免疫の守護者 制御性T細胞とはなにか 坂口志文・塚﨑朝子著 2020年10月講談社刊 ブルーバックスB-2109

(目次)

まえがき

第1章 ヒトはなぜ病気になるのか

第2章 「胸腺」に潜む未知なるT細胞

第3章 制御性T細胞の目印を追い求めて

第4章 サプレッサーT細胞の呪縛

第5章 Foxp3遺伝子の発見

第6章 制御性T細胞でがんに挑む

第7章 制御性T細胞が拓く新たな免疫医療

第8章 制御性T細胞とな何者か

あとがき

COLUMN 自己を攻撃する免疫系

     「クローン選択説」

 

【まえがき】

 自分と他人との間には、截然たる仕切りがある。でも、免疫系においては、「自己」と「非自己」の境界は、とても曖昧だ。なので、誰もが自己免疫疾患を発症する可能性がある。しかし、実際には、一部(先進国では人口の5%)の人だけしか発症しない。そこには、免疫系の暴走を抑えるメカニズムがあるに違いない(P3~4)

 特定の抗原に対して、免疫系が反応を起こさない仕組みを「免疫寛容」と呼び、特に「自己」に対する免疫不応答を「免疫自己寛容」という(P4)

  がん細胞は、自己の細胞が遺伝子変異を起こした、「自己もどき」細胞だ。それに対して、免疫系を抑制している制御性T細胞の働きを制御して、「自己」「非自己」の境界を操作すると、免疫系ががん細胞を攻撃し始めると考えられる。同様に、制御性T細胞ののバランスを変えることで、自己免疫疾患、臓器移植における拒絶反応、感染症の治療、予防ができる時代が近づいている(P6~7)

 

【第1章】

 免疫系は、体内に異物(病原体等)が侵入しても、それらを排除する(免疫系の「正の応答」)体内には、腸内細菌や飲食物などの異物が存在する。妊娠中の胎児も厳密には異物だ。こうした異物に過剰に反応すると不都合だ。過剰な反応を起こさないようにする働きを、免疫系の「負の応答」と呼ぶ(P14~15)

 スギなどの花粉が鼻の粘膜内に入ると、抗原提示細胞の1つである樹状細胞がこれを異物(抗原)として認識する。その抗原の情報は、リンパ球(白血球の一種)のT細胞に送られる。T細胞からB細胞に情報が送られると、花粉にピタリと合う抗体(スギ花粉特異的IgE抗体)がつくられる(感作が成立)。このIgE抗体が、抗原である花粉を再度捉えると、鼻の粘膜下組織にある肥満細胞から、炎症を起こす物質(ヒスタミン、ロイコトリエン)が放出される(P16)

 ヒトの腸管内には、1000種類以上の腸内細菌が100兆個、1㎏が棲みつき、共生している。このため、腸内の免疫細胞は「負の応答」によって制御されている。しかし、免疫系のバランスが崩れると、自己の腸内細菌に対しても過剰な反応を起こすようになり、炎症性腸疾患を発症すると考えられている(P17~18)

 自己免疫疾患は、免疫細胞が「自己」の組織や細胞を異物(抗原)とみなして攻撃して、発症する(関節リウマチ、1型糖尿病多発性硬化症)(P18~19)

 1980年代初頭に、胸腺(thymus)でつくられるリンパ球(T細胞)の中から、免疫系の暴走を抑える細胞(制御性T細胞regulatory T cell:Treg:Tレグ)を探り当てた。制御性T細胞は、健常人の血液中のCD4陽性T細胞の約10%(リンパ球全体の5%)を占める(P25~26)

 免疫細胞の中には、自己に過剰に反応して攻撃するT細胞もある。免疫系は、攻撃的なT細胞と制御性T細胞のバランスをとることで恒常性を維持している。ただし、T細胞による免疫抑制レベルは固定されたものではなく、制御性T細胞数が減りすぎたり、機能低下を起こすと、自己免疫疾患を抑え込むことができなくなる(P26)

 T細胞には、ヘルパーT細胞、細胞傷害性T細胞(キラーT細胞)などがあるが、顕微鏡では区別がつかない。T細胞の表面にある分子(分子マーカー)に着目すると、生化学的に分類できる。細胞表面には、たんぱく質から成る何百種類もの分子があり、T細胞の種類により発現の状況が異なっているため、その機能の違いを生じる。1955年、制御性T細胞の分子マーカーを特定することができた(P29~30)

 2003年、私たちは、制御性T細胞の発生、機能発現、分化状態の維持、それらすべてを制御しているマスター遺伝子が、Foxp3(forkhead box P3)であることを発見した。その正体は転写因子タンパク質で、DNAの特定の塩基配列に結合して遺伝子の発現を制御していた。私たちは、マウスの細胞を用いた実験で、制御性T細胞をコントロールするFoxp3遺伝子に変異が存在すると、制御性T細胞の数や機能に異常が生じて、全身の臓器に重篤な自己免疫疾患を引き起こすことを突き止めた(P31)

 制御性T細胞をうまく操ることができれば、自己免疫疾患、炎症性疾患、アレルギー疾患、がんなどの治療が可能になると考えられている(P34)

 がん組織には、制御性T細胞が過剰に浸潤していることがわかっており、それを踏まえた免疫治療が鍵になる。がんの免疫療法では、自己もどきのがん細胞に対する免疫反応を上げなくてはならず、そのためには制御性T細胞を減らす必要がある。制御性T細胞を減らすのは技術的に簡単で、薬で減らせる可能性が示唆されている(P36~37)

 

【第2章】

(クローン選択説)(P50~52)

 骨髄細胞(造血幹細胞)から前駆細胞を経て、免疫細胞(B細胞)が作られる過程で、外界の作用とは無関係に、無数の抗原に特異的に反応する細胞(抗体産生細胞)がランダムに作られる。抗原が入ってくると、細胞表面の受容体を介して、その抗原に適合したクローンが選ばれ、急激に増殖して、形質細胞(抗体産生細胞)へと成熟する

⇔1つの抗体産生細胞が多種類の抗体を産生できる能力を持ち、抗原が入ってくるとそれが鋳型となって、抗体が決定され、複製される(鋳型説)

(免疫の機能・分類)(P55)

・自然免疫:マクロファージによる貪食等

・獲得免疫

 ・細胞性免疫:キラー細胞が病原体(異物)に感染した異常細胞を攻撃

 ・液性免疫

  ⇒2型ヘルパーT細胞がサイトカインを産生すると、B細胞が抗体産生細胞に分化。     

   B細胞から産生された大量の抗体が体液を介して全身に広がる

 T細胞は、「獲得免疫」の司令塔を担っている。T細胞とB細胞は、形態上はほぼ同じで、通常の染色法では区別できない(P55~56)

 

【第3章】

 抗原となっているタンパク質は多数の抗原決定基(エピトープ:抗原の一部分)を持っているが、1つのB細胞は単一の抗体しか産生せず、1種類の抗体は1種類のエピトープにだけ反応する。特定の1種類の抗原に対してB細胞が作った単一の抗体のコピー(クローン)をモノクローナル抗体と呼ぶ。B細胞の寿命は1週間程度(P74~75)

 ヘルパーT細胞:CD4陽性T細胞(CD4+T細胞)は、病原体を攻撃するB細胞を選択的に活性化し、抗体を作らせる(P75~76)

 自己免疫疾患は、放射線、化学物質、ウィルス感染、遺伝子変異等をきっかけとして、自己反応性T細胞に対する抑性能を持つT細胞が破壊されたことを原因として発症する(P83)

 CD25陽性CD4陽性T細胞(後に制御性T細胞(Regulatory T cell:Treg:略称Tレグ)と命名)は、正常マウスの末梢組織にあるヘルパーT細胞(CD4陽性T細胞)の5~10%を占める。CD25という細胞表面分子は、インターロイキン2(IL-2)タンパク質と結合する受容体のα鎖だ。IL-2受容体は、α鎖、β鎖、γ鎖の3つの分子で構成されている。ILは、リンパ球や食細胞が分泌するサイトカイン(細胞の増殖、分化、活性化などの機能発現を誘導する可溶性分子)であり、T細胞の免疫応答に深く関与している。免疫抑制に関わっていたとしても不思議ではない(P91~93)

 

【第4章】

 免疫自己寛容とは、免疫が自己を攻撃する可能性があることを踏まえ、生体内の状況を察知して、自分の組織や器官を攻撃しない状態をつくり出す仕組み(P110)

(免疫自己寛容の類型)

①胸腺における自己反応性T細胞の排除(P112~114)

 胸腺の上皮細胞表面にMHC分子が発現し、自己の成分に由来する抗原(自己抗原)との結合体を作っている。胸腺上皮細胞は、未熟なT細胞に、その表面にあるT細胞受容体(TCR)を介して、この「MHC-自己抗原の複合体」を認識させる。この際、自己抗原に強く反応する幼弱なT細胞は、その刺激によりアポトーシスが起きる。逆に、鈍感なT細胞は、無用とみなされ、成熟するステップに進むためのシグナルを得られず、「無視による死」に至る

⇒T細胞受容体と「MHC-自己抗原の複合体」の結合の強さ(親和性)は連続的変化なので、相対的に自己反応性が強いT細胞がある程度生き残る=完全には排除できない

②自己反応性T細胞の不活化:免疫不応答、アナジー(P114~115)

 ヘルパーT細胞を不活化してアナジー(免疫不応答)状態にする。ヘルパーT細胞が活性化されるには、TCRによる抗原提示細胞からの抗原認識(シグナル1)だけでは不十分で、T細胞表面にある副刺激分子(補助刺激分子)CD28が、抗原提示細胞に発現するCD86と結合することで得られる刺激伝達(シグナル2)が必要。2つのシグナルが揃うことで、ヘルパーT細胞が活性化する

③Tレグによる抑制(P116)

 Tレグは、表面に免疫を抑制する分子を発現させて、抗原提示細胞に取り付き、その活動を抑制、または増殖にブレーキをかける

(ヒト免疫疾患の原因・発症機構・治療法に関する仮説)(P118~120)

①Tレグは、機能的に安定な細胞集団を形成し、発生学的にもプログラムされている。自己免疫疾患は、免疫不全症(生体の免疫防御機構が破綻した病態)と同様、特定のリンパ球集団の先天的・後天的、量的・機能的不全症

②自己免疫疾患の直接的原因は、Tレグの異常⇔罹患した臓器の抗原提示細胞ではない。臓器特異性(どの自己抗原が標的となりやすいか)は、どのような自己反応性T細胞が活性化されやすいかによる。これは宿主のT細胞のレパトア(異なる抗原特異性を持つTCRにより特徴づけられたリンパ球のレパートリー)と抗原提示能によって決まる。それを規定するのは、主に宿主のMHC遺伝子及び非MHC遺伝子の多型性だ

③自己免疫疾患の治療にTレグを使える可能性がある

 

【第5章】

 SKGマウス(単一遺伝子の異常により慢性自己免疫性関節炎を自然発生するモデルマウスの系:著者が開発)の関節炎の原因遺伝子が、T細胞刺激伝達系の主要分子であるZAP-70遺伝子の変異がもたらすシグナル異常は、胸腺における自己反応性T細胞を選択する際の閾値を変化させる。アポトーシスさせる選別基準が緩くなったことにより、本来は負の洗濯を受けて排除されるべき自己反応性T細胞が、それを免れて末梢組織に出現し、自己免疫性関節炎が引き起こされる(P131~133)

 IPEX症候群は、免疫調節不全により生じる致死的な遺伝難病で、性染色体のX染色体上にある単一遺伝子の突然変異が原因。伴性劣性遺伝なので、一見健康な保因者たる母親から生まれた男子のみは発病。IPEXの原因遺伝子Foxp3は、Fox(Forkhead box)遺伝子ファミリーの1つ。発生、組織分化、細胞の運命決定、代謝調節に深くかかわる。Foxp3がコードするたんぱく質は、DNAと結合して特定の遺伝子の発現を抑制する転写因子だった(P135~136)

 正常マウスの末梢組織で採取したCD4陽性T細胞をTレグのもう1つの分子マーカーCD25で、CD25陽性と陰性の細胞亜集団に分画し、Foxp3遺伝子を転写するmRNAの発現状況を定量PCRにより解析⇒Foxp3遺伝子のmRNAは、正常マウスの末梢組織のCD25陽性細胞のみに検出された⇒制御性T細胞(Tレグ)の遺伝子だ(P138~139)

 レトロウィルスをベクター(運び屋)として用いて、Foxp3遺伝子を非TレグであるCD25陰性CD4陽性T細胞に導入して、これを発現させるようにした。その後、TCR(T細胞の細胞膜上に発現している抗原受容体分子)刺激に対する増殖応答、サイトカイン産生、細胞表面マーカーの解析を実施

⇒Foxp3を導入した細胞は、Tレグ(CD25陽性CD4陽性T細胞)同様、通常のT細胞の増殖を顕著に抑制。サイトカイン(IL-2、IL-4、IL-10、IFN-γ)産生を抑制。細胞表面分子(CD-25、CTLA-4、GITR、CD103)発現はFoxp3の発現レベルに比例して増強(P140)

 Foxp3を強制発現させた細胞(CD25陰性CD4陽性T細胞)は、試験管内で、新たに調製したT細胞(CD25陰性CD4陽性T細胞)の増殖応答を抑制、サイトカイン産生も抑制(P140~141)

 重症免疫不全のSCIDマウスに、Tレグを除いた後のナイーブT細胞を移入すると、炎症性腸疾患及び自己免疫胃炎を誘導できる。ここにFoxp3を強制発現させたナイーブT細胞を移入すると、腸炎、胃炎を完全に抑制

⇒Foxp3を導入したT細胞が生体内で抑制活性を発現することを示す(P141)

 以上の実験結果より、Foxp3遺伝子は、免疫応答を抑制するTレグに特異的に発現する遺伝子であり、、その発生及び機能を制御するマスター遺伝子であると結論付けられた(P141)

(Foxp3がTレグに特異的に発現している遺伝子であることの意義)(P143~144)

①IPEX症候群が、Tレグの異常によって起きることが証明できた

②遺伝子レベルでTレグを扱えることが明確になった

③IPEX症候群で見られる多くのアレルギー疾患、その他の自己免疫疾患が1つのメカニズムで起こることが明らかになった

 Foxp3は、Tレグの発生・機能のマスター制御遺伝子であり、上流でCD25の発現をコントロールしている遺伝子。Foxp3遺伝子は、CD152(CTLA-4)もコントロール。CD357(グルチココルチコイド誘導腫瘍壊死因子受容体関連タンパク質:GITR)もTレグ表面に多く発現(P144~145)

⇒①Foxp3遺伝子に異常⇒免疫系に不調⇒自己免疫疾患発症

⇒②下流のCD25に関係する分子に異常⇒自己免疫疾患発症

(Tレグが免疫を抑制するメカニズム)(P145~154)

①Tレグの大元は、他のT細胞同様、骨髄で作られる

②骨髄で生成されたT細胞前駆細胞は胸腺に移動⇒厳しい選別

③自己の細胞との親和性が中間的で、自己の細胞にほどほど反応するT細胞⇒Tレグ

④Tレグは、未成熟なナイーブT細胞を抑制⇒自己免疫寛容を実現

 ⅰサイトカイン等の化学物質を用いた免疫抑制(細胞間接触なし)

  IL-2受容体(サイトカイン受容体)のα鎖は、抗原等の刺激で活性化

  ⇒CD25を恒常的に高発現するTレグはIL-2受容体の高親和性によりIL-2に結合

  IL-2は、Tレグの維持と増殖に必要だが、Tレグ自身はIL-2を産生せず消費するのみ

  TレグがIL-2を消費⇒他のT細胞が必要とするIL-2を奪い、アポトーシスもたらす

 ⅱ細胞表面に発現する補助刺激分子を使った免疫抑制(細胞間接触を伴う)

  Tレグを含むT細胞は、抗原を認識して活性化されるために2つのシグナルが必要

  ・シグナル1:樹状細胞が提示する抗原がTCRと結合することによる刺激

  ・シグナル2:CD28への副刺激も必要。

 CD28は、抗原提示細胞(樹状細胞)に発現するCD80、CD86と結合すると、これが免疫応答のための共刺激となる。

 Tレグは、CD152(CTLA-4:細胞傷害性Tリンパ球抗原4:cytotoxic T-lymphocyte-associated antigen 4)を常に高発現している。CTLA-4のCD80、CD86との結合親和性はCD28より20倍高い⇒CTLA-4は、CD28に代わってCD80、CD86と結合することで、CD80/CD86の発現を抑制⇒CD28への副刺激を遮断

 腸管粘膜(外来抗原に常時さらされている)では、Tレグは、IL-10(免疫性サイトカイン)を産生・放出し、抗原提示細胞の成熟を抑えることで、免疫抑制を実現。TGF-β(抑制性サイトカイン)、細胞障害性物質(グランザイムB、パーフォリン)を産生する場合もある(P154~155)

 

【第6章】

 がん患者の血液中、腫瘍内部では、活性化したTレグが、異常に増加。がん組織に浸潤しているT細胞の30%~40%、ときには80%がTレグで占められている(P169)

 近年、ニボルマブオプジーボ:抗PD-1抗体)の投与により、急速に腫瘍が増大し、病勢進行を示す患者が増加(HPD:hyperprogressive disease)

ニボルマブ投与患者の10~30%でHPD発症

⇒(マウスで検証)

 Tレグに発現しているPD-1をニボルマブで阻害

 ⇒Tレグが増加⇒免疫抑制力が上昇⇒抗腫瘍効果が低下(P174~176)

 がん組織へのTレグの浸潤は、Foxp3をマーカーにして、腫瘍組織を染色することで検査できる。Tレグを減らした上で、ワクチンを投与する方法(P181~184)

⇒抗CD25抗体を投与⇒細胞表面にCD25を発現しているTレグを除去(マウスでの実験)

⇒オンタック(Ontak:デニロイキン・ディフティトックス:CD25陽性皮膚T細胞リンパ腫治療薬)を投与⇒TレグのIL-2受容体と結合⇒Tレグ消失

⇒少量のシクロホスファミド(エンドキサン)は、Tレグを選択的に除去⇒ペプチドワクチン療法実施⇒抗腫瘍免疫反応増強⇒顕著な延命効果

(抗体医薬によるTレグ除去:がん免疫療法)(P184~188)

 ナイーブT細胞をCD45RA(分子マーカー)とFoxp3遺伝子の発現の組み合わせで解析すると、Foxp3陽性T細胞は、次の3つの分画に分けられる。悪性黒色腫の局所に存在するTレグでは、②が有意に浸潤、末梢血では①が多かった。

⇒腫瘍局所に存在するがん抗原or自己抗原により、Tレグが活性化されている

⇒免疫応答の増強には、②を選択的に排除すればいい

⇒②に特異的な分子を標的とした免疫療法が有望。CCR4は、標的となりうる

⇒CCR4は、Tレグ、2型ヘルパーT細胞に選択的に発現している細胞表面分子

成人T細胞白血病(ATL)細胞では、90%以上がCCR4を発現

⇒既にATL治療薬として抗CCR4抗体が開発済み=モガムリズマム(ポテリジオ:協和キリンが上田龍三:現愛知医科大学

⇒固形がん患者でも副作用は許容範囲、投与全例で血液中エフェクター型Tレグを選択的に除去した。一部患者でがんが縮小したが臨床効果は限定的だった

①ナイーブ(非活性)型Tレグ

エフェクター(活性化)型Tレグ

③Foxp3陽性T細胞だが免疫抑制を持たない非Tレグ

 がん抗原タンパク質は巨大な分子で、1種類のタンパク質だけを安定的に大量生産しようとすると、高度な精製技術が必要で高価になる(P192)

 上流のタンパク質に作用する抗体医薬ではなく、より下流にある分子を攻撃したほうが特異性が高く、効率的で、簡便で、安い薬が生まれてくる可能性がある(P197)

(近赤外線免疫療法:小林久隆(米NIH)/名古屋大:2016マウス実験成功)(P198)

 Tレグはがんの周囲に集まり、腫瘍免疫にブレーキをかける。Tレグと結合する抗体に、特定の波長の近赤外線を当てると化学反応を起こす化学物質を付けて、がんを発症したマウスに注射する

⇒10分後、Tレグが大幅減少、免疫細胞ががんへの攻撃開始

⇒1日ですべてのがん細胞が消失(P198)

 

【第7章】

(拒絶反応)(P200~201)

急性期:~移植後3カ月)⇒細胞傷害性T細胞

慢性期:臓器生着、病状比較的安定⇒B細胞

⇒移植臓器に対する安定的な免疫寛容を誘導すること

 欧米では、Tレグを使って、白血病などの治療のために行う骨髄(造血幹細胞)移植後の拒絶反応として起こる移植片対宿主病をコントロールしようという試みが臨床応用に近づいている(P203)

方法①:移植を受ける患者のTレグを増やす

    ⇒レシピエントから採取したTレグを、ドナーの細胞と一緒に培養

    ⇒拒絶反応を抑える能力の高いTレグを増殖(マウスの実験で効果確認済)

方法②:ドナー自身のTレグをを入れる(成熟T細胞を除く)

    ドナーの骨髄中に成熟T細胞は移植片対宿主病発症リスク有り

 生体内でTレグを特異的に増殖させる薬剤を開発する試みがあり、IL-2製剤が候補

⇒移植後に低用量のIL-2製剤を投与する臨床試験中で、良好な成績(P206)

 1型糖尿病に対して、低用量のIL-2を治療薬として使う臨床試験中(P209)

 生体内でTレグを特異的に増殖させる薬剤の探索

⇒ラパマイシン(免疫抑制薬):生体外ではTレグを特異的に増殖させる効果有り

⇒顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)製剤⇒Tレグが自己免疫疾患の標的臓器に集積

 ⇒好中球など、白血球中の顆粒球の産生促進、機能を高める

(Tレグを用いた自己免疫疾患治療の課題)(P210) 

①Tレグは、末梢組織にあるCD4陽性T細胞の5~10%⇒1人のドナーからの採取困難

②自己免疫疾患の治療に際しては、いったん活性化したエフェクターT細胞を抑制することが必要⇒予防の場合より多くのTレグを移入することが必要

③ヒトでは、CD25陽性CD4陽性T細胞中にTレグでないT細胞が多く含まれる

 腸管では、胸腺由来のTレグ(tTレグ)だけでなく、普通のリンパ球(T細胞)がFoxp3を発現してTレグになって免疫を抑制する(末梢由来Tレグ:pTレグ)(P218)

 先進国では、喘息のようなアレルギー疾患が増えている。IPEX症候群で起こる病気と同じ。誰もがTレグを体内に持っており、それが異常を起こせば発症する。免疫系が刺激を受けないと、病原体を攻撃する能力も免疫の過剰反応を抑える力も鍛えられない。免疫系の全般的な機能低下により、免疫系のバランスが不安定な人が多くなったことで、アレルギーの発症が増えた(P223~225)

 私たちは、製薬企業との共同研究で、体内のT細胞からTレグを誘導することができる新規化合物(CDK8/CDK19阻害薬)を発見。試験管内実験で、マウスの組織の細胞に、CDK8/CDK19阻害薬を加えると、エフェクターT細胞、メモリーT細胞に、Foxp3を発現させてTレグに作り替えることができる(P227)

 接触過敏症(アレルギー疾患)のモデルマウスにCDK8/CDK19阻害薬を経口投与すると、Tレグを介して、アレルギー症状が低減された(P228)

 このような化合物を最適化して、安全性、有効性を高めることができれば、経口投与により、自己免疫疾患、アレルギー疾患等の治療薬にできる(P228)

 

【第8章】

 Tレグは、どんな人でもCD4陽性T細胞の10%内外に保たれている。高齢になるとTレグはやや増える(12~13%程度)(P244)

 自己免疫疾患になりやすくなる一塩基多型(SNP)が多く見つかっている。CTLA-4の塩基多型は、1型糖尿病、甲状腺疾患の発症に関係(P247)