(目次)
主な惑星と衛星のリスト
イントロダクション
第1章 朽ち果てた建物
第2章 流れの中の岩
第3章 システムの中のシステム
第4章 奇妙な場所と小さなもの
第5章 ぺブルと巨大衝突
第6章 勝ち残ったもの
第7章 10億の地球
結びとして
エピローグ
【イントロダクション】
本書のテーマは、惑星の多様性の起源だ。かつて太陽系内に存在した惑星や衛星のほぼすべてが、それより大きな天体に飲み込まれて、それがこの世界のあらゆる違いをもたらした。大半の惑星は、今は巨大ガス惑星(木星、土星)か太陽の内部にある(P49~50)
基本的な知覚のスケールは、両目の平均的な間隔である約6㎝だ。この目は、左右にずらして配置したカメラに等しく、その後方では網膜が左脳と右脳に立体視用の映像を送っている。脳は、その能力の半分を、視覚野内で左右の映像を合体させて、三次元の現実を作り出している(仮説)(P33)
よって、人間にとって特に優先度が高い宇宙探査データは、約7度のずれのある位置で、同じ光の条件下で取得された2枚の画像だ。立体視メガネをかければ、宇宙の画像データを立体的に見ることができる(P33)
私たちは、酸素と窒素を中心に、アルゴン、二酸化炭素等の気体を吸ったり吐いたりして、呼吸という最も重要な生物学的機能により、その酸素分子の一部を二酸化炭素分子に交換している。しかし、地球にある酸素のほぼすべては岩石の中にある。植物が光合成によって酸素を放出しなかったら、大気から酸素はなくなる(P34~35)
地球のケイ酸塩部(金属コアより上の部分)の質量の半分は酸素であり、その酸素は橄欖石((Mg,Fe)₂SiO₄)のような鉱物に含まれている(P35)
酸素同位体(酸素16:最多、酸素17、酸素18)は。化学的性質がほぼ同じなので、互いに入れ替え可能だ。酸素17,18は重いので化学反応は起こりにくい。質量は異なるので、自然界では質量により振り分けられる。酸素18で作られた水分子は、わずかに蒸発しにくい。氷河期には海から蒸発した水が、雪として広い氷床に堆積することで陸地に移動する。結果、陸には軽い酸素同位体が蓄積され、海には重い酸素同位体が増える。氷河期に、海の底に細かな沈殿物や炭酸塩が降り積もると、生じる岩にも重い酸素同位体が多くなる(P35~36)
陸、海、大気で起こった変化の記録は、将来の岩石に保存される。これが形成当初の火星の堆積岩のサンプルを採取する理論的根拠だ(P36)
私たちが火星に行って堆積岩を採取する必要があるのは、そこにある生命(化石を含む)を発見するためだけでなく、生命が惑星系から別の惑星系へ、銀河から銀河へと移動するというパンスペルミア(胚種広布)説という概念を完全に理解するためでもある(P38)
月と地球の岩石は、酸素その他の元素の同位体存在比では、百万分立のレベルでもそっくりだ。実際、月全体の組成は、地球の無水マントルと宇宙科学的にかなり一致する。この観測結果は、巨大衝突によって月が形成されたとする説をひっくり返した。(この説に従った場合の)標準的モデルでは、月の大部分は、衝突した惑星テイアの破片から形づくられており、火星のように地球とは化学的組成が異なっているはずだからだ。月は、地球の太平洋海盆に相当する部分がちぎれて生まれたという19世紀の仮説が生き返っている(P38~39)
原始太陽系星雲は、ガスが主成分だった。星雲内は低圧力だったので、水は個体として結晶化できる領域以外では、水蒸気として存在していた。太陽からの距離が2~3天文単位(AU)より外側の領域では、水は氷として固定化でき、その氷が種となって氷が集積し、微彗星(彗星の遠い祖先)になった。それより太陽に近い領域では、温度が高く、ケイ素の凝縮物が優勢で、岩の多い微惑星(⇒地球型惑星)が形成された(スノーラインの概念)
液体の水が大量に存在できるようになったのは、微惑星が十分に成長して重力が強くなり、水が凝結するための大気や地表を保つようになってからだった。水は、岩石に含まれる細かな鉱物の分子も溶かして、堆積岩を分解して輸送する。液体による固体の分解と輸送から始まる化学的・物理的プロセスは、水の働きによって可能になり、反応が促進される(P40)
太陽系では地球だけが、水の三重点(水蒸気、水、氷が共存する温度、圧力)に近い地表環境を整えている。水の三重点に近いことを生命が存在するための必須条件と考えたとしても、エウロバ(木星の衛星)は除外されない。氷の下に気体が集まった部分があればいい。ただし、惑星上で生物が進化して、高いレベルの意識、知恵(sapience)を持つには、星空、太陽、月、遠くの山脈のような、自らの存在をはるかに超越する者への理解が求められる。よってスモッグで覆われた惑星、氷殻のはるか下に続く暗い海などの惑星は候補から外れる(P41)
【第1章】
ヨハネス・ケプラーは、惑星が太陽の周りを楕円を描いて公転しているなら、そして太陽に近い軌道上では速く動いているなら、惑星の位置に一定の誤差(視差)が解消されることを証明した。ケプラーが考案した惑星運動の方程式(ケプラーの法則)は、アイザック・ニュートンによって重力と運動量の形で物理的な枠組みに組み込まれ、そこから物理学が誕生した(P53~54)
マリ・キュリーは、放射性元素が崩壊系列をたどって崩壊を続け、最終的に安定な娘元素になることを示した。ウランの同位体のうち、存在比の大きいウラン235とウラン238は、数十億年というタイムスケールで崩壊して鉛同位体(206pb,207pb)になる。ウランは岩石中に比較的多く存在するので、ウランの崩壊によって鉱物結晶内の鉛同位体比に偏りが生じ、時間とともに変化する。⇒岩石の年代を精密に測定(P55~56)
1920年代に、エドウィン・ハッブル(米天文学者)は、私たちの銀河系が、宇宙全体に存在する数多くの銀河の1つであるという見方にたどり着いた。さらに銀河があらゆる方向に遠ざかりつつあること、遠くの銀河ほど高速で遠ざかっていることを明らかにした。宇宙は、等方的に膨張しており、銀河は、膨らませている最中の風船の表面に描かれた点のようなものだ。どの点をとっても、風船はその点を中心にして膨張しているように見えるが、実際には中心となる特別な点は存在しない(P56~57)
ハッブルは、時間と空間が始まった理論上の臨界点(風船が膨らんでいない時点)をスタート地点として、すべての銀河が現在の距離に到達するのにかかった時間を計算することで、宇宙の年齢を数十億年というタイムスケールになると推定した(P57~58)
17世紀半ば生まれのニュートンは、ケプラーの方程式を一般化して、質量、時間、空間の関係式表した。2個の物体は、それぞれの質量に比例し、距離の2乗に反比例する形で互いに引き合う(重力の逆二乗則)を考え出した。(完全に正しくはない)(P58)
1916年にアルベルト・アインシュタインが発表した一般相対性理論は、ニュートンの法則に時空の湾曲(幾何学的基礎)という概念を与える。重力は力ではなく、ポテンシャル場の勾配だ(P59)
ニュートンは、惑星や衛星の質量とサイズから密度を求め、それをもとに惑星や衛星を組成する物質の特徴を明らかにした。ガリレオ衛星の公転は、タイタン(土星の衛星)の公転より高速なため、木星は土星の1.5倍の密度があり、重い物質でできているか又は圧縮されていると推定できた。地球の密度は木星の3.5倍で、岩石と金属でできている可能性が最も高い⇒惑星の組成が多様であることが明らかになった(P61~62)
1920年代、ウランの放射性崩壊で生成される鉛の分析結果から、堆積岩の年齢が数十億年と見積もられた。1950年代には、クレア・パターソン(カリフォルニア工科大地球科学者)の実験は、地球の岩石内で鉛に変化する崩壊系列が、始原的隕石のものと重なることを示した⇒地球の年齢は隕石の年齢とほぼ同じ(45億5千万年)⇔最古の地球起源の岩石:44億年前vs最古の隕石:45億6720万年前(P64~65)
(宇宙の生成過程)(P72)
宇宙がそれ自身を飲み込み始めたとき、その最初の数分間にクォークと電子が融合して最初の原子になり、物質が優勢になって認識可能な形をとる時代が始まった
⇒数百万年間で宇宙の夜明けが進み、ランダムに生じる不確実性によって、周囲より密度の高い領域が生まれた
⇒その領域の重力がローカルスケールでは、膨脹エネルギーとは反対向きに作用して、荒れ狂い泡立つ海のような初期銀河を何兆個も作り出した
⇒膨張の経過の中、銀河が発展し、宇宙は穏やかになった
⇒現在、約1000億個の銀河が存在
重力は不安定だ。いつ、どの程度不安定かが、銀河、恒星、惑星、彗星、小惑星の構造や分布、質量を決める。重力が重すぎたら(=質量が大きすぎたら)、宇宙は収縮を初めて、特異点に戻っていただろうvs重力が不十分なら、ビッグバンによる膨張はどこまでも続き、物質の凝集は起こらなかった。実際の宇宙(私たちの宇宙)が生まれたときの重力は、局所的に密度が高い領域が収縮していき、その領域の大きさは宇宙の張力でさまざまに決まるような均衡状態にあった(P72)
(惑星の生成)(P72~73)
無限に大きい仮説上の分子雲があり、水素分子、ヘリウム分子を成分とする
⇒分子雲は、重力によって収縮しようとする⇔温度、圧力が阻止する
⇒小さな摂動領域(他よりわずかに密度が高い領域)は質量大⇒重力大
⇒分子雲の温度低下⇒あるサイズの塊に分かれ、さらに収縮して恒星になる
初代星は生まれながらに巨大で、そのコアは核融合プロセスを通して、重い元素を身ごもっていた。恒星での核融合は、途方もない圧力と熱を常に加えられることによって起こり、温度は数千万度に達する(P73)
太陽内部の核融合では、毎秒6億トンの水素がヘリウムに変換され、400万トンの水素が消えている=エネルギーに変換されている(アインシュタインの等価原理(E=mc²:m:質量、c:光速)。太陽に似た恒星では核融合反応が約1千億年継続するので、私たちにはあと50億年ほど時間がある(P73~74)
太陽より巨大な第一世代の恒星は、何百倍も高温で、速く燃焼し、燃料が尽きるとコアが収縮し、恒星全体が爆発し、放射線を激しく放出(超新星爆発)⇒その過程で、C,N,O,Si,Mg,P,Feを合成し、そこから岩、氷、惑星、海、人間がつくられた(P74)
恒星になる前の塊は、収縮するときにランダムな固有の運動をする⇒塊は自転を開始⇒収縮するにつれ、角運動量(全質量✖回転速度)が大きくなる=中心に近い物質ほど速く回転⇒塊は平らになって、原始惑星系円盤(水、ダスト豊富)⇒円盤中心部のガスが凝縮して、自転運動をする原始惑星生成⇒核融合を起こして燃焼開始(P74)
惑星への物質の集積は、角運動量によって物体が遠くに飛ばされる一方で、重力が物体をその場にとどめるような平衡点から始まる。惑星形成は、角運動量が、ガスが、衛星が解き放たれるプロセスだ(P75)
原始太陽系星雲の存在下で、初期の微惑星が凝集し、ガスが消散する⇒微惑星が合体して、惑星胚、原始惑星になる⇒巨大衝突期末期に原始惑星の衝突開始⇒惑星(P77)
1908年、ヘンリエッタ・リービット(米天文学者)が、数か月間周期で明るさが変わるセファイド変光星が、1週間周期で変動するものより明るいことを発見し、グラフに表した⇒セファイド変光星の変光周期を測定すれば、その星の固有の明るさが分かる⇒地球からの距離を正確に測定可能=標準光源の発見(P77~78)
エドウィン・ハッブル、リービットの研究&巨大望遠鏡を利用して、星雲内の個々の星を解像して、距離が大きくなるほど、その中の恒星が赤くなることを発見した⇒ハッブルは、宇宙が膨張し、すべてのものが互いに遠ざかっていて、遠くの天体ほど速く遠ざかり、より大きく赤方偏移するという考えを提案した⇒宇宙全体が膨張しているので、光の波が引き延ばされて、より長く、赤色寄りの波長に変化する(P78~79)
(ハッブル定数=距離に伴う膨張速度の増加率=約70㎞/s/Mpc(メガパーセク)
1パーセク=3.26光年 1光年=9億5千万㎞ 宇宙が一様に膨張しているとすれば、ハッブル定数の逆数が宇宙の年齢になる⇒140億年(P79)
近傍の恒星にも原始惑星系円盤があるが、存在する期間は短く、氷、ダスト、低温のガスでできているため、恒星の光を反射しないと目に見えないし、真横から見るとわかりにくい。惑星形成は太陽に似た恒星の周囲で、数百万年~数十億年以内に終了し、その形成プロセス自体は珍しくないが、急激に起こるので発見するのは難しい。原始惑星系円盤は、その惑星系の中心で燃える恒星によって加熱されており、高温になる可能性がある。そのドーナツの内側の境界は恒星に面しているので、赤外光(放射熱)を放射する⇒赤外線スペクトロメーターで数十光年先から届く光が見える(P79~80)
赤外線観測は、地球では容易ではない⇔地球の大気、水、CO²による赤外線の吸収
⇒宇宙空間での赤外線観測:ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡:2021年打上(P81)
1995年、ペガサス座51番星(60光年の恒星)の周囲を4日周期で公転する惑星を発見現在、系外惑星数は4000個:うちハピタブルゾーン(大気組成次第では、液体の水が地表に存在可能、他条件も整えば生命も繫栄できる可能性ある領域)にある惑星数十個(P84~85)
惑星をつくるには、適切な分子を作るには元素の正しい比率が重要⇔適切な元素の存在だけでは不十分:H73.9%、He24.7%、他1.4%(P88)
岩石惑星の原材料は、Si,Mg,Fe,O。これにC,H,O,Nに他の元素を少しずつ加えると、生命が居住可能な惑星になる。OとCは、恒星内部での熱核融合反応の基本的生成物で、CNOサイクル反応で生じる。この存在比の下で、巨大ガス雲が冷却したときに、H₂,CO,ができ、さらにCO₂,CH₄,NH₃,HCN(シアン化窒素)など様々なCHON化合物が生まれ、最終的に凝縮して氷になった⇒反応完了でCが使い尽くされ、遊離酸素が大量に余った⇒酸化物は、地球型惑星の原材料:H₂O&地球型惑星の地殻、マントルの構成物(SiO₂(石英),(Mg,Fe)₂SiO₂(橄欖石))(P89)
(太陽の今後)(P94)
太陽は、50億年~70億年頃、最終破壊が起こり、惑星が碇を解かれる
⇒赤色巨星となった太陽は、数百万年かけて膨張し、主系列を離れ、水星、金星(、地球)を飲み込む
⇒やがて収縮し、質量の半分が宇宙空間に失われる
⇒ガスの球殻構造が広がる(新星として見える)
⇒太陽の質量の残り半分は、収縮して白色矮星になる
【第2章】
(地球は丸い)(P104~105)
紀元前6世紀初:アナクシマンドロス:地球は宇宙に浮かんでいる
紀元前6世紀末:ピタゴラス:地球は球体であって、表面上のあらゆる点は下を指している
紀元前350年:アリストテレス:地球が丸いという説の根拠を書き示した
エラトステネスは、シェネ(エジプト南部の都市)とアレクサンドリアの間に人を走らせて時間を測定することで、2都市間の距離が5000スタディオン(900km)で、丸い地球の円弧に沿って7度離れていると推計した。
360°/7°✖900km=地球の円周=46,285=円周率π✖直径=3.14✖直径
地球の直径=46,285/3.14=14,740km≒12,700km(実際)
しかし、当時の文化では、数百キロ北にあるオリンポス山には神々が暮らし、太陽はヘリオスの二輪戦車で空を進んでいるという考えが主流であり、地球や太陽をめぐる発見は脇へ追いやられた(P108~109)
アルキメデスは、世界にある砂粒の数が無限ではないことの証明をした。地球がどれだけ大きくても、宇宙の内側に収まらなければならない。宇宙の大きさは、恒星までの距離を約100億スタディオンと推計した。これで砂の数の上限を決めることができたが、これほど大きな数を数える表記法がなかった。(当時の最大の数は1万だった)そこで、彼は指数表記を発明した(10¹~10²~10³~)。指数表記がなければ、近代的な量子科学は実現できなかった(P109~110)
顕微鏡は望遠鏡をさかさまにしたものだ。アルキメデスは大きな数の数え方を逆転させて、極めて小さな数について考え、ゼノンのパラドックスを解決した。1つの正方形をより小さな正方形に分割することで、1/2+1/4+1/8+…1/2n+…=1であることを証明した(幾何学を使用)。こうした近似値は、工学、測量、科学の世界で役に立っており、啓蒙時代になって、微積分学が生まれた。微積分学は近代物理学にとって、古代ギリシャにおける幾何学に相当する(P111)(~P132)