失の状態にあるとき」は、そのポジションが間違っていた可能性が高いのだから、損きりを考えるべきで、ナンピン(最初の買値より下がったところで買い増しすること)により、損失の絶対額が大きくなるのは避けなさいということです。

◎⑦PBRと配当利回りは、それほど気にする必要はありませんが、PERはそれなりに重要だと思うので、「PERは無視すること」というのは言い過ぎだと思います。

◎CAN SLIMについては、使っていないので、省略します。

 

◎P172~174に新興国投資について記述がありますが、新興国投資の難易度は低くはないので初心者は近寄らないのが無難でしょう。

 

ETFについて(P176~)

②コア・サテライトのコアとは中心の意味でサテライトとは衛星の意味です。例えば、メインになるETFとしてアメリカの代表的な株価指数であるS&P500をなぞるSPYを据え、個別銘柄で自分が特に好きな銘柄を組み入れるなどの方法です(P177)

◎ここに書かれているのは、「ETFをどういう戦略(ストラテジー)の中で使うか」というほどの意味のようです。

◎②のコア・サテライトは、多くの個人投資家に採用されている、バランスのとれた投資法と思われます。それ以外は、読み流していいと思います。

 

【chapter5】(P180~)

◎2014年時点での著者の見解が書かれています。

◎中国に関するP182~189の記述は、現在の中国の経済的苦境の原因が簡単にまとめられています。

◎P190~198は、戦後の経済史をごく簡単にまとめたものです。読んでおいて損はないでしょう。