(目次)
はじめに
プロローグ
第Ⅰ部 損失から学ぶ恐るべき教訓8
教訓1 10年に1度以上来る相場暴落
教訓2 円投資家の宿命「全か無か」
教訓3 専門家が投資家をどん底に陥れた
教訓4 新興国投資の天国から地獄
教訓5 <長期+分散+積立>投資の罠
教訓6 人気テーマ投資の呪い
教訓7 AI投資で勝てない理由
教訓8 そもそも人は損しやすくできている
第Ⅱ部 逃げて勝つ投資の鉄則7
鉄則1 投資の時間軸に合わせた構えをとる
鉄則2 投資の時間差サイクルこそが最強のアプローチ
鉄則3 グロースとサイクルの組み合わせをつかむ
鉄則4 アマノジャクな円と上手に付き合う
鉄則5 海外の高成長を獲るヒット&アウェー
鉄則6 短期相場を知り、投資家思考の呪縛を解く
鉄則7 情報を投資の行動予測に落とし込んで選別する
第Ⅲ部 ポストコロナへ投資のチューニング
指針1 相場サイクルの突発的な増幅リスク
指針3 米中分断によるグローバル化の変容
指針4 新興国が成長センターとして再浮上
指針5 地球環境悪化と「羹に懲りた」市場の反応
指針6 日本リスクを踏まえたリターン狙いと分散
実践1 次の投資、来る逃げ時
実践2 投資に落とし込む
【プロローグ】
コア・サテライト投資は、コア(中核)として<長期+分散+積立>のような老後に備える投資の周囲に、株式、新興国通貨、金、不動産などへのサテライト(衛星)投資で高リターンを狙う。本書は、サテライトを感度の良いアンテナとして、自らコア投資のリスクにも備えることを提案する(P2)
10年に1度という相場暴落の多くには、発生前に点滅する黄色シグナルがあった(P2~3)
本書で核心に据えるのは、長期の景気サイクルに沿って、典型的には時間差で現れる内外株式、長期・短期金利、ドル円、新興国・資源などへのサイクル投資(P5~6)
【第Ⅰ部】
景気DI(短期経済観測調査の大企業製造業の業況判断指数:日銀が四半期ごとにに発表)に対して、ドル円が平均1.5年遅れて連動する。DI線が示す景気のモメンタム(勢い)に着目。日本経済が悪化するときに円高になる。景気が良い国の通貨は強く、悪い国の通貨は弱いという常識に反する現象(P17~18)
新興国は、高成長を実現するマネーを国内に十分持たないため、海外マネーを借り入れる。借金が円滑に進む局面では、その国の経済は順調で通貨高になり、海外マネーはさらに流入し、さらに通貨高になる。(ドル高に反転すると)海外マネーが逃げ出し、通貨も反落する。新興国の景気は悪化し、通貨安で外貨建ての借金の返済負担が高まる悪循環に陥る。新興国には、絶好の買い場と売り逃げ場が交互に起こりやすい(P28~29)
継続して儲けているAI投資の手法は、速やかに模倣され、抜け駆け的に利益を出し続けることが困難になる(P41)
相場は常に先行きについて不確実な時点で判断を迫られる。確実な情報は、相場に織り込み済みで、新たな値動きの材料にはならない(P43)
投資をする人は、他人とのコミュニケーションが活発化する。良い情報を教えたいという親切心というよりも、自分の不安から来る親和欲求による。そこでの情報交換は、自分の不安を和らげる方向に強い同調作用が働き、自らの投資行動を正当化する見通しを強調し、強い共同主観が形成される。相場上昇が持続すると、同調の輪が広がり、含み益の増加とともにリスク判断が緩んで、過大な投資が積み上がる(P43~44)
【第2部】
コアは、老後資金の備えとして、20年~30年という超長期にわたる投資。超長期の経済成長に沿った市場平均の収益を目指す。日本、米国の代表的株式インデックスと連動したETFへの投資で対応(P50~52)
自らの時間軸を定め、それに合った構えをとる。相場は、超長期(10~30年)、長期(2~10年)、中期(3月~2年)、短期(~3月)の4つの波が重なっている(P55)
超長期では、マクロ経済の成長と金融・投資リターンは、概ねバランスする。1971~2019年の米国GDP成長率≒金利・株式の金融リターンであり、債券・株式への投資リターンは、究極的には経済活動が生み出す付加価値額(=収益)によって賄われる。ハイリスク≒ハイリターンであり、リターンは、リスクの高い順に、株式リターン>長期金利>短期金利の序列がある(P55~57)
経済成長率と金融リターンが全体として超長期でバランスすることを踏まえれば、株価全体が数年で2倍、3倍に跳ね上がった場合は、実体経済の成長で正当化できるかを考えれば、いずれ調整・反落が不可避と想像できる(P57~58)
一国の実質経済成長率の趨勢ペースは潜在成長率とされ、「労働人口伸び率+1人当たり生産性伸び率」に分解できる(P58)
(トレンド)(P59~60)
①超長期相場の軌道は、経済・インフレの趨勢的・構造的トレンドに沿っている
②長期相場は、数年で好不況のサイクルに沿って、市場需給が変化することで生じる
③中期相場は、中央銀行の金融政策により決まる金利、マネー供給量に応じて動く
④短期相場は、短期的値動きから差益を狙う投機筋によってつくり出される
株価=企業が将来生み出す収益の現在価値
=1年目収益/(1+金利)+2年目収益/(1+金利)²‥‥ (P77)
(株式市場に先行するシグナル)
金利が、「潜在経済成長率+FRB許容インフレ率」の景気中立水準を超えて上昇(下落)し、住宅市況が悪化(改善)すると、株安(株高)サイクルが始動する。図表2-5で、07年、当時金利の景気中立水準とされた5%強まで利上げが進むと、住宅市況が悪化し、サブプライム問題が顕在化。株価は反落し、その後、リーマン・ブラザース破綻による世界金融危機に至った(P79~80)
近年の低インフレ環境下では、景気拡大の過程で、中央銀行は利上げを急がなくなった。金融緩和は長引き、低金利が続き、景気拡大も株価上昇もサイクルを永らえさせる。長く高い相場が続けば、金融のリスク判断が緩み、過剰な投資が横行し、折々の株式相場の揺り戻しの反落が大きくなる(P82)
日本の投資家は、好景気下で、株高円安の最中に、米国で金利上昇を嫌って株価がぐらついているときに、リスク投資から手を引くべき(P87)
米国株は、景気下降局面の金融相場から、景気加速期の業績相場まで続く。日本株は、米金融相場局面はドル安円高に圧迫されやすく、景気加速期のドル高局面になって急伸する。売り逃げは、①FRBが引き締めに転じるときに部分的に利益確定、②FRB利上げで長期均衡水準を超えて、住宅市況に陰りが見える局面。日本株も売りは米株と同時(P89~90)
景気加速局面で、失業率の完全雇用水準への低下、賃金上昇ペース上昇、FRBによる政策金利の景気中立レベルへの引き上げ、住宅市況の悪化を注視し、シグナル確認で一部利確すべき(P94)
◎P80では「米国債10年金利」と中立金利を比較しているように読めるが、P94では「FRB政策金利」と書かれており、後者のほうが正解だと思う。
通常、債務国の金利は債権国の金利より高くなる。景況・市況が良好な時、債権国側(日本)の投資家は、リスク投資の意欲を高め、債務国(米国、新興国)の高金利を求める。債権国→債務国間の国際金融が円滑になると、円などの貸し手の通貨が下落し、借り手のドルや新興国通貨が高くなりがち。景況・市況が悪化すると、債務国から債権国に投資マネーが還流し、円高となる(P114)
円安と日本株高は同時進行すると見る海外投資家は、日本株購入代金の円買いの一方で、円安に備えるヘッジの円売り取引をする。これだけなら買いと売りが相殺して円相場には中立的となる。しかしヘッジは、新規の株式購入分だけでなく、既保有の日本株の円安による為替差損回避にも必要。さらに株高が進むほど、彼らの日本株の保有残高が増え、その分ヘッジ対象額も膨らむ。円高と日本株安が同時進行するときは、異常とは逆側に取引が発生する(P119)
◎「既保有の日本株の円安による為替差損回避」は、従前日本株を購入した際ヘッジをつけていなかった分にあらためてヘッジをかけるという意味だろうか?
年金基金は、円高(+外国株安)に反応して自動的に外国株を買う。年金基金の行動は、円高抑止の方向に働くが、米国側のマクロ経済事情から来るドル安・円高を止めるほどの力はない(P122)
貿易黒字、経常黒字は実体経済の要因。貿易関連の為替取引シェアは1%未満だが、日本の輸出企業の外貨売り、輸入企業のドルなど外貨取引は巻き戻しの反対売買が行われず、為替市場に圧力を残し続ける。中長期相場の底流では、貿易収支、経常収支の圧力が効く(P123)
日本の経常収支(対GDP比)は1.5年後のドル円相場に影響する。一方ドル円相場は日本の経常収支に2年先行する実績があるが、いずれも実践的ではない。長期・中期では両者はいずれもサイクル現象であり、貿易収支は特に米国内需の動向を反映して変動する。よって、ドル円相場を読むには、米国のマクロ情勢のほうが重要だ(P123~125)
為替相場は通貨同士の交換レートであり、1人当たりの生産性伸び率が高い国の通貨は実質レートでは強くなる。名目為替レートは、市場で成立する相場であり、両国のインフレ率の影響を受ける。名目では長期趨勢的にはインフレ率の低い国の通貨は強く、高い国は弱くなる(P126~129)
90年代以降の日本は、経済は劣勢で需要不足になり、低インフレからデフレ症状を来たし、結果円高となり、輸出産業も勢いを失った。円は長期趨勢的に実質で弱まり、名目では強さの名残りが続く公算だ(円の二重性)(P129)
為替相場は長期的には内外インフレ格差分だけ動き、そこからインフレ分を除く相場が実質相場だが、ここは経済の実力=生産性伸び率を反映する。長期間の投資対象として外国資産を選ぶときは、趨勢的なインフレ率と実質経済成長に見合うリターンが期待できる資産を選ぶべき(P129~130)
為替市場における円の需給構造は変化しつつある。①貿易黒字減少、経常収支の大半が所得収支で海外に滞留。よって、日本に還流される円買い分は、経常黒字の見かけ額よりかなり小さい(P131~133)
米国の経済と市場は、経済学、金融論のロジックがかなり制度として組み込まれ、市場参加者にも理論に基づいて動く人が多数いる。政策当局、特にFRBは、金融政策について経済学の知見に基づいて一貫した行動をとり、その政策について説明責任を果たすので、投資家として、理詰めで対応しやすい(P140~141)
「FRB経済見通し」の「長期」の「実質GDP成長率」は、本書の「経済の趨勢的な成長ペース(P50)」に該当する。米国経済は、労働人口の増加分を吸収して毎年+1.8%ペースで成長することが景気中立的な巡航軌道と理解される。経済はサポートされるが、水面下の状態が長引き、その間は超金融緩和が継続されるという環境は、株式などリスク資産には支援的と判断される(P143~146)
◎上記は2020年6月頃の時点の判断であって、21年夏頃から顕著になったインフレによりFRBの金融政策は引き締めに転じている。
ドルの実効為替レートは、9~10年下降し、6~7年反発するサイクルが確認できる。米国が相対的に金融緩和気味で、ドルが国際的にだぶついている局面でドル安、米金融引き締め強化などでドルが米国に還流する局面でドル高が続く。大量供給されたドルが国際市場でより有利な投資先を求めて活発に動くとき、高利回りの新興国に流れやすい。米国が金融引き締め局面に移るとドル高になり、新興国に投資されたドル資金が流出し、資金繰りに窮して、通貨・金融危機見舞われた(P147~148)
新興国には、資源など一次産品の輸出比率が高い国が少なくない。主要輸出品の商品相場が上がれば、その国は一段と活況になり、通貨高になり、それがさらに海外マネーを呼び込む好循環となる(P148)
新興国は、高い成長性を実現するのに必要な資金が国内には十分には存在しない。国の信用力が低く海外から資金調達するには高金利とせざるを得ない。ドルがだぶつく局面では新興国も容易に資金調達できる。この時点で、新興国内の製造業は貧弱で、経済発展に必要なものを輸入する。こうして貿易赤字、経常赤字となり、この赤字分を海外からの借金でバランスする。新興国は自国通貨高になると、ドルでの借金返済の負担が軽くなる。ドル相場が反転・上昇サイクルに入ると、資金の海外流出、通貨安、ドル債務負担増大という悪循環を招く(P151~152)
(2011年?)当時、ブラジルのGDP成長率の趨勢的ペースは年+3.5%ほどで、同国中央銀行はインフレ率を年率+6.5%を許容限度としていると窺われた。両者を足して10%が景気中立的な金利水準と判断されていた。このため同国の政策金利が10%超えと上昇するのをシグナルと捉え、売却して手を引く段階と判断することは可能だと、著者は訴えた(P27,P157~158)
新興国投資は、ドル相場のサイクルの追い風に乗り、逆風が来る兆しに敏感に逃げることの繰り返し(P162)
⇒アメリカの金融緩和に伴うドル安の追い風に乗り、アメリカの利上げで逃げる
(新興国から売り逃げるシグナル)(P164~165)
①当該新興国の政策金利が、「趨勢的な経済成長率+中央銀行が許容するインフレ率」を上回ったとき相場が終盤に入ったと考えて、警戒する
②新興国の内需加熱による貿易収支悪化や金利上昇により経済減速の兆候が現れたとき、景気の先行きにマイナス材料が見え始めたとき、逃げる
③米国が金融引締めに転じドル高に向かうとき
投資ポジションは思惑に基づく投資判断の結果だが、同時に、ポジションを持つことで予想の判断は歪み、相場の情勢変化の中で自分の投資ポジションをどう扱うか、次の行動を規定する原因になる。短期相場の中で、ポジション状況を推計できれば、市場の耐性としての相場観(の歪み)や次の反応を部分的にせよ推測できる(P179)
ポジションのコストを挟んで、投資家の行動は非対称性がある。相場参加者は、含み益の領域では利益確定売りを早めがちで、含み損領域では損切り売りを見送りがちになる。経験ある投資家は、損切り売りをする(P180)
◎リスク資産を購入したら、直ちに、逆指値売りを設定しておくのが望ましい。
市場は、経済、金融、政治、国際情勢、投機的思惑などすべての情報を織り込んで相場を形成する合理的情報処理メカニズム(合理的期待仮説)ではない。相場が一方向のトレンドを見出すと、「なぜ相場は上がっているのか」を皆で確認し合い、それに好都合な材料を強調する。増大した含み益は、相場トレンドを誇張的に正当化しながら、やがて利食い圧力として、相場の自律的反落をもたらし、実際に下げると、下げ相場の材料がクローズアップされる(P189~190)
欧米投資銀行のエコノミストは、コーディネートされた世界経済見通し(1年以上)を会社の公式見解として作る。ストラテジストは、投機や一時的需給で動く短期相場(6月以内)に対応する。ストラテジスト予想の主な提供対象は、3月ごとの決算で絶対リターンを狙う短期投資家であり、そこで評価された予想は、「市場のコンセンサスではないけれども、50%以上の確率で起こると合理的に説明できる予想」(P202~203)
【第Ⅲ部】
23年に経済のデフレ・ギャップが解消されるなら、株式市場はその前の22年頃から、中央銀行の資産買い入れ減額や停止に神経質になり、23年には利上げを視野に入れ始める。デフレ・ギャップの解消後にインフレの兆しが出始めたら、相場は大激震に見舞われる(P218)
◎この視点があれば、S&P500の22年1月4日以降の暴落を避け得たのではないかと思われる。私が最初のこの本を読んだのは、21年5月16日だったが、その時は十分に読み込めていなかった。力量不足だったようだ。
個別株投資で企業個々の成否のリスクを取りにくい場合は、業種別ETFのラインナップも充実している。プラットフォーマー、テクノロジー業種ETFなどは、セミマクロとしての性質も帯びている。私(著者)は、グローバル・マクロに軸足を置きつつ、セミマクロを通して、一部ミクロも見る、3段階でXデー・リスクに備える(P222)