資本主義の歴史

ユルゲン・コッカ著 山井敏章訳 2018年12月人文書院

(目次)

第1章 資本主義とは何か

  1 論議の付きまとう概念

  2 3つの古典~マルクスヴェーバーシュンペーター

  3 他の諸見解と作業のための定義

第2章 商人資本主義

  1 端緒

  2 中国とアラビア

  3 ヨーロッパ~ダイナミックな遅参者

  4 1500年頃の時代についての中間的総括

第3章 拡大

  1 ビジネスと暴力~植民地支配と世界貿易

  2 株式会社と金融資本主義

  3 プランテーション経済と奴隷制

  4 農業資本主義・創業・プロト工業化

  5 資本主義・文化・啓蒙主義~時代の文脈におけるアダム・スミス

第4章 資本主義の時代

  1 工業化とグローバル化

  2 オーナー資本主義から経営者資本主義へ

  3 金融化

  4 資本主義における労働

  5 市場と国家

第5章 展望

(概要)

 資本主義の概念は、批判の精神と比較の視座から生まれた。

 資本主義は、個人の所有権と分散(分権)的決定を基礎とする。様々な経済的アクターの調整が、市場と価格、競争と協働、需要と供給、商品の購入と販売を通じて行われる商品になること、即ち資源、生産物、機能、チャンスの商品化が中心になる。将来にの利益を追求するために、現在の貯蓄と収益の投資、再投資が行われていく。

 商人資本主義が最初に集積した形で現れたのは、中国漢王朝古代ローマ帝政期である。中世では、中国宋朝~明朝であり、ウマイヤ朝アッバース朝治下のアラビアの大帝国である。商人の資本は、一部は先行する征服や略奪に由来した。

 中世ヨーロッパでも、資本主義的な活動は、特に遠隔地交易で広まった。商人たちは協同組合的方策を発展させ、隊商(キャラバン)、船隊を武装し、目的地でも、商館、集会所、在外支店、自治権の獲得等、目的地でも結びついた。ドイツのハンザ同盟は、北ドイツ出身という共通のバックグラウンドを持つ遍歴商人の結合体である。彼らは、ペアを組んで数年間続く小規模な商事会社を設立した。

 北イタリアの諸都市では、数人の商人と事業自体には関与しない資金提供者が期限付きの会社を共同で設立したが、その後長期化した。また、複式簿記、現金抜きの融資、手形取引、先物取引、アラビア・インド数字のほか、共同出資、共同経営など資本提携のための様々な法形態を編み出した。

 商人層がもった市場との密接な関係、強い利益志向、商業行為、商業諸機関の相対的独立性、信用を用い利益を志向する投資、貯蓄の重要性、企業の形成、遠隔地交易、端緒的には生産の領域にも及ぶ資本主義的発展のダイナミックな拡大は、資本主義的と定義できる。ただし、多くは端緒に過ぎない。

 地理上の発見の時代は、ヨーロッパの諸強国による世界の大部分の、一部は暴力的、一部は商業的な征服の時代だった。これを、専らヨーロッパの資本主義の論理的帰結であると解釈するのは誤りである。原動力となったのは、地歩を固めつつある領邦国家及びその諸政府による勢威の追求である。

 発展しつつある資本主義は、交換の原理と商品形態を労働の組織に徹底的に組み入れることで、需要と投資、労働力の調達、マネジメントを通じて、生産の領域を根本的に変化させた。

 奴隷経済、プランテーション経済の効率性は、奴隷等のモチベーションの欠如、潜在的な抵抗等により効率性が限られるが、19世紀においても高い利益を上げ続けたのであり、奴隷制が廃止されたのは、経済的に劣っていたからではなく、政治的圧力を受けて禁止された。

 資本主義は、非人道的な行為に抗するものを自身のうちにはもっていないが、法的、政治的な制限や指導があれば、そうした抵抗の側に立つことができる。

 ヨーロッパの大半の地域で、封建制が資本主義の足かせとなった。封建主義は、経済関係と社会関係を密接に結びつけ、特権と従属、社会的、政治的に規定することにより、調整メカニズムとしての市場での交換を著しく制約した。

 封建主義に縛られた農業資本主義において、東欧の領主制農場は、日用消費財、特に穀物を西欧に輸出して利益を上げた。一方、オランダでは封建制の伝統が弱く、都市化が進み、農産物の需要が大きかった。密になった都市、農村間の交易関係が農業生産の専門分化を促進した。農民の格差が拡大し、農地の売買や賃貸が広がり、小規模農家が没落した。農業における賃労働は13世紀に発生したが、16世紀にはすべての労働の3分の1が賃金、俸給を対価とする自由な労働契約が占めた。

 工業化とは、3つの発展を核とする複雑で多大な影響を持った変化のプロセスである。

①18世紀における蒸気機関の開発、紡績、織布の機械化に始まり、20世紀末~21世紀初にかけての生産と通信のデジタル化に至る技術上、組織上の革新

②新たなエネルギー源の大量使用:石炭⇒電力、石油、原子力再生可能エネルギー

③分業を組み入れた製造施設としての工場の普及~生産が1か所に集中、原動機と作業機、経営と生産活動を明確に区別

(資本主義と工業化の関連)

①工業化が始まったとき、資本主義は長い歴史を持っていた。

②資本主義と工業化には明確な親和性がある。いずれも投資が決定的に重要である。

③工業化は、資本主義を変えた。契約に基づく賃労働を大量現象にした。労働の商品化

 資本主義の成立、発展、存続にとって国家の介入は不可欠であり、今後、さらに介入の重要性は増す。市場は、政治的手段によってのみ作り出される枠組み条件を前提にする。