腎臓が寿命を決める 黒尾誠著 2022年1月幻冬舎刊

(目次)

はじめに

第1章 腎臓が寿命を決めていた

第2章 リンが老化を加速する

第3章 慢性腎臓病はリンが原因の早老症である!

第4章 若々しく長生きするために、いまわたしたちにできること

第5章 見えてきた老化を防ぐメカニズム

おわりに

 

 腎臓は体内の必要なものと不要なものを仕分けして、血液や体液の成分バランスを調整している。その際、腎臓は体内の各臓器と密に連絡を取り合うことによって、回収すべき成分の量等を判断している。

 腎臓のろ過装置の主役は、ネフロンであり、糸球体と尿細管で構成されている。体内に約200万個あるが、個人差が大きい。ネフロンは消耗品であり、再生せず、加齢とともに減少し、60~70歳では20歳代の半分になる。ただし、ネフロンには相当な予備力があるため、腎移植が可能となっている。

 FGF23(線維芽細胞増殖因子23)はリンを体外に出すためのホルモンであり、骨から分泌され、血中を流れて腎臓に到達すると、「リンを排泄せよ」という指令を伝えることでリンの体内量のバランスを調整するホルモンである。

 クロト―遺伝子は、FGF23の受容体に関する遺伝子であり、クロト―欠損マウスは、血液中のリンの濃度が異常に上昇する。クロト―欠損マウスには様々な老化加速症状が現れるのは、リンの対外排出ができなくなったためである。クロト―欠損マウスにリンを減らした餌を与えると、一連の老化加速症状が出なかったという実験結果がある。

 高濃度の血中リンは、動脈硬化(血管石灰化)、成長障害、心肥大、骨粗しょう症、老人肺(肺気腫)非感染慢性炎症等の疾患をもたらす。血液中のリン濃度が高いと血管内皮細胞が障害され、血管の石灰化現象が進む。

 体にリンを大量に蓄えるようになった最初の生き物は硬骨魚類であり、リン酸カルシウムを主成分とする骨に体内の80%のリンが存在している。リン酸カルシウム濃度が過剰になると血管等で析出し、その組織を石灰化させる。このことにより、当該組織の機能が低下して、さまざまな不調、病気が発生し、老化を加速させる。

 リン酸カルシウムは、通常、タンパク質と結合して、コロイド粒子の形で血中を移動している。このCPP(Calciprotein particle)こそが健康被害を発生させている。よってCPPを老化抑制、慢性腎臓病治療の治療標的とすべきである。

 高リン血症では、リンを含む食材の摂取を減らす食事療法やリン吸着薬が処方される。しかし、高リン血症になる前の段階から、リンの摂取量を減らすべきだし、必要ならリン吸着薬を予防的に服薬すべきである。

 人工透析では、CPP吸着カラムが有効である。血液透析の回路につないで、透析中の血液からCPPを吸着除去する装置である。(著者開発)

 尿中リンは、腎臓の尿細管で仕分けされて尿中に入っていくリン。長期間高リン食を続けていると、尿細管がダメージを受ける。

 リンは1日に約1グラム排泄される。加齢によりネフロンの数が減少しているのに、若いころと同じよう食生活を続けているとリンの摂取量が変わらないので、ネフロン1本当たりのリン排泄量が増える。その結果原尿中のリン濃度が上昇し、CPPが発生。CPPによって尿細管が障害を受ける、障害を受けた尿細管が死にネフロンの減少が加速する。この悪循環により、最終的にネフロン数が若者の5%程度になるとリンを排泄しきれなくなり、血中リン濃度が常に高い状態(高リン血症)になる。

 ネフロン減少の悪循環ができると慢性腎臓病が加速する。よって、慢性腎臓病のステージ1か2の人は、FGF23の数値上昇の時点で、リンを減らすための食事療法を実践すべきである。FGF23は健康保険のメニューにないので、尿中リンや血中クレアチニンで代替することも可能である。

 なお、FGF23の数値が悪化したときは、リン制限の食事療法に加えてリン吸着薬、CPPの析出・結晶化抑制薬等による薬物療法を追加すべきである。ただし、現時点では保険適用外である。保険適用の問題は当面改善される見込みはない。

 よって、現実的には日々の食事で摂取するリンの量を抑えるしかない。

 有機リンは肉類、魚介類、卵、乳製品、野菜、穀物などに含まれる。食品中の有機リン含有量はタンパク質含有量に概ね比例するが、体内への吸収率は20%~60%で食品によってかなり異なる。一般に、肉、乳製品の有機リンは吸収されやすく、植物由来の有機リンは吸収されにくい。大豆の有機リンは、フィチン酸であり、これは人間の腸からは吸収されない。

 無機リンは、食品添加物として使用されているリンであり、ほとんどの加工食品に含まれている。体内への吸収率は90%以上である。ソーセージ、ハム、ベーコン、ミートボール等の加工肉、干物、練り物、かまぼこなどの水産加工食品、冷凍食品、カップラーメン、インスタント麺、袋詰めのパン、シリアル、スナック菓子、ケーキ、プリン、ゼリー、おつまみ類、漬物、調味料、コーラ、ジュース、お惣菜等あらゆる加工食品に含まれている。

※なお、ここで著者は大豆ミートを推奨しているが、大豆ミート食品添加物の塊ではないかとの疑念があるので、賛同しかねる。

 運動量・活動量が少なくなると、骨に対する刺激が過少となり、骨量低下とともにリンやカルシウムが骨から溶け出してしまい、骨粗しょう症や慢性腎臓病を進行させる可能性が高い。

 よって、添加物に気を付けてリンを摂りすぎないことに加え、なるべくこまめに体を動かして骨中のリンが漏れ出さないようにすることが肝要である。