赤ちゃんはことばをどう学ぶのか 針生悦子著 2019年8月中央公論新社刊

(目次)

はじめに

第1章 赤ちゃんは本当に「天才」なのか

第2章 まず、聞く

第3章 「声」から「ことば」へ

第4章 子どもはあっという間に外国語を覚えるという誤解について

最終章 必要だから学ぶ

おわりに

 

 赤ちゃんは、言語が、それでもって、何か別のモノや事柄を指し示すものであることを発見しなければならない。その意味で、赤ちゃんの言語学習の出発点には、非常に大きな困難が伴っている。

 胎児の聴覚は妊娠24か月頃に働き始める。胎児が聞いている話し言葉は声の上がり下がりやリズムである。実際のコミュニケーションにおいて、言葉のリズムは単語や文を正しく聞き取るために重要な手掛かりになっており、英語と日本語のリズムは異なる。

 生後8か月頃までに、音のつながり方の確率を手がかりとして、発話の中から単語を見つけられるようになっている。ただし、発声者が変わるとわからない。

 現実世界の意味のあるやり取りの中でこそ、赤ちゃんは相手の話す声の中で区別しなければならない音がどれかが分かり、聞き分けられるように頑張る。

 1歳頃、最初の単語を話し、1歳半頃、話し手の視線や指差しを手がかりに単語の意味を確実に見出せるようになるが、ガバガイ問題、つまり1つ1つの単語の意味のレベルをめぐって、試行錯誤する。

 つまり、指し示された事物と言葉が、ワンちゃんのレベルなのか、チワワなのか、動物のレベルなのかということについて、ワンちゃんのレベルなのだということを理解するようになるのだが、それには、50~100語程度必要となる。

 子どもは、誰にも教えてもらわないまま、自分でその言語の音の聞き分け方を学び、発音の練習をし、単語の種類やその意味の学習の仕方まで見つけ、そうやって母語の基盤を築いて、2歳頃に200語を修得する。

 家庭内と異なる言語が話される環境に入ったときの年齢が低いほど、新しい言語の習得に時間がかかる。子どもからすると、それまでに努力して何とか1つの言語を使えるようになってきたところで、新しい言語について「もう一度初めから自分で使えるようにしなさい」と言われているようなものである。

 子どもも、母語以外の言語環境に入るのは「辛い」。

 子どもは、母語でもラクして学んでいるわけではない。子どもは必要だと実感しているから努力して学んでいるのであり、われわれがそのことを忘れているだけである。

 その意味で、幼児向けの英語教育には問題がある。